第3章番外編
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蝙蝠の誕生日
1月9日 朝10時
「卵のMが2つ」
『薄力粉が60g』
ホグワーツ魔法魔術学校、厨房。
屋敷しもべ妖精に混じって、二人の少女、赤毛と白髪の少女が何やら真剣に何かを作っていた。
「まずは卵白の泡立ててね」
『力仕事は任せて~』
ユキは黄色い目を細め、二パッと笑って自分を指さした。
「ありがとう。でも、疲れたら交代するからね」
『うん。リリー』
二人が今、一生懸命に作っているものはバースデーケーキ。今日、1月9日は二人の親友であるセブルス・スネイプの誕生日なのだ。
『セブ喜んでくれるかな?』
「喜んでくれるわよ!きっと!」
二人は顔を見合わせ、ふふっと笑ってからケーキ作りを続けたのだった。
1時間ほど経った頃、厨房に甘い香りが漂い始める。
「綺麗な焼き色で焼けたわね。さあ、クリーム塗りよ」
リリーは器用に真っ白なクリームを塗っていく。ホイップクリームでケーキの飾りをし、苺を並べたら完成だ。
「よし、でーきた!ってユキは何をやっているの?」
そういえば手伝ってこないとユキの方を見るリリー。
「杖なんか出してどうしたの?」
ユキは訝しげな顔をするリリーにニヤっと悪戯っぽい笑みを向けた。
『さっき作ったメレンゲの人形にちょっとした魔法をかけようと思ってね』
「魔法を?」
メレンゲの人形は4つあった。
3体は自分達の姿を模したもの。残りの1つは雪だるまだ。
ユキはブツブツと呪文を唱えて杖を振る。
『どうだっ』
「わあ!」
メレンゲ人形達が動き出す。しかし、何をしているかまでは分からない。
ユキは期待していてねと言った笑みをリリーに向けてからメレンゲ人形をケーキの上に置く。
途端に始まったメレンゲの雪だるま対ユキ達による雪合戦ならぬホイップクリーム合戦。
「アハハ凄ーい」
リリーが破顔して笑う。
「きっとセブもビックリするわ」
『そうだといいな』
「さあ!さっそくセブに渡しに行きましょう」
リリーはケーキに銀色の蓋を被せて空き教室へ。
ユキはセブルスを呼んでくるためにスリザリン寮へと向かう。
『セブー』
ユキが談話室に入ると、セブルスは暖炉の前で1人本を読んでいた。
突然の大声に眉を寄せながら顔を上げる。
「五月蝿いぞ」
『えへへ。ごめん、ごめーん』
ユキは顔を顰めるセブルスに言葉だけの謝罪をして、彼の手から本を取り上げた。
「あ、何するんだよ」
『栞は挟んだよ』
だからいいでしょう?と言ったように笑うユキにセブルスは脱力感を感じていた。
この顔は何かを企んでいる顔だ。
セブルスはこれから起こる何かを想像して眉間に手をやった。
『一緒に行ってほしいところがあるの。行こう』
「僕に拒否権はないのか?」
『ないよ!』
「はあぁ。だろうな」
セブルスは一度、ユキについて行く事を拒否した事があった。その時ユキがとった行動は……なんと、セブルスを荷物のように肩に担いでいくという色々な意味で恐ろしい方法だった。
あんな恥ずかしい思いは2度としたくない……
セブルスはユキの言う通りに彼女の後についていく。
二人がやってきたのは魔法史の教室前だった。
『さあ、どうぞ。扉を開けて』
「嫌だ」
『何で?』
「何か悪戯が仕掛けられているんだろう?スリザリンの白蛇を信用できるものか」
ユキの二つ名はスリザリンの白蛇。
白蛇の渾名の理由はいくつかある。
授業で加点されるのに問題行動で減点されてしまう。
“白紙に戻る”から、と彼女が蛇寮の生徒だから、とか。
悪戯をしてもスルリと現場から蛇のように消えるから。
そして彼女の髪が真っ白だから、とか。
スリザリンのシンボルを渾名にする彼女は寮生から愛されていた。
自寮愛の強い彼女もこの渾名を気に入っていた。
『ええっ。今回は何も仕掛けていないよぉ』
「信じられるものか」
『……中にリリーがいるよ』
ピクッとセブルスの指が跳ねたのをユキは見逃さなかった。
『私の言葉は信用できないのにリリーなら信用できるのか。酷いなぁ』
「日頃の行いのせいだろ」
『あと、リリーの名前を聞いた瞬間、頬が緩んだよ。自覚ある?』
「う、五月蝿いっ」
セブルスは真っ赤な顔を隠すようにクルリと回転して扉と向かい合った。
「開ければいいんだろ、開ければ」
騙されても仕方ない。そう思いながらドアノブに手をかけて扉を開くセブルス。
パッと勢いよく扉を開けて、セブルスが魔法史の部屋へ一歩踏み込んだ時だった。
パーーン
パーーーン
セブルスは前と後ろから聞こえてきた突然の大きな音に目を瞑った。
そして開いた目に映ったのは紙吹雪とキラキラ光る星屑。
『「セブ!ハッピーバースデー!」』
「っ!?」
明るいユキとリリーの声が教室に響く。
「これは……」
空中に浮かぶ銀色の文字で書かれたHAPPY BIRTHDAYの文字。
「セブの誕生日を私たちと一緒に祝いましょう」
『さあ、中に入って入って~』
ユキがまだ扉付近で呆然と立ち尽くすセブの背中を押して教室の中へと入れる。
「座って、セブ」
「あ、あぁ」
戸惑いながら、セブルスは銀色の蓋が乗った皿の前に座らされる。
「これは私とユキの合作です」
『気に入ってくれますように。せーのっ』
じゃーんと二人は効果音をつけ、リリーが蓋を開けた。
途端に釘付けになるセブルスの目。
『げっ』
ユキは顔をひきつらせた。
ケーキの上で起こっている大惨事。
ケーキの上ではメレンゲの雪だるまとメレンゲのユキが生クリームを相手に投げ、跳びはね、避けていた。
見ればメレンゲのリリーとセブルスはケーキの縁に並んでいる苺の影に避難して困った顔をして雪だるま対ユキの様子を見ている。
ユキのメレンゲと雪だるまのメレンゲがケーキ上の生クリームを投げるから、ケーキ上は穴ぼこだらけ。
『ご、ごめん。まさかこんな事になっていたなんて』
気まずそうに身を縮めるユキ。
「ふふ」
「くくっ」
申し訳なさいっぱいだったユキの耳に笑い声が聞こえてきた。
顔を上げるとクスクスと笑っているリリーと顔を抑えて必死に笑いを堪えているセブルスの姿。
『二人とも……?ケーキ滅茶苦茶にしちゃったのに怒ってない……?』
「怒るわけないわ。こんな愉快な光景を見せられて。逆に笑わせてくれてありがとうって感じよ。ね、セブ?」
「あぁ、そうだな」
リリーは涙を拭い、セブルスは吹き出しそうなのを堪えながら頷いた。
「まさかメレンゲが性格を忠実に再現するとはな」
興味深そうにセブルスがケーキを覗きこむと、リリーとセブルスのメレンゲが手振り身振りで雪だるまとユキのメレンゲの喧嘩をやめるように言ってきた。
「食べましょう。包丁を入れて分断すればユキと雪だるまのメレンゲの喧嘩も収まるでしょうから」
リリーが包丁を出してケーキに近づけるとユキと雪だるまのメレンゲは慌てて端へと逃げていった。
切り分けられたケーキがお皿に乗る。
『誰のメレンゲ食べたい?』
「「えっ……」」
『どうしたの?』
首を傾げるユキの前でセブルスとリリーは顔を見合わせる。
「これを食べるのはあまりにも……」
「可哀想な気がするわ」
『そうかなぁ。せっかく作ったんだから食べちゃえばいいのに』
ゴクリと喉を鳴らし、獲物を狙う目でメレンゲ達を見るユキ。
「このメレンゲたちは僕がもらう」
『えぇ〜』
「これは僕の誕生日ケーキだろ?」
『そう、だけど』
「じゃあ僕が持って帰らせてもらう」
セブルスは自分の前に置かれていたティーカップをどけてティーソーサーにメレンゲたちを避難させた。
クリームが無くなったユキと雪だるまのメレンゲは取っ組み合いの喧嘩を始めている。
その横ではセブルスとリリーのメレンゲが呆れたようにその様子を見つめていた。
「食べましょうか」
リリーが紅茶を全員に淹れ終え、そう言った。
『「「いただきます」」』
三人は同時にフォークを動かし、口に運ぶ。
「旨いな」
「美味しい」
『甘~い』
頬を緩めた三人はぺろっとケーキを食したのだった。
紅茶を飲みながら談笑する三人。
この時間がいつまでも続けばいいな……
セブルスは二人の親友に誕生日を祝われる幸せを噛みしめ、愛おしそうに二人のことを見たのだった――――
***
『セブー。アフリカ大陸の魔法薬の本を貸してほしいんだけど』
「何処にしまっただろうか……」
『一緒に探しても?』
「あぁ、頼む」
本の奥にも本がしまってあるセブルスの本棚。
本は前、奥と2列になっていて探しにくい。
ユキが本を引っ張り、奥のタイトルを確認し、という作業を繰り返していた時だった。
『あっ』
ユキはあるものを見つけて声を上げた。
「見つかったか?」
『ううん。別のものが見つかった』
「??」
ユキは本棚の奥からガラスケースを引っ張り出す。
「これは……懐かしいな」
『うん。まだ持っていてくれたなんて感激』
ガラスケースに入っているそれは雪だるま、ユキ、セブルス、リリーのメレンゲだった。
セブルスが魔法をかけたのだろう。当時のままの色鮮やかさと艶を保って保管されている。
『私と雪だるまは仲直りしたみたいだね』
「そのようですな」
二人の顔に微笑が浮かぶ。
ユキ、セブルス、リリーのメレンゲは、仲良さげに雪だるまを背にして眠っていたのだった――――
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
大人セブルスがメレンゲを愛でる話→メレンゲ