第6章 探す碧燕
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14.煌めく夜 前編
厳しいアンブリッジの統制のせいで生徒たちは不満をため込んでおり、ホグワーツにはどこかイライラとした雰囲気が流れていた。
しかし、ハロウィンまであと1週間だ。
生徒たちは日に日に装飾が施されていく、ホグワーツでも一番と言っても良いお祭りに心躍らせている。
『ドラコ』
大広間に朝食を取りに来た私は弟子の名前を呼んだ。明らかにギクリとした顔をしたドラコだが、師匠の私から逃げることは出来ない。素直にこちらへとやってきた。
「あの、なんでしょうか?」
『 1週間後は何の日か分かっていますか?』
「ハロウィンです」
『違います。週に1度の鍛錬の日です』
ピシャリと言うとドラコは絶望と言った顔で顎が外れそうなほど口をあんぐりと開けた。
「そんなあ!ハロウィンの日まで鍛錬だなんてそれはないですよ!」
『週に1度しかない鍛錬をスキップするなんて許されないわよ。強さは1日にしてならず。だけど』
私はにっこりと笑う。
『ハロウィンの日、監督生は羽目を外し過ぎる生徒がいないか見回りする仕事があるでしょう』
「ということは!」
『期待した目で見ないで頂戴。さっきも言った通りスキップしません。鍛錬は早朝に行います』
「そう……ちょう……」
ドラコがガクリと近くのテーブルに手をついた。
「師匠は鬼だ」
『何か言ったかな?ん??』
「いいえ!頑張ります!」
顔を覗き込む私にドラコがブンブンと顔を横に振った。分かれば宜しい。
『ところで、スリザリンはアンブリッジ教授にクィディッチチーム再結成の申請を出したの?』
「はい。早々に許可が下りましたよ」
『それは良かった。あなたには期待しているのよ。是非とも今年こそは優勝杯をスリザリンにもたらしてほしい。スネイプ教授の部屋に優勝杯を飾ってあげて』
「はい。僕たちチームも今年こそはと意気込んでいるんです。グリフィンドールはまだ再結成の許可が下りていない。あいつら練習不足で自滅する可能性っふがっ!」
私はドラコの鼻をキュッと摘まんだ。
『ドラコ・マルフォイ!忍の三病とは?』
「うっ……恐怖を抱くべからず、あれこれ思い悩むべからず、敵を侮るべからず、です」
『そうよね。それなのに今、あなたは敵を侮った。喝よ!喝!!』
「す、すみませんっ」
『そうだ。私が学生の時にビーターだったのは知っているわよね?特別にレッスンをつけてあげましょうか?』
「ひっ。結構です」
『あ!危ないっ』
反転してわあ!と逃げ出そうとしたドラコは数歩進んだところでドンと黒い人物にぶつかった。セブだ。
「またやっているのか?」
セブが震えるドラコに視線をくれて言った。
『あなたが聞いたら賛成してくれると思うけど』
「ドラコ、何を話していた」
「スネイプ教授……ええっと……その、ユキ先生がクィディッチの稽古もつけてやるっていうから逃げ出して」
「それは……ありがたい話ではないか」
「そ、そんなこと言わないで下さいよ!この人、すっごく厳しいんですよ!!」
『師匠を指さしてこの人とはいい度胸だこと』
「わわっ。すみません!」
ドラコがセブの後ろに隠れた。そしてチラっと顔を出してブンブンブンブンと音が出そうなほど首を振っている。
そーんなに怖がらなくてもいいじゃない。
だが、体を壊しては元も子もない。
私はドラコに分かったから出てきなさい。と手招きする。
『あなたがいつもクィディッチ練習を頑張っているのは知っているわ。次の試合、楽しみにして、期待してる。他の3寮ぶっ潰しちゃいなさい!』
「ユキ、教員として今の発言はどうかと思うが?」
『スネイプ寮監だってそうお思いでしょう?』
セブは薄い唇の端をニヤリと引き上げた。
誰だって自分の出身寮には思い入れが深いのだ。
「忍術の修行の方もドラコがクィディッチに支障がないようにしてくれ」
『了解』
マントを翻して去っていくセブからクルっとドラコの方を向く。
『もう1つ話があるの』
「な、なんでしょう」
『そんなに警戒しないでよ。これからの事をちょっと話しておこうと思ってね』
私はドラコに巻物を渡した。
『ここには自分で出来る鍛錬方法が計画立てて書いてあるわ。もし私が何かの事情でいなくなったらこれを見ながら自分で練習してね』
「何かの事情って何ですか?」
『今はほら、色々あるから……』
「魔法省のことなら大丈夫ですよ。ユキ先生には父上がついています!」
『マルフォイ家が力になれない時もあるのよ』
「そんな……」
私の未来を想像したのかショックを受けた表情をするドラコに私は微笑かける。
『何かあっても直ぐに戻ってくるから心配しないで。むしろ、自分の身を心配するのね。私がいない間に少しでも鍛錬をサボってご覧なさい。きつーい罰を与えますからね』
にこーっと黒い笑みを浮かべる私にドラコは慄いて仰け反って1歩後ろに下がった。脅しが効いているようだから私がいなくなっても1人で頑張ってくれるだろう。
私の身に何もないのが1番良いのだけどね……。
そうは言っていられなくなってきた。
フクロウ便が朝食を食べている私の机に新聞を落とす。
――――――――
<スパイ容疑を払拭出来ないホグワーツ忍術学 ユキ・雪野教授>
※新たな科目としてO.W.L.試験に加わった忍術学。試験科目として疑問の声があがる※
――――独占スクープ!雪野教授の犯した重罪とは?
――――――――
『いやだわ。すっかり有名人ね……』
私は溜息をついた。
魔法省の手がそこまで私に迫っている。
ダンブーが私のために頑張ってくれていることは知っているが……。
「ェヘン、ェヘン」
『……』
「ェヘン、ェヘン」
『……』
「ェヘンッ!雪野教授、おはようございます」
『あぁ、アンブリッジ教授。おはようございます』
無視してたのにめげないな!
私は名前を呼ばれて仕方なく挨拶を返した。アンブリッジは私が持っている新聞に視線を向け、よく見せるニターっとした意地の悪い笑みを浮かべた。
「査察では見破れなかった顔がおありのようね」
『根も葉もない話です。日刊預言者新聞という大手の新聞が困ったものです』
「火のない所に煙は立たぬといいますわよ?」
『っ』
私は言い返そうとして止めた。言い返したところで自分の首を絞めるだけだ。
アンブリッジは私の様子を見て満足そうに、またあのニターっとした笑みを浮かべて自分の席へ戻って行った。
『偉いわ。私、偉いわ。よーく我慢できたこと』
「ぶつぶつぶつぶつ気持ち悪い。その口をパンで塞げ」
『ぐふっ』
セブが私の口に1本丸まるのフランスパンを突っ込んだ。レディに何てことを!
それでもバターがたっぷりのフランスパンは美味しくてモグモグ食べていると不思議なもので不機嫌な気持ちもどこかへ飛んでしまう。
お腹が減っていたからアンブリッジごときにカリカリしてしまったのかしらと考えていると、またアンブリッジがェヘンェヘンを始めた。今度は全校生徒に向けて。
「どうされたのかな、アンブリッジ教授」
珍しくダンブーが登場した。職員テーブルのあるひな壇にやってきたダンブーは唇を捲りあがらせて非常に不愉快そうにアンブリッジを見る。
「また教育令を発令すると?それとも新しい規則かな?それなら止めて下され。規則が増え過ぎてもう生徒も覚えきれんじゃろうて」
「どれも生徒の安心安全な学校生活を守る大事な規則ばかりですわ。でも、今は違います。生徒たちとハロウィンの注意事項を確認したいのです」
アンブリッジはダンブーが何か言おうとするのより先にソノーラスを唱えて喉に杖を当てた。
「みなさん、おはようございます」
アンブリッジはバラバラでやる気のない生徒の「おはようございます」を聞いてから言葉を続ける。
「来週はハロウィンがあります。楽しみですね。ですが、何事もやり過ぎはいけませんよ。過度の悪戯は感心しません。節度を持って、お行儀よく。ハロウィンの日はゾンコの店の悪戯グッズの使用は禁止」
あちこちから不満の声が噴出した。
「トリックを相手が選んだらくすぐってあげて!トリートを選んだら美味しいお菓子をお友達にあげましょう。みんな、ハロウィンをお楽しみにね」
アンブリッジが話し終わった途端にあちこちで不満げに生徒が話を始める。ゾンコの品が使えないハロウィンなんてハロウィンじゃない。私も心の中で不満を爆発させていると、大魔法使いがドスドスとひな壇の中心に歩いて行った。
「静まれーーーーーーい」
ソノーラスで言われたダンブーの大声には生徒があちこちで耳を塞ぐほどだ。全員がダンブーに注目した。
ダンブーはぐるりと皆を見渡してニーっとこれから悪戯をするぞと言ったような笑みを浮かべて口を開く。
「今年のハロウィンはいつもと違ったやり方をしたい。何をするかというと、それは!」
ダンブーが私を振り返った。
『?』
「ユキ先生と」
バッ!
ダンブーがグリフィンドール生の中にいたシリウスを掌で差した。
「シリウス先生とで取り仕切ってもらい、みんながワクワクして、この学校生活の思い出になるようなハロウィンにしてもらう」
『え?ええっ!?』
ドンと大砲が鳴ったような音で大広間が沸いた。
私は突然指名された驚きの後、さっと身を前に乗り出して横を見、アンブリッジの様子を窺った。
ふふーーん。いい顔してくれんじゃない。
怒りに震えてプルプルとなっているアンブリッジの顔が見られただけで私のハロウィンは既に成功だ。
私はさっきのアンブリッジのようにニターっとした笑みを浮かべたのだった。
「いつもと違うハロウィンか。思い切り派手にしたいな」
シリウスと教室の片づけをしながら話す。
『カエルの聖歌隊の演奏が聴きたいな』
「ハロウィンらしいおどろおどろしい歌詞の曲を頼もう。初めは聖歌隊の演奏で厳かに、そしてどんどん弾けさせる」
『たしか生徒の中でバンドを組んでいた子がいたわ。アンブリッジに解散を命じられて再結成が叶わなかったって』
「是非ハロウィンで披露してもらおう。その為の練習なら咎められない」
『音楽の方は私から頼んでおくわ。あとは食事ね!』
「そうだな……。バンドがあるなら踊りやすくした方がいい。だが、カエルの聖歌隊は座ってゆっくり聞きたい。その願いを叶えるには……床にクッション椅子を並べるのはどうだろう?」
『新しいスタイルでいいと思う。食事はバイキング形式で壁に寄せて、みんなでリラックスして楽しむの。素敵だわ』
結局椅子の数も考えて、バラバラな種類の椅子を用意して大広間にU字を描くように配置することにした。いつも食事で使っている長椅子、クッション椅子、職員室に置いてあるばらばらな種類のソファー全部。お行儀悪く床に座る子がいたっていい。
「大広間は春のように暖かくしよう」
『バタービールを切らさないように購入しなくちゃ』
「本物の蝙蝠を天井に飛ばして」
「カボチャお化けも沢山用意しないとね」
ハロウィンが楽しみ!
私とシリウスは準備のために忙しく、しかし楽しく走り回ったのだった。
***
ハロウィンがやってきた。
私とシリウスは閉じ切った大広間の中で満足げに頷いていた。
偽物の夜空には蝋燭が浮かび、蝙蝠が飛び回っている。壁は骸骨やお化けで飾られ、ところどころの椅子の間にはカボチャお化けが置かれている。
心地よい温度の部屋にはバラバラな椅子がU字型に並んでおり、職員テーブルがあるひな壇はテーブルが取り除かれて舞台へと変わっていた。
そしてなんと、アンブリッジは魔法省の仕事で今夜ホグワーツにいない。水を差す人もおらず、のびのび出来る。
『みんないらっしゃい』
時間になり扉を開けるとカエルの聖歌隊のメンバーが待っていた。
「わあっ凄いや!」
「おもしろい!」
「テンション上がってきた!」
上々の反応に私とシリウスはニッコリ。
カエルの聖歌隊がスタンバイし、私とシリウスは観音開きの扉を開け放つ。
『「ハッピー・ハロウィーン!!」』
期待に満ちた顔の生徒たちが興奮気味に中に入ってきた。
「すごい!ホグワーツってすごい!」
1年生がワイワイ話しながら私の前を通り過ぎる。
規則でぎゅうぎゅうに縛られた日常生活は本来のホグワーツではない。もっと自由で、明るくて、ヘンテコな日常なのだ。
「ふぉっ、ふぉっ、素晴らしいのう」
『生徒が喜んでくれてなによりです』
「うむうむ。寮の垣根を越えて仲良くするさまを見られて儂は嬉しい」
私とシリウスはダンブーの言葉に目を瞬いて大広間を見渡した。
生徒は寮を入り乱れて思い思いの場所に座っていた。テーブルを取り払ったことで、図らずもこういう結果を生んだ。
グリフィンドール生の隣にスリザリンの生徒が座っていて話をしている。
私はニッコリと4色の色が混ざった大広間を見た。
楽しそうに瞳を輝かせる生徒たち
フリットウィック教授の指揮でカエルの聖歌隊は高らかに歌う
大鍋がぐつぐつ煮え、蝙蝠が空を飛ぶ あなたの想いはどこに~~~♪
大きな拍手を受けて壇上から降りてきたカエルの聖歌隊メンバーも他の生徒の中に混じる。
食事をしながら友達とのお喋りを楽しむこのひと時。
先生たちもハロウィンを楽しんでいるようで1箇所に固まって大人だけの会話に花を咲かせていた。
「はあぁ。キャンディ・ブルートパーズの新刊がでないのよ。作者の方、大丈夫かしら?」
トレローニー教授が首を振りながら残念そうに話している。
ダンブーも執筆の余裕がないのね。
キャンディ・ブルートパーズことアルバス・ダンブルドアは恋愛小説家として執筆活動を行っていた。
その小説にはユキというヒロインにセブという王様。それにクィリナスであろう騎士クレール、それにロックハートやリーマスをモデルにしたであろう登場人物も出ている。小説は人気でソロモン書房文学新人賞も受賞している。
そんな大魔法使いも久しぶりな休暇を楽しんでいるらしくご機嫌にジョークを飛ばしていた。
『羽目を外す生徒がいないか見回ってくるわ』
「俺も行く」
シリウスと二手に分かれて見回りだ。
本当は部屋の片隅でソファーに足を組んで座り、手持ち無沙汰にファイアウイスキーを傾けているセブのところに行きたかったのだが、今日は責任者でもある。私は羽目の外し過ぎる生徒、特にウィーズリーの双子などが悪さをしていないか見に行くことにした。
笑いながら床に転がっている生徒を踏まないように気を付けて歩いていった私はあちらこちらからトリック オア トリートの声を掛けられて飴を渡していく。
「ユキ先生!トリック オア トリート!」
気がつけばハリーたち仲良し4人組のところまで歩いて来ていた。
『飴をどうぞ』
「黒い飴だ」
ロンが不気味そうに言った。
『黒い砂糖で作られた飴なの。喉にもいいわ』
「ハロウィンにぴったりですね」とハーマイオニー。
「私、これ好きなんです」
栞ちゃんが包み紙をほどいて飴を口に入れた。
「今日のハロウィン凄く楽しいよ」
『ありがとう、ハリー。でも、お祭りはこれからよ。バンドを組んでいるメンバーが演奏してくれる。きっと踊りたくなるわ』
「ユキ先生も踊る?」
『いえ、ロン。私は……遠慮しとく。見回りがあるしね』
去年のダンスパーティーはこなしたが、もとよりあまりリズム感が良い方ではない。
「みんな良い子にしてるから」
「見回りなんて必要ないんじゃないですか?」
明るい声がかけられたと思えばフレッドとジョージだ。
「「ユキ先生、トリック オア トリート!」」
『ふふ。トリートよ。飴を……』
え?
えええ!?
ない。
飴が切れちゃっている!!
私は袂に手を突っ込んだままサーっと青くなっていた。
『だ、誰か私にお菓子貸してくれない?』
慌ててハリーたちに話しかける私の横でウィーズリーの双子はパッと顔を見合わせ、そしてピカッとした太陽のような笑顔を浮かべた。
「なんてこった!あのユキ先生が我らの餌食になるとは」
「諦めましょう、ユキ先生。さあ、お菓子と悪戯どちらを選びます?」
『ひっ』
私はずいっとフレッドとジョージに近づかれて仰け反った。
寄りによってこの2人のところで飴が切れるなんて!!
『ア、アンブリッジ教授が言っていたはず。ゾンコの品は禁止よ』
「言葉の網を潜り抜けるのは得意でして」
「それに今夜アンブリッジはいないですしね。さあ、兄弟。あれを出してくれ」
ジョージが興奮を抑えるように手を擦り合わせていると、フレッドが持っていた鞄の中から小瓶を取り出した。
あぁ、さようなら、楽しかったハロウィン。
タプタプと水色の液体の入った瓶をフレッドが振りながら私に差し出した。
「飲むのは一口だけ」
「じゃなきゃとんでもないことになりますから」
「「さあ」」と言われた私の周りには面白そうなことが始まりそうだと生徒が集まってきていた。
に、逃げられない。
私は不安を胸いっぱいにしながら小瓶を受け取る。
ウィーズリーの双子が両手を天井に向けて広げた。
「「さあ!ショーーーーータイムッ!!」」
興奮した生徒たちが手を叩いたり口笛を吹いたりした。
GO,GOという声に押されながら私はひと口小瓶の中の水色の液体を飲む。
ゴクリ
変化は直ぐに感じられた。
縮んでる!?
私の体はみるみると縮んでいって周りのみんなよりもずっとずっと小さくなっていく。
手を見れば肌が若返り子供のようにぷっくりとした手になった。
「おやおや大変だ!ユキ先生ったらどのくらい飲んだんです?」
「先生ったらひと口が大きすぎますよ」
呑気な双子の前で私は慌てていた。
『ちょ、みんなこっち見ないで!服がッ』
幼くなっていくのは体だけで服は関係ない。あっという間に今着ている服はぶかぶかになって脱げてしまう。
ハーマイオニー、栞ちゃんをはじめ、女の子たちが私の周りに立って外から見えないように壁を作ってくれた。
ようやく私の若返りが止まる。
なんて高度な魔法薬を!これはセブが開発改良した薬だわ!それを調合出来るなんて優秀、と感心している場合ではない!
あたふたしながら私は着物に縮小呪文をかけて急いで着替える。
『フレッド、ジョージ、覚えておきなさいよ!』
「僕たちは可愛いハロウィンの悪戯をしただけです」
「可愛いユキ先生の姿が見られて最高ですよ」
「「そして薬の調合が成功していて良かった!」」
『えぇっ!?成功って!まったく!』
怒る私の周りには生徒が取り囲んでいた。見下げられるのは変な感じだ。
しかし!私には忍術があるのでこれしきのこと何てことない。
『変化の』
「「ちょっと待った!」」
『わあ!』
フレッドとジョージが待ったをかけた。
「変化で大人に戻ったんじゃあ悪戯した意味がない。せめてパーティーの間だけでもこのままでいて下さいよ」
「それとも、あれあれ?もしやユキ先生は更なる悪戯をご所望ですか?」
更なる悪戯?冗談じゃない!
『私は見回りが―――』
「フレッドとジョージの言う通り変化で戻っちゃうなんてズルいよ」
ハリーがしゃがんで私を興味深そうに見ながらニッコリ。
「本に出てきた座敷童みたい」
栞ちゃんが言った。
「師匠が変化の術で変身を解いちゃうなら僕たち悪い子になっちゃうかもなー」
『ジョージ!私を脅す気?』
「脅すだなんて変な話。だって僕たちが悪い子になっちゃうのとユキ先生はなーんにも関係がないでしょう?」
『悪乗りしてアンブリッジ教授の怒りに触れたらどうするのよ』
「「でも、それは師匠には関係ない!」」
私は大きくため息をついた。この子たちは自分たちが私がアンブリッジから守りたい“大切な生徒”だと分かっているのだ。
飴を切らしてトリックを選んだのが運のつきか……。
私はギリギリ歯ぎしりをしながら『分かった』と言った。
ウィーズリーの双子の目がキラリと光って周りの生徒たちも笑ったり歓声を上げたり。
『ただし!目に余る行動をして御覧なさい。私が直々に罰則を言い渡すわ』
「「おおおおぉ怖い」」
フレッドとジョージは自分の体を抱きながら、さも怖そうに体を摩ってみせ、声を上げた。
この体だと声はいつもより高いし、身長はみんなの太ももくらい。怒っても迫力に欠けるらしい。
「この人だかりはなんだ?」
シリウスが姿を現した。
「ん?この幼女は……あ!ああ!アハハハハハ」
『指を指して笑わないでよ!』
私が誰だか分かったシリウスがゲラゲラと笑いだした。
「誰の悪戯に引っかかったんだ?」
「「僕たちです」」
「最高だ」
『きゃあっ』
ウィーズリーの双子にウィンクしたシリウスは私を抱いてグーンと抱き上げた。急に足が空中に浮いて、心臓がキュッと締まる。
『下ろしてよ!』
「こんなに小さかったら踏まれるぞ?みんな!今からバンドの演奏が始まる!叫んで踊りまくれ!」
わあああ!!と歓声が沸き、ジャーンとギターがかき鳴らされる。
アンブリッジに活動を禁止されていたバンドメンバーは張り切っていて、1曲目から全力で声を張り上げ歌い、ヘッドバンドしながらドラムを叩く。
生徒たちは大広間の真ん中の空間に移動していった。
ノリの良い曲に合わせて激しく踊る生徒の中には大人の状態でも混ざれなかっただろう。若さとパワーで溢れている。
声を上げてはしゃぐ生徒たちの様子に自然と笑みを溢しているとハリーと栞ちゃんの姿が目に留まった。日頃の鬱憤を晴らすように激しく踊っている。
『生徒たちみんな楽しそう』
私はズーっと大広間を見渡した。騒ぐのが苦手な子たちは好きな椅子に座り、料理やお菓子を食べながらバタービールを飲んでいる。
「ここは大丈夫そうだから俺たちも少し休憩しよう」
シリウスが歩き出した。
『下ろして』
「ははっ、ダメだ」
『なんでよっ』
「決まっているだろ?スネイプの反応が見たいからさ」
『悪趣味!下ろしなさいっ』
「痛って!」
シリウスの腕の中で暴れるものの大人と子供の体格差と力に私は抑え込まれてしまいながら教員たちが集まる場へとやってきてしまった。
「シリウス。その腕に抱いている子供は……」
「はい、ダンブルドア校長。ウィーズリーの双子にトリックされたユキですよ」
「あらまあ。可愛らしいわ!」
ミネルバが手を打った。
「こっちに来てよく顔を見せてちょうだい。おいでなさい。新しいハロウィンのお菓子が出てきたところよ」
『はい!ミネルバ。下ろして、シリウス』
「行かせない。ここにいろ。お菓子は俺の膝の上で食べればいい。パーティーが終わるまで子守を引き受けてやるから」
『見た目は子供だけど、頭は大人のままよっ。結構です!』
「そう言うなって」
シリウスは私を後ろから抱きながら深いソファーに座った。
「子供ってあったかいな」
『私で暖を取らないで』
「こんな子供に睨まれても怖くない」
『もういい!フレッドとジョージには悪いけど変化で大人に戻らせてもらう!』
「俺の膝の上でか?」
『まずは私を離しなさい!ってダンブルドア校長はさっきから何を書いているんです!?』
「ちょっとした覚書じゃ。気にするでない。それよりもっと、もっとじゃ!」
『あ!もしやっ!』
キャンディ・ブルートパーズの小説のネタにされる!
「儂のアレを口にするのはユキの為にもならんぞ?うひょひょ」
『くっ』
私は口に出しそうになった言葉を飲み込んだ。
ダンブーがキャンディ・ブルートパーズと知った時、私たちはいくつかのうすら暗い取引をしたのだ。部屋にキッチンを作ってもらったり、あとは印税の数パーセントも貰っている。
印税をもらえなくなるのは……いやだ。
私とダンブーが黙ってお互いを牽制し合っていると私の体に影が差した。
「それを離せ、ブラック」
「お断りだ」
シリウスは私を更にギュッと抱きしめた。
『痛っ』
「わ、悪い!」
「なわけないだろう!忍者のユキ先生があれくらいで声を上げるものですか!」
私は緩んだシリウスの腕から抜け出してセブのマントの中に入った。
ほう、マントの中はこうなっていたのね。内ポケットが沢山ある。
「じゃれつくな」
セブが私のお腹に手を回し、持ち上げた。
『不安定!』
腕一本で支えられているため不安定でお腹が腕に当たって苦しい。
「セブルス、子供の抱き方も知らないんですか?」
呆れた声でミネルバが近づいてきて私の体を抱き上げた。
「腕を出して。こうお尻の所で支えて反対の手は背中に回すんです。こういう風に」
これは……恥ずかしい。
私たちは向かい合わせでぴったりとくっついていた。先生たちは普段のセブの姿からは想像できない子守の様子に珍しいものが見られたと楽しそうに微笑んでいる。
セブは居たたまれなくなったらしい。私を床に下ろした。
ハロウィンのお菓子を食べながら先生たちと談笑する。
『そろそろもう一度見回りに行かないと。激しく踊り過ぎて何かトラブルが起こるかも』
顔を向ければバンドのボーカルがステージから観客の中に飛び込んで頭上に持ち上げられながら運ばれていっているところ。
「怪我人を出したら許しませんよ?」
『はい、マダム・ポンフリー。行こう、シリウス。ぐふっ』
歩き出そうとした私の首が締まる。セブが私の後ろ襟を掴んだからだ。
「その姿でいくのかね。お前なら忍の術で大人になれるはずだ」
『フレッドとジョージにパーティーが終わるまでこの姿でいると約束したのよ』
「くだらん」
『約束を破って惨事になっても大変だし……私はこのままで。トラブルがあっても私の事だから上手いこと対応できるわ』
「自惚れだな」
フンと鼻で私を笑うセブはミネルバの隣のソファーを指し示す。
「座っていろ。見回りは我輩がいく」
『いいの!?ありがとう!』
セブはヒューヒューと冷やかしの口笛を飛ばすダンブーに小さく舌打ちしてから群衆の中へと入って行った。
「トリック オア トリート……あいつへの悪戯でバンドボーカルのように生徒たちに頭上を運ばせたらどうなるだろう。あたふた慌てふためく様が目に浮かぶ」
『バカげた考えは捨てて』
「ハハッ。みんなでやれば怖くない、だ!」
『ちょっと!』
笑いながらシリウスは踊っている生徒たちの中へと消えていった。
『本気かウソか分からない冗談は止めて欲しいわよ』
プリプリ怒っていると、
「もう子供じゃないんですから大丈夫ですよ。こっちに座ってケーキでもお食べなさい」
とミネルバがお皿に乗ったカボチャのケーキを差し出してくれる。
甘い、甘い、カボチャのケーキ
怪しく光るランタン
響く歌声に踊る生徒
ハロウィンの夜は更けていった―――――