第1章 優しき蝙蝠
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13.クリスマス
ホグワーツはフカフカの深い雪に覆われ、湖はスケートができるくらい凍りついていた。
猛吹雪の中でもウィーズリーの双子は雪玉をクィレルのターバンの後ろでポンポン跳ねさせて罰則を受けたり、ピーブズが夜中水をまいて廊下を凍らせたりとホグワーツは毎日賑やかだ。
魔法薬学を終えたハリーたちが地下牢教室を出るとモミの木を大広間に運んでいる途中のハグリッドと出会った。
もうすぐクリスマス。
「やあ、ハグリッド手伝おうか?」
「いんや、大丈夫だ。ありがとな、ロン」
「ウィーズリーお小遣い稼ぎか?」
そこへやって来たドラコの気取った声にロンはすでに臨戦態勢。
「君もホグワーツを出たら森の番人になりたいだろう――――」
「黙れっ!」
「ウィーズリー!」
ロンがドラコの胸ぐらを掴もうとしたその時、バリトンの強い声が辺りに響きわたる。
「スネイプ教授、マルフォイがロンの家族を侮辱したんですよ」
ハグリッドが庇うが、グリフィンドールを目の敵にしているスネイプが取り合うはずもない。
良い獲物を見つけたと口の端を上げていた。
「そうだとしても、喧嘩は「先生早っ」ホグワーツの校則違反「行くぜ相棒」だろう、ハグリッド。ウィーズリー、グリフィン「ふふ、まだまだよっ!」……グリフィンドール、十て「「うわぁぁ忍術使わないでよっ」」おい、貴様ら一体何ぐふっ!」
バシュン
『あ、しまった』
雪に覆われた庭の真ん中で投球直後のポーズの忍術学教師は白熱した雪合戦で鼻と頬を赤くしたまま固まった。
ウィーズリー家の双子を狙った雪玉は見事スネイプの口にヒット。
「うわぁお、ユキ先生スゴイや」
間の抜けたロンの声で呆気にとられていた、その場の全員が動き出す。
「「楽しかったです。ありがとうございました」」
頭を下げて走り出す双子。
『た、旅は道連れ!ってことで縄縛りの術』
双子はユキの術で頭から雪に突っ込んだ。
『フフ。私から逃げるなんて百年ぐふぇっ』
満足げに笑ったユキだったがスネイプの杖のひと振りで同じように雪の中に頭から突っ込む。
スネイプはご丁寧にユキも縄で縛った。
ご機嫌取りに「縛るの上手いですね!」と褒めるユキの頬をスネイプが引っ張り上げる。何を想像していたのかドラコが顔を紅潮させていた。
中庭のど真ん中。
三人揃って雪上正座。
「これはどういう事か説明して頂きたいものですな、Ms.雪野」
ハリーをいたぶる時と同じような猫なで声。
ハッキリ「呪ってやる」と書いてあるスネイプの顔を見てユキの目は泳ぐ。
『あー故意ではないんですよ、決して。勢い余ってスネイプ教授に当たっちゃって』
しどろもどろになりながら言い、上を見上げると非常に凶悪そうな顔があった。
「君は、ここで一体、何をしていたのだね」
一語一語を強調するスネイプ。
ユキの顔が輝いた。
『スネイプ教授も一緒に雪合戦やりひゃかっふぁ』
スネイプが今度は思い切りユキの耳を引っ張った。
『ツボが刺激されていい感じ、いえ、黙ります何でもないです』
「全く。それでも君は教師かね?」
『教師が雪合戦しちゃいけないなんて聞いてませんよぉ』
そろそろ足が冷たい。
どうしたものか。
「ねぇ、ハグリッド。モミの木を大広間に持っていかなくていいの?」
場の空気を破ってハーマイオニーが登場。
「ん?あぁ、ハーマイオニーか。あーそれじゃあ、俺たちはこれで」
ハグリッドはユキたちに頑張れ、とウィンク。
「君、いつから居たんだい?」
「ここは寒いわ、中に入りましょ」
「でも、ユキ先生が」
名残惜しそうなハリーの手を引くハーマイオニー。
ポンッ
何かが小さくはじける音。
視線はモミの木から破裂音の方へ。
双子の間には縄に縛られた雪だるま。
「グレンジャー」
脅すような声でギギギと音が鳴るように振り向いたハーマイオニーはロンとハリーを盾に全速力で走り出す。
その姿は途中で弾けユキの姿へ。
『すまない。寒くて正座もう無理!』
「「えーーーーー!」」
双子絶叫
『君たちは若いから大丈夫だよ』
ユキは生徒を見捨て、意気揚々走り去っていく。
あと一日で休暇に入る。
休暇中、逃げ回ってうやむやにしてしまおう。
あと少しで室内に入るユキの体が宙に浮き上がる。
ユキの体は空中に浮きながらグングンと凄い勢いで庭に引き出され、双子を飛び越えて雪の中に墜落した。
『???』
ユキは目を白黒させてスネイプを見るが彼も驚いた顔をしている。
ユキの体を覆う人影。
仰向けになって倒れていたユキの視界には腕組みをし、黒いオーラを放つクィレルが入ってきた。
「ウ、ウィーズリーの双子が雪玉へのま、魔法のかけ方を君から教えてもらったと、い、言ったので探していたのですよ」
こちらも凶悪な顔。
『あの魔法、クィレル教授に使ったの!?』
ユキがガバッと起き上がり双子を見ると明後日の方向を向いていた。
先ほど見捨てたので自業自得といえば自業自得。
前にスネイプ
後ろにクィレル
「雪野」
「ユキ」
背中に流れる冷や汗。
向けられる杖先。
け、消されるぅ!
ユキはハリーたちが遠巻きに見守る中、逃げ道を見つけようと頭をフル回転させる。
その時ピコンと術が思いついた。
ここは、あれだ
アレしかない
消されるよりマシだよね!
ユキはサクッと印を結び睨む二人を見てニッと笑う。
不審げな顔をした二人が目を瞬く。
『おいろけの術!』
ポフッ
「「!?」」
広がる白煙。
徐々に消えていく煙。
しかし消えた煙の中には誰もおらず、スネイプとクィレルが投げたマントだけが残されていた。
『なんでマント投げたんだろ』
地上から数十メートルの高さでユキが呟く。
「この鳥すごいね」
「箒以外で飛ぶのはじめてだよ」
『落ちないようにね』
上機嫌で目を輝かせる双子は生徒を置き去りにして逃亡したユキを許してくれたようだ。
「それに、まさかユキ先生があんなこと言うなんて」
「スネイプとクィレルから逃げ切れるなんて」
「「さすが僕たちの師匠だね!」」
ここはユキが口寄せの術で出した大きな鳥、炎帝の上。
「おいろけの術みたかったな」
「あの術ほんとにあるの?」
『フフ。どうかしらね』
ユキは興味津々の双子を曖昧な笑みで誤魔化した。
***
クリスマスの朝、3時。
ユキがリビングに行くと小さなクリスマスツリーの前にプレゼントの山が出来ていた。
初めてのクリスマス。
クリスマスについて調べ、雑誌を読みあさり、城内の飾りつけに心をときめかせて、プレゼントを買いに行き、指折り数えてこの日を本当に楽しみにしていた。
昨日サンタクロースの真似をして箒で夜空を飛び回るほどに。
少しドキドキしながらプレゼントを開けていく。
ダンブルドア校長からサイン入りの自作小説三冊。ドラコからは濃い緑に銀の刺繍のついかカチューシャ。
ハーマイオニーからマグルの料理の本。
ハリーから銀色のフレームに淡いピンク色のハートや花が装飾されている写真立て。中ではユキとハリーが暴れ柳の周りで箒に乗って遊んでいる。
『動く写真!どういう仕組みかしら?』
ウィーズリー家から手編みの菫色のセーター。
洋服買ってたのに、着たことなかったな。
寝室に戻りズボンとブーツをはき、白いシャツを着て上からセーターを被り寝室へ。
鏡の前でクルクル回ってみてからリビングへ。
最後に残った包が三つ。
手近の箱を開けてみる。
「綺麗」
思わず声が漏れる。
しずくのモチーフの中にダイヤが揺れるピンクゴールドの華奢なネックレス。
二番目のシャツのボタンを外し、ネックレスをつけ寝室の鏡で見る。
ネックレスは私の肌になじむ色だ。
リビングに戻り送り主のカードを開く。
――― このネックレスに相応しい振る舞いになることを願って S.S.――
『わぁ!よくわかんないけど、頑張る。頑張る!』
次の箱を手に取り開ける。
イエローゴールドの細い三連チェーンに真珠があしらわれているブレスレット。
上品なデザインで腕を動かしても邪魔にならないのがいい。
――― 守護の力を持つパールが 私の代わりに いつもあなたを守りますように C.C.―――
『パワーストーン!コレお守りなんだ。おもしろいわね』
手をかざして、もう一度ブレスレットを眺めてから最後の箱を開ける。カードはない。
入っていたのはシンプルなシルバーリング。
『!?』
手に取ろうとしたが寸前で引っ込める。
悪寒。
何かの呪いがかかっているのが感じられる。
包み直し、封印の札を貼り、更に封印の施してある実験室の戸棚にしまいこむ。
ユキの瞳は闇よりも暗かった。
***
生徒のほとんどは家に帰っていて生徒の数はずいぶんと少ない。
スリザリンの生徒はゼロだし、ハッフルパフとレイブンクローも全学年合わせて十人ずつ。
グリフィンドールもハリーとウィーズリー兄弟を含めて十人だ。
ユキはクリスマスプレゼントとして帽子をくれたスリザリンの生徒と学校に残る生徒たちに一時間ほど使役できる式神を贈っていた。
注意事項もきっちり書いた上、大層なことは出来ないので悪戯グッズのようなものだが、とりあえず中庭に集まった生徒たちは喜んでくれたらしい。
生徒たちの笑顔にほっとする。
「ユキ先生セーター着てくれたんだね」
『プレゼントありがとうロン。このセーター手作り?』
「ウィーズリー家特製セーターさ」
「今年ばかりは母さんに感謝だね」
「「今日の師匠はいつも以上に最高だよ!」」
双子とロンも同じ手編みのセーター。
『なんだか、家族になった気分で嬉しいわ』
「それじゃあ、僕とユキ先生が夫婦ですね」
とエメラルドグリーン色のセーターを着たハリーが言う。
「あ!ハリーが抜けがけしてるぜ兄弟」
「戦闘開始だっ」
「うわっ」
『ルールは杖なしね』
双子の投げた雪を皮切りに雪合戦が始まる。
通りかかったマクゴナガル教授は笑いながら雪の防御壁を、フリットウィック教授は雪を投げる雪だるまを魔法で出してくれた。
スプラウト教授が持ってきてくれた温かいココアで休憩。
校長先生の参加で雪合戦はさらに盛り上がる。
雪合戦を見つけたスネイプ教授は杖を使って私と校長に大きな雪玉をいくつか顔面にヒットさせて、満足そうに歩き去っていった。
ダンブルドア校長は「反則じゃああぁぁ」と叫びながらスネイプ教授を追いかけて消えた。
結局、雪合戦は夕食まで続き、皆で中庭から大広間へとなだれ込む。
「すごーい」
テーブルの上には素晴らしいご馳走。
柊や宿り木の飾られた壁に、それぞれ飾りつけの違うクリスマスツリー。夢の世界のようだ。
今日は夏休みと同じく大広間の真ん中に長テーブルを置いている。
二人が贈ったプレゼントを身につけてきてくれて嬉しい。
スネイプ教授にはスリザリンカラーのスカーフ、クィレル教授にはネクタイ。
私はプレゼントのお礼を言い、いつもの席であるスネイプ教授とクィレル教授の間に座った。
「お、驚きました。い、いつもの着物姿もあ、艶やかですが、カジュアルな服装もよくに、似合ってます」
「ユキは可愛いから何でもよく似合うのう……セブルス止めるのじゃっ!」
「!?っMs.雪野、待て。それはクラッカーだ」
スネイプ教授が私の手をガシっと掴んだ。
噛み損ねた私の歯がカチリと鳴った。
『私、クラッカー好きですよ。この大きさなら一人で食べちゃいます』
「はぁぁ。違う馬鹿者。このクラッカーは食べ物ではない。パーティーグッズだ。ここの紐を引っ張って使う」
『初めて見ました!私、引っ張っていいですか?』
「あぁ。構わな、我輩に向けるな、上に向けろ。その方向にはロウソクがあるだろう、そっちは……持っているから君が紐を引きなさい」
スネイプ教授に手伝ってもらってクラッカーの紐を引っ張る。
バーーンと大きな音がしてクラッカーからモクモクと緑色の煙が出てきた。
煙の中からまず飛び出した青い鳥は可愛い声で鳴きながらスネイプ教授と私の周りを飛び回りどこかへ消えていった。
他にも、花飾りのついた帽子(ダンブルドアがアクシオして自分に引き寄せた)、ジョークの紙、チョコレートのコウモリ(食べた)、花やシャボン玉が飛び出した。
お腹いっぱいに夕食を食べ、クラッカーから飛び出たトランプやUNOのカードも手に入れた。
満足だ、と顔を上げたとき、酔った勢いでマクゴナガル教授にキスをしたハグリッドを見て顔が赤くなる。
目線をどこに向けたらいいかとキョロキョロすると、自分の頭上に緑の草があるのに気がついた。
『これは……宿り木?』
クラッカーのおまけだろうか。
掴もうとしたが、ヒョイっと逃げられてしまう。
意地になって手を伸ばすが右へ左へと避けられる。
「み、Ms.雪野。それは、取れないとお、思いますよ」
『クラッカーのおまけだと思ったのですが。なぜ宿り木が?』
「ク、クリスマスですからね。クリスマスの日にヤ、宿り木の下にいる女性に男性はキスする事をゆ、許されるのですよ。キスした男性はそのヤ、宿り木の実を摘む風習があ、あります」
『だから、この宿り木は掴めないのですね。でも、そう言われると余計に自分で掴みたくなります』
雪合戦で疲れ、満腹になり眠くなった生徒たちが夜の挨拶をして寮に戻っていき、パーティーは自然にお開き状態になっている。
多少飛んだり跳ねたりしても邪魔にならないと思い、何とか宿り木を掴んでみようと椅子から立ち上がった。
「ユキ先生!」
影分身を唱えようかと考えていた時、ハリーが駆けてきてそのまま私に抱きついた。
呆れ顔で様子を見ていたスネイプ教授とクィレル教授が固まった。
『どうしたの?』
「ねぇ、少し屈んで」
内緒の話?
かがんで目線をハリーと同じ高さに合わせる。
チュッ
『!?』
ほっぺに軽いキス。
「宿り木の実もーらいっ。ユキ先生、メリークリスマス!」
「「ポッター!!」」
ハリーは減点される間もなく大広間から姿を消した。
わあぁ体が熱くなっていく!
「ま、全く何をか、考えているんだ!」
「Ms.雪野、君も教師なら少しは……」
混乱しながら二人の方を見ると私の顔を見たスネイプ教授が顔を顰めた。
「お前、まさか生徒に恋愛感情を」
『れ、恋愛!?違いますよ。ただ……』
「ただ、何です?」
吃るのを忘れたクィレル教授が聞いた。
『ただ、私の国にはそういった風習がないんです。キスも初めてで。だから何だか照れちゃって。慣れないといけないですね』
初めてのキスで頭がボーっとする。部屋に戻って頭を冷やそう。
私はあたふたとクラッカーのおまけをかき集め、残っていた先生に軽く挨拶をし大広間から出ていった。
「思わぬところに伏兵がいたようですね」
「ふぉっふぉっ。二人ともハリーに先を越されたようじゃの~」
カラカラと笑う二人の策士。
スネイプとクィレルはそれぞれ密かに打倒ポッターを誓っていた。
なぜ我輩はこのような感情を?
決して嫉妬ではない。
教師に馬鹿な真似をしたから思ったのだとスネイプはどうにか自分を納得させていた。