第5章 慕う黒犬
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16.第2の課題
2月23日 ユキの部屋
ピギャーーーーーー!!
『煩いッ』
私は金色の卵を思い切り閉めて顔を顰めた。
私は弱りきってしまっている。
第1の課題でドラゴンから奪った金色の卵は代表選手と同じく私にも渡されていた。
しかし、日頃の忙しさにかまけて(というかすっかり忘れてしまっていたのが大半)今まで卵の中に隠されているというヒントを真剣に探していなかったのだ。
そして第2試合安全確認日の当日の今日、私は卵と向き合っている。
今はお昼。第2試合の安全確認は今夜だ。
『どうしよう。もう時間がないよ。暗号解読は得意じゃないのよね』
卵を持ちながら部屋をぐるぐると回っていた私はある決断をする。
よし、カンニングしに行こう。
―――代表選手は自分1人で課題と向き合わねばならない
私のやろうとしていることはズル?いいえ。カンニングだって立派な“問題解決手段”だ。
今日は土曜日。代表選手による第2試合が行われるのは明日。
『あ、コリン。ハリーを見なかった?』
廊下ですれ違ったコリンに声をかけると可愛い笑顔で笑いながら「図書館にいましたよ」と教えてくれた。
図書館に行くと、いたいた。
本棚の影から覗くと、ハリー、ロン、ハーマイオニー、栞ちゃんはうず高く机に本を積み、何かに憑かれたように本のページをめくっていた。
「不可能なんじゃないかな」
ロンが投げやりに言って、上を向いた。
「1時間も水の中に潜ってなきゃいけないなんて!」
「僕もそう思うよ」
ロンの横で絶望的だと言った顔でハリーが呟く。
「2人とも諦めちゃダメよ。課題はクリアする方法があるからこそ出されたのよ。何か方法があるはずだわ」
ハーマイオニーは開いていた本をバタンと閉じて彼女の右側に積み重なっている本の上に乗せた。
「私が知っている忍術では無理……」
栞ちゃんが唸る。
「僕、ちょっとトイレ」
ロンが席を立つ。
チャンス!
『変化』
私はロンへと変身した。
本物のロンと入れ替わりにハリーたちへと近づいていく。
「あれ?トイレって言ってなかった?」
「急に尿意がなくなって」
「変なの」
栞ちゃんは顔を顰めたが深く追求してくることはなかった。ハーマイオニーの方は集中しているらしく本から顔を上げない。私は何気ない風を装って頬杖をつき、ハリーを見た。
「なぁ、もう1回教えてくれないか?課題の内容」
「もう君だって暗記するくらい聞いただろ?」
「待って。みんなでもう1度歌の内容を確認してみましょう。何か見落とした暗号か何かが隠されているかもしれないし」
ハーマイオニーが羊皮紙と羽ペンを出してハリーに言うように目で促した。
「卵が歌ったのは―――――
探しにおいで 声を頼りに
地上じゃ歌は 歌えない
探しながらも 考えよう
我らが捕らえし 大切なもの
探す時間は 1時間
取り返すべし 大切なもの
1時間のその後は―――もはや望みはありえない
遅すぎたなら そのものは もはや2度とは戻らない
『特に暗号らしい文字の配列は見つからないね。単純に次の課題の内容を指しているだけみたいだ』
ハーマイオニーが書いてくれた羊皮紙を手に取り、何度か目を通し、暗記する。
地上じゃ歌は歌えない……声を頼りに……水の中で声を持っている生き物といえば―――水中人だ!
私はたどり着いた答えに心の中で笑んだ。
『助かったよ。ありがと』
机の上に羊皮紙を返す。
「助かったってセリフは水の中で1時間潜る方法を思いついてから言って欲しいもんだよ」
疲れとイライラがピークに達しているらしく、不機嫌さ丸出しでハリーが言った。
ロンが帰ってこないうちに立ち去ろうとしていた私だが、ハリーたちに同情心が沸いた。
利用するだけ利用して捨て置くのは良心が痛む。
『少しだけなら、いい、よね……?』
3人が1番右端に座る私を頭に?マークを浮かべながら見ていた時だった。
「え!?僕がいる!?」
「「「ロン!?!?」」」
本棚の角を曲がってきたロンが体をビクリと痙攣させて立ち止まり、口をぽっかりと開けて私を見る。
同じように口をぽっかり開けて私と本物のロンを交互に見るハリーとハーマイオニー、栞ちゃん。
「も、もしかして」
「ユキ先生ですか?」
ハリーの言葉をついでハーマイオニーが言う。
『あはは。ごめん!正解』
私はポンと変化を解いた。
「え?なんで?なんで先生が僕に変身を??」
『これを知りたくってね』
私はハーマイオニーが書いてくれた羊皮紙を指さした。
『忙しさにかまけて卵の謎を解いていなくって。あの卵、開けてもピギャーーとしか叫ばないし、私、煩い音嫌いだし。それに安全確認日が今日の夜なのよ。だから自分で謎を解くよりも探りに来た方が早いかなって思いまして』
4人は教師らしからぬ言葉を吐く私を唖然とした顔で見た。
『ごめん、皆』
「「「「ず、ずるーーーい」」」」
『で、ですよねっ。ってわわ!みんな落ち着いて!マダム・ピンスが来ちゃうっ』
4人は答えが見つからないストレスもあってか口々にわーーっと色々言いながら私に詰め寄ってくる。
「せ、先生がズルしちゃいけないと思いますっ」
「ハーマイオニーの言うとおりだよっ」
「僕たちがユキ先生にヒントをあげたんだから先生も僕たちを助けてよっ」
「そうじゃなきゃ誰かに言いつけますっ」
ハーマイオニー、ハリー、ロン、栞ちゃんが順に叫ぶ。
私は口に手を当ててシーっと4人を静めた。
『こら!そんな大きな声で言わないの。手伝えなくなるじゃない』
「えっ!?手伝ってくれるの?」
パッとハリーの顔が輝く。
「でも、規則違反だわ」
ハーマイオニーは眉を寄せる。
「固いこと言うなよ。ハリーが溺死するよりマシだろ?」
ロンがハーマイオニーを落ち着かせるように肩にポンと手を置く。
『手伝いといっても完全に答えを教えることは出来ないわ。一応公平を期さなきゃね』
「やったね!」
栞ちゃんが破顔する。
でも、さて、どうしよう、と思っていると本棚の角からひょっこりとネビルが顔を出した。
「ハリーたちと……あ、ユキ先生もいたんだ」
『こんにちは。どうしたの?』
「マダム・ピンスが静かにしなさいって伝えてくるように僕に言ったんだ」
苦笑いしながらネビル。
『追い出されたら大変ね。静かに会議しましょ』
再び人差し指を口元に持っていく私はふとネビルが持っている本に目を止める。
“薬草学大全”
私が水中で1時間泳ぐと聞いて直ぐに思いついた呪文は泡頭呪文だった。
だが、これをハリーに伝えても1日でマスターする事は出来ないだろう。では、どうすればいいか……それは、何かの力を借りるしかない。
『ネビルは薬草学が得意よね』
「え、は、はい。他の教科と比べれば……」
『謙遜しなくていいのよ。ここに座って。ハリーたちの悩みを聞いてみてくれない?』
きょとんとするハリーに、ネビルに課題の事を話すように頭を振って促す。
「実は、次の課題で1時間水の中に潜っていなくちゃいけないんだ。そんな無茶な事解決する方法なんか知らないよね?」
「……知ってる、かも」
「「「「本当に!?」」」」
ハリーたち4人が同時に立ち上がる。
その勢いに気圧されながらもネビルはしっかりと首を縦に振る。
「エラ昆布って植物があるんだ」
ネビルは薬草学大全を机に置いてページをペラペラとめくった。
そしてエラ昆布と書かれたページを広げる。
「首の横にエラができ、エラ呼吸が可能になる。手には水掻き、足は
ハーマイオニーがエラ昆布の記述を呼んで興奮したように言った。
「問題は半分解決した。後はもう半分。どうやってこれを手に入れるかだ」
「そうだね、ロン。こいつを手に入れられる場所は―――スネイプの薬材庫?」
顔を見合わせてぶるりと小さく震える5人の姿を見てクスリと笑ってしまう。
『答えには生徒だけでたどり着けたんだもの。ここからは協力するわ』
「いいんですか!?」
『卵の謎を教えてくれたお礼よ』
「ユキ先生大好きっ」
『おっと』
4年生になって一段と大きくなったハリーに抱きつかれてヨロっと体勢を崩す。
ついこの間まであんなに小さくて可愛かったのに、子供の成長は早いなぁ。
『それじゃあひと仕事してきますか』
ぐいーっと伸びをする。
「「「「よろしくお願いします」」」」
私はペコリと頭を下げる4人に手を振って、セブの薬材庫からエラ昆布を盗み出し、ハリーたちへ届けたのだった。
***
夜がやってきた。
空は曇り空で今にも雪が降ってきそうだ。
流石の私でもこの寒空の下、湖に入ったら寒さを感じるだろう。私は自分に体温調節呪文をかけた。
観客席にはダンブー、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、セブを含めたホグワーツの先生方、バグマンさん、グライド―――レギュがいる。
きっと見えないがクィリナスも見に来てくれているのだろう。
だけど、あれ?シリウスがいない。
「ユキ、シリウスを探しておるのかの?」
顔を向けると何やらニタニタ笑いのダンブーと視線が合った。
『良くわかりましたね』
「ユキの考えておることなどお見通しじゃ。親子じゃからの」
口を噤んで無言の否定をしていると、ダンブーがくるりと観客席へと振り返った。
「明日、代表選手たちは“大切なもの”もとい“大切な人”を1時間以内に湖から探し出す」
ダンブーの説明によると、人質はある場所にロープで縛り付けられており、気絶した状態で水中にいるという。勿論、水中で息のできる魔法をかけられて。その魔法は水中から上がったと同時に解けるらしい。
「この安全確認の人質役を引き受けて下さった雪野教授の“大切な人”役はシリウス・ブラック先生じゃ」
大切な人、とダンブーが強調して言った瞬間、舌打ちが数箇所から聞こえた。
多分、その中のひとりはクィリナスだ。
クィリナスったら自分の位置がバレそうなことやめなさいよね!
「それでは雪野教授に始めて頂きましょう」
シリウスにかけられている呪文は高度で複雑なものだ。途中で解けることがあってはならない。人命に関わる。
ダンブーの魔法の腕は信用しているが、万が一がないともいえない。
そのリスクを背負ってシリウスが引き受けてくれた事を思うと、彼の勇敢さに平伏する。
無防備な状態で水中に縛りつけられるのは考えるだけでも恐ろしいから……
「それでは3つ数えます。いーち……にー……」
私はバグマンさんがカウントを始めたと同時に1回転して水着に着替えた。
「さんっ」
ホイッスルと同時に自分に杖を向けて泡頭呪文をかけ、水中に飛び込む。無唱呪文でルーモスを唱える。
それでも光は十分でなかったので星の光の呪文も唱える。
蛍のような小さな光の光源が現れた。
光が自分の周りから離れていかないように呪文をかける。
これでようやく自分の周り2、3メートルは見渡せるようになった。
事前に体温調節呪文をかけておいたので水は冷たくない。
もつれ合った黒い水草がユラユラ揺れる森、泥の中に鈍い光を放つ石が点々と転がる広い平原。
杖明かりに反射して銀色の鱗を持った魚がダーツのようにキラッキラッと輝く。
このままじゃ埓があかないわね。
視界不明瞭で闇雲に進んでもいつシリウスの元へたどり着けるか分からない。
水中人が歌っているというならば……
変化!
私は半獣の姿に変化した。
耳を澄ませる私に聞こえてきた歌。
~~♪ぐずぐずするな 求めるものが 朽ち果てぬよう……
『こっちね』
しかし、水を蹴ろうとした私は
杖明かりを足元に向けると、何本もの手が私に向かって伸びてきた。水魔だ。
失神呪文を唱えて寄ってくる水魔を追い払う。
今度は水草より少し上を泳ごう。
水魔に邪魔されたのはこの1回きりだった。
段々と大きくなってくる水中人の歌。
まもなくして藻に覆われた荒削りの石の住居の群れが姿を現した。
あちこちの暗い窓から覗いている顔、顔、顔……
『こんばんは』
挨拶するとボウボウとした長い暗緑色の髪の水中人は黄色い目を大きく見開いてパッと窓から私を覗くのをやめた。どうやら恥ずかしがり屋らしい。
水中人の家を横目で見て、珍しく思いながら泳いでいくと、お祭広場のような場所に出た。
水中人のコーラス隊が歌い、私を呼び寄せている。
その後ろに荒削りの石像が見えてきた。
大岩を削った巨大な水中人の像だ。その尾の部分に黒い影がある。シリウスだ。
頭をだらりと肩にもたせかけ、口から細かい泡がブクブク立ち昇っている。
シリウスを縛っている縄に向かって切裂き呪文を唱える。
シリウスの体がプカプカと浮いた。
私は彼の脇に左手を入れて、思い切り水を蹴って上昇していく。
いつの間にか月が雲の間から出たらしい。月明かりが私を導くように照らしている。
そして、私たちは水面へと顔を出した。
『フィニート・インカンターテム』
「ぷはっ」
自分の泡頭呪文を消したと同時にシリウスが大きく息を吸った。
私たちはちょうど湖の中央あたりにいるらしい。
私は半獣の変化も解いて人間に戻った。
「ありがとなってうおおっ?!?!」
星の光の呪文で出した小さな光の光源がシリウスの笑顔を照らしたかと思うとシリウスの顔は急に暗い中でも分かるくらい真っ赤になった。
『シリウス?』
「いや、その、お前っ!」
『なあに?』
「むむむ、胸!!」
『胸?』
私は自分の胸を見た。
シリウスを引っ張ってきたままの体勢だったため、私の胸にシリウスの腕を押し付けたような感じになってしまっている。
『ごめん。不快な思いさせて』
「いや、それは一切ないが」
『ん?』
「なんでもねえ。ゴホンッ。それより、どうしてそんな露出度の高い水着なんだよッ」
私は下を向いて自分の姿を見た。
紫色のビキニ。
『このくらいが普通じゃないの?』
「いやいやいや。こういう時は競技用の水着とかだろっ。何を参考にしたんだ!?」
『生徒から借り没収したプレイボーイって雑誌に載っているお姉さんの水着姿』
「おおいッ。よりによって参考雑誌プレイボーイかよ……成人向け雑誌だぞ、それ!しかも借りたって言ったろ、お前」
呆れた目で見てくるシリウスから視線を逸らしながら岸に向かって泳ぎ始める私。
「2人ともお疲れ様」
マダム・ポンフリーが笑顔を向けてくれる。
シリウスに成人向け雑誌を女が読むのはどうかと思う、とか何とか言われてそれに言い返しているうちに、いつの間にか岸へと泳ぎ着いていた。
岸辺には見に来ていた全員が揃って待っていてくれている。
岸辺で赤々と燃える焚き火が眩しい。
私は自分に向かって体温調節呪文の解除呪文を唱えた。いつまでも呪文をかけたままというのはあまり良くないからだ。
途端に水の冷たさが全身に伝わってくる。
シリウスは元々体温調節呪文を使っていなかったらしい。歯をガチガチと鳴らしながら岸へと上がっていく。
「ユキ!早く毛布に包まって。その格好は殿方には刺激的すぎるわよ!それに、とっても寒いでしょう!」
マダム・ポンフリーが私に分厚い毛布を肩からかけてくれる。
「この煎じ薬を飲んで。体が温まりますからね。それから元気爆発薬も」
マダム・ポンフリーから受け取った煎じ薬を飲むと耳から湯気がシューっと噴出した。そして途端に体が熱くなる。
「お疲れ様です、ユキ先生」
「制限時間の半分での帰還。流石だな」
レギュとセブがやってきて声をかけてくれる。
『実は半獣化しちゃったの』
「「半獣化?」」
シリウスとレギュが首を傾げる。
『あれ?2人には言ってなかったっけ?』
そういえば、獣化で凶暴化する自分を抑える訓練をしていたのは夏休みでシリウスは私のドラゴンに匹敵する大きさになるアニメーガスを知らない。もちろん、レギュもそれを見ていない。
2人には話していなかったんだね。話していた気になっていたよ。
『半獣化って言うのは……あ』
ムーディ教授がこちらを見ているのに気がついた。
『後で説明させて』
2人は私の視線を追って振り返った。
「ムーディを見ていたのか?どうした?あいつと何かあったのか?」
シリウスが眉間に縦皺を刻みながら聞く。
『ちょっとあったのよ』
私は肩を竦めた。
「何があったのか是非お聞きしたいですね」
『あったといっても大したことじゃないのだけどね。でも、獣化の話もしたいし、この後、三本の箒にでもいかない?』
お酒を飲んで温まりたい気分だ。
私の提案は皆に受け入れられた。
ダンブーがマーミッシュ語で水中人の長と最終打ち合わせを終え、こちらへと戻ってくる。
「何も問題はなさそうじゃ。皆さん、明日の試合を楽しみにする事にしましょう。きっと代表選手たちはそれぞれの力を出し切ってくれるでしょうからの」
ダンブーが解散を告げてその場はお開きになった。
私とシリウスはその場で一回転して早着替え。私、シリウス、セブ、レギュの4人は城には戻らずそのまま三本の箒へと向かう。
一番奥のテーブルに通された私たちはそれぞれお酒を注文。
『乾杯』
「「「乾杯」」」
4人でグラスを合わせる。
シェリー酒を一口口に含むと高いアルコールで口がほのかに痺れる。喉に流れるアルコールを楽しんでいると早速レギュが「獣化とは?」と聞いた。
私はアニメーガスをするとドラゴン程の大きさの九尾の黒いきつねになること。それから、半獣化することも出来ることを説明した。
『体の大きさは今のまま。耳が消えて頭にきつねの黒い耳が現れ、お尻から9本の尻尾が生えるの。ちなみに髪は白髪、目は黄色よ』
「学生時代の1年生の時のような風貌になるんだな。白髪に琥珀色の瞳。けっこう気に入っていた」
『あら。気持ち悪いって暴言を吐いたのはどこの誰だったかしら?』
「あの時は、ほら、ガキだったからさ、正直に言えなくて……実際は……くそっ。言わせるなよ、白髪琥珀色の瞳のお前も俺は綺麗だと思っていた」
目を逸らしながら早口でシリウスはそう言って、グイっと手元のビールを飲み干した。
「マダム・ロスメルタ!おかわりっ」
「はぁい」
新しいお酒を注文するシリウスを見ていると、「それから……」とレギュが私に話しかける。
「ムーディ教授を気にしていたようですが」
『あぁ、そうなのよ』
私は苦い顔をしながら答える。
そして、ムーディ教授からハリーの名前をゴブレッドに入れたのは私だと疑われていると皆に伝えた。
「ふん。馬鹿げている」
鼻を鳴らしてそう言い、セブがお酒を口に含む。
「マッド-アイは長年死喰人と戦ってきて、かなりの疑心暗鬼になっていますからね。少しでも変わったところがあると、怪しく思えて仕方ないのでしょう」
レギュが言う。
『確かに私がこの魔法界に来た方法も信じられないような力があっての事だし、ムーディ教授が身元がしっかりしていない私を疑うのも仕方ないわ。でも、私は気にしない。それよりも、気になることがあるのよ』
「なんだ?」
首を傾げるシリウスに頷き、口を開く。
『引っかかる事があるの。数週間前、真夜中にセブの薬材庫にクラウチさんが忍び込んだことがあったのよ。ダンスパーティーに来られないくらいな病気をしているクラウチさんが何故、コソコソと夜中にセブの薬材庫に来たのかなって』
「それは我輩も気になっていた。あの後減っている薬材を調べたところ、なくなっていた薬材から察するにクラウチ氏はポリジュース薬の薬材を我輩の薬材庫から盗み出していた」
『ポリジュース薬!?』
考え込んでしまう。
もし、クラウチ氏が誰かに化けてハリーに害をなそうと考えていたら……!
私以外の3人も同じことを考えているようだった。
「しかし、あのクラウチ氏がハリーを狙うでしょうか?あの人は、自分の息子をも有罪にしてアズカバンに送るような法を遵守する人間です」
「俺は裁判なしであいつにアズカバンに送られた……だが、あいつの事は“ご立派な”魔法使いだと認めるぜ」
レギュの言葉を受けて、皮肉交じりにシリウスが言った。
『それでも気になるのよね、クラウチ氏の事が……。嫌だわ。あの人がポリジュース薬で誰かに変身して私たちの傍にいるような気がしてならない……ムーディ教授はクラウチ氏がセブや私を捕まえようとしているような事を言っていたけど、私にはそうは思えなくって』
忍の勘
嫌な気持ち悪さが胸の中で渦巻く
「とにかく、俺たちに今出来ることは警戒を怠らないようにする事だ」
『そうね』
私はもどかしい気持ちになりながら、シェリー酒を飲み干したのだった。
***
翌日。
「いーち……にー……さん!」
ピーーーーー
いよいよ代表選手達による第2の課題が始まった。
私は教員席に座り、セブとシリウスの間で試合を観戦している。
私は振り返って審査員席を見た。やはりクラウチ氏の姿はない。
「そんなに険しい顔ばかりしていると、誰かさんみたいに眉間に縦皺がついてしまいますよ?」
真後ろに座っていたレギュは私の顔を両手で挟み、びよーんと横に伸ばしながら、チラッと視線をセブへと向けた。
『や、やめふぇよっ』
恥ずかしいじゃないっ。レギュの手首を掴んで顔から離す。
「はは。なかなか可愛い顔でしたよ」
レギュがクスクス笑う。
ちなみに誰かさん呼ばわりされたセブはレギュを振り返り、凶悪な顔を向けている。
「ハリーは無策で湖に飛び込んでいったんじゃあないよな?」
『大丈夫よ。ハリーは良い策を持っているわ』
「知っているのか?!」
「……我輩の薬材庫からエラ昆布が消えていたが……ポッターか!あいつッ」
セブは凶悪な顔をレギュから湖面へと移した。
「戻ってきたら減点してくれる。我輩の薬材庫に侵入するなど……!」
『そんなに怒らないで、セブ。正直に告白しますと、エラ昆布をあなたの薬材庫から盗んだのは私です』
「何だとッ!?」
セブが立ち上がり、首を斜めに傾けてメンチを切りながら私に杖を向けた。
『ひっ。落ち着こうっ』
「どんな呪いがお望みですかな?」
『ど、どんな呪いも嫌です!』
グリグリと額に突き刺さるセブの杖。周りに座っているホグワーツの先生方から笑い声が上がった。
40分経った頃、私の影分身に支えられながらフラーが水面へと上がってきた。
「ガブリエル!ガブリエルッ」
取り乱すフラーはどうやら水中で水魔にやられてしまったらしい。
人質救出には至らなかったが泡頭呪文を使った彼女は健闘したと思う。
そして、また暫くして――――
「おお!1人目の選手が課題をクリアして戻ってきたようです!」
バグマンさんの声が会場に響く。
歓声の沸く観客席。
課題開始から1時間を1分オーバーで水面にセドリックが上がってきた。
続いてハーマイオニーをつれたビクトール。
「ハリーはまだか?」
苛々しながらシリウスが懐中時計を出し、時間を確認する。
もうすぐエラ昆布の効き目も切れてしまう。
私も焦りを感じていた時だった。
湖面に3つの頭が現れた。
「ハリー!戻ってきた!しかし、何故ボーバトンの子の人質まで連れて帰ってきたんだ?」
その理由は直ぐに明らかになった。
水中人の女長の話によると、ハリーは1番初めに人質のところへ到着したのだが、他の人質も助けようとして、結果として1番最後になってしまったということだ。
「これこそ道徳的な力を示すものであり、ポッター君の得点は45点です!」
バグマンさんが叫び、ホグワーツ応援団から歓声が沸く。
「道徳的か!さすがだな!ハリー!」
『良くやったわっ』
私もシリウスもニッコリ笑い合い、思い切り手を叩いた。
「ふん。少し考えれば人質を溺れ死にさせるはずがないと分かるものを。何が道徳的だ」
「水を差すなよスニベリー」
バチバチっと睨み合った2人は立ち上がって杖を抜く。
「ユキ先生、ここにいては喧嘩に巻き込まれてしまいます。行きましょう」
ふわっと魔法で浮いた私の体はレギュの腕の中に抱かれる。
「っ!?」
「あ!テメェ」
セブが私に向けて杖を振った。
シリウスは私の腕をグイっと引っ張る。
どうやらセブが私に唱えたのはアクシオ。
私の体はセブとシリウスの両方から引っ張られる。体勢を崩すレギュ。
私の体はセブとシリウスの体にあたり、私たち4人は観客席に雪崩のように倒れていった。
「痛って。俺の顔蹴んなスニベルス!」
「そういうお前こそ我輩の上からどけっ」
「あなたたちが無理やり僕からユキ先生を奪おうとするからこうなるんです。イタタタ。怪我しちゃったじゃないですか」
「元はといえばお前が悪い、グライド!」
叫ぶシリウス。
「悠長に喋っていないで我輩の体の上からどいて頂けませんかな?」
苛々してセブ。
『……』
そして、私はというと一番下。
上からレギュ、シリウス、セブと重なって私は一番下にいる。
怒っても、いいよね?
『どうららららあああっ』
「っ!?」
「うわあっ」
「ひっ」
ザッバーーーン
フルパワー。
私は馬鹿力を発揮して、3人を湖へと放り投げたのだった―――――