第1章 優しき蝙蝠
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
16.禁じられた森
ハリーが記録的な速さでスニッチを捕まえた試合のあと、禁じられた森でスネイプはクィレルと会っていた。
風が木々を揺らす音が大きくハリーは二人の会話を聞くために耳をそばだてている。
「……なんで、こんな場所で、セブルス、き、君に会わなくちゃいけないんだ」
「生徒諸君に“賢者の石”のことを知られてはまずいのでね」
スネイプの声は氷のようだった。
「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もう分かったのかね」
「で、でもセブルス……私には……ど、どういうことか」
「我輩が何を言いたいか、分かっているはずだ」
フクロウが大きくホーと鳴いたのでハリーは木から落ちそうになった。どうにかバランスをとり次の言葉を待つ。
「……怪しげなまやかしについて聞かせて頂けますかな?」
「わ、私は、な、何も……」
ひときわ大きな風が吹き木々がザアザアと音を立てて揺れる。ハリーは会話をよく聞こうと少し身を乗り出した。
「……Ms.雪野……呪い……指輪……贈った……」
「なぜ……君が……んだ?彼女は……た……のか?」
「クィレル、雪野は……ない。我輩が……常に側に……」
呪いの指輪!?……聞こえない、もっと近くに。
ハリーは危険を承知で木から慎重に下り身を隠す。
今にも呪いの掛け合いを始めそうな二人の姿が木陰の間から見える。
「雪野に近づくな。彼女は渡さない。この件も含めて、近々またお話することになりますな。もう一度よく考えてどちらに忠誠を尽くすか決めておいて頂こう」
マントをかぶり大股で立ち去っていくスネイプ。
暗くなりかかっていたが、ハリーは苦々しげな表情を浮かべ立ち尽くすクィレルを見ることができた。
***
クィディッチの試合から数日後、私は廊下でハリーに声をかけられた。
人気のない廊下まで手を引っ張られて連れて行かれ、人目を気にするようにハリーが話し出す。
「禁じられた森の近くでスネイプが“賢者の石”のことでクィレルを脅してたんだ」
『脅す?』
生徒の口から出た物騒な言葉に小さく眉を潜める。
「スネイプは賢者の石を狙っていて、石を守る魔法を破る方法を探っているんだと思う。しかもハグリッドのフラッフィー、三頭犬だよ、それを出し抜く方法と、クィレルの“怪しげなまやかし”以外、分かってしまっている様子だったんだ」
賢者の石を守るために何重にも仕掛けられているらしい魔法。クィレル教授に関する有益な情報だが……
『ハリー、二人はあなたがいることに気付かなかったのよね?』
「大丈夫だよ。僕はすごく上手くやったと思うよ。忍みたいに!それから、もう一つ大事なこと。スネイプが狙っているのは賢者の石だけじゃない。ユキ先生も狙われている」
『どういうこと?』
「よく聞こえなかったけど……先生、最近スネイプから指輪を贈られなかった?」
『いいえ。貰ってないわ』
すぐにクィレル教授からのクリスマスプレゼントを思い出す。
返事を聞いたハリーは息を吐いてニコリと笑った。
「よかった。スネイプはユキ先生を自分の物にする呪い。ハーマイオニーが言うには魅惑の呪文をかけた指輪を贈るつもりなんだって言ってた。絶対に受け取らないでね。僕、この話を聞いたとき本当にゾッとしたよ」
『教えてくれてありがとう。でも、賢者の石について調べるのはおしまいにして。おかしな動きがないか私が影分身で見張っておくから、あなたたちは安心してちょうだい。危険だからこの件には関わらないと約束して』
「……わかった。スネイプには気をつけてね。何か変わったことがあったら先生も僕に教えて。僕も偶然何か分かったら教えるから。それじゃあ、おやすみなさい!」
『おやすみなさい』
走り去るハリーの後ろ姿を見送る。
『はぁ……偶然って大丈夫かなぁ』
いまだに賢者の石について調べていた事に驚き、危険な立ち聞きをしていたことに肝が冷えた。
スネイプ教授について随分と誤解があるようだがクィレル教授がどのような動きをしているか知ることができたのは大きかった。ハリーたちが危険な目に合わないためにも本腰を入れてクィレル教授を見張るべきかも知れない。
『影分身』
ポンっと音を立てて影分身が現れる。
『クィリナス・クィレルを見張って』
影分身は頷き走っていく。
スネイプ教授についての誤解を解いたほうがいいのかな?
そうは思ったがスネイプ教授を怪しんでいればハリー達は危険なクィレル教授に近づかずに済むはずだ。
損な役回り、ごめんなさい。
私は暗い廊下で一人頭を下げた。
***
夜11時、禁じられた森のはずれにいくつかの人影がランプの灯りで照らされている。
夜中に城内をうろついて処罰を受ける生徒たち。
ハリーはフィルチから聞かされた昔の罰則内容に恐ろしい気持ちになっていたが、行く手にハグリッドの姿を見つけてホッとする。その表情を読んだフィルチは意地の悪い顔をした。
「君達がこれから行くのは森の中だ。全員無事で戻ってこられるかどうか」
「森の中だって!?そんな所に行けないよ。狼男が出たらどうするんだ!?」
マルフォイの抗議とネビルの呻き声にフィルチは嬉しそうに顔を歪ませる。
ハリーもハーマイオニーも顔色が悪い。
「もう時間だ。俺は30分くらい待ったぞ……ハリー、ハーマイオニー大丈夫か?」
「罰を受けにきた生徒と仲良くするのは感心しませんねぇ。ハグリッド」
「おまえが説教をたれていて遅くなったんだろう。おまえの役目はもう終わりだ。ここからは俺たちが引き受ける」
「俺たち?」
ハーマイオニーが反応するとフィルチが面白くなさそうに舌打ちした。
「この人以外にも誰か一緒に森へ行く人がいるのかい?」
『私よ、ドラコ』
ハグリッドの大きな背中で見えなかったユキがひょっこり顔をだした。
「「「ユキ先生!」」」
「なんだよグリフィンドール!ユキ先生に抱きつくなよっ」
三人に抱きつかれた重みをユキは少し後ずさりながら受け止める。
キラキラした目のハリーが顔を上げた。
「ユキ先生どうしているの?」
『森は危ないからね。可愛い生徒を守るた「ユキ先生は中庭に馬鹿げた迷路を作って、君たちと同じように罰則だ」
「えっ!?あの不思議な迷路ユキ先生が作ったんだ」
少し血色の良くなったネビルが笑う。
「僕とロンは五回も入ったよ」
「見た目よりもずっと距離が長くて、出る場所もいつも違って、かなり高度な魔法だわってパーバティと話してたの!」
「スリザリン生は怪しいからってスネイプ教授に入るのを止められていたんだ。また作ってくれる?」
『喜んでもらえていたみたいで嬉しい。実はあれ校長先生と合作なんだ』
「「「「校長先生と合作!?」」」」
見事に声が揃った。
『そう。校長先生!私置いて逃げたんだよっ。あの時、私だけマクゴナガル教授に見つかって……罰則』
ユキはその時のことを思い出し遠い目をした。
「ユキ先生!生徒と馴れ合っては罰則になりませんよ。それから迷路作りは禁止だ!」
『そんなぁ!好評なのにっ』
「どうして今ここにいるか分かってますか?マクゴナガル教授に言いつけますよ」
『…………』
「あーそろそろ森に入るぞ」
ランタンを掲げ苦笑いのハグリッドが言った。
「俺たちは傷つけられたユニコーンを探す。みんなで可哀想なやつを見つけ出すんだ」
フィルチと別れ、一行はハグリッドに連れられて獣道に入る。
そこら中銀色のユニコーンの血だらけだ。
「この森に住むものはお前たちを傷つけたりせん。よーし、ではここから二組に別れよう」
「「僕はユキ先生と一緒がいい」」
ハリーとドラコが同時に叫んだ。
「そんじゃ、ハーマイオニーとネビルは俺とファングと行こう。もしユニコーンを見つけたら緑の光を打ち上げる。困ったことがあったら赤だ。赤い光が上がったらみんなで助けに行く。ユキ、二人を頼んだ――――さて、出発だ」
真っ暗な森の中を二手に分かれて進む。
ユキ達は左の道を、ハグリッド達は右の道を行く。
ハリーとドラコが両脇からひっしりと抱きついているので若干重い。
ユキは忍術で火の玉を自分たちの周りに浮かせながら奥へと進んでいった。
「狼男がユニコーンを殺すなんてありえるの?」とハリーが問う。
『ハグリッドが言うにはユニコーンを捕まえるのは強い魔力を持った生き物だって。それに、ユニコーンの足は早いから狼男には捕まえられないと思うよ』
「血が落ちてる」怯えきったドラコの声。
小道のあちこちに銀色の血が落ちていた。
何の音!?
ユキは火の玉を消し、二人の口を押さえゆっくりと樫の巨木の裏に連れて行く。
すぐ近くでマントが地面を引きずるような音。
何か確かめるため樫の木から顔を出したが、何も見えず音は徐々に森の奥へと消えていってしまった。
『何かいるわ』
「ま、まさか狼男?」
『いいえ、ドラコ。今日は満月じゃない。何か確かめに行きましょう。離れないでついて来て』
三人でゆっくりと聞き耳を立てて進むと突然、前方の開けた場所で何かが動いた。
ユキは近くの木の陰にドラコとハリーを立たせ苦無を握り前へ進んでいく。
『ケンタウロス?』
開けた空間に現れたのは腰から上は赤い髪に赤いヒゲの人、腰から下は艶々した栗毛の馬。
緊迫感のないユキの声に安心したのかハリーとドラコも出てきたようでポカンと口を開けてケンタウロスを見ていた。
「どなたですか?」
『私はユキ・雪野。ホグワーツの教師です。この二人は生徒です』
「冥王星の加護を受ける者よ。あなたは私をその刃で引き裂こうとしたのですか?」
ケンタウロスは悲しそうな顔だが澄んだ瞳でユキの持つ苦無を見つめた。
冥王星の加護って何?
ユキはケンタウロスの言葉に目を細める。
『いいえ。私たちはユニコーンを探しています。この刃はユニコーンを傷つけた者に出会ったときのために』
「いつでも罪のない者が真っ先に犠牲になる」
そう言ってケンタウロスは首をブルルと振った。
「雪野さん、生徒さん、私はロナン。学校は楽しいかね?」
「とても」
「えぇ」
『楽しいです』
「そう、それはよかった」ロナンは微笑んで空を見上げた。
ユキたちも上を見上げる。森に入る前にあったうっすらとした雲は消え夜空いっぱいに星が瞬いていた。
「今夜は火星が明るい」
三人で顔を見合わせる。
全員理解出来ていない顔をしていた。
「いつもと違う明るさだ」
もう一度赤く光る星を見たが三人共よく分からなかった。
木の葉の揺れる音。
ユキは苦無を向けずに振り返った。真っ黒な髪と胴体のケンタウロスが現れた。
『こんばんは』
「こんばんは。どなたですか?」
「ベイン、ホグワーツの雪野先生と生徒さんだよ」
「こんばんは。雪野先生、生徒さんたち」
ベインと呼ばれたケンタウロスはユキ達に微笑んだあと、ロナンのそばまで歩いていき、隣に立って空を見上げた。
「今夜は火星が明るい」
ベインも同じことを言った。
『ユニコーンを傷つけた者を知りませんか?』
ロナンとベインはユキをじっと見つめ、続いてハリーに視線を移し見つめた。
「私たちは惑星の動きから何が起こるか読み取るが、天には逆らわない」
ベインはそう言ってまた空を見上げる。
「冥王星が輝く。火星が明るい」
ロナンもそれだけ言い上を見上げた。
暫くしても二人は空を見上げたままだったので、ユキたちは挨拶をして先へと進むことにする。
森の奥へ奥へと進むにつれて道が
30分ほど進んだあたりで道は完全になくなってしまった。
「ひっ」
『どうしたの、ドラコ?』
ユキはドラコが震える手で指し示す先を見る。そこには木の根元に大量の血が飛び散っていた。
傷ついた生き物がのたうち回ったようにべっとりと銀色の血だまりができている。
その先の樫の枝が絡み合うその向こうに開けた平地が見えた。
「見て。あそこの平地で何か光ってる」
ハリーが呟く。
三人は開けた平地へと歩いて行く。地面に純白に輝いていたのはユニコーンだった。
しなやかな足は倒れた時のまま投げ出され真珠色のたてがみは落ち葉の上に広がっている。
美しく悲しいその姿。
ユキは緑色の光を打ち上げた。
!?さっきのがいる
ユキは一歩前に踏み出したハリーの手を引き自分の後ろに隠す。
樫の巨木の裏で聞いたズルズル滑るような音。平地の端から頭にフードをすっぽり包んだ何者かが蛇のように地面を這って進んできた。
目線を外さぬまま音を立てないように杖をしまう。禍々しい気配。
マントを着た影はユニコーンの傍らに屈み傷口から血を飲みはじめた。
気づかれないように退却しよう。
「ぎゃああああああァァァァ」
ドラコの絶叫に影が頭をあげてしまった。
『待ちなさい!……多重影分身の術。あなたはドラコを追って。あなたはハリーを守って』
一体の影分身はドラコを追いかけ森の闇に消えていく。あのスピードならすぐに追いつくはずだ。もう一体の影分身はハリーを庇うように立っている。
フードに隠れた顔の辺りから銀色の血が滴り落ちて何ともおぞましい。
その影は立ち上がりスルスルとこちらへ近寄ってきた。
『私が足止めするから、あなたは影分身と……しっかりして!』
額を押さえたハリーがヨロヨロと地面に倒れこんだ。汗が噴き出し苦痛の表情を浮かべている。
『ハリーを抱えて逃げて』
指示を受けた影分身はハリーを抱き走りだす。
ユキは力強く地面を蹴り一気に影との間合いを詰めた。
飛び上がりながら素早く印を組むユキの頬が大きく膨れ上がる。
『火遁・火炎砲』
口から噴出された大きな炎が影を捉える。周囲は熱くなり、暗い森を照らす。
炎の合間でフードに隠れた何者かが杖で身を守っているのが見えた。
着地と同時に苦無を影へと投げつける。
逃がすか
ガンッ
弾かれる苦無。杖を構えたままスルスルと後退していく影。
次で仕留めてやるとユキが印を結び始めた時、後ろから蹄の音が聞こえてきた。
深追いせずに生徒の安全を優先させるべき、か。
闇に紛れていく影をユキは苦々しげに見つめた。
「ユキ先生!」
若く、明るい金髪にプラチナブロンドの胴のケンタウロスがハリーを背に乗せ駆けてきた。無事を確認してハリーの隣で走ってきた影分身を消す。
パチッと頭の中で小さな音がして影分身の記憶が流れ込む。
ほどなく別の方向からも蹄の音がして、木の茂みからロナンとベインが現れた。
「フィレンツェ!」
疾走してきたケンタウロス達はユキを囲むようにして止まった。
「人間を背中に乗せるなど、恥ずかしくはないのですか?」
「この子はポッター家の者です」落ち着いた声で答えるフィレンツェ。
ユキはというと怒っているベインをそっちのけで綺麗なケンタウロスに見惚れていた。
「天に逆らわないと誓ったことを忘れてはいけない」
「ユニコーンが何故殺されたか分からないのですか?ベイン、私は森に忍び寄る闇に立ち向かう。必要とあらば人間とも手を組みます」
フィレンツェの言葉にベインは怒って後ろ脚を蹴り上げる。
「ベイン、フィレンツェ、二人とも落ち着くのです。冥王星の加護を受ける者が困っていますよ」
『冥王星の加護を受ける者とは私の事なのですか?』
ユキが聞くとケンタウロス達は顔を見合わせてから空を見上げた。
「冥王星がひときわ輝いている」
ロナンが呟く。また意識が天体のほうへいってしまったようだ。
答えてくれる気はないらしくケンタウロス達は夜空を見上げ続けている。
ユキとハリーは困惑した顔で見つめ合った。
暫くしてフィレンツェがユキに微笑みかける。
「ハグリッドのところへ戻ったほうがいい。あなたは走れますか?」
『はい』
夜空を見上げ続けるロナンとベインを残し平地を後にする。
遅れをとらないように走っていると突然ひときわ木の生い茂った場所でフィレンツェが立ち止まった。
「ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」
『血を飲めば死の淵にある者も命を長らえさせられると聞きました。ですが、恐ろしい代償を払うことになるはずです』
「そうです。純粋で無防備な生き物を殺すのだから得られる命は完全ではありません。血が唇に触れた瞬間から、その者は呪われた命を生きる。生きながらの死の命なのです」
月明かりがフィレンツェの髪を照らし銀色の濃淡をつくりだす。
「永遠に呪われるなら、死んだほうがましだと思うけど」
「そうだね、ポッター君。でも、他の何かを飲むまでの間だけ生きながらえればよいとしたら―――決して死ぬことが出来なくなる、何か。学校に何が隠されているか知っていますか?」
「賢者の石!そうか、命の水だ……でも、一体誰が」
ユキは必死に考えているハリーを見る。
これ以上危険なことに興味を持って欲しくなかった。
『フィレンツェさん、それ以上は』
「力を取り戻したいと願い、命にしがみついて、チャンスをうかがってきた者は誰か思い浮かばないのですか?」
ユキの言葉にかぶせるようにフィレンツェは問う。
月明かりの下でハリーの顔色が青白く変わったのが見えた。
嫌だ……生徒たちには平穏で楽しい学校生活を送って欲しい……
「ハリー、ハリー!ユキ先生!」
道の向こうで松明が揺れハーマイオニーとネビルが駆けて来るのが見えた。
ハグリッドもハァハァ言いながらその後ろを走って来る。その後ろにはユキの影分身とドラコの姿もある。全員無事のようだ。
「ここで別れましょう。幸運を祈ります、ハリー・ポッター。ケンタウロスでさえ惑星を読み違えることもある」
ユキはハリーがフィレンツェの背中から降りるのを手伝う。ハリーの体は氷のように
冷え切って、震えていた。
「冥王星の加護を受ける者よ。あなたが正しい道を選びますように」
フィレンツェはユキの頭を優しく撫でてから森の奥深くへ緩やかに走り去った。
「ユキ、ユニコーンを確認したいからお前さんの分身に案内を頼んでもええか?」
『もちろん。気をつけて行ってね。私は生徒たちを城まで送り届けるわ』
ハグリッドとユキの影分身は今来た道を急いで戻っていった。あと数時間で長かった夜も明ける。
顔色の悪い生徒たちを連れてユキはホグワーツ城へと向かった。
***
パチッ
空が白み始めた頃、ユキの頭にクィレルにつけていた影分身の記憶が流れてきた。
『どうやったのかしら?』
クィレルの私室の近くでユキの影分身は身を隠して見張っていた。
扉から出てくれば後を付け、おかしな動きをしたら止めるか、自ら消えてユキの体に戻り状況を知らせるために。
今頭に入ってきた記憶ではクィレルは昨晩部屋に入ってから出てきていない。
しかし明け方になってマントに焼け焦げた跡を作って外から自分の部屋に戻ってきたという事だった。
マントの焼け具合から森の中で出会ったのはクィレルに間違いないだろう。
もしかしてヴォルデモートはホグワーツの近くにいるのだろうか。
ユキはイライラと机を指で叩く。
クィレルはユニコーンの血を飲み、どうやってヴォルデモートに渡しているの?
まさか一旦戻して……うげ。ちょっと朝から考えるのはキツいわ。
この件はスネイプ教授に相談することにして、まずは先ほどの不快な想像を消すためにシャワーを浴びることに決めた。