第1章 優しき蝙蝠
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19.パーティー
『ホグホグ、ワツワツ、ホグワーツ~♪』
バチンッ
「ユキ!!」
『マクゴナガル教授!?』
暇を持て余して鏡の前で歌っていると突然姿現しでマクゴナガル教授が現れ、ギュッと抱きしめられた。目にはうっすらと涙を浮かべている。
「アルバスから話を聞いて迎えに来ました。もう、あなたったら無茶をして!本当に、本当に無事で良かった」
『ありがとうございます。ご心配おかけしました』
「まったくですよ。お転婆娘に私もアルバスもドキドキしっぱなしです」
マクゴナガル教授は私の鼻をキュッと指で挟み笑った。
『あの、Mr.ロン・ウィーズリー、Ms.グレンジャー、スネイプ教授の具合はどうですか?』
「心配いりませんよ。アルバスが一時的に姿現し出来るようにしたので手分けして医務室に運びました。それより、ユキ。少しお話しましょう」
優しく手を握られ、黒い炎の前にある階段に導かれて座る。マクゴナガル教授は両手で私の手を包みこんで微笑んだ。
「まず、クィレルのことから話しましょう。彼は無事に聖マンゴ魔法疾患傷害病院に入院しました。意識は失っていますが他に異常はないということです」
『よかった』
「えぇ。ですが、彼は例のあの人と長い間行動を共にしていました。生きていることが分かれば闇の魔法使いに命を狙われることになります。クィレルが生きていることはアルバス、私、そしてユキ、三人だけの秘密です」
『わかりました』
クィレル教授は生きている。
私は安堵の息を吐きだした。
「さて、次にあなたのことです」
急に厳しい声で言われ、自然と背筋が伸びる。この口調は私にとってお馴染みのものになっていた。
ウィーズリーの双子やダンブルドア校長と悪戯や遊び心溢れた魔法を使うたび、鍛錬で怪我をしてマダム・ポンフリーのお世話になったとき、屋敷しもべ妖精に食べ過ぎを見つかった時……などなどの問題を起こすとユキはマクゴナガルの部屋に呼ばれ、こってりお説教で絞られ、時には罰則を受けていた。
『や、夜食禁止だけはご勘弁ふぉっ!?』
頬を両手で挟まれて目を見開きポカンと口を開ける。
マクゴナガル教授が怒ったような、悲しそうな顔をして泣いていた。
「クィレルを助けるためにどんな魔法を使ったのですか?ユキ、どうして寿命をあげたのですか!?」
『えっと……助ける方法はあれしかなくて。あの怪我にしてはたった5年分くらいで済んだんですよ』
「たったとは何ですか!いつも自分を大事にしなさいと言ってきたのに。アルバスから聞いたとき、どれだけ心配したか、心が痛んだか……」
『……ごめんなさい。泣かないで』
震えた声に動揺する。
泣いていることに驚き、ここまで自分を心配してくれるのが不思議で。
そして、とても、とても嬉しかった。
「ねぇ、ユキ。私は初め、突然現れたあなたを警戒していました。暗い瞳で無表情。何を考えているか分からなかったわ。でもね、私たちにとって当たり前のことに驚き、笑い、興味を示すあなたを見て思ったの。この子は少しずつ感情を手に入れているんだって」
ずっと見守ってくれていた。
この一年間、いつもあたたかい笑顔を向けてくれていたのをを思い出す。
「無邪気で無鉄砲で、時には生徒以上に手のかかるあなただけど、色々な感情を手に入れて成長していく姿を見るのが楽しかったわ」
『マクゴナガル教授……』
「良かったらミネルバと呼んでちょうだい。今では娘を見守る母親のような気持ちなのですから」
鼻の奥がツンとする。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、胸が熱くなる。
『ありがとう、ミネルバ』
「アルバスはあなたの父親になりたいって言ってたわ」
『え!?雪合戦で雪玉の代わりに氷柱を投げ、一緒にやった悪戯の責任を私一人に押し付け、暇だからって夜中の2時に突撃してくる人が?』
「あらあら。父親じゃなくて悪友ね」
この一年はダンブルドア校長との闘いの日々でもあった。来年は負けないと息巻いているとマクゴナガル教授に笑われた。
「さぁ、戻りましょう」
危険は去りホグワーツらしい正常な毎日が戻ってきていた。
***
誰だ……騒がしい。どこの寮の者だ?
目が覚めた瞬間すぐ横から聞こえてきた喋り声に顔を顰める。
「ロン、起き上がって大丈夫なの?」
「マダムが大丈夫だって。そうだ!スネイプが氷を出して僕の頭を冷やしてくれたんだ。優しくされるなんて変な感じ。きっと明日は大吹雪だよ」
「助けていただいたのに失礼よ」
ここは医務室か。
雪野は……ポッターは無事か?……ウィーズリーは後で減点だ。
「私は先生方が来て下さって良かったわ」
「ダウンしてたトロールが起きちゃうなんて運が悪いよな」
「逆よ!先生たち凄かったのよ。スネイプ教授の武装解除の呪文。あの距離から、しかも走りながら正確に呪文を命中させるのはとても難しいわ。それに重いこん棒を弾き飛ばすにはパワーも必要だもの。それから、ユキ先生の体術での攻撃。魔力を右手に集中させて一気に放出する魔力コントロールの応用攻撃。先生たちの瞬時の状況判断と息の合った連携攻撃。とても勉強になったわ」
「……うん。そうだね。でも僕はある意味、君の方が凄いと思うよ」
我輩も同意見だ、ウィーズリー
「ユキ先生、さっきから何してるの?」
そこに居たのか!
『試験の採点だよー』
おい、生徒の前で採点するな!!!
「私の試験結果どうでしたか?実技試験はあまり上手くいかなくて」
『筆記は満点。実技も悪くなかったわよ。合わせると学年で二番!頑張ったわね。ロンとハリーもかなり良かったわよ』
試験結果をペラペラ喋るとは教師としての自覚が足りないのではないかね。頭が痛くなる。
「よかったー。実技は答え合わせ出来ないから心配だったの」
「一番は誰?」
『スリザリンのMr.マルフォイ』
「「えぇーーーー!!」」
『真面目で熱心だよ』
「あいつが真面目で熱心?」
「ハリーが起きてなくて良かった。絶対に悔しがるわ」
よくやった、マルフォイ。
「あの、ちょっと聞きにくいんですけど聞いていいですか?」
『何?』
「ユキ先生、ちょっと老けました?」
「何てこと聞くのよ、ロン!」
「だ、だって顔が違うし」
「言い方ってものがあるでしょ!」
どういうことだ?
『いいのよ、ハーマイオニー。これは……ベッドに戻って!マダムが戻ってきたみたい』
ガタガタと物を片付ける音とカーテンが閉まる音、嘘のいびきまで聞こえてくる。
ほどなくして、足音が聞こえ医務室の扉が開いた。
マダム・ポンフリーは患者たちが大人しく寝ていることが分かり腰に手を当てて満足そうに頷いている。
「スネイプ教授、失礼しますね」
ゆっくりとカーテンが開いたのでスネイプは上体を起こす。
体のどこにも痛みはなかった。
「まぁ!良かった。意識が戻られたのですね」
『本当ですか!?』
シャッと勢いよくカーテンが開いて、ユキがスネイプのベッドへやってきた。
「静かになさい。生徒たちは良い子に寝ているのに、あなたはまだ寝ていなかったのですか?」
『寝ようとしたのですがスネイプ教授が心配で寝付けなくて』
「しおらしいこと言っても私の目はごまかせませんよ。枕の下からチョコの袋が見えています。右手についているインクは何ですか?コレですね。採点していたなんて。今夜は安静にと言ったでしょう!」
首根っこを掴まれベッドに押し戻されたユキは不満そうに頬を膨らませる。枕の下に隠していた大量のお菓子も没収されていた。顔色も声も動きも健康そのもの。食欲さえ衰えていない。
しかし、スネイプは自分の知っている姿とは違うユキを見てショックを受け、固まっていた。
「何があった……?」
スネイプの掠れた声で静まる医務室。
明るく振舞おうとしていたマダム・ポンフリーは唇を噛み、辛そうに顔を歪めてカーテンをギュッと握り締めた。
『少し大きな術を使ってその反動で五歳ほど大人になりました。結局、奴は取り逃がしてしまったのですけどね』
少女の面影は消え完全に大人の顔立ちになったユキが言う。
『なんとさっき測ったら身長も少し伸びていました』
無理をしている様子はない自然な笑い。
自分の身に起こった重大事を全く気にしていない様子が逆にスネイプの胸を騒がせる。
自己犠牲を何とも思っていない彼女は今回と同じことが起こったら躊躇わず自らの命を削る術を使うだろう。
目の届く範囲にいろと言ったのは我輩であるのに己が先に倒れるとは……
『顔色が悪いです』
「……もう少しお休みになったほうがよろしいでしょう」
『マダム、スネイプ教授に気を送ります』
「いいえ。ユキ、あなたも寝なさい。スネイプ教授はお疲れになっているだけですから」
気をきかせたマダム・ポンフリーがサッとスネイプのベッドのカーテンを引いた。隣のベッドもカーテンの閉まる音がして、しばらく後に消灯し部屋は暗くなる。
スネイプは上体を起こしたまま組んだ両手の上に額をのせ物思いに沈んだ。
また失うところだった……
スネイプの頭の中に赤毛の幼馴染とユキが交互に現れ消える。
ユキは何を言っても無茶をする。自分のことは考えない。そんな性格をよく知っているから側にいて守ろうと思っていたのに出来なかった。
苦しさ、情けなさ、辛さ、後悔の念があの時のようにスネイプを襲う。
失ってしまった、愛した人
失うかもしれなかった、愛しい人
スネイプは思考を止める。ドクリ、ドクリ、と鼓動が激しく脈打つ。
頭の中でユキを今、確かに“愛しい人”と考えた。
この一年、何かと理由をつけて気づかないようにしていたこの気持ち。
違う……我輩はリリーを……
一度気づいてしまったこの気持ちには蓋をしようとしても出来ない。閉ざそうとすればするほど思いは膨れ上がり溢れ出す。
無邪気な笑顔、好奇心に満ちた黒い瞳、淑やかな立ち振る舞いに見惚れ、鍛錬中に見せる無駄のない力強い動きに感化され、全力で生徒と遊ぶ姿が微笑ましく、突拍子もない行動に驚かされた。
初めは監視のつもりで見ていたつもりが、いつの間にか彼女を見ていたいという単純な理由に変わっていた。
リリーは特別な女性だ……だが、この気持ちは……我輩は……
赤毛の幼馴染以外には抱くことはないと思っていた気持ちは確かに胸の中に溢れている。
自責の念に苦しみ、生きることに苦痛を感じていた日々は彼女が来たことで変わった。
強く閉ざしたはずの心は解け、生きる喜び、人を愛する幸せを取り戻していた。
そして不思議と惹き付けられるあの感覚。
……もう2度と……大切な人を失いたくない……
見ているだけで満足だった。
しかし、自分の気持ちに気付いてしまった今は見ているだけでは満足できない。
ほとばしる情熱を抑えることは出来ない。
自分の側にいてほしい。
自分だけに笑顔を向けて欲しい。
そして叶うなら、愛してほしい。
……雪野……ユキ、君を愛している……
***
二日間の絶対安静を言い渡されていたユキだったが、ベッドで仕事をしてシーツにインクを零し、夜は隠れてトランプで遊び、挙句にダンブルドアと口喧嘩から発展した呪いのかけ合いまで始めたのでマダムの逆鱗に触れ、予定より早く医務室から追い出されていた。
ユキはすこぶる元気である。
医務室を出てからは試験の採点で自室に篭もりっきりだったため外に出るのは久しぶり。
『私、パーティーって大好きです』
試験結果を提出し、職員室を出たユキは弾んだ声で言いスネイプに微笑みかける。
これから大広間で学年度末パーティーが始まる。寮対抗杯を勝ち取ったスリザリンはもちろんのこと、その他の寮生にとっても一年間の最後の思い出になる楽しいパーティーだ。
「ユキ先生!」
『ハリー、医務室から出られたのね。パーティーに間に合ってよかった』
いつも通りピョンと飛び上がり首に手を回して抱きつくハリーを受け止める。
一年前より身長も伸び逞しくなったように思う。横からヒシヒシと感じる殺気を感じながらハリーを床へ下ろした。
「パーティー前に会えて良かった。会いに来てくれないから寂しかったよ。助けてくれたお礼も言いたかったのに」
拗ねたようにハリーが言う。
『試験の採点が終わらなくて行けなかったの。ごめんね』
「ううん。それより、ロン達から聞いてたけど少し大人になったんだね。さらに魅力的になって、僕ドキドキしちゃった」
「ポッター、頭を打って教師に対する口の利き方も忘れたか?」
「例のあの日、ユキ先生が抱きとめてくれたので僕は頭を打ってません」
唸るように言い睨むスネイプをハリーも負けじと睨み返す。
この光景もこの一年間馴染みのもの。ハリーの事となると大人気なくなるスネイプと自ら教師に喧嘩を売りに行くハリー。まるでユキを取り合うようなこの二人のやりとりはホグワーツのちょっとした名物になりつつあった。
『さぁ、パーティーが始まっちゃう。ハリーは先に行きなさい』
試験後に起こった賢者の石事件については学校中の誰もが知っていた。勿論ユキやスネイプも噂の渦中にいるので三人一緒に入ったら大広間は収拾がつかないほど煩くなるかもしれない。
「まったく。ポッターの図々しさは父親譲りだな」
『お知り合いだったのですか?』
「同窓だった……行くぞ」
『ハイ!』
私はスネイプ教授の後に続いて大広間に入る。
壁とスリザリンテーブルの間を通って教員席に向かう途中、生徒たちの実に心外な噂話が耳に入ってきた。
『はぁ。トロールを殴った勢いでホグワーツの地下に穴をあけて温泉を掘りあてた……こんな無茶苦茶な噂恥ずかしすぎます』
「だが、大理石の床にクレーターを作ったのは事実であろう」
『クレーターだなんて!ちょっとしたひび割れですよ』
むくれるユキを見てスネイプは喉の奥を鳴らして笑う。
噂にも色々あったが巨大トロールを倒した二人の話は生徒たちの好奇心を大いに掻き立てており、二人が同時に大広間に入ってきたことでザワめきはハリーが入った時から一層大きくなっていた。
ダンブルドアの登場で大広間は静かになり、グリフィンドールの奇跡的な大逆転で広間は大歓声に包まれる。苦々しげな作り笑いのスネイプとマクゴナガルがユキの後ろで握手して宴は始まった。
グリーンが真紅に、銀色は金色に変わった垂れ幕。
三寮が歓声に沸く中、土壇場で逆転されたスリザリンを見つめるユキ。
「食が進んでいないようだが?」
『そんなことないです』
優しく響く低音の声はユキの体を痺れさせる。横を見ると心配そうに見つめられていて心臓が跳ねる。ユキは熱くなる体を冷やすために目の前のかぼちゃジュースを一気に飲み干した。
「その様子なら大丈夫そうだな」
優しく微笑むスネイプを見てユキの心臓が鼓動を速めていく。
心を落ち着かせて先程考えていたことに思考を戻す。ユキの座る席からはスリザリンのテーブルがよく見える。
嵐のような歓声をあげていた彼らは急な逆転で寮対抗杯を逃してしまい意気消沈してしまっている。
ぬか喜びさせてスリザリンの子達が可哀想じゃない!
機嫌よくワインをがぶ飲みするダンブルドアに一矢報いてやろう。ユキは髭をむしり取らせるため杖をひと振りし垂れ幕の獅子をダンブルドアにけしかける。
見事に火を噴いてヒゲを焦がしたグリフィンドールのお獅子様。
教員席の後ろではパーティーが終わるまで校長と忍術学教師の低レベルな罵り合いと高度な魔法攻防戦が余興がわりに繰り広げられたのであった。
***
生徒たちに休暇中の注意書きを渡すため寮に入ったスネイプは今学期一番深い皺を眉間に作り唸った。
談話室には誰ひとりいない。物音一つ聞こえない。
「あの怪力馬鹿教師が!」
―――――――――――――――――
スネイプ教授へ
ユキ先生のお誘いで湖の北側にて ハナビ大会 をすることになりました!
宜しければスネイプ教授もいらっしゃって下さい。
スリザリン寮生一同
―――――――――――――――――
床に届きそうな長いため息をつき杖を振って成績表をそれぞれの部屋に飛ばす。
自室から近いスリザリン寮から自分に気づかせず寮生を全員連れて行った忍術学教師の手際の良さに呆れを通り越して感心さえしてしまう。
きっと自分に言わなかったのも反対されると踏んでのことだろう。ダンブルドアにライバル宣言されるだけのことはあると苦笑する。
地上への階段を上り、玄関を出て暗い小道を進む。丘を登り湖に沿って歩いていくと暗闇の中に明るい光が見え、生徒たちの騒ぎ声が聞こえてきた。
『スネイプ教授こっちです!』
生徒たちはスネイプを見て一瞬固まって静かになったがユキがニコニコ笑いながら駆け寄って行ったので続きを再開する。
スネイプは生徒の輪の中にいたユキを見る。形は同じだが、いつも着ている服よりも薄い生地の服。
周りを見れば生徒たち全員同じような服を着ていた。
会ったら文句の一つでも言うつもりだったが学年末パーティーでは沈んだ様子だった生徒たちが歓声を上げ楽しそうに遊んでいる様子を見てすっかり毒気を抜かれてしまった。
「我輩の寮生を勝手に連れ出して何をしているか説明してもらえるかね?」
『手持ち花火です。気分を盛り上げるために皆浴衣姿なんですよ』
「そうだ。スネイプ教授にも浴衣着てもらいましょうよ」
「帰る」
スネイプはいい事を思いついたとばかりに叫んだパンジーの声と同時に来た道を戻ろうとしたが遅かった。
あっという間にユキに追いつかれ腕をガッシリと掴まれ、振りほどけない力で林の奥へと連れ込まれてしまった。
理由はどうであれ好意を寄せる女性に暗い林の中に連れ込まれるのは悪くない。
パーティーの席で酒を飲みすぎたのであろうか。スネイプはふとそんな事を思い苦笑いをした。
しかし、その一瞬が勝負を決めていた。
『はい。出来ました!』
ユキの杖ひと振りでスネイプは浴衣に強制的に着替えさせられていた。開いた口が塞がらない。
再び振りほどけない力で引っ張られ生徒の輪の中に連れてこられる。
色とりどりの火を出す紙でできた棒を持った生徒たちに一瞬にして取り囲まれた。
スネイプが着ているのは黒地に市松模様などで格子のデザインされたすっきりとしたボディラインの浴衣。
「とてもお似合いです」
スリザリンカラーの浴衣を着たドラコ。
「やっぱり教授は黒ですね」「新鮮です!」『何だかムラムラします』「あっちにスイカもありますよ」「先生も一緒に花火しましょう」「打ち上げ花火するって」「ゴイル、かき氷取りに行こうぜ」「おう」
「ねぇ、どさくさに紛れて途中変なの聞こえなかった!?」
小粋に着崩したザビ二が突っ込みを入れる。
問題発言の主はクラップ、ゴイルと共にかき氷を取りに消えていった。
しばらくワイワイ騒いでいたが上級生が打ち上げ花火に点火するということで皆湖のほとりに走って行った。後に残された二人はかき氷を手に持ち近くの丸太に腰を掛ける。
湖畔に吹く夏の風、ポーンポーンと音を立てて夜空に光の華が咲く。
シャリシャリと涼しげな音を立てるかき氷。
「感謝する」
『気に入っていただけて良かった。おかわりありますよ?』
「君の思考回路は食べ物と直結しているようだな。我輩が言っているのは生徒たちのことだ。この催しは我が寮の生徒たちを元気づけるためであろう」
ユキは楽しそうに口の端をあげてから首を横に振った。
『一人花火は寂しいのでスリザリン生は道連れにしただけです。だから、生徒は怒らないで下さいね』
「あぁ。我輩も一緒になって遊んでいるのだ。注意できる立場ではない」
思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
「たまにはこういうのもいいものだな」
『はい』
「……浴衣姿、似合っている」
『嬉しいです。迷ってたんですけど、着てよかった』
スネイプは慣れないことを言ったのと頬を染めて俯くユキの姿を見て緊張を感じていた。
いい大人なのに、まるで初デート中の男子学生のようだと心の中で笑う。
それでも、この雰囲気は嫌ではない。
時々、とんでも発言をするユキだが恋愛経験は豊かではないらしい。
ゆっくりと距離を縮めていくのも楽しいものだ。
『夏休みは自宅にお帰りになるのですか?』
「学会の準備があるからホグワーツにいる日のほうが多くなると思う。君は?」
『この夏の間に家を探すつもりでいます。家が決まるまではホグワーツにいるつもりです。引越ししたら是非泊まりに来てください』
「っ!“遊びに”の間違いであろう」
スネイプはかき氷が器官に入りむせ返った。不意打ちでこういう事を言われるから困る。
自分の気持ちに気付いてからはなおさらだ。
「君も一応女性なのだ。気をつけたまえ」
案の定“訳が分からない”といった顔をするユキ。ホグワーツにいる間は安心だが外部の人間と会った時が不安だ。来たばかりの時にダイアゴン横丁に行った時のことを思い出す。
自分が横にいなかったら軟派な男達に声をかけられていただろう。
「引越し祝いに虫除けを贈ろう」
『嬉しいです。自然豊かな場所に住みたいと思っていたので』
パッと輝いた顔を見て普通の虫除けも贈ろうと思う。
「……右手を出せ」
こいつはどんな山奥に住むつもりなのだろうな……
杖で糸を出し右手の薬指に巻きつけて外す。輪になった糸をローブにしまう。
その間中雪野は心底不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
この分だと指輪を贈ったらなんの抵抗もなくつけると思われる。
『あ、銀冠だ。綺麗』
遠くで生徒たちの歓声があがった。
夜空に一段と綺麗な銀色の華が咲きキラキラとした光の線が地上に向かって落ちていく。
『一番好きです』
「……我輩もだ」
銀の華は暗い夜空にゆっくりと溶けていった。