第5章 慕う黒犬
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10.安全確認 其の壱
「話とはなんじゃね?」
ユキはあるお願いをすべく、校長室を訪れていた。
『実は、ダンブルドア校長先生に出資をして頂きたいのです』
「何に対する出資じゃ?」
ユキはクィリナスと話していた事を話し出す。
これから先、闇の勢力と戦うことになった時にフェリックス・フェリシスを使い、こちら側の被害を少なく出来ないかという作戦を伝えた。
「ほう。おもしろい考えじゃの」
ダンブルドアのブルートパーズ色の瞳が輝く。
「しかし、ふうむ。あの薬はちと厄介じゃ。あれを飲むと少々気分がハイになるでの」
『それについては私とセブルス、私とクィリナスで改良をしてみたいと思います』
「なるほど。ハイにならず、平常心を保ったままフェリックス・フェリシスの恩恵を受け、戦うことが出来れば心強い」
『フェリックス・フェリシスを作る材料費は高い……ダンブルドア校長、お助け願えませんか?』
「そうじゃの……ユキが儂をパパと呼ぶなら―――ヒイッ」
ユキは炎の玉をブンっとダンブルドア目がけて投げつけた。
ダンブルドアの髭に火がつく。
「あじゃじゃじゃじゃ!儂のお髭がッ」
『真剣な話をしている時に茶化さないで下さい』
はあぁと溜息をつくユキの前で必死に火消しを行うダンブルドア。
ようやく火が消えて、涙を薄ら浮かべながらユキを見る。
「分かった。出資しよう……うぅ。儂の髭が」
『髭なんかマダム・ポンフリーに治してもらえばいいじゃないですか。それより、お金の事ありがとうございます。さすが印税ががっぽがっぽ入ってくる人気作家は違いますね』
「ふぉっふぉっ。そうじゃろう、そうじゃろう。儂は売れっ子作家。今年度のソロモン書房文学賞・売上ランキングの部は頂くぞい」
そう言って機嫌よく笑ったダンブルドアはキランと輝く瞳でユキを見る。
「時に、ユキ。ブルガリア魔法省からたいそうイケメンな職員が派遣されてきたのう。ユキと随分と親しいようじゃがその話、ちと聞かせてくれんかのう?」
『お断りします。どうせ小説のネタにするのでしょう?』
「誓ってせん。ただ純粋に娘の恋愛関係に興味があるだけじゃ」
『私がティーンエイジャーだったらそんな父親煙たがるだけですよ。その質問には答えません。では、私はこれで』
「ちぇっ。つまらんのう」
ユキはひょっとこのように口を尖らせるダンブルドアに背を向けて校長室を辞したのだった。
***
『ん……もう朝か』
「すまない。今日も徹夜させてしまったな」
『謝らないで。フェリックス・フェリシスの件は私から言い出したことよ』
「だが、女性を朝帰りさせるのは気が引ける」
『セブは真面目ね』
「お前は周りの目を気にしなさ過ぎる」
私はセブのお小言を聞き流しながら大きく伸びをした。凝り固まった体がバキバキと音を立てる。
セブにフェリックス・フェリシスの改良版を作りたいことと、その使用目的を伝えた私。
セブは私の考えに賛成してくれてこうして実験を手伝ってくれている。
セブには悪いがクィリナスとも同時進行で実験をしていた。
改良薬が出来上がるのは早ければ早いほうがいい。三人寄れば文殊の知恵だ。
セブと一緒に実験を行った結果をクィリナスとの実験で活かし、クィリナスと行った実験の結果もセブとの実験で活かす。
私はそうしながらこの数日ほど実験を続けていた。
「ユキ、片付けは我輩がやっておく。お前は先に部屋に戻れ」
『ありがとう。それじゃあ、お願いします』
セブの言葉に甘えて地下牢教室から出ていく。
朝の清々しい風が吹き、私は思い切り空気を吸い込んだ。
なんて気持ちの良い朝なんだろう。
そう考えていた時
ぐーきゅるるるる
私のお腹の音が廊下に響いた。
こんな時間に誰も廊下にいるはずもないが、私はパッと辺りを見渡した。
『は、恥ずかしい……』
だが、1人とはいえ恥ずかしいものは恥ずかしい。
私は1人顔を赤くしながら地下から地上へ上がる階段を上っていく。
玄関ロビーに出た私は反対側の地下、ハッフルパフ寮と厨房のある階段を下っていった。もちろん私が用事があるのは厨房だ。
適当に屋敷しもべ妖精たちに料理を作ってもらって食す。お腹が満たされた私は自室へと戻っていく。
『鍛錬の時間まで時間があるわね』
帯から懐中時計を取り出して見ると、シリウス、クィリナスと鍛錬する時間までまだ一時間あった。
彼らが来るまで一人で鍛錬をしていてもいいのだが、何となく休みたくて私は一度自室に戻ることにした。
部屋の鍵となっている封印を解き、部屋の中に入ると、ちょうど新聞を運ぶ梟が部屋の窓をコンコンと叩いた。
『はーい。ちょっと待ってね』
梟から新聞を受け取り、喉のあたりを撫でてから梟フーズを食べさせる。梟は満足そうにホーと鳴いてから部屋から去っていった。
『今日はどんな記事があるかしら?』
紅茶を淹れてリビングの椅子に座りながら新聞を広げる。
『あら!三大魔法学校対抗試合の事が載っているじゃない』
しかし、喜んだのは一瞬だった。
新聞を読んでいく私の顔は段々と歪んでいく。
リータ・スキーターによって書かれた記事は試合についてのルポというよりもハリーの人生をさんざん脚色した記事だった。
一面の大部分がハリーの写真で埋まり、記事は(2面、6面、7面に続いていた)全てハリーの事ばかりで、ボーバトンとダームストラングの代表選手の名は最後の一行に詰め込まれていた。
『しかもセドリックの名前は載っていないじゃない。酷いわ!』
私は憤慨しながら叫ぶ。
それに……
『これは今日からハリーは大変なことになりそうね……可哀想に……』
記事にはハリーとハーマイオニーが恋人同士だと書かれていた。
そして、もちろん私たちのことも……
<死喰人の光線を受けそうになった雪野教授を庇う彼女と恋仲であるグライド・チェーレン氏。2人の愛の絆は強く、その愛の前には死喰人達も太刀打ち出来ない>
<私たちは良いパートナーです。それは、死喰人と戦うパートナーとしても私生活の面でも。愛は国境を越える。私たちは出会ってすぐに恋に落ちました>
この文消しとけって言ったはずなのに!!
『リータ・スキーター……次にあったら貴様ごと消してやろうか……』
思わず毒が口からついて出る。
他にもリータ・スキーターはダンブーが喜びそうなネタを沢山書いていて、私は軽く目眩をおぼえ、額に手を持っていった。
そうこうしているうちに鍛錬の時間だ。私は重い気持ちを引きずりながらいつもの鍛錬場所、丘の上へと向かう。
「ユキ!」
私が丘を登って行くと、既に私の姿をしたクィリナスがいた。
彼の手には新聞。嫌な予感……
「これはどういう事ですか!?」
『どうもこうも全て嘘っぱちよ。あなたなら分かるでしょ?』
「勿論分かります。ですが実際、この写真にはあなたとグライド・チェーレンという男が握手している写真が載っている。この間のクィディッチワールドカップでもこの男と共闘していたじゃありませんか。あの息の合った戦い方……」
『あら?見ていたのね。あなたから任務の内容を聞いた時は一言も私たちを見たとは言っていなかったじゃない』
「見ていましたよ!自分の任務を忘れそうになるほどに!」
クィリナスが叫んだ。
クィリナスがクィディッチワールドカップでしていた任務とは、上層部の死喰人たちを探し出し、動きを探れという任務だった。
その事は教えてもらっていたのだが、まさか私たちが共闘しているところまで見られていたとは知らなかったし、クィリナスから任務の説明を受けていた時、前回レギュと日刊預言者新聞に載っていた時はレギュとの事を問いただされる事はなかった。
「日刊預言者新聞に載っている仲睦まじい様子の写真!本当に憎たらしい!あの男との関係、お聞かせ頂きたい!」
興奮しているクィリナスをまあまあ、と宥める。
『今回は私もビックリしたのよ。突然目の前に現れたんだもの。知らせてくれても良かったのに』
「なるほど、あの男はユキを狙っているという意味ですね」
『?? グライドは良い人よ。闇の勢力と共に戦ってくれる「違います!」
クィリナスはピシャリと言った。
「どうして貴方はこう、鈍いのでしょうね。私が言いたいのはこの男もまた、ユキに恋心を抱き、あなたの恋人の座を狙っているという事です」
『そ、そんなハッキリ言わないでよ!』
パッと自分の顔が赤くなるのを感じる。
私の顔を見てクィリナスが目を見開いた。
「ほう……その様子だと既にこのグライドという男から想いを告げられたようですね」
『そんな事どうでもいいでしょ!』
「どうでもいいなんて事はありません。グライド・チェーレン……あ奴、どうしてくれよう……」
『落ち着こう!落ち着こうね、クィリナス!』
何やら「どんな呪いをくれてやろうか」などとブツブツ呟いているクィリナス。この人、危険だわ……知っていたけど。
「ユキ!」
シリウスが丘を登ってきた。
「今日の夜だな。調子はどうだ?」
『ばっちりよ』
私は未だにブツブツ呟いているクィリナスに背を向けてシリウスに微笑む。
今日は三大魔法学校対抗試合で行う試合に危険がないか(とはいっても危険が全くないとは言い切れないが)事前に確かめる日なのだ。
私は2度その“お試し”を行うことになっている。
一度目は忍術で。
これはボーバトン、ダームストラング、魔法省の人に忍術がどういうものであるか見てもらうためだ。
そして2回目は杖のみを使って。
これは勿論生徒が試合をする時と条件を同じくする為だ。
「ユキの勇姿を見るのが楽しみです。私も見に行きます」
クィリナスが微笑む。
「初めの課題は何なんだろうな?」
『分からないけど生徒にとって危険すぎるものでない事を祈るわ』
「そうだな」
いつものように鍛錬を終え、
時間は過ぎていく
日が傾いていき
紫色だった空が暗く染まった
ユキは忍装束に着替えて第一の課題が行われる競技場へと向かった。
競技はクィディッチのスタジアムで行われることになっていた。
「雪野教授」
「バグマンさん」
競技場の入口でバグマンさんが立っていた。
「フィールドに用意は出来ていますのでここで競技について説明させて頂きます」
『お願いします』
「競技場にはある生き物がおります。そしてその生き物が守る金の卵を取って頂きます。金色の卵以外が割れたら減点となります。よろしいですか?」
『分かりました』
「では、準備が出来ましたら中へお入りください」
どんな生き物が待っているのだろう?
私は久しぶりに心がワクワクしているのを感じていた。
バグマンさんに指示された学生の時によく通った選手入口の通路を通って行き、私はフィールドへと出た。
眩しい。
フィールドは全面スポットライトで照らされていた。
「ユキ!頑張れよっ」
後ろを振り返るとシリウスが手すりに腕を乗せて楽しそうにニッと笑っていた。
「ユキ」
『セブ』
「気をつけろ」
『うん!』
「生き物には優しくしろという言葉が『そっち!?』
もう!優しい言葉をかけてくれたと思ったのに!
セブの言葉にガクリと項垂れてから、視線を客席へ戻す。
セブが座っている席から上へと視線を移すと校長が3人、そしてバグマン氏、クラウチ氏、それからチェーレン氏―――レギュが横並び一列に座っていた。
それにホグワーツの先生はみんな見に来て下さっていた。
「それでは試合開始です」
ピーーー
バグマンさんが笛を鳴らす。
ダンブーの横に置いてある大きな時計が時を刻み始めた。
私は目の前にある巨大な岩陰から顔を覗かせる。
『あら。これは凶暴そうね』
自然と嬉しそうに跳ねた自分の声に苦笑する。
岩の間から見えたのは両翼を半分ほど開き、邪悪な黄色い目をして周囲を警戒しているドラゴンの姿だった。
鱗に覆われた青緑色の大きなトカゲのような姿。棘だらけの尻尾を苛立たし気に地面に打ち付けている。
ドラゴンの下には硬い地面に、幅1メートルもの溝が削りこまれてあった。
金色の卵はドラゴンの前足に守られている。
まだドラゴンは私には気づいていない。
さて、どの術を使おうか。
私は審査員席を見た。
せっかくなら、ド派手な術がいいわよね。
それから今、習得中の術を試させてもらおう。
私は地面をピョンと蹴り、隠れていた岩の上に飛び乗った。
ドラゴンの黄色い目が私を捉え、ドラゴンは咆哮を上げる。
『多重影分身の術』
ポン ポン ポン
金色の卵が1つ。白い卵が5つ。
私は影分身を自分が出せる最大数。
二十数体出した。
『行くわよ!』
私と影分身は一斉にドラゴンへと向かっていく。
「よっと」
「行け」
1人の影分身が両手を組み、別の影分身がその手に乗って高く飛翔する。
大勢で襲ってきた私と影分身を見てドラゴンが立ち上がる。そして、咆哮を上げながら火を口から吐き出した。
「水遁・水鮫弾の術」
ドラゴンの方へと飛んでいった影分身が術を唱える。
ドラゴンの炎と影分身の放ったサメを象った水の塊が衝突した。
ぶつかり合い消失する炎と水の塊。
観客席から「おぉ!」という歓声と拍手が沸いた。
術を放った影分身は一度地面に下り、大きな岩に飛び乗り、そして飛び上がった。
影分身はドラゴンの横っ面を思い切り蹴る。
怒るドラゴンは横っ面を叩いた影分身を追うように一歩踏み出す。
その瞬間に岩陰に隠れていた影分身が一斉に飛び出した。
<ギャアアアオ>
ドラゴンが気づいた時にはもう遅い。
全ての白い卵は私の影分身が奪い取っていた。
怒り、炎を吐き出すドラゴンだが、私の影分身たちは既に炎が届かない場所へと移動していた。
『さて、色々試させてもらいましょう』
卵を一箇所に集めた影分身を全て消し去り、フィールドには私とドラゴンだけになる。
私は登っていた岩を蹴ってドラゴンへと向かっていく。
ゴオオォと噴出される炎。
『火遁・火炎砲』
炎と炎のぶつかり合い。
私は心の中でニヤリと笑った。
どうやらこれは私の勝ちのようだ。
ドラゴンの炎に打ち勝った私の炎がドラゴンの顔に吹きかかる。
ドラゴンから発せられる悲鳴。
『うっ。良心が痛む。ちょっと待ってて。水遁・水鉄砲』
勢いよく私の口から噴射される水がドラゴンの顔にかかる。これで少しは火傷の痛みが和らいだかしら?
ブルブルと水を落とすように顔を振るドラゴン。
私はここで飛んだ思い違いをしている事に気がついた。
ドラゴンの厚い皮は私の火遁の術の炎など何ともなかったのだ。
『それなら、遠慮はなしね』
私は最近習得をした大技を試すことにした。
『風遁』
私の両手の先から風が起こる。
地面から伸びていく竜巻。
フィールド上にある岩という岩が空宙に持ち上がる。
『風神の術!』
再び観客席からどよめきと歓声が上がった。
大きな岩をぶつけられて、一歩、また一歩と後退していくドラゴン。
後は簡単だった。
私はトトトっと走って行って、ドラゴンが守っていた金色の卵を奪う。
ピーーーーーー
「試合終了!」
バグマンさんが終了の笛を吹く。
拍手をしてくれる先生方。
私は後ろを振り向き、一礼したのだった。
「雪野教授」
『チャーリー!来ていたのね』
「はい。お久しぶりです」
見知った顔に笑顔になる。
目の前にはクィディッチワールドカップでアーサーさんに紹介された彼の息子のチャーリーの姿があった。
『もしかしてドラゴン使いなの?』
「はい。そうです」
『危険な職業ね』
「そうですね。でも、楽しいですよ、奴らと関わるのは」
チャーリーは白い歯をニッと見せながら楽しそうに笑った。
「金の卵をお預かりします。2戦目の準備をしたいので」
『お願いするわね』
金色の卵をチャーリーに渡す。
ドラゴンを見る。
ドラゴンはたくさんのドラゴン使いに取り囲まれ、失神呪文を放たれている。
「ユキ、怪我はありませんね?」
声がして上を見ればマダム・ポンフリーがいた。
『大丈夫です。かすり傷一つありませんよ』
「それは良かったです」
2回目の試合の準備の為に少し時間が必要だった。
フィールドを蹴り、私は観客席へと着地する。
「やっぱりお前、すげぇのな」
『ありがと、シリウス』
「ドラゴンが気の毒になる程であった」
『あれでも加減した方なのよ?』
セブに肩をすくめて見せていると階段を下りてくる音が聞こえてきた。レギュが私のもとへとやってくる。
「相変わらずお強いですね」
『ありがとう』
「あなたは確か……クィディッチワールドカップでユキ……雪野教授と共闘していたブルガリア魔法省の方でしたね」
と、シリウス。
「えぇ。そうです。初めまして。私はグライド・チェーレンと申します」
「私はシリウス・ブラックです」
レギュが差し出した手をシリウスが握る。
なんか不思議な感じね……
兄弟が知らぬ人同士として握手している姿を見て思う。
「セブルス・スネイプだ」
「宜しくお願いします、スネイプ教授」
レギュはセブとも握手を交わす。
「「「……」」」
その後、沈黙が訪れた。
何?
みんなお互いの出方を伺っているような感じだ。
みんな何を考えているのだろう?と思っていると
「「「ユキ(先生)」」」
3人同時に名前を呼ばれた。
パッと3人は顔を見合わせ合う。
『ふふ。どうしたの?』
「いや、Mr.チェーレンからお先に」
「いえ、スネイプ教授かブラックさんからお先に」
「いや、Mr.チェーレン、貴方から先に」
見つめ合う三人の男たち。
『ぷっ。なんか面白い』
三人の困った顔を見て思わず吹き出してしまう。
『時間も無さそうだし私から指名させて。セブからどうぞ』
「あぁ、では……ユキ、杖での試合、作戦は立てているのか?」
『あ……』
「あってお前……」
シリウスが呆れたように言う。
「ユキ先生は魔法界に来てからまだ4年経っていないですよね?先ほどのように上手くはいかないと思います。何か策を一緒に考えましょう。あなたの力になりたいです」
『ありがとう。でも、生徒たちも何の手助けもなしにやらなきゃいけない事だから私自身で考えるわ』
ニコリとレギュに微笑みかける。
「しかし……チェーレンさんは随分ユキと親しそうですね」
「えぇ。実は、今ユキ先生を口説き落としているところなんですよ」
「「!?!?」」
『グライド!』
突然の爆弾発言に思わず声を大きくする。
「ほう。それはそれは……」
「これは黙って見ていられなさそうだ」
バチバチ
ピリピリとした殺気に似た空気が私たちの周りを覆う。
「フォッフォッフォッ。三つ巴じゃの!」
嬉々としたダンブーの声に振り返る。
げっ。
いつの間にか私たちの近くまで寄ってきていたダンブーは何やらメモを取りながらキラキラした目で笑っていたのだった。
「雪野教授、そろそろ2回戦が始まりますのでスタンバイを」
『はい、バグマンさん。じゃあね、みんな』
私は客席からフィールドへ飛び降りる。
岩の位置も初めと同じように戻っていた。
1回戦で初めに隠れた岩陰から顔を出せばドラゴンは既に失神呪文から回復していた。
そしてギロリ。
私に気づいて物凄い殺気を放っている。
うわーやりにくそう。
でも、ドラゴンを不必要に傷つけたくはなかった。
『アクシオ!』
しーん
む、無理よね。
苦笑しながらドラゴンの方へと歩いて行く。
ドラゴンの出せる炎の距離は先ほどの試合で分かっていた。私はそのギリギリまで近づき杖を構える。
『エクスペクト・パトローナム』
杖から銀色の狐が飛び出した。
ふわり ふわり
銀色の九尾の狐は尻尾を振りながらドラゴンの気を引く。
『ピエルトータム ロコモーター』
周りの岩に呪文を唱えると、岩はジリジリとドラゴンの方へと動いた。
私は今隠れている岩から1つ、また1つとドラゴンに近い岩の影へと隠れる。
私の存在にドラゴンは気づいていない。
『アイゼン ヴァント』
小声で呪文を数回唱える。
ドラゴンがパトローナスを追っているうちに鉄でできた壁をドラゴンと卵の間に作り、卵たちを守る。
私はさっとドラゴンの前へ出た。
ドラゴンと私の視線が合う。
『エントランシング エンチャントメンツ』
魅惑の呪文を放つ。
私なんかに魅力なんて……などとこういう時に考えていてはいけない。私は思い切り杖を振る。
ピンク色の閃光が当たったドラゴンの目がトロンとした目に変わった。
私は岩陰から飛び出して金色の卵を取る。
『よし!』
ピーーーーーー
笛が吹かれてバグマンさんが終了を告げた。
しかし、その時だった。
<ギャオオオオオオ>
急にドラゴンにかけた魅惑の呪文が解けた。
私を睨みつけるドラゴン。
ドラゴンの口が大きく開かれる。
私は思い切り地面を蹴って飛び上がった。
先程まで私がいた地面が炎に包まれている。
急に魔法が解けるなんて……私の魔法のかけ方が甘かった……?私の魅力が足りなかった?(これは考えたくないな……)
いや、でも―――――
「雪野教授!」
ドラゴン使いたちがこちらへと走ってきてくれるのが見える。
『大丈夫よ、チャーリー!』
落下中の私の前にはドラゴンの顔。
私は空中で体を捻った。
チャクラを足に集中させる。
これで先ほどの数倍の威力でケリが出せる。
私は思い切りドラゴンの横っ面を蹴り飛ばした。
<グウウウゥゥ>
ドスン
脳震盪を起こして地面へと倒れるドラゴン。
「わーお」
チャーリーが目を見開いて私とドラゴンを見比べる。
「雪野教授、真剣に転職を考えてみません?」
『ふふ。ホグワーツをクビになったらね』
私はチャーリーに微笑みながら金色の卵をポンポンと叩いたのだった。
バグマンさんから第2の課題はこの卵にヒントが隠されていると告げられた私。
「お疲れ様、ユキ」
ミネルバをはじめ、声をかけて下さる先生方を見送って、競技場に残ったのは私、セブ、シリウス、レギュの4人になった。
「お前の魅惑の呪文は効いていたはずだ」
『やっぱり?セブもそう思った?』
「俺もコイツと同意見だ」
「僕もです。どうして呪文が解けてしまったのか……」
『なにか嫌な予感がするわね』
「取り敢えずはお前に怪我がなくて良かったが……」
セブが眉を顰める。
『生徒たちの時が心配だわ。警戒しておかなくちゃいけない。特にハリーの時に』
私の言葉に3人が頷く。
「お前もハリー同様に狙われている。これから先、油断するなよ、ユキ」
『気をつけるわ、シリウス』
「ですが、魅惑の呪文を消し去った犯人は何故、教員とクラウチ氏、バグマン氏しかいない今行動を起こしたのでしょう?」
レギュが不思議そうに呟く。
『確かにそうね。何故かしら……?だけど、そうね……犯人は元から絞られていた。ダームストラング、ボーバトン、クラウチ氏、バグマン氏、それか教員を殺して入れ替わったか、に。呪文を解いた誰かは、きっと運がよければ私を亡き者に出来ると軽率に判断したんじゃないかしら』
「軽率に……我輩はそれよりも待てないほどお前が憎いと思えたがね」
『私、誰かに憎まれるような事したかしら?』
「「「しているだろ(でしょう)!クィディッチワールドカップの時に!」」」
『ふふっ』
揃った声に笑ってしまう。
顔を見合わせて若干嫌そうな顔をする3人。
『じゃあ私は一足先に帰らせてもらうわね。お腹減っちゃった』
「あ、待て!送る」
『ありがとう、シリウス。でも、必要ないわ』
私は彼らにヒラヒラと手を振ってフィールドへと飛び降りる。こちらから帰ったほうが近いのだ。
『お腹減った~』
テクテクと普段はクィディッチ選手が歩く廊下を歩いて行く。そして、角に差し掛かった時だった。
『っ!?』
私は瞬間的に飛び退いた。
何かがいる。
『何者!?』
苦無を構える。
相手は目くらまし術のかかったマントでも着ているのだろう、姿が見えない。
全神経を集中させて相手の居所を探る。
張り詰める緊張。を破ったのは聞き慣れた声。
「私でっ!?」
『ひっ。クィリナスごめん!』
私は声が発せられたと同時に苦無を放っていた。
空中で止まっている苦無。
『クィリナス!どこに当たったの!?』
「か、肩に……」
私はホッと息を吐き出す。
喉や頭、心臓に当たっていなくて良かった。
『馬鹿!もう少し普通の現れ方してよ』
「私はユキの驚く顔が好きなのです。ふふ、この位軽い代償です」
『……。と、兎に角、治療するわ。私の部屋に行きましょう』
今は夜だ。ひと目はない。
クィリナスは私の放った苦無を肩にぶっ刺したまま私の後をついてくる。
『解』
部屋に入って治療を開始する。
まずは苦無を引き抜き、患部に手を添えて血を止める。そして、ちょうど大量に作っていた傷薬を患部に塗った。
「ユキの治療はいつも完璧です」
『ありがとう。それから、怪我をさせてしまってごめんなさい』
「いいのですよ。ユキにつけられた傷だと思うとこの痛みすら私には快感なのですから。あぁ愛おしささえ感じる……」
『……』
「それより、今日の試合のことです」
ざっくりとクィリナスが話を変えた。
『っもしかして犯人を特定できた!?』
「いえ。残念ながら私は試合の間中ユキに夢中でしたから分かりませんでした」
『そう……』
「ですが、前よりも的は絞られました……紅茶を飲みますか?」
『うん、淹れるね』
「いえ、私にさせて下さい」
『ありがとう』
クィリナスはキッチンからティーセットを持ってきてくれ、コポコポと紅茶をカップに注いだ。
「ボーバトン、ダームストラングの生徒の中に犯人はいない。これは大きな収穫です」
『そうね』
「私のユキを傷つけようとした奴……許しません」
妖しく光るクィリナスの目
「覚悟するがいい……」
ユキはゴクリと唾を飲み込む
「犯人はこのクィリナス・クィレルが必ず見つけ出します」
手を取られ、口づけが落とされ
ユキはビクリと肩を跳ねさせる
「犯人よ、お前を必ず地獄へと落としてやる……」
色々な意味で怖い。
ユキはクィリナスの前で顔を引きつらせていたのだった。