第6章 探す碧燕
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21.閉心術
ロマンチックと幸せをぎゅうぎゅうに詰め込んだ旅行から帰って数日。私は不死鳥の騎士団本部に来ていた。
『グライド、さっきぶり』
レギュはクリーチャーに淹れて貰ったであろう紅茶を飲みながらクリーチャーと談笑していた。
私とレギュは分霊箱の件で昨夜……早朝まで一緒に調べ物を頑張っていた。
「少しは寝ましたか?」
『クリーチャー、私も紅茶を淹れて欲しいな』
レギュが答えをはぐらかした私を目を細めて見た。
「おはようございます、ユキ先生」
『モリーさんっ。今日のお昼ごはん私も頂いていいですか?』
「勿論よ。それじゃあ申し訳ないのだけれど、作っている間に上の階に行ってシリウス、スネイプ教授、ハリーを呼んできてくれるかしら?みんな同じ部屋にいるわ」
『えっ……その3人が一部屋に入っているんですか?』
私は目を見開いた。トラブルの予感しかしない。
『直ぐに呼んできます』
何の用か知らないが、あの3人が同じ部屋にいて言い合いにならないはずがない。
喧嘩になっていないといいけどと階段を急ぎ足で上っていく私はガチャン、ガチャンと乱暴に何かが鳴る音に気がついた。足を早めて戸を開けた私は絶句する。
「コンフリンゴ!」
「ディフィンド」
ビュン
ガチャン
バーン
セブとシリウスは激しい呪文の撃ち合いをしていた。しかもテーブルの下には魔法の撃ち合いに為す術もなく身を縮こませてしゃがみこんでオロオロしているハリーの姿。
『何をしているのよ!』
「ユキ!邪魔すんなよっ」
シリウスが無唱呪文を撃ちながら私に言う。
「こいつの、ことはっ、もう、我慢が、ならねぇ!うッ」
『シリウス!』
喋っていたせいで集中力を欠いたのかシリウスにセブの呪文が当たった。
呻き声を上げてシリウスが床で苦しむ。
「負けを認めては如何かな?」
せせら笑うセブに青筋を立ててシリウスが杖を振る。
バンッ
セブが呪文を弾いた瞬間、立ち上がったシリウスの体が宙を駆けた。忍術で空中を飛び、セブとの間合いを一気に詰めたシリウスは思い切りセブの横っ面を殴る。
ドタンと痛そうな音で床に倒れたセブは口の端から血を流しながらシリウスを睨みつけ、杖を向ける。
「野蛮な犬めッ」
「これはユキ直伝なんだがな」
セブは眉間に思い切り皺を作って杖を振った。呪文を体を捻って避けたシリウスは攻撃の方法を再び杖へと変更するようだ。
『いい加減に止めて!』
これ以上は冗談でなく大変なことになる。私は杖腕を上げる2人の間に飛び込んだ。
セブを背にシリウスの杖腕を掴み下げさせる。
「……」
「……」
「「チッ」」
『はあぁ』
2人はこれ以上続けられないと思ったらしい、動きを止めたが、相手をぶちのめせなかった事に思い切り舌打ちした。
「今も昔もユキに庇われて情けないな。泣き虫スニベ、テ、テ……おうぅぅ」
シリウスが股間を押さえながら膝から床に崩れていく。私がシリウスの急所を蹴りあげたからだ。
止めろと言ったのに止めないシリウスが悪い。
『このくらいで大袈裟ね』
「おじさんっ」
ハリーが駆けてきてシリウスの背中を摩った。
「大変だ。重傷だよ!」
『鍛えていないのが悪いのよ』
何て非道な人間なんだと言う目で見るハリーから顔を逸らしてセブを見る。私はなんて愉快なんだと言った顔をするセブを溜息を吐きながら見た。
『あなたも同罪よ?ハリーを怖い目に合わせて』
フッと足を上げる動作をする私を見て反射的にセブが体を跳ねさせた。
『どうしてこんなことに?』
「僕が原因なんだ。僕の閉心術のことで……」
『それならハリーのせいじゃないわよ。このお馬鹿な大人2人のせい』
私はもう1度セブとシリウスを睨みつけた。
『閉心術を習うのね。良い事だわ。ヴォルデモートの企みに対抗する手ね』
「ユキ先生もヴォルデモートの思考や感情が僕に入り込めると知っていたんですか?」
「ハリー、君は今、ユキに情報を抜かれた」
「あっ、しまった……」
『私も予想していた事だし、騎士団やハリーの友人にもいずれ伝わる。少しくらい早く知ったって問題ない。しまった、なんて顔しなくても良いのよ、ハリー』
私はジェームズ譲りの髪をくしゃくしゃと撫でた。
「ユキ先生。スネイプ、先生の代わりにユキ先生が僕に閉心術を教えてくれることって出来ませんか?ほら、ご存じの通り、僕とスネイプ、先生は相性が悪いでしょう?」
先生の前に明らかな空白があることに苦笑してしまう。
『閉心術はシリウスとセブで教えることになっているの?』
「そうだ。だが、ダンブルドア校長は何故か俺よりもスニベ」
私はシリウスを睨んだ。
「スネイプの方が閉心術を教えるのに適していると思っているらしい。理由として考えられるのはコイツが根暗だからってことだが」
またしても空気が剣呑になった。
『シリウスも適した人だと思うわよ。アズカバンにいる間、心を閉ざし続けてディメンターから身を守ったでしょう』
「まあな」
そう言うとシリウスは機嫌良さそうに口の端を上げた。
「ユキ先生、さっきの話っ」
『ごめん、ごめん。私が閉心術を教えられないかって話しよね。うーん。閉心術は得意だけど万が一私の記憶を見られた時のリスクがね』
暗部の記憶を見られたらハリーにトラウマを植え付けてしまう。だが、そうは言わずに『あられも無い姿を見られてしまったら困るでしょう?』と言った。
「見たい」
『悪い子ね』
「あうっ」
私はハリーの耳を引っ張った。
『セブに習うのは嫌でしょうけど、嫌いな人から開心術を受ける方が心を閉ざしやすいかもしれない。ね、セブ』
セブは答えず眉間に深い皺を刻んでいた。
『モリーさんが昼食を作ってくれているわ。話が済んだのなら降りていきましょう』
3人を促して私は下へと降りていく。キッチンには不死鳥の騎士団の団員が集まり始めていた。
「2人ともどうしたんだい!?」
リーマスがセブとシリウスの顔を交互に見る。
『話をぶり返さないで。また喧嘩が始まるわ』
セブをシリウスから遠ざけるように端の方の席に引っ張って、レギュの隣に座らせた。レギュはチラとセブの殴られて血が出ている顔に目を向けたが何も言わずに優雅に紅茶に口をつける。
「クリーチャー、スネイプ教授にレモンたっぷりの紅茶を」
楽しそうに口を緩めるレギュをセブはひと睨みしたのだった。
不死鳥の騎士団の会議が終わり、それぞれ帰路に着く。シリウスはグリモールド・プレイス12番地に残るのでホグワーツへ戻るのは私とセブだけだ。喧嘩中の2人を引き離せてホッとしている。
『モリーさんのご飯は最高ね』
「我輩にはユキの食事の方が口に合う」
『嬉しいこと言ってくれるわね。お礼にこの怪我治してあげるわ。青アザ作って数日過ごすのは嫌でしょう?』
「部屋に来てくれ」
『うん!』
お説教はなしにしてセブの怪我を治す。痣も切った口の端も元通りだ。
ふと視界の中に憂いの篩が目に入った。近づいていく。
『ハリーに見せないように?』
「念には念をというわけだ」
『任務の関係で見せたら困るものもあるものね』
モヤモヤと白い靄が流れている水盆を覗く。
「便利なものだぞ」
セブが私の横に並んだ。
「思い出したくない記憶を取り出して保存しておくことも出来る」
私は首を横に振る。
『誰かに見られる可能性のあるところに大事な記憶は入れておけない』
セブが私の体を後ろから抱きしめ、右のこめかみにキスをくれた。
「君が心配になる時がある。余計なお世話かもしれんが……君は辛い経験をしてきただろう?それによって苦しんではいないかね?」
私は突然の言葉に目を丸くしてセブを見た。そして表情を緩める。今の私だけでなく過去の私にまで目を向けて心配してくれている。その気遣いが嬉しかった。
『ありがとう、セブ。だけど大丈夫。その事は私も随分考えた』
アズカバンの中で出した答え。
『幸せになりなさいと言ってくれた人がいる。だから私は出会った人に対して誠実にひたむきに接し、生きようと思う。そして幸せになる』
「苦しくなった時はいつでも言って欲しい。前にも言ったがどんな君でも我輩は受け入れる」
『ありがとう』
愛情のこもったキス。どちらともなく抱きしめあって、口付けは激しくなっていく。高まりゆく興奮。湖城ホテルで愛し合ってからまだ数日しか経っていないのにまた私はセブを求めているのかと自分の性欲に呆れてしまう。
私はゆっくりとセブの体を押して距離を取った。
『自重しないと』
「自重?」
『だって、はあぁ、理性が性欲に負けて。情けないもの。自分を律するわ』
「君にやる気があると分かって良かった」
ニヤリと口角を上げるセブにたじろいで私は1歩後ろへと下がる。本棚にぶつけた背中。逃げる場所はない。
『酒、欲、色は忍の三禁。じ、自分の意思以外でするわけには……色に溺れるわけには……』
「この後予定でもあるのかね?」
『やることはいくらでも見つかる』
「急を要するものはないと」
『そうだけど……』
「ならば自分の意思で色に溺れることを選んではいかがか」
セブが太腿からおしりにかけてゆっくりと手を滑らせた。
『あ、あなた!恋人に禁を犯させるつもり!?』
「では、耐えてみろ」
『セブ!んっ』
体格の差と同じくセブの口は私の口よりも大きい。口を口でしっかりと塞がれて犯すようなキスをされる。激しさに震え、舌技に酔い、甘い口露に毒漬けにされる。
『うあっ』
口付けは首筋に移り、
『あっ、んっ』
裾の間から入った大きな節くれだった手は太腿を摩り上げながら私の敏感な部分へ。膝が震えて嬌声を上げながら、私は堪らずセブの背中にしがみついた。
「君が望まないならここでやめるが?」
意地の悪いセブに怒るべきなのに、体も心も完全に敗北を認めていた。それでも残った理性で自分への言い訳を考える。
『私は認めないわよ、絶対。これは私の意思よ。やりたいから、やる。いざ行かん、よ』
「くく、勇ましいことだ」
ブツブツ言う私をくつくつ笑いながらセブは私を横抱きにし、ベッドルームへと入って行った。
やってしまった。しかも2度もだ。だが、後悔よりも喜びの方が大きかった。私はうつ伏せになって、セブは横向きで顔を見合わせている。
「顔がだらしないな」
『見ないで』
目の前のセブがカッコよくて色っぽい顔をしているから悪いのだ。デレデレしてしまう。あぁ、恥ずかしい。
「顔を手で隠すな」
『じゃあ意地悪言わないでよ』
セブは顔を覆っている私の手を取って自分の方へ引き寄せて口付けを落とした。
「何故指輪をネックレスにした」
少し不機嫌そうに私を見るセブ。
私はチェーンにかけているアメジストのついた指輪を視線の位置まで上げた。
『石に引っ掛かって印が組みにくいのよ。折角贈って貰ったのにごめんね。壊れてしまっても嫌だし』
「そうか……」
『アクセサリーといえば』
私はずりずりと体を移動させて床に脱ぎ散らかされていた着物の袂から銀色の腕輪を取り出した。なんの装飾もない細身の銀の腕輪だ。
『私、趣味の悪さは自負しているの。だから着けなくてもいいわ。でも、これは私の部屋の鍵だから持っていて』
「私室のか?」
『うん。これからは勝手に入って来てもらって構わない。あ、もちろん、あなたの部屋に勝手に入らせてなんか要求しないわ』
後半部分は慌てて付け加える。
鍵の使い方は単純だ。ドアノブにかざせば扉は開く。腕輪には解錠の呪文がかけられており、呪文に変更があれば掛け直すつもりでいる。
「随分信用されたものだな」
『これを言うと機嫌を損ねるでしょうけど、今まで同居人もいたのに―――フェアじゃないでしょう?』
セブの眉根が寄った。そして遠慮もなくなったようだ。
「有難く受け取っておこう」
そう言ってセブは右腕前腕の決して服から覗かない位置(黒い服ですっぽり覆われているから余程のことでないと見えないだろう)に着けた。
『部屋は好きに使ってくれて構わないわ。シャワーもベッドも実験室の材料も』
セブは腕輪を指でなぞりながら小さく息を吐き出した。
「我輩こそ君に溺れすぎて部屋に入り浸り、職務を怠らないように気をつけねばな」
『私は部屋に帰って本を読むわ。性欲コントロールを学ばなくては』
好きで、好きで、愛されたくて、セブが欲しくて。こんなのっていけない。
どっぷりと溺れて自分がダメになりそうだ。
チラとセブを見る。余裕の表情、自分で自分をコントロール出来ている様子だ。性欲も自分の抑制下に置いているであろう。
一方の私は抑制も効かず、身悶えて……。
鼻腔をくすぐる甘く芳香な香りに惹き付けられて体をゴソゴソと動かしてセブの体に身を寄せる。飼い主に甘える動物のようにスリスリと顔を胸に擦り付ければ気分が高揚してきてしまった。
私ったら仕方の無い奴ね。止めなくちゃ。
でも、もう少しだけ。
セブの背中に手を回してチュッチュと吸い付く。優しく頭を撫でられて調子に乗ってしまう私は愛おしさを示すようにキスの数を増やしていく。
乳首をねっとりと舐め、ちゅっと吸い上げるとセブが熱い吐息を吐いたのが分かった。セブが私にしてくれるのを思い出しながら、左乳首に吸い付き舌で刺激しながら片手で右の乳首を摘んだり、指で押し潰したり。
今度は右の乳首に吸い付いて、両手で胸の下あたりからゆっくりとセブの体を触っていく。筋肉の浮いたお腹、広い背中に腰、お尻、太腿。
手で触った後を追うようにキスしていく。
セブが仰向けになった。
浮き出た左右の骨盤の骨、お臍の下にキスをし、1呼吸して固い茂みの上に強めに唇をつけた。むわりと魅惑的で濃厚な香りの猛るセブの中心に喉を鳴らし、私は口を開いた。
舌を伸ばした私はふと雑誌の文言を思い出して固まる。
とてもデリケートなので扱いに気をつけましょう。NG!歯を立ててはいけません!
自信ない。
セブを痛がらせたら申し訳なさ過ぎる!
私は口を閉じてよじよじとセブの頭の方へと上がる。
『ごめん。本を読み込んで、何かで練習してから次の機会にさせて』
一瞬ぽかっと口を開けたセブは唸りながら頭を抱えた。
「どうしてくれる!」
『3回目はセブも辛いでしょう?また今度』
帰ろうとベッドから出ようとしていると、うつ伏せに押し倒されて脚にセブの硬いものを押し付けられた。
『私、帰るわ。それにあなたも少し前に"気をつけねば"って言ったばかりでしょう?お互い欲を抑えましょう』
しかし、押し付けられる塊は鈍器のように硬い。
何でこんなに元気なわけ!?本に書いていた話ではこの年齢になると―――――もしや薬でも飲んでる??
『こ、今晩動けなくなっちゃうから出来ないわ』
「今夜もやる気だったのか?」
低い声が耳に響く。
『そうじゃないっ。夜は仕事よ!守りの護符を作らなければ!』
体がひっくり返された。向き合う私たち。濃厚なキスに体が溶ける。
セブの左手は胸、右手は秘部へ。
『っ、ん、こ、声が枯れて術を唱えられなくなったら、だ、あっ、だ、大問題だわ』
「では、声は出さぬことだ」
無茶言わないで!
『んあっ、アッ、んんっ、ん~~っ』
「少しは思い知れ」
片手で口を押さえ必死に声を押し殺す私を見てセブは意地悪く口角を上げ、下へ下へと消えていったのだった。
***
クリスマス休暇が明けて授業も始まった。
忍術の授業も特別授業も開始だ。
生徒たちは着実に力をつけてきている。
「よし、時間だ。特別授業を始めるぞ」
特別授業の始め、シリウスが新しいことが始まる予感に興奮している生徒たちに授業の開始を告げる。
「みんな、もうそろそろ石の間や木の枝の間を飛ぶのは飽きてきただろう。ここらで派手に1つ、カッコいい術を学びたいと思わないか?」
特別授業を受けに来ている生徒からワッと声が上がった。
良い顔の生徒たちを見渡してシリウスは今日から属性別の忍術を学んでいくと言った。
『私の火遁、水遁、風遁。シリウス先生の雷遁。それからゲストにクリス先生をお迎えしました。土遁使いです』
優し気な男性に変化したクィリナスが微笑む。
『さあ、属性別に分かれて練習しましょう』
私は影分身を出して風、水の属性を持つ生徒たちを教えるように命令した。
始めはどのような術があるのかから。私は狐火を出すことから始まり、火遁・火炎砲、火遁・火炎の輪の術を見せていく。
生徒たちはとても興奮して興味を持っていた。わいわいと賑やかに印の結び方を教え、術を出すイメージを伝える。
もし戦いの中で杖を失った時、身を守り、反撃できる術を身に着けて欲しい。
どんな事態にも対処できるように。
私は好奇心に輝く瞳を見ながらそう思ったのだった。
「私は用事があるのでこれで失礼します」
クィリナスは特別授業の講師を終えるとサッと帰って行った。去っていく背中はどこか楽しそうだ。
「夕食の時間だ。真っ直ぐに大広間に行くか?」
『えぇ。お腹ペコペコだもの』
シリウスと廊下を歩いていた私は頭を抱えたくなっていた。あちらこちらでポンポンなる音、音、音……。
生徒たちがあちこちで変化の術で他人に変化していた。
今日から開始だった変化の術の授業。
変化の術に生徒たちは大いに関心を持って取り組んでいた。
私は授業での生徒たちの様子を思い出す―――
「ユキ先生、これって他人に変身するとその人にそっくりそのままなれるんですか?」
『自分がイメージしたように変化します』
邪なことを考えていたらしい、ガッカリした男子生徒の顔。
『変化の術を他者に不利益を掛けるかたちで使用することを禁ずる!です!』
私は授業で特に男の子たちに釘を刺した―――
『何かトラブルが起きないか心配よ。アンブリッジは良く思っていないでしょうね』
「トラブルもアンブリッジも本気で心配しているわけじゃあないだろう?」
『そうだけど……』
「それなら、子供たちの悪戯を楽しもうじゃないか」
『でも、アンブリッジは怖くなくてもシリウスだってミネルバは怖いでしょう?』
「うっ。過度な悪戯は控えてもらいたいものだ。もしくは自分たちで責任を負って欲しい」
『あらら。無責任な先生ねって、あれは何??』
玄関ロビーに入ると大量のウィーズリーの双子がいた。
『「ぶふっ」』
私たちは同時に噴き出してしまう。
「やあ、フレッドを知らない?」
「向こうにいたよ」
「君は誰だい?ジョージかい?」
「違うよフレッドだよ。君こそジョージかい?」
「ジョージは僕だよ!」
大量のフレッドと大量のジョージはお互いに名前を確認したり、道行く人に双子の片割れを探してほしいと頼んだり、それはそれはカオスな状態になっていた。
「フレッド!ジョージ!」
シリウスの呼びかけにその場にいるウィーズリーの双子全員が振り返った。
私とシリウスは可笑しくてゲラゲラと笑ってしまう。
「これは何の騒ぎですか!?」
ミネルバが階段から降りてきた。
「まったくこんなことを……ふふっ」
厳しい顔をしようとしていたミネルバの表情が崩れた。
「やり過ぎは禁物ですからね」
可笑しさを嚙み殺して大広間へと入って行くミネルバにウィーズリーの双子たちは顔を見合わせて喜んでいた。その後、フリットウィック教授が声を上げて笑い、スプラウト教授はあらあらと目を丸くしながらクスクス笑って通り過ぎていった。
そして地下牢教室の主はというと一瞬面くらったような顔をしたが、直ぐにいつもの不機嫌そうな表情に戻り、大量のウィーズリーの双子たちの間を――――
「こんばんは、スネイプ教授」
「こんばんは」
「こんばんは」
「こんばんは」
「こんばんは!」
同じ顔に何回も挨拶されながら通り抜けていった。
「よく笑わなかったな。あいつを尊敬する。ぶふっ、く、はははっ」
『ふふふっ』
私たちは「こんばんは」を言う同じ顔の中を笑いながら突っ切って行った。
各テーブル変化の術で盛り上がっているようだ。下級生たちは上級生に自分に変化してくれるようにせがんでいる。
「ユキ先生見て下さい!」
『あははは!』
大量の私がやってきた。
青、紫、緑のそれぞれの色の着物を着た私、忍装束の私、魔女の服の私。
『スリザリン生ね』
「良くお分かりですね!」
ドラコであろう緑色の着物を着た私が驚いた。
『みんな上手に変化出来ているわ』
私は満足げに頷いていたのだが、魔女の服の私のところで視線が止まる。
『魔女の服のあなた……私はもう少し、胸が……胸があるわよ。対象を観察することは大事よ。私はもう少し胸が……』
「あんなもんだろ?」
シリウスが軽くぽーんと言った。
『もう一回り大きいわよっ』
シリウスが嘘はいけない、と諭すような顔をした。
『失礼しちゃうわ。みんな、完璧を目指してね』
「「「「「はーい」」」」」
スリザリン生は帰って行くかと思いきや、魔女服と紫の着物を着た私がこちらへタタッとやってきた。私ではなく、セブのところへ。
「スネイプ教授。魔女服のユキ先生と」
「着物姿のユキ先生」
「「どっちが好みですか?」」
「変化の術で教師を騙した場合――――」
「べ、別に騙しているわけじゃないじゃないですかっ」
魔女服の私が慌てた。
「お前たち、パンジー・パーキンソンとデリラ・ミュレーだな」
セブは当たりを言い当てた。さすが寮監だ。
『着物がパンジーで魔女服がデリラね』
「さすがユキ先生」
「惚れます」
「デリラったらなんで惚れるのよ。じゃなくて、スネイプ教授はどっちのユキ先生が好みですか?」
「馬鹿な遊びは止めて席に戻りたまえ」
「「え~~」」
それでも減点しないところが自寮の生徒への甘さだろう。グリフィンドール生相手だったら確実に100点引いていたと思う。
『?』
帰って行くデリラが戻ってくる。そして私の耳に口を寄せた。
「付き合ったのなら、色々試してみたら良いと思います!」
『!?』
そう言って悪戯っぽく笑って、今度こそデリラは戻って行った。
「あ!俺はあんなに
シリウスが見ている先はグリフィンドール寮のテーブル。ハリーたちだ。
顔ぶれからしてシリウスに変化しているのは栞ちゃんだろう。
「ちょっと指導に行ってくる」
『行かなくていいんじゃない?あんなもんよ』
先ほどの仕返しが出来て喜ばしい。
「そうじゃないとユキが1番知っているはずだが?」
隣の黒い人が怒りのオーラを発した。
シリウスはそんなセブを鼻で笑ってグリフィンドールテーブルへ歩いて行く。
「儂も変化の術を使えばムキムキの体を手に入れられるのかの?」
ダンブーはシリウスの席に着き、杖を振ってテーブルの上を片付けた。
テーブルの上には羊皮紙。手には羽ペン。
「進展は?」
『私たちをネタにしないで下さい』
「ネタとは?」
『っ!』
「ユキ」
何を隠しているのだという目をしたセブに内心うっとなる。印税をもらっている立場。上手くごまかさ―――
「オブリビ『何するのよ!』
私はダンブーの杖腕を思い切り引っ叩いた。
「何という瞬発力と力―――――愛じゃな」
『今のはむしろ金の力よ』
「そういう展開は望んでおらん」
ダンブーが顔を顰めた。
「ええと、続けよう。因みに生々しいことは儂の豊かな想像力に任せておいて宜しい」
『想像しないで』
「結婚の予定は?」
ダンブーは羊皮紙に大きく結婚と書いて、それを四角で囲った。
その前で私はキョトンとしている。私が結婚?
『結婚って私が?』
「そうじゃ。プロポーズがあって、幸せな結婚式じゃ」
『結婚式?私が?』
私は目を瞬いた。全く想像できない。
「おや。ユキは結婚に憧れんのかの?」
『そうね……。考えたことがなかったわ。そもそも、結婚ってなに?戸籍を入れるだけならしてもしなくてもいいでしょう?』
「ふうむ。何と」
ダンブーが唸った。
『あぁ、でも』
ぱっと思い出した。
『ルシウス先輩とナルシッサ先輩の結婚式の写真は素敵だったな。お2人ともとてもお美しかった。それに、背の高ーいウエディングケーキ!』
あれを独り占め出来たらどんなに素敵だろう!
「結婚式は愛に満ちておる。したいと思うならすれば良い。セブルスも許してくれるじゃろう」
「……」
セブは何も言わずにゴブレッドを飲み干した。
「花嫁の父親役は儂に任せておくのじゃ」
『ふふ。そうね。その時が来たらお願いします』
ダンブーに惚気て湖城ホテルの話をしているとセブはいたたまれなさそうに席を立って帰って行った。
このままネタについての話は忘れて欲しいと思う。
***
夜8時。
『はあ。さっき夕食を取ったばかりなのにもう小腹が減るなんて』
自分の食欲に呆れながら玄関ロビーを突っ切っていると、地下牢教室へ続く階段からハリーの足音が聞こえてきた。
階段を駆け上ってきたハリーは前を見ておらず私にぶつかる。
『大丈夫?震えているわ』
「す、すみませんっ」
ハリーは怒りに震えているようだった。
1人にした方が良いかも……。
「スネイプなんて大嫌いだッ」
迷っているとハリーがキツイ叫び声を上げた。
『閉心術の訓練ね』
ハリーはどうにか怒りを抑え込んだらしい、歯を食いしばりながら頷いた。
「スネイプに教える気なんかない。僕をいたぶって楽しんでいるだけだ」
『そう見えないだけで、セブはハリーの事を心配しているのよ』
「心配してくれる人は僕の記憶を見て嘲笑ったりしない!」
一体セブは何をしたのかしら……。
私は溜息を吐き出した。
『前にも言ったけど、シリウスのような気を許している相手から心を閉ざすより、自分の苦手とする人から閉心する方が為になるわ。それは、その、嫌な思いはするけれど……』
「……」
『シリウスとの練習はまだよね?』
「来週です」
『シリウスにも相談してみるといいわ』
「……あの」
『なに?』
「閉心術、見せてくれませんか?」
『私が開心術を閉心術で防ぐところ、ということ?』
「はい。成功状態が全く想像つかなくて……こんなお願い申し訳ないと思うんです。でも、何の手ごたえもないままあの個人授業がずっと続くのかもと思ったら嫌で、嫌で」
『見かけでは何も分からないような気がするけれど』
だけど、ハリーが望むなら見せてあげたら良いかもしれない。
彼のためになるならば頑張ってみようか。
私も久しぶりに開心術を押しのける感覚を確認したい。
『いいわ。スネイプ教授のところへ行きましょう』
私はハリーと地下牢教室へと続く階段を下りて行った。
『そういうわけで、ハリーに閉心術を見せてあげたいの』
「見て何か変わるとは思えんが」
『いいじゃない。本人が望んでいるんだもの』
「……いいだろう。憂いの篩を使うか?」
『いいえ。私が失敗するはずないわ』
「よかろう。座れ」
セブの前に座ると、絶対にこじ開けて開心してやるという意地の悪さが透けて見えた。
「開心 レジリメンス」
いくぞとも何とも言わずに杖が振られた。
ぐんと押し入ってくる感覚を受け止め、押し返す。
「チッ」
セブが舌打ちをした。開心失敗だ。
『見た目には何も変わらないでしょう?』
ハリーに問うと参考にならなかったのだろう、残念そうに肩を落とした。
「再来週の同じ時刻に来い。今よりも少しはましな結果を出せるように努力したまえ。傲慢なお前が努力という言葉を知っているか甚だ疑問だが……」
『要するにセブが言いたいのは期待しているから頑張って。応援しているよ。だって』
睨みつけてくるセブを無視しながらハリーを扉まで送り、外へと送り出す。
開心術か。もう少し練習したいな。
私はセブに向き直った。
『閉心術の練習に付き合ってくれない?』
「君の閉心術には隙がないが」
『隙を作らされる状態を作ったらどうなるかなと思って』
私は2体の影分身を出して、1体に杖を渡した。
「自分に拷問をかける気か?」
『正解』
「止めておけ」
『あなただってこの前ヴォルデモートにそうされたでしょう?練習しておきたい』
くっきり眉間に皺を刻むセブの前に座る。
『時間は10分。折角だから勝ち負けを決めましょうか』
私はニヤリと口角を上げた。負けるつもりは毛頭ない。
『何年か前、アーモンドの花を見に行ったのを覚えている?』
「あぁ」
『じゃあ、その記憶を抜き出したらあなたの勝ち。もし抜き出せなければ私の勝ちよ。負けた方は勝った方の言う事を何でも1つ聞く』
「何でもか?」
セブはやる気になったようだ。
『えぇ。あなたに命令できるのは愉快だわ』
「10分後には自分の言葉を後悔しているであろう」
セブは私に杖を向け、影分身も私に杖を向けた。
「始め!」
審判役の影分身が砂時計をひっくり返した。
影分身が杖を振る。
「クルーシオっ」
耐え難い苦痛が全身に走った。奥歯を噛み締めて耐える。
一瞬動揺を見せたセブだが、直ぐに平静な顔に戻り、私に向けて杖を振った。
「開心 レジリメンス」
ぐっと押し入ってくる感覚は先程より強い。セブが手加減していないことに私は嬉しくなっていた。
『くっ、うっ……』
苦痛に負けそうになる感覚は久しぶりだ。だが、今回は時間制限があるだけ余裕がある。私は杖を持つ影分身を見上げた。
『この程度?』
不機嫌そうに目を細めた影分身は一旦術を止め、再度クルーシオを唱えた。先程を上回る苦痛に私は仰け反り低く呻く。その時、強く私の心の中にセブが侵入してきた。完全に押し返す力はなく、私は代わりの記憶を咄嗟に探した。
幾重にも続く山々には満開の桜の花が咲いていた。黒髪黒目の少女の隣には山吹色の髪の少年がいる。キラキラした情熱的な瞳をユキに向けていた。
「綺麗だ」
『視界がピンクだな』
「桜じゃなくて、俺は、その……」
『?』
「なんでもねぇよ」
一陣の風が吹き上げ、2人を花吹雪が包む。
『くっ』
やられっぱなしになるものか。私は心を覗こうとする力を押し返した。そして逆にセブの心に潜り込む。セブは強い抵抗を見せた。私は幻術を使ってセブを暗闇へと突き落とす。
一瞬生じた隙を見逃さなかった。
「ユキ」
病院の一室、セブルスは静かな声で名を呼びながら寝ているユキの黒髪をそっと長い指で梳く。花瓶には色とりどりのチューリップが飾られていた。
「起きろよっ……頼むから……」
セブルスはユキの手を両手で包み、そこに額をあてて声を押し殺して泣く。
「僕はどんな手を使ってでも強くなる。君を守れるくらい強くなるから、だから目を覚ましてくれ」
強い力で弾き飛ばされた。
「止め!」
影分身の強い声が部屋に響く。
苦痛から解放された私は両手を口に当ててキラキラとした目で、ぶすっとして顔に赤みを差すセブを見ていた。
『私が意識を失って入院していた学生時代、お見舞いに来てくれていたのねっ』
しかもあんなに私を心配してくれて、泣いてくれて、目覚めるように強く願ってくれて!
『ふふふ』
顔がにやけていくのを止められない。
『嬉しいわ』
「……」
『そして私の勝ちね』
セブはピクリと頬を痙攣させた。
『約束は約束よ……おっと』
強くクルーシオを掛け過ぎて体に残っていたらしい。椅子から立ち上がった私はよろけてガクッと床に片膝をついた。
「自分相手に加減を知らんのか?」
セブが支えてくれる。
『本気でやらなければ意味がないでしょう?』
ぐっと足に力を入れて立ち上がる。私は震えも感じず、いつも通りの私に戻っていた。
『練習しないと。少し心を覗かれてしまったもの。嘘を相手に見せられるくらいにしないとね』
「……ユキ」
『なあに?』
「君に真実薬は効くのか?」
『当り前じゃない』
「当たり前ではない。抵抗できる者もいる」
『……』
「ほう」
今までの私を思い出しているらしく、恋人に向けているとは思えない凶悪な顔でセブは私を見下ろしている。
「……よかろう。ポッターのついでだ。君の閉心術の訓練に付き合って進ぜよう」
『ひっ。結構よ!』
私は体の前で手をブンブン振った。
何をされるか分かったもんじゃないっ。
『それより、私の言うこと1つ聞くのよ。男に二言があってはダメだからね』
苦々し気なセブの前で私はニンマリする。
『そんなに警戒しないでよ。あなたの好みが知りたいだけ』
何色の下着が良い?どちらのドレスが好き?着物と魔女の服どっちが好き?
どれもこれもはぐらかされてきた。
『答えてくれないなら、真実薬を飲んでもらうわ』
「貴重な真実薬を無駄にするな」
『じゃあ素直に答えることね。さて、まずは好きな色からよ』
「馬鹿みたいに単純な質問に答えるのは退屈だ」
『むぅ』
「さっさと帰れ」
ぐーきゅるるるる
『……』
な、なんてタイミングで!
「くっ」
セブが噴き出した。
『セブ!今日の所は帰るけど、言うこと1つ聞く、の話はまだ有効だからねっ』
「先ほどの質問よりましな願いを考えておくのですな」
まったく!なんで勝負に負けた方が偉そうなのよ!
セブが驚いたり怯んだりするようなお願いをしてやるんだから。覚えていなさいよっ。
私はプンプン怒りながらセブの部屋から出て行こうとドアの取っ手に手を伸ばす。
「ユキ」
『なあに?』
振り向いたセブの顔からは何を考えているか分からなかった。
「君の記憶で見たのはヤマブキだな」
『そうよ』
「……」
『?』
たっぷりと何も言わない時間があってからセブが口を開く。
「君たちは……良き友人だったのだな」
『そうだね。私は……いつも……彼に冷たかった……けど』
俺たちは友人だ、友情を温めようというヤマブキに私はいつもそっけなかった。そして最後の最後まで彼の気持ちに気づけなかった。
「君が暗部にいた時、君の傍にはヤマブキがいた」
『うん』
「良かったな」
『うん』
セブはホッとした顔をしていた。
何故だろう?
私は目を瞬いてから『おやすみ』を言い、自分の部屋へと帰って行った。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
学生時代シリウスの股間を蹴り上げる話→2. 蝙蝠の友達
学生時代のお見舞いの話→27. 知らない時間
アーモンドの花の話→夜の花見