第7章 果敢な牡鹿と支える牝鹿
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15.シルバーとオパール
夕食も終わり、ドラコとの約束までの時間。夕刊預言者新聞を流し読みしていると知っている人の名前を見つけた。
―――――――
マルフォイ家でのこの2度目の家宅捜索は何らの成果もあげなかった模様である。“偽の防衛呪文ならびに保護器具の発見ならびに没収局”のアーサー・ウィーズリー氏は、自分のチームの行動はある秘密の通報に基づいて行ったものであると言った。当主であるルシウス・マルフォイ氏は魔法省に強く抗議した。
――――――
時計を見ると約束の時間10分前だったので冷えた紅茶をぐびぐび飲んで立ち上がる。遅くなってしまったが今日は愛弟子ドラコに閉心術をかけてもらうようにセブに頼んでいる日だ。幻術破りを完璧に出来るようになったドラコなら上手く閉心出来るだろう。
楽しみにしながら玄関ロビーに入ると地下へと続く階段からドラコがやってくるところ。今年度に入ってから良くなることのない顔色の悪さは今日も同じで、隈を作って顔に影を差している。
『ドラコ』
私は出来るだけ明るくドラコに声をかけた。
「ユキ先生」
『調子はいかが?』
「あまり……良くないです……なので」
『許可できません』
「まだ何も言っていません」
ぶすっとしたドラコの背中に手を当てて押し、歩くのを促す。
『見られて困る記憶があるなら、意地でも閉心しなさい』
「ユキ先生が僕を逃がさないのは分かっています……えぇ……ですから……僕は絶対に隙なんて見せません」
『ふふ。その意気よ』
「見られたくない記憶をこじ開けられそうになったら別の記憶を差し出す」
『更に高度なやり方は?』
「記憶を改ざんして見せる」
『そうよ。あなたなら出来る』
「でも」
鍵の開いていた闇の魔術に対する防衛術の教室を横切り、階段を上ってセブの研究室前に来たドラコは怖気づいたのか青い顔を更に青くして揺れる瞳で私を見た。そんな彼に微笑み自分より高い位置にある肩を摩る。
『もしもの時はスネイプ教授の頭から記憶を消します』
ぷっと噴き出すドラコ。
「先生たち付き合っていらっしゃるんでしょう?恋人にそんなことしていいんですか?って既に前科がありましたね」
『前科って言わないで』
「くノ一だけとは付き合いたくないな」
『ドラコはパンジーと付き合っているんだっけ?』
「付き合っては、その」
トントントントン
『たのもー』
「急に興味失うのやめて頂けます?」
直ぐに開いた研究室の扉から土気色の顔のセブが顔を出した。顔色の悪さを競い合うような様子に私は心配で胃が痛くなる。1度、私の監視の元に生活を見直す合宿を開催したいものだ。
「入れ」
研究室は暗く、おどろおどろしかった。右の壁一面の本棚には黒か茶色の分厚い本が並んでおり、左の壁一面にはボージン・アンド・バークス顔負けの品揃えで闇の魔法具らしき物が並んでいる。黒ずくめの部屋だったので暖炉の火が温かく燃えていることに心が和らいだ。
「ドラコ、ソファーへ」
暖炉前のソファーは2つあり、小さな机を挟んで向かい合わせになっている。ゆったりと座ったセブの前には敵を倒してやろうと意気込んでいるドラコが座る。私はセブの後ろに立った。
「雪野教授から聞いている話では幻術破りが出来るそうだな」
「はい」
「閉心術に対しても君の力が発揮できるかどうか楽しみだ。何を見られても良い覚悟は?」
ねっとりとした言い方は意地悪く、ドラコに強いプレッシャーをかけている。セブも私と同じようにドラコが何かを企んでいることは知っている。そして探られているとセブの様子からドラコも感じていて、この頃では今まで懐いていたセブを避けている。
あんなに慕っていたのに憎い敵のように見るのね。
私は父親と同じ灰色の瞳をキツく細める様子に期待した。
「始める。しっかりと心を閉ざしたまえ」
「お願い致します」
杖が振られる。
「開心 レジリメンス」
ぐっとドラコの頭が後ろに逸れた。
ドラコ、頑張るのよ。
見ている側は術の効き目が分かりにくいと思ったが、ゆったりと座っていたセブが地に足をしっかりついて前のめりになったので、私は嬉しくなった。ドラコが頑張っているに違いない。
セブの杖先は重い物を押すように前へと動いていく。そして、10秒もないうちにセブは杖をパッと何かを払いのける動作をして下ろした。
「うっ」
『ドラコ』
くらくらとした様子のドラコがひじ掛けに肘をつき、額に手を持って行って眉間に皺を寄せて小さく呻く。私はドラコのソファー横にいって跪き、杖でポーチを突いてミネラルウォーターの瓶を取り出した。
『お水飲んで』
「ありがとうございます」
真っ青な顔だが目はしっかりとしていて、お水を飲み終わった頃にはお馴染みだった生意気な顔で、どうだと言わんばかりの表情を私に向けてくる。
そんな愛弟子にニコニコした私がセブを見ると何故だろう……足を組んで背もたれに深く背を預けるセブは、膝の上に組んだ手を乗せて私を不機嫌な様子で見下ろしていた。その目は何?
『え、もしかして失敗だった?』
ぬか喜びだったかと思ったが違うらしい。セブは「成功した」と短く言った。
『さすがは我が愛弟子だ』
ぎゅっとドラコに抱きついてポンポンと背中を叩く。幻術の修行は大変だった。慣れない幻術の世界に幻と現が分からなくなって一時的に精神不安定になったり、空間の歪みで吐いたりもしていた。弱音を吐きながらもよく会得してくれたものだ。
『頑張ったわ』
可愛い弟子のほっぺを両掌で挟んでぐりぐりと回す。
「こども扱いはやめふぇくらふぁいっ」
再び顔の血色が良くなって私は以前のドラコに戻ったようで嬉しくなってしまう。この顔を見られただけでもこの特別授業の価値があったと思っていると横からフンッと鼻で笑う音が聞こえてきた。
「1度の成功で気を良くし過ぎではないかね?まだ授業は始まったばかりなのだが……まさかまぐれかもしれない1回で終わりにすると?」
私とドラコは同時にムッとした。
『まぐれで閉心は出来ないわ。ドラコに強い意志があったから出来たのよ。それとも手加減をした?』
「2回目を試せば力が本物であったか分かるであろう」
私は挑むような視線をセブに向けているドラコを見る。視線をセブから私に向けたドラコは力強く頷いた。
『よし。やっておしまい!』
私の鍛えたドラコが負けるはずがない。そう思っていると「いくぞ」も言わずにセブがドラコに向けて杖を振った。
完全に不意打ちを喰らったドラコはソファーの背もたれドンっと体を打ち付けて体を跳ねさせた。大きく見開かれた灰色の目の中に見えるのは恐怖。一方のセブは高速で呪文を唱えており、ドラコの心の中に押し入っている。
中に中に入って行くようにソファーからセブは立ち上がり、2人を隔てる机に膝を当てた。
「くっ……うっ……」
『ドラコ頑張ってッ』
強い声で怒鳴ると、ドラコはソファーを両手で掴み、歯を食いしばって体を前に倒した。
「うう、あ……」
恥ずかしさではなく、今度は力んで耐えて顔を真っ赤にさせながらドラコは思い切り頭を振った。セブがドンとソファーに座り、ハッとする。
「ハアハアハアハア」
荒い息で呼吸を繰り返すドラコは私を見て小さく首を振ってニヤリとした。私は最高に不機嫌な様子のセブに向き直る。
『ドラコの出来はどうかしら?』
「非常に良く出来ている」
乱れた髪を顔にかけて大きな呼吸をしているセブは非常にセクシーだ。
今日は大好きな2人の良い顔が見られて非常に満足である。
『うちの愛弟子は完璧だった。これでヴォルヤロー「口が悪いですよ!」……ヴォルの奴に「はあぁ」なんだっていいじゃない。ゴホンッ。心を覗かれても心配はないわね。セブ、何か見た?』
「他愛もない記憶だ」
『ドラコは意図する記憶を差し出せたのね?』
「はい」
『宜しい』
時計を見たが、まだ部屋に入ってから20分しか経っていない。しかし、これで十分だろう。満足な成果を得られた。
『早いけど終わりにしましょうか』
「スネイプ教授、ありがとうございました」
礼儀正しく頭を下げたドラコは私を見る。
「あの、ユキ先生にお願いが……」
『何かしら?』
「スカイの育て方についてご相談があるんです」
『私の部屋に来る?』
「ユキ先生の作ったおやつが食べたいです。スカイの猫缶も」
『あなたのおやつにはレアチーズケーキがある。猫缶も用意しているわ』
「やった!」
「我輩は」
ドラコと共にセブに顔を向けるとご立腹な顔と視線が合った。
「授業を終わらせると言ったか?」
『あ……』
セブの返事を待たずに勝手に切り上げて失礼をしてしまったことに気が付いて、しまった!と唇を口の中に巻き込む。指導して頂いているのに失礼をしてしまった。
『ごめんなさい』
「申し訳ありません」
「座れ」
ドラコはソファーに座った。
「貴様は床だ」
『え、酷い』
それでも従って私がドラコの横に正座すると面白くなさそうな視線が向けられた。
『失礼を致しました』
「礼儀がなっていないのは師匠譲りだな、ドラコ」
「師匠を悪く言わないで下さい……」
「では誰から譲り受けたものですかな?親か?あぁ……疑わしきマルフォイ家か……今日の夕刊預言者新聞に家宅捜索されたと載っていたな」
「っ!」
「君自身のことも我輩は疑っている。隠れてコソコソと何をしているのか全て見せてもらう。開心 レジリメンス」
心を乱された状態での突然の開心にドラコは成す術もないようだった。
体に力が入れられない様子で先ほどのように押し返そうという様子は見られない。
『ドラコ!ドラコ!』
私は立ち上がってドラコの顔を覗き込み、気をしっかりさせようと肩を叩いた。だが、ドラコが気持ちを持ち直す前にセブが杖を上にあげて開心を終わりにする。
「なるほど、なるほど。興味深いものが見えた」
「ユキ先生」
助けを求める視線に私は小さく頷く。
『セブ、何が見えたの?』
「ドラコの隠したい記憶を引き出そうとしたところオパールのネックレスが見えた。誰に贈るつもりだ?まさか、自分用だとは言うまい」
「あなたには関係ない」
「言うべきだ、ドラコ。さすれば手を差し伸べてやれる」
「あなたには関係ないッ!」
怒鳴って出て行こうとするドラコを見てセブが研究室の扉を施錠した。
「何を企んでおる」
「父上はユキ先生以外の人を信用するなと仰っている」
セブは可笑しそうに鼻で笑った。
「どこに目をつけているとしか言いようがないが」
それはつまり私たちが恋人の関係性であり、情報を共有しているという意味なのだが、ドラコの反応は先ほどのセブのように鼻で笑うだけだった。
「僕の師匠を甘く見ましたね」
振り向く前にセブの後頭部に杖を振る。
『ステューピファイ』
失神呪文を受けて膝から崩れたセブは前のめりで床にドタリと倒れた。
薪が爆ぜる音を聞きながら私とドラコは見つめ合う。
『ねえ……時間を取ってもらって特別授業をお願いしたのに失神呪文を放って記憶を抜くとか酷くない?』
「しかも付き合っている男性に対してだなんて本当に付き合っているか疑いたくなります」
『正々堂々付き合っているわ』
「言葉の選び方にセンスを感じます」
『ところで、何の記憶を見られたの?』
「それは……」
『教えてくれないと消せないんだけど』
「僕が忘却呪文をスネイプ教授にかけます」
『ダメよ。愛しの恋人の記憶が間違って消されたら大変だもの。もし私の事を忘れてしまったりなんかしたら……うぅ』
「下手な泣きまねは止めて下さい」
『可愛くない弟子だこと』
「ユキ先生が記憶を消すって言ったって僕がどんな記憶を取られたか分からないのにどうやって消すおつもりですか?」
『私にもセブに見せた記憶を見せればいいのよ』
「なるほ……流されませんからね!まさか初めから何もかも計算尽くで特別授業をしくんだってわけですか!?」
『まさか。私は純粋にあなたの閉心術の出来を確認したかっただけよ』
「……やはりスネイプ教授の記憶は僕が消します」
杖を出すドラコの前に私は立った。
「どいて下さい」
『名案があります』
「経験上師匠の名案はろくでもない」
鍛錬の時を思い出しているのだろう、ドラコは半眼で私をじとっと見た。過去の私の名案で悲鳴を上げることになったドラコの姿を思い出して笑ってしまいながら私はドラコの杖腕に手を置いて下げさせる。
『私にセブに見せた記憶を見せ、次に私がセブの記憶を消す。そして最後にドラコが私の記憶を消すというのはどうかしら?』
「そんな回りくどいことをしなくても」
『さっきも言った通り、大事なセブを未熟なあなたに任せられない』
未熟と言われて一瞬不機嫌そうな顔をしたドラコだが、私が言ったら譲らない人間だと分かっているし、それ以外に良い方法も思いつかないと思ったようで大きく息を吐き出して諦めを示した。
「記憶を見られる行為って好きじゃありません」
『好きな人はいないと思うわ。座って』
ドラコは先ほどのソファーに腰かけ、私はセブが座っていたソファーに腰を下ろす。
『スカイのことはまた今度訪ねてきてくれる?』
「分かりました。僕たちのおやつを切らさないようにして下さいね。ユキ先生のおやつが好きなんです」
力なく笑うドラコはどっと日々の疲れを思い出した様子で胸が痛む。
『どうしても私に今やっていることを話してくれないの?』
「これは僕一人でやると決めました。ユキ先生といえど話すことは出来ません」
『何も教えてくれないのならば、あなたのやりたいことを邪魔することになるかもしれない』
「僕は……やり遂げられる」
『私に勝てるとお思いか?』
「――っ!」
ビクッと体を跳ねさせるドラコに微笑みかけると、顔を真っ青にさせたが、ぐっと握り拳を作って私を真っ直ぐに見つめ返した。
「僕は師匠の優秀な弟子ですから」
どこまでも頑な。
でも、それが正解。
私は諦めてドラコに杖を向ける。
『いくわよ。開心 レジリメンス』
記憶が入ってくる。
ボージン・アンド・バークスでドラコはガラスケースに入った装飾的なオパールのネックレスの説明をボージンから聞いている。
―――触った者の命を確実に奪うことのできる呪いのネックレスです
慎重に包まれたネックレスをドラコは血の気のない顔で見ながら持って店を出る。
―――必ず成功させる
ドラコは呟きながら夜のホグズミード村を歩いている
記憶は直ぐに終わり、私の前には記憶と同じように血の気のない顔のドラコが座っていた。
『誰か殺すの?』
灰色の瞳には光がない。
「ユキ先生は……人を殺したことが?」
『あるわ』
即答にドラコは寸の間息を止めた。
「どう……でしたか?」
泣き出しそうな顔で私を見るドラコはどんな言葉を望んでいるのだろう?どんな答えもドラコを安心させてやることは出来やしない。
『どうもこうも……色々よ。あっけなく片付くこともあれば、長引いて血を吐きながら殺した時もあった』
「気持ちの方は……?」
『気持ち?』
私は考えた。与えられた任務をこなす日々は心をしっかりと閉ざしていた。でも今は、私の心の中には、手にかけた人間がいる。誰一人として忘れてはいけない。
『もし任務が成功したら、ずっとその人を忘れないでいて欲しい』
「それだけですか?」
意外そうに眉を寄せるドラコに微笑みかける。
『任務の前に余計な感情を持ち込んではいけない。成功を目指して粛々と任務を遂行すること』
「失敗したら?」
『次の手を打つ』
「失敗を繰り返したら?」
『言われなくても分かるでしょう?』
息を飲みこんだドラコを残して立ち上がり、セブの元へ行き杖を振る。
『オブリビエイト』
見た目には何も変わらない。
私はドラコの方を向いて笑いかけた。
『そんな顔をして。今から私の記憶を消すんだからシャンとしなさい。集中して、今私に差し出した記憶だけを消すのよ。大事な記憶を消したら恨みますからね』
ドラコは立ち上がって私の横まで来た。
どうにか頭をしっかりさせたようで目には力が宿っている。
集中したドラコが杖を振ると頭が一瞬真っ白になった。
くらり くらり と頭が揺れる
私はぼんやりと目の前のドラコを見つめた。
『ええと……私……ごめんなさい。頭が……』
「……スネイプ教授の記憶を容赦なく消すなんて、本当に師匠の冷徹さは恐ろしい」
あぁ、そうだった。私はセブの記憶を消したのね。でも何か……大事なことを……
『冷徹とまで言わなくても』
思い出せない
「ユキ先生、顔色がお悪いですよ?」
『うん。少し頭がくらくらして』
「部屋までお送りします」
『ふふ。セブを起こして隣の部屋で寝ていくわ。流石に……』
私は床に寝ているセブを申し訳なく思いながら見た。
「どうにかバレないようにつじつま合わせをお願いします。ユキ先生を信じています」
『任せておいて』
では、とドラコが解錠して研究室を出て階段を下り、教室を突っ切り、廊下へ出て行くまでを研究室前の階段の踊り場で見送った私は杖を振って教室の施錠をして、研究室の中に戻ってこちらも鍵をした。
うつ伏せに倒れているセブの肩に手を触れるとゆっくりと不機嫌そうな顔を上げる。
『名俳優ね。失神の仕方が上手だったわ』
「君のフリペンドで演技の必要がなかった」
立ち上がったセブの体を叩いて埃を落とし、髪についたゴミを取ってあげる。
「記憶を修正しよう」
『お願い』
私はセブに失神呪文をかけずに衝撃呪文を打った。無唱呪文の要領で、言葉で失神呪文を唱え、頭で衝撃呪文を唱えて呪文を放ったのだ。決闘などにも使われる相当な痛みを感じる衝撃呪文を受けて呻き声1つもあげずに転がっていたセブに拍手。
忘却呪文は言葉で呪文を唱えただけで本当には呪文をかけていない。
セブに記憶を修正してもらった私はドラコがネックレスをボージン・アンド・バークスから購入したこと、ホグズミード村の記憶、忘却呪文がかけられるまでの会話の記憶を取り戻した。
「ドラコが気の毒に思えるな」
『忍同士は騙しあいよ』
「我輩は忍ではないが……だが以前、君に忘却呪文をかけられた」
『まだ許してくれていないの?』
甘えるように抱きついた私の腰に手が添えられたと思ったら、くるりと体が回転して気がつけば私はトスンとソファーに座っていた。歩きながら杖を振るセブはあらかじめ用意してくれていたようで、目の前にティーセットが出現し、飴色の紅茶が湯気をのぼらせる。
「ドラコは誰を殺す気なのか」
『情報はないの?』
「闇の帝王からは何も聞かされていない」
『ターゲットはハリーかダンブルドアでしょうね。ダンブルドアは自分で防げるとして、ハリーには気を付けなければいけない』
「しかし、男を殺すのにネックレスを使うなど良い思い付きだとは思えませんな」
『まだまだあの子も甘い。でも、ネックレスの呪いは強力だと思う。触れただけで死に至る危険なものを持っているなんて……うっかりをして自分で触ってしまったらと思ったら心配でならない』
「自分の弟子より被害者を考えたまえ」
『ハリーに忠告すべき?』
「言った途端に正義感を丸出しにしてドラコに詰め寄るだろう」
『ドラコの最終的な目標が何かを知る為にもネックレスの計画は遂行させて私の手で失敗させるのがいいと思う。四六時中ドラコを影分身で見張る』
「トリッキーにやらせよう」
セブの屋敷しもべ妖精は喜んで任務を引き受けてくれそうだが、大事な弟子の行く末を他人に任せるのは気が進まない。
『いいえ。クィリナスの時もやっていたもの、今回も自分でやるわ』
賢者の石事件の時、私はクィリナスを影分身で見張っていた。
『ヴォルデモートは分霊箱を作る時に殺人によって魂を引き裂いていた。ドラコも人を殺したら魂が引き裂かれてしまうでしょう……そうはさせたくない』
胸を反らし、肩で風を切り、得意そうな顔に生意気を叩くあの頃のドラコに戻って欲しい。ハリーに突っかかって喧嘩している元気な姿が見たい。
彼の苦しみをどうやって取り除けばいいのだろうか……?
***
ホグワーツを取り囲む山々から氷のように冷たい風が下りてきて周囲の色彩が失せ、何もかもが灰色になってき、重い冷気が学校を吹き抜ける。
ダンブーは滅多に食事の席に顔を見せることがなくなってきていた。
そんな中、学期2度目のホグズミード行きがやってきた。
「次々前へ来い!おっと落とした。ウィンガーディアム・レビオーサ!」
正面の樫の木の扉に立っているフィルチさんは落とした(この短時間で3回も落としたのでわざとだろう)詮索センサーを元気いっぱいの声で浮遊呪文を使って手元に引き寄せた。
重々しい空気になって行く魔法界の空気とは反比例して絶好調で日に日に顔が明るくなってきている。魔力が解放されて以来、フリットウィック教授に教えを乞いながら魔法の勉強をしているのだ。
「寒いから早く終わらせようぜ。この後、三本の箒へ行くだろう?―――よし、楽しんでおいで」
シリウスが杖を生徒に頭から足先まで振って闇の品物を持ち出していないか確認して送り出す。私も同じようにして生徒を送る。
『シリウスとセブが喧嘩しないって約束するなら行くわ』
シリウスが舌打ちしたので目の前にいた生徒が吃驚した顔をし、セブは氷点だった温度を突き破って私たちを氷の世界に連れて行った。
『分かった。喧嘩してもいいからみんなで三本の箒に行きましょう』
「はあ……仕方ない。ユキか壁を見て飲むことにする」
『セブもいいわね?』
「……」
『お返事は?ダーリン?』
セブは鼻のところまでマフラーを引き上げた。
照れている。
「あぁ、寒い。どうして毎回俺たちが駆り出されるんだ」
『若手は働けってミネルバが』
「まあ若手で武闘派、実力派の俺たちが頼られるのは当然か。スニベルス、因みにお前は陰険根暗だから“俺たち”の中に入っていない」
生徒に向けられていた杖が決闘するように向き合ったので生徒たちが凍り付いた。もう毎度毎度仲裁するのも飽きてきたところだ。ここらで決着をつけるのもいいのではないだろうか?
セブとシリウスはお互いに杖を向けたままドンパチやれそうな空間にザクッザクッと移動していく。私は
「ユキの前で恥をかかせてやる」
「口が達者な犬だ」
振り上げられた杖。
しかし、その瞬間だった。
「ボンバーダ!」
セブとシリウスの間の地面が赤い閃光と共に派手にえぐられる。吃驚して魔法の発射元を辿ればそこにいたのはフィルチさん。
「やった!」
キラキラした目で飛び跳ねるフィルチさんと目を丸くしている生徒たち。
「え?今のフィルチがやったの?」
「魔法が使えるようになったって噂本当だったんだ」
ざわざわとする生徒たちの話を聞くフィルチさんの顔は得意げで思わず笑みが零れてしまう。一方のセブとシリウスはというと戦意を削がれてしまったらしく、不機嫌そうな顔をしながらこちらへ戻ってきたのだった。
漸く検査が終わって霙が降る中をホグズミード村へと歩いて行く。
「そんな恰好で寒くないのか?」
シリウスがローブを自分の体に巻き付けながら私に視線を向ける。今の私の服装はいつもの着物姿にセブに貰った真っ白なストールを首に巻いている姿。
「足元が特に寒そうだ」
確かにシリウスの言う通り足袋に草履は靴よりも寒いと思われる……思われる、というのは私の体感温度は狂っていてさほど寒さを感じていないからだ。
『寒そうに見えるなら長靴を履こうかしら?』
「その服に合わせるのか?相変わらずのセンスのなさだぞ?」
「ううむ。セブはどう思う?」
そう言うとセブは私を上から下まで見て「ブーツ」と言った。
「ショートブーツが合うと思う。今度見立てよう」
『セブが選んでくれるなら間違いないわ!ヒールのないブーツを選んでね』
「ヒールを履いて綱渡りしているくらいなのだから歩行に問題はなかろう。ヒールがある方が見た目がいい」
『分かった。それじゃあセブの言う通りにする』
お付き合いを始めて以降、服を選ぶ時は店員に頼むかマネキンが着ているものか、それに加えてセブに見立ててもらうという選択肢も増えたので嬉しい限り。
人のいない道を歩き、やっと辿り着いた三本の箒の前では揉め事が起こっていた。いたのはハリーたち仲良し4人組とホッグズヘッドのバーテン、それにマンダンガス・フリッチャーだった。
ホッグズヘッドのバーテンはマントの襟をきつく締め直して私たちの横を通って立ち去って行き、シリウスはマンダンガスと掴み合っているハリーの元へと走った。私とセブもシリウスを追いかけてハリーたちの元へと急ぐ。
「シリウスおじさんの屋敷からこれを盗んだな!」
「ちょ、ちょっと借りただけだっ」
「ハリー、落ち着くんだ!」
ハリーは杖を突きだしてマンダンガスをパブの壁に追い詰めていた。両手を挙げているマンダンガスの右手にはシルバーのゴブレッドがあり、よく見ればゴブレッドにはブラック家の紋章が描かれていた。
「こらこら。ゴブレッド1つでお尋ね者になるつもりか?」
何が嬉しいのか明るい声で言いながらシリウスはマンダンガスの手からシルバーのゴブレッドを取り上げて、ハリーの杖腕を下げさせた。
「おじさん!このマンダンガスって男は危険です。おじさんの『ゴホンっ』えっと例の場所に出入りする人間が盗みをするだなんて!こんな人を仲間にしておくべきじゃないっ」
「ハリーの気持ちは分からないでも「校長は」
ねっとりとした声でシリウスの言葉を遮ったセブは道理の分かっていない子供を見るようにハリーを見下ろす。
「マンダンガスが我々に有益な情報をもたらすと言っている。お前が不死鳥の騎士団員の人選についてとやかく言う資格はない」
「ダンブルドアだって間違うことはあります。人間だもの」
「まあまあ。ハリー、落ち着け。俺たちもこいつの危険性については分かっている。だから、君の両親が戻ってきて以来マンダンガスは本部への出入りを禁じられている」
「そうだったんだ……でも……」
『これ以上外にいたら凍えちゃうわ。ここで終わりにして三本の箒へ入りましょう』
「うんにゃ―――それじゃあ、俺はこれで」
解放されたと思ったのかマンダンガスはローブから杖を出して地面に落ちていたトランクを引き寄せて掴み―――バスンッ―――おかしな音をさせた。
『あらら』
姿くらましをしようとしたマンダンガスの姿は無残なことになっていた。紫色の煙が薄くなっていく。両目と眉毛、口が残され、それから股間が宙に浮いていた。
絶句する皆に囲まれている私はコロコロと笑いながらマンダンガスがいた空間から手を離した。
『無罪放免とはいかないわ。ふふ』
姿くらましをする瞬間に強制的に引き留めたらどうなるか興味があったので実験することが出来て良かった。ばらされたマンダンガスは目をギョロギョロさせて助けを求めるようにセブとシリウスを見た。
「助けてくれ!」
『股間を蹴り上げたら飛んでった向こうの体にも痛みが伝わるのかしら?』
ひゅっと足を上げるしぐさをすると男性陣が一斉に体を跳ねさせた。
「悪かったと思っている!だからセブルス、シリウス!君たちなら魔法省を呼ばずとも空間から俺を助け出すことが出来るだろう?後生だから!お願いだ!」
「我輩は先に入る」
セブは見捨てることに決めたらしく口角を小さく上げて三本の箒に入っていった。
目の端に人影を捉えて見ると道の向こうからトンクスがやってくるのが見えた。ピンクの髪をツンツンさせてやってきたトンクスはマンダンガスの残骸を見てゲラゲラ笑っている。
「何これ!」
「マンダンガス・フリッチャーだ。トンクス、空間に入れるか?」
「えぇ、シリウス。出来るわ」
「手伝ってくれ。ハリーたちはパブの中に入っているといい。ここは時間がかかる」
『シリウス、飲み物を頼んでいるわ。何がいい?』
「俺は―――」
「シリウス先生は私たちのテーブルでどうですか?」
栞ちゃんが提案するとハリー、ロン、ハーマイオニーもワイワイと賛成した。
「じゃあ、お邪魔させてもらう」
「やった!」
シリウスは破顔する栞ちゃんを温かい目で見ていた。
三本の箒に入ってハリーたちと別れた私は部屋の奥にいたセブを見つけ、シリウスはハリーたちのもとへ行くことを話し、椅子に座った。
「姿現しした先にばらけた体が漂い続け、マグルに見られでもしたら騒ぎだぞ」
『魔法省に怒られちゃうかしら?でも、恨みがあったから晴らしたかったのよ』
マンダンガスはブラック邸から何者かによって盗まれたヴォルデモートの分霊箱になっている金色のロケットを、闇の中を渡っていたところを買い取り、皮肉なことにブラック邸に隠していた。そこを私とレギュで見つけ出したのだ。他にもブラック邸に盗品を隠していたマンダンガスを少しくらい罰しても罪にはならないだろう。
『私もハリーと同じ意見だわ。信用できない者を近くに置いておくべきではない』
「マンダンガスしか手に入れられない情報がある」
『私とグライドがマンダンガスの分も働くのに……』
これに関してはお互い自分の意見を覆しそうにないので黙って飲み物を選んで注文した。
曲線美の美しい魅力的な女主人のマダム・ロスメルタがピカピカのヒールを鳴らしながら去って行く。
『合格よ』
「何がだ」
『男ならだれでも欲しがるような円熟味が溢れる女性のマダム・ロスメルタのお尻を目で追わなかったから』
「くだらん」
色気溢れる目の前の顔を眺めながら絶対にセブを離さないぞと心に誓う。
セブはファイア・ウィスキー、私はブラッディ・メアリーを飲みながら色々なことを話す。好きな食べ物について詳しく聞こうとするのだが、適当に返されて終わり。
『叫ぶわ』
「は?」
何言ってんだ?という様子のセブの前でガタンと立ち上がる。
『狂気の沙汰と言われようとも、セブが好きな食べ物を1つでも教えてくれないなら私は叫びます』
「座れ」
既に周りの客たちが何ごとかと私に目を向けている。しかし!それが私の狙いよ。私が一緒にいて恥ずかしい女になる前に止めることね!
『今からセブへの愛を叫びます。愛しのセブの好きなところむぐぐぐ』
立ち上がって身を乗り出したセブに口を塞がれて、ぐっと肩を押されて座らされる。
「正気か?」
『好きな食べ物を教えてくれるでしょう?』
「君の作る物なら」
『叫ぶわよ?』
「脅してまで知りたいかね?」
『知りたいわ』
押してダメなら引いてみろ。私は両手を胸の前で組んで熱心にセブを見つめた。
『どうせならセブの好きな食べ物を作りたい』
「我輩は特に食に拘りがあるわけではない……」
『でも、オコノミヤキは好きでしょう?ハンバーグ、エビフライ、オムライスが好きなのも調査済みよ』
「……」
『答えてくれないなら本腰入れて調査するしかないのですが』
そう言うと、無表情だったセブの表情が変わった。観念した様子でセブは口を開く。
「はあぁ……まったく」
呆れて吐き出された溜息だったが、途中で吐き出される息は揺れてセブは微笑んだ。
「懐かしいからかディリジブル・プラム味のブラマンジェが好きだ……」
セブの瞳はどこか遠くを見る。
「見た目も美しいものだった。プラムの温かく鮮やかなオレンジ色が映えていた。懐かしい味だが……」
そこまで言ってセブは黙った。これ以上は語りたくないらしい。
『ブラマンジェ……食べたことはある。パンナコッタやババロア、杏仁豆腐みたいなものね』
「だが、それらはブラマンジェとは違う」
『ブラマンジェにこだわりがあるようね。作るの頑張ってみる』
「頼む」
ぐいっとグラスを傾けるセブに私は微笑んでいた。
そろそろ城へ帰ろうと席を立つと、ハリーたちも帰るところだった。
「ユキ先生、顔が赤いですよ。大丈夫ですか?」
『心配ありがとう、ハーマイオニー。ウォッカ・ベースのお酒を飲んだから少しふわふわしているの。でも、気持ちがいいわ』
外は天気がどんどん悪くなっていて
「―――かしい――――体どこ――――」
「放っておい―――届け―――しなければ―――」
私はおかしな様子の2人のもとへと走り出した。もっと早く。おかしい。杖を出す。嫌な予感―――あの包―――ネックレス!
ケイティの持っている包みには見覚えがある!
『ケイティ・ベル!!』
私はリーアンがケイティの持っている包みを掴んだことに青くなりながら手を伸ばす。
『待ちなさい!』
ケイティとリーアンの腕を掴んで動きを止めさせた。
「離して下さい離して下さい離して下さい離して下さい離して下さい離して下さい離して下さい」
虚空を見つめた瞳で私を見上げるケイティは甲高い声で同じ言葉を繰り返す。
「離して下さい離して」
急にケイティは口を開いたまま固まった。
まさか
『ケイティ?』
サーっと引いていく血。
恐る恐る手元に視線を落とす。
「ユキ」
ポンと肩に手が置かれた。
ハッとしてみれば杖を目線まで掲げた状態のセブがいた。
「硬化呪文だ」
『よ、良かった』
安堵からどっと体の力が抜けた。
セブが杖を振って慎重にケイティの手から包みを抜き出し、しっかりと包み直す。私は風呂敷を出してセブにお願いして更に厳重に包んでもらった。
「これでいいだろう」
『そうね。私はこれを城に持って帰る。セブはケイティの呪いを解いて……ミネルバのところがいいわね、来て欲しい。ケイティは医務室へ。リーアンからは話を聞きましょう』
目で分かったと言ったセブは後ろを振り返った。そこにはシリウスたちがいて事態が飲み込めていないながらも何かあったと私たちの様子を注視している。
私はハアと息を吐き出した。この事は噂になってハリーたちの耳にも入るだろう。そうしたら彼らの事だから……あとは過去から察する。
『シリウス、リーアンに付き添ってくれる?私はコレを持っているから』
「あぁ」
『ハリーたちは解散よ!』
額を突き合わせてヒソヒソしたハリーたちは一斉にホグズミード村へと戻って行った。勘の良い子たちだ。
ミネルバの部屋で温かい紅茶を飲みながらリーアンの気持ちを落ち着けているとセブがやってくる。
「ケイティ・ベルは服従の呪文にかかっていた。それ以外は問題ない」
『良かったわ』
ほっとした様子のミネルバはリーアンに顔を向ける。
「さて、リーアン。コレがケイティ・ベルの手に渡った経緯を話してくれますか?」
リーアンが話すにはケイティが三本の箒のトイレから出てきた時に持っていて、ホグワーツの誰かを驚かすものだから自分が届けなくてはならないと言ったことを教えてくれた。
リーアンが退出して私たちはミネルバの机の前に来る。
そこには装飾的なオパールのネックレスが包みの中に置かれており、七色の光を神秘的に輝かせていた。
「強い闇の魔術がかけられている。触れた者は確実に死ぬだろう」
『止められて良かったわ』
「誰に服従の呪文をかけられたんだろうな」
セブ、私、シリウスの会話を聞きながらミネルバは机を回って椅子に座った。
「校長が不在の時にこのような事件が起こるだなんて……」
『ミネルバ、ダンブルドアが帰るのはいつですか?』
「月曜日です。ホグワーツの警戒レベルを上げるよう申し上げましょう」
「それで、何か知っているみたいだが」
シリウスが強い瞳で私を見たので私はセブを見た。言うべき?
セブは私に小さく頷く。
『ドラコ・マルフォイが疑わしいです。あのネックレスを持っていたと思われます』
「証拠はありますか?」
『ボージン・アンド・バークスの店主がドラコに呪いのネックレスを売ったと言っていました。それから彼の記憶を覗いて、その中にネックレスが出てきたんです』
「決まりじゃないか。今すぐ引っ立てよう」
「待ちなさい、シリウス。ユキ、Mr.マルフォイは記憶を見られた時なんと言っていましたか?」
『何も聞き出せていません』
「伝聞、記憶、それだけでどうこうできません」
「しかし!」
一歩踏み出すシリウスにミネルバは首を振る。
「ダンブルドア校長先生に判断を委ねましょう」
『分かりました』
「……分かりました」
ミネルバの部屋を出た私は廊下でシリウスに詰め寄られる。
「俺に隠していることがあるようだな。マルフォイがコソコソ隠れて何をしているかを知っているだろう?」
『何かしようとしているのは分かっているのね。それじゃあ、それ以上言うことはないわ』
「情報は共有すべきだぞ」
『残念ながらそれ以上何も分かっていないの。そんな目で見ないで。本当に分かっていない。調査中よ』
「本当に本当か?」
『本当に本当よ。ドラコの事は四六時中見張っているの。今日はホグズミードへ行かなかったのに……呪いのネックレスはどこから湧いてきて、誰が服従の呪文をかけたのかしら?』
「どうやら協力者がいるようですな」
『ホグズミード村に死喰い人が潜伏している?』
「ホグズミードは闇払いと不死鳥の騎士団が厳重に警戒している。怪しい奴がいたら分かりそうなものだがな」
シリウスは首を傾げた。
『引き続き調査を続けるわ。シリウスはハリーたちのことを宜しくね。暴走させないように注意していて』
「任せてくれ」
ホグワーツで死人が出るところだった。
大局を見てドラコを泳がせるべきか、それとも―――ドラコを幽閉でもする?
部屋に戻って考えを話すとセブは首を横に振った。
「ドラコを除いたところで次の手が打たれるだけだ。それなら目の届く中で任務を行わせていた方がいい」
『そう……なのか』
「不満そうだな」
『ドラコの苦しみが続くと思うと辛いわ』
「他の者ならいいと?」
『生徒じゃなければいいわ』
生徒じゃなかったら何?どうすると?
―――誰一人として忘れてはいけない
―――ずっとその人を忘れないでいて欲しい
忘れない。でも、任務の中なら仕方ない。
私はそう思っているのか。
愛する人以外ならどうなっても良いと……
ガタガタと霙が窓に打ち付けて音を鳴らす。
「ユキ」
黒い瞳は優しい。
「考え過ぎだ」
『顔に出ていた?』
「分かりやすくなって嬉しい」
私は曖昧に微笑んだ。
「我輩も……似たような考えを持っている」
ユキ以外なら誰でもいい
自然と持ってしまう思い
彼女さえ無事でいれば――――
「寝よう」
セブルスはユキを優しくベッドへと誘った。