第6章 探す碧燕
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23.去る人
――――――
ホグワーツ高等尋問官令
教師は、自分が給与の支払いを受けて教えている科目に厳密に関係すること以外は、生徒に対し、一切の情報を与えることを、ここに禁ず。
――――――
もはや呆れた溜息しかでない。
生徒だけでなく、教師までも取り締まり始めるとはね。
その影響は既に出ていて、教師はアンブリッジの前で話すことを止めてしまい、目立たないところで額を突き合わせてヒソヒソ話をするはめになっている。
私は吹きさらしの廊下を歩く。
人を嘲り笑う声が聞こえてきていた。見ればドラコだ。
「監督生同士は減点できないんだぞ、マルフォイ」
「監督生同士ならな」
ドラコはアーニー・マクミランをせせら笑って胸のバッジを見せつけた。
「しかし、尋問官親衛隊なら可能なんだ」
小さな銀色のバッジが太陽の光を受けて反射した。
「魔法省を支持する少数の選ばれた学生グループさ。兎に角、尋問官親衛隊は減点する力を持っている。マクミラン、僕に逆らったから5点減点。ポッター、気に食わないから5点。グレンジャー、お前は穢れた血だから――――
『ドラコ・マルフォイ』
私を視界に入れたドラコが顔を引き攣らせた。
『ちょっといらっしゃい』
ニヤニヤ笑いのハリーたちの前からドラコを引っ張っていき、中庭の片隅に連れていく。
『そのバッジは?』
「その……アンブリッジ教授が組織した尋問官親衛隊に所属したんです」
『なるほど。それで権力を振りかざしていたと』
「あの、ちょっとした……指導をしていただけです」
『穢れた血は減点対象?あなたの師匠の血は何の血が入っているか分からない人間だけど?破門されたい?』
「いえっ。それは嫌です!」
即答に少し驚いた。日頃厳しくしているから私から逃げ出したいと思って喜ぶかと思ったのに。お説教中なのに内心喜んでしまった私は厳しい顔を作り直して口を開く。
『慎み深くしていろと言ったはずよ。師匠の言いつけを守らない弟子には仕置が必要かしら?』
「ひっ」
睨みつける私に肩を跳ねさせるドラコ。
『今やっている幻術を破る訓練、見せる幻術をあなたが望まないものに変えても良い。例えば炎源郷とかね』
「そ、それだけはご勘弁下さい!僕が悪かったです。ごめんなさい!」
今、私はドラコに幻術を破る訓練してる。上手くできるようになったらセブにお願いして閉心術の訓練を受けさせるつもりなのだ。
私はカタカタ震えているドラコに溜息を吐く。
『次の訓練楽しみしていなさいね』
「謝ったのに!あだっ」
私はドラコにデコピンをしてもう1度深い溜息をついたのだった。
アンブリッジに抑制されるこんな状況でも牡鹿同盟の活動は活発だ。最悪退学になることも恐れずに練習を続けている。
今日は久しぶりに私とシリウスが一緒に参加できる訓練。
「皆、聞いていると思うけど尋問官親衛隊がアンブリッジによって作られた。この会合を見つけようとしているのは確かだ。皆、気を付けてくれ」
ハリーはそう言ってから「引き続きパトローナスを出す練習をしよう」と言って練習を開始させた。
ハリーは初めの頃と比べて成長していて堂々としている。シリウスと私は嬉しくなりながら生徒の手伝いのために歩く。
「ユキ先生の守護霊を見せて下さい」
ラベンダーは杖先からポッポッと銀色の湯気を噴き出すことしか出来なくて見本が見たいと私にせがんだ。
『いいわ。エクスペクト・パトローナム』
銀色の煙が噴き出して狐の形にって……え?
出てきたのは蝙蝠だった。
いつの間に変わったの!?
「パタパタ可愛いですね」
ラベンダーは美しいパトローナスをうっとりと眺めた。
私は前まで狐だったのだけどねとは言わずラベンダーの言葉に微笑みを返す。
『さあ、もうひと頑張りしましょう』
彼女の指導をして私はその場を離れた。
守護霊が変化するなど有り得るのだろうか?
そう思いながら歩いていた私はふとネビルに気がつく。引き締まった顔と目に表れるのは強い意志。何も出ない杖を懸命に振る姿は今までとは違う。きっと両親から正気を奪ったベラトリックスが脱獄したことに関係しているのだろう。
私はネビルの元へ。
『ネビル』
手を止めてこちらを見る彼の後ろに回り、両肩に手を置く。
『力を抜いて。丹田で魔力を練って押し上げるの。そして杖腕を通り、杖へ向かうイメージ。やってみて』
自分を落ち着けるように1つ息をついて杖を振る。
『もう少し練り上げてみて。アレコレ忙しいけれど、頭の中では幸せなことを思い浮かべるのよ』
「はい……」
『どんな事を思い浮かべているか聞いても?』
「とっても申し訳ないんですけど……ルーピン先生の授業でスネイプ先生のものまねボガードを退治したこと……」
言いにくそうに言うネビルの前で私は噴き出した。
『あの女装は衝撃的だったわ!』
3年生の時のネビルが1番恐れるものはセブだった。セブに変身したまね妖怪ボガード。ネビルはリディクラスをしてセブを女装させたのだ。
ネビルにとっては恐怖に打ち勝ち、クラスのみんなに拍手をもらった成功体験でもある。
私はこの授業を見学していたので知っていた。
『お祖母様の格好をさせたのよね』
ネビルが可笑しそうに笑いを噛み殺しながら頷いた。
『あの時のあなたは怖いものに対してとても勇敢だった。クラスの皆そう思っていたわ』
私も笑いを押し殺しながらパチリとウインク。
『今なら出来そうじゃない?やってみましょう』
頷いたネビルが杖を振る。
「エクスペクト・パトローナム!」
ネビルの杖先から銀色の湯気が噴き出した。
「やった!」
破顔するネビル。
『その調子でね』
銀色の動物たちが宙を駆けて美しい。温かな気持ちが部屋に満ちていて私も幸せになる。私は部屋の端に行き、満足気に様子を見ながら小さく杖を振る。
『エクスペクト・パトローナム』
半透明の銀色の蝙蝠が楽しそうに周りを飛ぶ。
蝙蝠を見ていた私はセブを連想し、ハッとなって自分の予想に口を綻ばせた。
***
寝る前にカモミールティーが飲みたくなって厨房へと足を向けていると、玄関ホールに来たところで上階から悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴が聞こえたのはアンブリッジの部屋だわ。そしてこの声はアンブリッジ本人のもの。
生徒が悪戯でも仕掛けたのかと思って行くと、扉が開き、中から飛び出てきたアンブリッジとぶつかった。
『どうされました?』
「マダム・ポンフリーを呼んできて頂戴!」
珍しく私に頼みごとをするアンブリッジに驚きながら部屋を覗き込むと床に栞ちゃんが倒れていた。駆け寄るって確認すると息はある。しかし、頭から血が出ている。
私は影分身にマダム・ポンフリーに伝えるように命令した。
『何があったんです?』
「わ、私は何もしていないわ!」
『では、何故怪我をしたんですか?』
「この子が突然壁に突進して頭をぶつけたんです」
『分かりました』
呪いの類ではないのね。私が殴打した箇所を治すと栞ちゃんはピクピク瞼を痙攣させて目を開けた。
『担架で運びます。動いちゃダメですからね』
担架でアンブリッジの部屋から運び出す時に机の上に真実薬らしきものがあることに気がついた。
急いで医務室へと向かっているとシリウスとハリーが階段を上ってくる。
「栞!?」
ハリーが叫んだ。
「何があったんですか?」
『まずは医務室よ』
「うっ……ハリー?」
栞ちゃんが声に反応して起き上がろうとするのを押さえる。
『頭を打ったから安静に』
医務室入るとマダム・ポンフリ―が準備してくれていた。
3人で心配して診察が終わるのを待っていると、ホッとマダム・ポンフリーが息を吐き出した。
「大丈夫です。ですが、頭を打ちましたから今晩は様子を見るべきです」
「一体何があったんだ?」
シリウスが栞ちゃんが寝るベッド横の椅子に腰かけながら聞いた。
『アンブリッジの部屋に真実薬らしきものがあったけど、関係あるのかしら?』
栞ちゃんを見ると言いたくなさそうに唇を噛んだ。
「栞、君を怒っている訳では無い。言ってくれたら今後、アンブリッジへの対策を立てられるだろう?」
シリウス優しく言う。
その言葉で観念したらしい栞ちゃんは口を開く。
栞ちゃんはアンブリッジに呼び出されて罰則を受けた後、学生で組織を作っているのではと問い質されたらしい。知らないと言い通していたところ、紅茶を飲むように言われた。おかしいと思って口をつけなかったが、飲まなければ退学だと言われ紅茶を飲むことになってしまった。
「飲んですぐ、質問をされる前に机に突進して頭をぶつけて……」
『気絶して頭から血を出した―――なんて事を!』
「ユキ、怒らないとの約束だ」
ビクリと体を跳ねさせ泣きそうな栞ちゃんの背中をシリウスが擦る。
『叱らないでいられる?私はこうやって死んだ人を見たことがある!』
「仲間を庇った結果なんだ。責めないでくれ」
『その仲間全員と引き換えに死んだかもしれなかったのよ?釣り合いがとれない』
「少しは栞の気持ちも汲んでやってくれ」
『私は全くもって理解出来』
「もう終わりですよ」
パンと手を鳴らしてマダム・ポンフリーが私たちを静かにさせた。
「頭に響きます。Ⅿs.プリンスには安静が必要です」
『すみません』
「さあ、もう寝る時間です。皆さん部屋へお帰りなさい」
私たちはおやすみを言って部屋を出た。
『アンブリッジの奴!自分のやったことなのに付き添いにもこない!』
「真実薬まで使うとは……。ハリー、今後も同じことが起きるだろう」
『牡鹿同盟が見つかるのも時間の問題よ。どうするか話し合って。そして同じようなお馬鹿をする人間が出ないように厳重注意してちょうだいね』
「栞は馬鹿ではない」
シリウスが怒りを含んだ目で私を見た。
『馬鹿な行いよ。何度も言うけど打ち所が悪ければ死ぬ可能性もあったのよ』
「栞は勇敢だった」
「僕もそう思います」
『あなた達グリフィンドールときたらいつも勇敢、勇敢と。勇ましいことは結構よ。でも、命を危険に晒すべきではなかった。彼女が死んでいても勇敢だったで済ますつもり?』
口を噤む2人の前で息を吐き出す。
『でも、そうね。行動は別として彼女の気概には敬服するわ』
私たちは階段の踊り場についていた。
『部屋へ戻るわ』
「俺はハリーを寮の入口まで送っていく」
『2人ともおやすみなさい』
怒りで爆発しそうになりながら部屋へ戻るとセブがいた。
強ばっていた顔が緩む。
『いらっしゃい』
「勝手に入っていた。やはり気が引けるが……」
『慣れてくるわ』
私はセブの対面のダイニングテーブルに座ったが、目的であったカモミールティーをもらうことを忘れたことに気づく。
怒りを鎮めるためにも飲みたかったのに。ああ、怒りが収まらない!
私は両手で顔を覆って大きく溜息を吐き出した。
「何かあったか?」
『真実薬をアンブリッジに渡したでしょう?』
「あぁ。さっそく使ったか?」
『えぇ。栞・プリンスに使ったわ。それで彼女、真実を吐くのが嫌で壁に突進して気絶した』
「っ!?」
『頭から血を出して。下手したら死んでたわよ。アンブリッジ!許せない!はぁ。栞ちゃんも栞ちゃん。反省しているようだから、たっぷりのお説教はなしにするけれども』
眉間に皺を刻む私の前でセブは顔を青くしている。
『責任を感じる必要はないわ』
アンブリッジは魔法省で力を持っており、純血一族のルシウス先輩に信頼を寄せている。そしてルシウス先輩はホグワーツ内ではセブを信頼しているとアンブリッジに言っており、アンブリッジはセブに一目置いているのだ。
アンブリッジの信頼を得ているセブの存在は向こうの動きを知る上で重要だ。だからセブは可能な限りの要求に応える必要がある。
「具合は?」
『今晩様子を見る必要があるけど、取り敢えずは問題なしよ』
セブはホッとした顔をしたが直ぐにいつもの顔に戻った。
「栞・プリンスがそこまでして守ろうとしたものはなんなのだね?」
『さあ』
肩を竦める私に知っているだろうとセブは目を細めた。
「今から閉心術の練習を始めるか?」
『今日は拷問なしよ』
「チッ」
閉心術には長けている。影分身からの拷問なしでの1対1で閉心術をすれば確実に秘密を守り通せる。
「ポッターたちが組織を作っているようだな」
『そうなの?』
知っていて質問してきたのね。タチの悪い男。
『どんな組織?』
「ユキ、君も関わっているだろう。ブラックもだ」
『黙秘します』
暫くお互いの出方を探るように見つめ合っていたが、セブは再び舌打ちをしてこの話題を諦めたようだった。
「気をつけろ」
『ありがとう』
ニコリと微笑んだ私はふと、セブを見て思い出した。彼のパトローナスは蝙蝠だった。
「なんだ?」
パッと顔を赤らめる私を不思議そうに見てセブが問う。
『あの、その』
急にしどろもどろになって不審だろう。そうは思っても平静に戻れない。セブは先程口を割らせられなかった仕返しがしたいのだろう、既にどう料理してやろうかという顔をしている。
「これ以上"恋人"に隠し事をするつもりかね?」
『わ、悪いことを隠しているわけでなく』
「では言うのだな」
『それが――その――』
やっぱり恥ずかしい!
私はガタンと立ち上がった。
『シャワーを浴びてもう寝るわ!』
恥ずかしさを晴らすようにワシワシと頭を洗ってバスルームから出ると少し気持ちが落ち着いてきた。セブは既にベッドに入っていて本を読んでいる。
ベッドに入り、簪を取った私は影分身を1体出して髪の毛を梳かせ始める。椿油で手入れされた柘植の櫛が何度も髪を往復する。
パタンと本が閉じられた音に続いてごそごそと動く音。影分身の動きが止まり、ポンと後ろで音がした。影分身の記憶が頭に入ってきて、セブが影分身から櫛を受け取ったのが分かった。
『ありがとう』
丁寧に髪を梳いてくれて嬉しくなる。
「綺麗な髪だ」
『暗部の姉様にお前は髪が綺麗だから手入れを怠らないように。いつか武器になるから。と言われたの。今でも武器の意味が分からない』
「何となくだが分かる気がするな」
『え!?教えて!』
「断る」
『なんでよ!』
「知らなくていい」
セブルスは櫛ではなく指でユキの髪を梳いた。
サラリとした肌触りの漆黒の髪はまるで絹糸のように艶めいており、触れるだけで心が震える。いつもは隙なく結われた髪が解かれているのを見ると、自分は信頼されているのだと感じられた。白いシーツの上に乱れ、汗ばむ体にかかる黒髪は欲情を煽る。
そうは思わずユキは髪で人の首でも締められるとでも考えているのであろうな。
セブルスは髪を梳きながら苦笑した。
『ねえ、セブってアニメーガスになれる?』
「出来ない」
あっさりと返ってきた答え。
私は後ろを向いた。
『ほんとのほんとーに?』
「嘘をついてなんになる」
じっとセブを見つめても瞳も表情からも何も読み取れない。読めないわね。ううむ。
『アニメーガスになれるとしたらセブは蝙蝠かしら?』
「パトローナスが蝙蝠だからな。そうかもしれない」
『蝙蝠は好き?』
「特には」
『そう……』
では、私のパトローナスが変わったのはただの偶然か。
そう思ったら恥ずかしがっていたのが馬鹿らしくなってきた。
「どうかしたか?」
『パトローナスが狐から変化したの』
私は杖を取って呪文を唱えた。
杖先から半透明の銀色の蝙蝠が出て私たちの周りをパタパタと飛んでいる。
『偶然かもしれないけど、あなたとお揃いになったわ』
セブが私の手に自分の手を重ねて杖を振った。
「エクスペクト・パトローナム」
杖先から飛び出した蝙蝠はパタパタと私が出したパトローナスの元へと飛んでいく。2匹の蝙蝠は仲睦まじく飛びながらゆっくりと消えていった。
***
「今日はツーマンセルもしくはスリーマンセルを組んでもらうぞ」
シリウスがウキウキと言った。
生徒達もパッと興奮する。
今日の授業は今年度末にしてもらう試合の前段階としてフォーメーションを組んで1度試してみようということになった。このクラスはハリーやドラコたちのクラス。要するにトラブルが起こりやすいクラスだ。
今の時点からバチバチ火花を散らす両寮。組み分けが終わり、生徒をコートへ移動させる。
芝に魔法で線を描き、コートには盾の呪文をかけて外に術が漏れないようにしてある。
1コートに4人の教師を置きしっかり見張る。
試合は実践に近くしたいので杖も拳も何でもありだ。但し、試合中必ず1度は忍術学で習った技を使うように伝えてある。
「楽しみだな」
シリウスの隣には彼の影分身がいる。シリウスは1体の影分身を出せるようになったのだ。
教師、生徒共に位置につく。
『始め』
わっと試合が始まった。
本体の私はハーマイオニー、ロン対パンジー、ノット、ザビニの試合を審判している。
「水遁・水流弾」
「呪術分解」
ハーマイオニーの術をパンジーが弾く。
「おいおいおい、2対1なんて卑怯だろうっ」
悲鳴をあげるロンの元へノットとザビニが向かう。ザビニがふわっと空中に浮き、ロンを蹴り飛ばす。
「ロン!」
どたどたと転がるロンを心配して振り返ったハーマイオニーにパンジーの杖が向けられる。しかし、パンジーの放った歯呪いは煙の中に消えた。煙となったハーマイオニーがパンジーの背後へ。変わり身の術だ。
『ロン!ダウン!』
私の言葉でノットとザビニはハーマイオニーのもとへ。
「手を出さないでよ!」
キッとした顔と共に言われたパンジーの声にノットとザビニは顔を見合わせて止まった。もはや殴り合いと化している2人。だが、隙をついてハーマイオニーが失神呪文を放った。倒れて動かなくなるパンジー。
しかし、力尽きているようでハーマイオニーはこれ以上動けない。ノットもザビニもボロボロで動けない女の子には手を出せないようだ。
『決着で良いでしょう。勝者、パンジー、ノット、ザビニ』
スリザリン生から大きな歓声。怪我をしたパンジーの意識を戻し、ロン、ハーマイオニーには影分身で取り敢えずマグル式の治療を受けてもらう。
あちらこちらで上がる歓声と悲鳴、飛び交う閃光と唱えられる呪文。
そして問題の組の試合がやってきた。
ハリー、栞ちゃん対ドラコ、デリラの試合だ。
くじ引きにより奇しくも最後の試合で皆がコートを囲んでいる。
「栞、僕がドラコを」
「私がやるわ」
「え?」
「始め!」
シリウスの開始の合図でドラコと栞ちゃんが駆け出した。ビュンと飛び上がった栞ちゃんの飛び蹴り。ハリーが向かってくると思い栞ちゃんの攻撃を予想していなかったドラコだが、寸前で交わした。
上手く着地した栞ちゃんはドラコに向かい、印を組む。
「火遁・火炎砲」
「雷遁・雷撃」
術がぶつかり、白い火花が散る。その迫力に静まり返った生徒はドカンと歓声を爆発させた。ハリーは八ッと気がついた。デリラが栞ちゃんを狙っている。ハリーが放った閃光は直前で気がついたデリラによって弾き返された。
ハリーとデリラの魔法の打ち合いが始まった。
足にチャクラを込めてドラコとの距離を詰めた栞ちゃんが拳を振りかぶる。
バシン
ドラコと栞ちゃんは殴り合いだ。
ハリーがデリラを吹き飛ばした。
デリラは起き上がったがコート外に出て失格。
一方のドラコと栞ちゃんは体術と忍術で戦っている。生徒の歓声の中に「いけ、栞!」というシリウスの声が聞こえた。
早い動きに入っていけないハリー。
これは良い試合を見せてもらっていると満足している私の耳に足音が聞こえてくる。丘を上ってくるのはアンブリッジと役人。私をアズカバンに連れていった役人達だ。
「シリウス!シリウス!」
シリウスがアンブリッジ気がつき、頷いて森へと走っていく。
『やめ!やめ!』
私の影分身に強制的に引き離されたドラコと栞ちゃん。皆何事かと静かになったところへアンブリッジのキンキンした声が響く。
「捕まえて!」
役人達はシリウスの影分身を捕まえた。しかし、ポンと弾けて煙となり消える。
「森だわ!追ってちょうだいッ」
「きゃあっ!アクロマンチュラが!」
栞ちゃんが叫んでアンブリッジの足元に催涙弾を投げた。煙で白くなる視界にハリー、ハーマイオニー、ロンが丸薬を地面に叩きつけたの見える。
生徒を置いて申し訳ないが、私は煙を避けるために後ろへ飛び退き騒乱から距離を取った。咳き込み、涙を流す生徒。煙が収まって辺りを見渡したアンブリッジは涙と鼻水を流しながら怒りの形相を浮かべている。
「アクロマンチュラがいるなど嘘を吐いたのはどこの誰です!?公務執行妨害で退学にしてやる!」
『アンブリッジ教授!』
私は叫んだ。
『足元にいるじゃありませんか』
私は幻影を見せた。
掌大の蜘蛛が足元で蠢くのを見てアンブリッジも役人も悲鳴を上げた。何も無い地面に呪文を打ちまくるアンブリッジたちにポカンとしている生徒たちを影分身が誘導して丘を下りさせる。
幻影の蜘蛛をやっつけたアンブリッジたちは真っ青になりながら丘を下りて行く。
シリウスは無事にグリモールド・プレイス12番地へと逃れた。
変化の術を使って元気に騎士団の活動をしている。
集団脱獄手引きの件でシリウスを連行出来なかったアンブリッジは怒りをぶつけるように牡鹿同盟を見つけ出すことに熱意を燃やしている。
『ハリー、暫く牡鹿同盟の活動は控えて』
「分かりました……」
しかし、牡鹿同盟は活動を止めなかったらしい。
9時を回った頃、廊下を走る音が部屋に近づいてきた。
扉を開ければ栞ちゃんが階段を上がってくるところ。
『どうしたの?』
「見つかったんです!ハリーを助けて下さい!」
聞けば、牡鹿同盟はアンブリッジと尋問官親衛隊に見つかって、散り散りに逃げたらしかったのだが、最後まで仲間を逃がしていたハリーが逃げ遅れて捕まってしまったということだった。
「ハリーが退学にさせられちゃう」
『あなたは寮へ戻りなさい』
走って校長室のガーゴイル像に合言葉を言う。
『サクっとサクサク咲くスナック』
ガーゴイル像は横に飛びのいて道を開けた。
動く石の螺旋階段を歩き、磨き上げられた扉の前へ。そっと扉を開けば何か言い争っているらしい。
私は慎重に扉を開けて中へ忍び込み、大きな地球儀の後ろに隠れた。
中にいたのはダンブー、ミネルバ、アンブリッジ、ファッジ大臣、パーシー・ウィーズリー、ハリー。それに不死鳥の騎士団のキングズリー・シャックルボルト、闇払いのドーリッシュさんがいた。
「今回、私たちが見つけた会合は学生の組織を禁じた魔法省令違反となりますわ。よってハリー・ポッターは―――退学ですわね」
アンブリッジが冷酷な微笑でハリーを見た。
「何か証拠がおありですか?」
ミネルバの冷静な問いかけにファッジ大臣もアンブリッジも顔を赤くした。
「ここにポッターがいるのが、その証拠だ!」
「ポッターは9時ちょうどに校長室に連れてこられました。5年生は夜9時まで出歩いても良いことになっています」
「「っ!」」
「会合の証拠はない。ハリーは校則を犯しておらん。これにて解散じゃ」
「アンブリッジせんせーーーーい」
パンジー・パーキンソンの声だ。
「どうやら尋問官親衛隊が何か見つけたようですわ」
アンブリッジは興奮して戻ってきた。手には羊皮紙を持っている。
「大臣、今日の会合は8階の必要の部屋と呼ばれる場所で行われました。生徒たちは事前に警告されたらしくポッター以外逃げられましたが、親衛隊が必要の部屋でこれを見つけましたわ」
「ほっほー。これは言い逃れ出来んぞ。会合に集まった者の名簿だっ」
私は頭を抱えた。まさか、最悪なことに、名簿が見つかるとは。どうにか言い逃れるのよ、ハリー。
祈るように見つめていると、「そ、それは」とハリーが声を出した。
「それは、ただ、本を貸す順番のリストです。O.W.L.が近いから、僕たちは勉強の教え合いをしていて……」
ミネルバが心配そうにハリーを見つめている。
どうなるだろうと心配していた時、ダンブーがこちらを2度見した。私の存在に気づいたみたいでニコッと笑った。
何かしようとしている。
私は杖を出した。
「さて、万事休すじゃな」
ダンブーがサバサバと言った。
「自白する気になったか?ダンブルドア」
嬉々とするファッジにゆったりと構えながらダンブルドアは口を開く。
「そのリストにあるのは儂が鍛えようとしていたヴォルデモートに対抗する生徒の集団、牡鹿同盟じゃ」
「なんとなんと!ダンブルドアが軍団を作ろうとしていたとは!ウィーズリー!今の発言を書きとったか!?」
「はい、閣下。大丈夫です、閣下!」
「ダンブルドア、あなたは魔法省に対抗しようと軍団を組織し、私を失脚させようと画策していた。ウィーズリー!メモを複写してフクロウ便で送れ。明日の日刊預言者新聞の朝刊には間に合うだろう!」
パーシーは脱兎のごとく校長室から飛び出していき、嬉々としたファッジは興奮しながら手を打った。
「おまえをこれから魔法省に連行する。そこで正式に起訴され、アズカバンに送られ、そこで裁判を待つことになる」
「そうはいかぬ」
ダンブーは穏やかに言って、今度は私にパチリとウィンクした。視線を向けた先にはピンク色のハートの風船が浮かんでいた。了解。
「アズカバンに入れられても脱獄できるじゃろうが、そんな二度手間はしたくない。正直言って、儂は他にも色々とやりたいことがあるのでな」
アンブリッジの顔が着実にだんだん赤くなってきた。ファッジの方はポカンとしてダンブーを見つめている。ファッジはポカン顔のままキングズリーとドーリッシュを振り返る。2人は頷いた。
「いかに大魔法使いといえども私、ドーリッシュ、シャックボルト、ドローレスを相手には出来まい」
「ダンブルドアは1人じゃありませんよ」
ミネルバがポケットに手を突っ込んだ。
「ミネルバ。儂独りじゃ。ホグワーツはあなたを必要としておるでの」
怒りが頂点に達したファッジが杖を抜く。
「かかれ!!」
部屋の中に閃光が走った。
ドーンと激しい音と地響きがして物が割れ、落ちる音が部屋に響き渡る。埃が濛々と舞う中、私はハリーに変身して杖を振る。
ミネルバが本物のハリーを引っ張って床に伏せさせた。
『ステューピファイ』
私の失神呪文が当たったアンブリッジが床にドタリと倒れた。
ファッジは既にダンブーに倒されており、ドーリッシュさんはぼんやりした顔をしていた。
『ドーリッシュさんはどうしたんですか?』
「私が錯乱呪文をかけました」
キングズリーさんが言った。
『なるほど』
「あなたユキなの?」
『はい、ミネルバ』
私は元の姿に戻った。
ダンブーはローブの埃を払って、どこから取り出したのか旅行カバンを持っている。
「どちらへ行かれるのですか?」
「ふぉっふぉっ。娘の家じゃ」
ミネルバの問いにダンブーは楽しそうに笑って答えた。
「あそこの守りは厳重じゃからの。じゃが、儂は身を隠すわけではない。手は緩めんぞ」
「あの、ダンブルドア校長先生っ」
よたよたと立ち上がったハリーは責任を重く感じているらしく何も言えないでいた。そんなハリーの肩をダンブーはしっかりと掴む。
「よくお聞き、ハリー」
先ほどの楽しそうな様子は消えている。
「閉心術を一心不乱に学ぶのじゃ。スネイプ教授が教えることを全て実行するのじゃ。特に毎晩寝る前に、悪夢を見ぬよう心を閉じる練習をするのじゃ」
フォークスが美しい歌を歌いながら頭上を輪を描いて飛び、ダンブーの上に低く舞い降りてきた。ダンブーはハリーから手を離し、片手を挙げて不死鳥の長い金色の尾を掴んだ。パッと炎が上がり、ダンブーの姿は不死鳥とともに消える。
『私は失礼します』
「校長と連絡がつく状態にしたいの。後日話に行くわ」
『はい、ミネルバ』
私は階段を下りて玄関ロビーを突っ切り、セブの元へ向かう。
私室にはおらず、彼がいたのは研究室だった。
『入るわよ』
「何かあったか?」
『ダンブルドアが学校を去った』
「私室の方が防音が厳重だ。来い」
私室に入り、パタンと扉を閉めて一連の話をする。
「愚か者」
『反省しているわ』
セブはダンブーを追い詰めることになった牡鹿同盟を怒っていた。牡鹿同盟さえなければダンブーは魔法省に追い詰められることなくホグワーツにいられたのかもしれないのだから。
「はあぁ。しかし、今更言っても仕方ないな。我輩も存在は知っていた。もっと強く解散を勧めるべきだった」
『ごめんなさい……』
「校長はユキの家にいるのか?」
『そう言っていたわ。あそこは魔法と忍術でガッチガチに守られている。ダンブー、クィリナス、私しか入れな……えっと……』
私は呪われそうな目を前に震えた。
『兎に角、身の安全は大丈夫でしょう』
「連絡手段は?」
『直接家に行く他はないわね。様子を見に行ってくるわ』
シリウスがいなくなったホグワーツで
ダンブーがいなくなったホグワーツで
何が起こるのか……