第5章 慕う黒犬
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8.炎のゴブレッド
「師匠!」
「今、お時間宜しいですか?」
「「師匠に聞きたいことがあるんだ!!」」
庭を突っ切って歩いていると藪の影からフレッドとジョージが飛び出してきた。
ニコニコ笑う彼らの考えていることは……うーん。悪戯の予感しかしない。
でも、学生時代は悪戯大好き。先生たちを困らせていた悪ガキだった私。フレッドとジョージに『なあに?』と首を傾げた。
「こっちきて、師匠」
ジョージに手を引っ張られて中庭の椅子に座らされる。
「聞きたい事があるんだ。師匠は変化の術で大人になったり子供になったり出来るでしょう?」
「僕たちにそのやり方を教えて下さいませんか?」
『この術は難しいわよ。私が赴任してきた時の1年生が5年生になる時に教えるつもりでいる術だから……』
「「それでも教えて欲しいんだ。早急に!」」
声を揃えて言う双子に首を傾げる。
『早急にって言っても……あ!』
私は2人の顔を交互に見て呆れた溜息を吐き出す。
何となく、こんな事を言ってきた予想がついた。
『あなたたち、炎のゴブレッドの年齢線を越えようとしているのでしょう?』
「さっすが師匠!」
「僕たちの考えている事はお見通しってわけですね!」
にやっと笑う彼らの前で苦笑い。
『2人とも、いい?炎のゴブレッドはダンブルドア校長先生自らが年齢線を引いたのよ?越えられるわけが無いわ』
「でも、忍術なら越えられるかもしれない」
「ダンブルドア校長先生も忍術で予防線を越えるとは思ってもみないでしょうから」
「もしかしてユキ先生、ダンブルドア校長先生に協力して忍術で予防線を越えられないようにしてしまった?」
フレッドが眉をハの字にして聞く。
『いいえ。私は何もしていないわ』
パッと顔を明るくする2人。
「それじゃあ僕たちに変化の術を教えてください!」
「どうか!」
熱心に頼み込む双子。ここまで頼み込まれたら教師として無下に出来ない。
『分かったわ。でも、覚悟はいい?この術は難しいから厳しく練習するわよ。それから、言っておきますけど予防線を越えられなくても責任は持ちません。あと、他言無用ですからね……とは言っても忍術を使った時点で教えたのが私だってバレちゃうのか……』
ううむ。と考え込んでしまう。
そんな私にふたりは両手を合わせて頼み込んでくる。
「師匠頼むよ」
「僕たち、誰かに聞かれたらただ純粋に忍術に興味があって習っただけだって言うからさ」
縋るような目に押される私はついには降参した。
『分かった。じゃあ、今日の放課後から練習しましょう』
「「やった!」」
ニッと笑う私の前でウィーズリーの双子の兄弟は明るい笑顔を弾けさせた。
結果、フレッドとジョージの修行は上手くいった。
『まさか2人とも出来ちゃうなんてね』
「あぁ。驚きだ」
シリウスと共に変化の術をウィーズリーの双子に教えた私。今、目の前には一回り大きく成長した2人の姿がある。
『2人ともよく頑張ったわね』
「「ありがとうございます、ユキ先生、シリウス先生」」
「今からゴブレッドに名前を入れに行くのか?」
「はい。それから、実は予防策も練ってあるんです」
ジョージがジャーンとフラスコを取り出した。
『これは何の薬?』
「老け薬です」
とフレッド。
「お、考えたな」
楽しそうにシリウスが笑う。
「さあ、お前たちが予防線を越えられるかどうか見に行こうじゃないか」
私たちは揃ってゴブレッドがある大広間へと歩いて行く。
『ねえ、お願い。初めは変化の術じゃなくて老け薬で試してくれない?老け薬で上手くいったら忍術を使わなくていいでしょう?生徒のその……策略に加担したと知られたら私の立場が……」
「おいおい、今更そんなこと気にするなよ。悪戯には思い切りと根性だ」
『学生の頃と同じようにはいかないわよ』
シリウスの言葉に眉尻を下げる。
「OKです。初めは老け薬から試しますよ」
「さて、結果はいかに!」
楽しそうに言う双子の後を私とシリウスはついて行く。
開けっぴろげられていた樫の観音扉を通ると、昼食を食べている生徒たちがゴブレッドを見ていた。
パンをモグモグしながら見ている者。ゴブレッドの周りに集まって、友人が羊皮紙を入れるのを見て拍手をする者。
「フレッド、ジョージ。その手に持っているものはなんだい?」
グリフィンドール席に座っていたロンがやってきて話しかける。後ろからはハリーとハーマイオニーもついてきた。
「老け薬だよ」
「考えただろ?」
フレッドとジョージは興奮したように両手を擦り合わせながら言った。
「でも、そんなに上手くいくとは思えないけど……」
ハーマイオニーが眉を顰めるが、周りは盛り上がっていた。
グリフィンドール生、それにハッフルパフ、レイブンクロー生も何か楽しい事が始まると集まってきて、双子の周りにはちょっとした輪が出来ていた。
「よし。それじゃあ飲むぞ。まずは俺からだ」
まずはフレッドが一口。
そしてジョージが一口老け薬を飲む。
2人の姿は見る見るうちに先程と同じように一回り大きくなった。
周りから拍手がおこる。
「よし。それじゃあ同時に行こう」
「せーの」
2人は境界線を飛び越えた。
フレッドとジョージはキラキラとした顔を見合わせ、そして自分の名前を書いた羊皮紙を入れるためにゴブレッドに手を伸ばす。
「「せーのっ。ってうわああっ!!」」
一瞬、上手くいったのかも、と思ったがやはり甘かった。
ジュッと羊皮紙がゴブレッドから上がる魔法の炎に触れた瞬間、双子の体は金色の円の外にぽーんと放り出された。
二人は2,3、メートルも吹っ飛び、冷たい大理石の床に叩きつけられた。
泣きっ面に蜂、ならぬ恥。ポンと音を立ててふたりの顔には真っ白な長いヒゲが生えてきた。周りは笑いの渦に包まれる。
「忠告したはずじゃ」
面白がっている声が聞こえて振り向くと、生徒に混じってダンブーが立っていた。
「2人ともマダム・ポンフリーのところへ行くと良い。既に数人、お前さんたちと同じ理由でお世話になっているからの」
ダンブーが医務室に行くように促すが、双子は顔を見合わせた後、ダンブーに不敵な笑みを見せる。
「まだ挑戦は終わっていません」
「もう1つ秘策があるんです?」
「お!なんじゃ?」
楽しそうにダンブーの声が弾む。2人は面白がっているダンブーの前で印を組み始める。
「みなさんとくとご覧あれ!」
「ユキ先生とシリウス先生直伝!」
「「変化の術!!」」
ポンっ
ふたりの体が煙に包まれた。
そして、煙が消えていくとともに現れたのは先程と同じ一回り大きな姿のフレッドとジョージの姿だった。
「これはたまげた」
『どうでしょう?年齢線を越えられると思います?』
「これは見ものじゃな」
フォッフォッと楽しそうに笑いヒゲを震わせるダンブーや私、シリウス、生徒たちに見守られながら2人はもう一度年齢線を越えた。
そして、ジュッ
2人はもう1つ用意していた名前が書かれた羊皮紙をゴブレッドに入れた。
しかし――――――
ぽーーーんっ
ふたりの体がこちらへ飛んでくる。
『風遁・風蒲団』
双子の体を今度は床に叩きつけられないように受け止める。
「くっそーあと少しだったのに」
「残念無念!」
『2人とも、残念だったわね』
吹き飛ばされた衝撃で変化の術が解けてしまった双子は元の白いおヒゲのお爺さん姿に戻っている。
『さあ、医務室にいってらっしゃい』
双子はゲラゲラ笑っている親友のリー・ジョーダンに付き添われながら医務室へと向かったのだった。
***
ハロウィンの日がやってきた。
毎年この日は心が躍る。
大広間には生きたコウモリが群がっていて天井を飛び回っていたし、何百というお化けカボチャが学校中のあちこちに置かれていた。
私はルンルンとして廊下をセブと並んで歩いている。
『今年は私もお化けカボチャを彫ったのよ』
「何の必要があってそんな事をした」
セブが馬鹿げた事だと言ったような口調で言う。
私はちょうど自分が彫ったお化けカボチャを見つけたので持ち上げた。
『フフ。それは、こういう事をするためよ!発射!』
セブにお化けカボチャの真正面を向けた途端、お化けカボチャの口から七色の煙が噴射された。
「っ!?ゴホッ、ゴホッ……!?」
煙を手で払い除けていたセブの目が大きく開かれる。セブの服はいつもの真っ黒くろすけではなく、カボチャ色に変わっていたからだ。
「雪野、貴様~~~~!!」
『わーー怒られたっ。でも、似合っているよーだっ』
久しぶりの名字呼びに怒りを感じつつ、私はセブに怒られないうちにと廊下を走り出す。ビュンビュン後ろから飛んでくる魔法。
『廊下で魔法を使っちゃいけないって校則にあるって知ってる?』
「そんな、もの、知るか!!」
セブが放った呪文が壁に当たり、壁の石が弾け飛んだので近くにいた生徒が悲鳴を上げて頭を抱えた。
私たちの様子を見る生徒達は、セブのカボチャ色の服をあんぐりと口を開けて見ている者、魔法が当たらないように右往左往している者、はやし立てている者、などなど。
「反対呪文を教えろっ!馬鹿雪野!」
ゼーゼー荒い息をしながら後ろでセブが言っているのが聞こえた。どうやら私を追い掛け回すのを諦めたらしい。私はスキップしながらセブのもとへと向かう。
『反対呪文なんかないのです。これはゾンゴのお店で買った色付け魔法薬を改良したものだからって、きゃあっ!』
私がセブの前に来た時だった。
顔を上げたセブがニヤリと口角を上げた。
避ける間も無くビュンと杖が振られる。
しまった!油断した!!
「リクタスセンプラ!笑い続けよ」
『ひっ、アハハ!きゃはははは、く、苦しい~~ハハハっ、や、止めてっ』
リクタスセンプラで笑わされる私は腹筋が捩れてついには膝をつく。
みんなに注目されて恥ずかしい!
しかし、セブはそれでは飽き足らなかったらしい。ビュンと私に杖を振り、呪文をかける。浮き上がる私の体。
「我輩が着替えて帰ってくるまでここでそうして笑っているといい。ここにいる生徒に告ぐ、雪野の呪文を消した者は減点50点だ!」
セブルスの剣幕に青い顔になりながらコクコクと頷く生徒たち。
アズカバンの指名手配書に載っていそうな顔で歩き去るセブルス。
宙に浮いたまま笑い続ける忍術学教師。
ハロウィンの宴のはじまり15分前。廊下ではこんな事が起こっていたのであった。
『あー苦しかった。腹筋痛い』
「お前が馬鹿なことをするからだ」
『だからって生徒の前で笑って歪んだ顔をさらけ出さされるなんて酷い仕打ち、セブはとんだサディストだわ』
「そもそもお前が我輩の服を馬鹿げたカボチャ色に変えたのが悪いのであろう!」
「ん?今すっげぇ面白そうな言葉が聞こえたが?」
「五月蝿い!口を挟んでくるなブラック」
『セブがどういう風になったかは、私が作った悪戯カボチャで実体験させてあげる。後で楽しみにしていて』
「ハハ、お前この歳でまだそんな事やってたのか。流石はスリザリンの白蛇だな。俺も負けていられない。来年は覚悟しておけよ?」
そんな会話をしていると、ダンブー、マダム・マクシーム、カルカロフ校長、他先生らが席に着き、ハロウィンの宴が開始された。
食事はいつも通りカボチャをベースにした豪華な食事だった。
だが、生徒たちの関心は目の前の豪華な食事よりも別のところにあるらしい。大広間の誰もかれもが、首をのばし、待ちきれないという顔をしてソワソワしたり、立ち上がったりしている。
彼らが見ているのは大広間の中央に置かれた台座に乗った大きな金のゴブレッド。
今日は三大魔法学校対抗試合の代表選手が決まる日だ。
「ホグワーツの代表選手はグリフィンドール生に違いない」
「ふん。戯言を言うな」
セブがシリウスを鼻で笑った。
「その自信はどこからくる?」
セブの問いに対してシリウスは
「なにせグリフィンドールは勇敢な奴しか入れない寮だからな。代表選手はグリフィンドールで決まりだ」
と自信満々に言った。
セブはその言葉も鼻で笑ってから口を開く。
「お生憎だがお前の予想は外れるだろう、ブラック。グリフィンドールは猪突猛進しか知らぬ知性に欠ける者が多い。その点、我がスリザリン生たちは思慮深く、そして狡猾に課題を乗り越えられるだろう」
両隣2人が私の方を見た。
「ユキ、お前はスリザリンが代表選手に選ばれると思うであろう?」
「自分の出身寮だからとか贔屓なしで考えろ。グリフィンドールだと思わないか?」
2人に見つめられた私は持っていたゴブレッドをトンとテーブルに置いて自分の予想を述べるために口を開く。
『私はハッフルパフから代表選手が出ると思う』
「「は?」」
『は?って何よ。は?って。あなたたち教員にあるまじき反応よ』
2人の予想外だと言った顔に苦笑する。
『私はセドリック・ディゴリーが選ばれると予想するわ。授業を見ていて思うの。彼は度胸、勇気、それに知性も兼ね備えている』
「なるほど、ディゴリーか。それはありえるな……」
「確かにディゴリーは優秀な生徒だが……」
シリウスとセブが唸る。
だが、しかし、2人は自分の出身寮の生徒から代表が出ると思っているようだ。私はそんな2人に笑いかける。
『ねえ、お2人さん賭けをしない?』
イギリス人は賭け事が好き。
『賭け金は5ガリオンでどう?』
「いいだろう」
「乗った!」
私たちは生徒たちとは違った期待でゴブレッドを見上げたのだった。
私たち、教員にあるまじき!
銀色の皿が綺麗さっぱり、元のまっさらな状態になった。
大広間のガヤガヤが急に大きくなったが、ダンブーが立ち上がった瞬間、急にシンと静まり返った。
生徒たちの視線が期待に満ちて輝いている。
「さて、ゴブレッドはほぼ決定したようじゃ」
ダンブーが大広間を見渡しながら言った。
「代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは大広間の一番前に来るといい」
魔法省、魔法ゲーム・スポーツ部部長のルード・バグマンさんがウィンクしながら生徒に話す。
「代表選手は職員テーブル奥にある小部屋の中へと入るように。そこで最初の指示が与えられる」
バーテミウス・クラウチ氏がバグマンさんの言葉を引き継いで言った。
「さあ、いよいよじゃぞ!」
ダンブーが杖を大きくひと振りした。
途端にお化けカボチャの蝋燭以外を残して後の灯りが全て消えた。
ほぼ真っ暗な部屋の中で明々と輝くゴブレッドからは青白い炎が燃え上がっている。
大広間の全ての目がゴブレッドに注がれる。
長い沈黙
炎が揺れた
ゴブレッドの炎が、突然赤くなった
火花が飛び散り始めた
次の瞬間、炎がメラメラと燃え上がり、炎の中から焦げた羊皮紙が1枚、空中に投げ出された。
ダンブーが呼び寄せ呪文で羊皮紙を手元に収める。
そして、ゴブレッドの炎の明かりで文字を読もうと手を高く差し上げた。
「ダームストラングの代表選手は―――Mr.ビクトール・クラム!」
わっと歓声が上がった。
大広間中が拍手の渦に包まれた。
クラムがスリザリン席から立ち上がり、私たちの方へと歩いてくる。
「ブラボー!ビクトール!」
クラムはカルカロフ校長、ダンブー、マダム・マクシームと握手。私の前を通る時にニコリと笑ってくれた。クラムは職員テーブル後ろにある部屋へと入っていく。
次第におしゃべりと拍手が止んでいった。
みんなの関心は次の代表選手に移る。
再び赤く燃え上がるゴブレッド。炎に巻き上げられるように2枚目の羊皮紙がゴブレッドから飛び出した。
「ボーバトンの代表選手は――――レディ・フラー・デラクール!」
ヴィーラに似た美しい少女が優雅に立ち上がった。
シルバーブロンドの髪を靡かせながらハッフルパフとレイブンクローの席の間を進んでくる。
『いよいよね……』
Ms.デラクールが小部屋へと消えたのを見送ってゴブレッドに視線を戻す。
大広間の空気はピンと張り詰めていた。
興奮が爆発する前の静けさだ。
炎のゴブレッドが勢いよく炎を吐き出す。
飛び出した羊皮紙。
ダンブーが高々と羊皮紙を掲げる。
「ホグワーツの代表選手は――――セドリック・ディゴリー!」
ドカンッと爆発するような歓声がハッフルパフのテーブルから起こった。
ハッフルパフ生は総立ちになり、叫び、足を踏み鳴らしていた。
『お2人共、悪いわね』
私は両隣りのふたりにニヤリ。人差し指でクイクイっとテーブルの下からお金を要求する。
「まあディゴリーなら納得だな」
「お前などに同感したくないが……同感だ」
テーブルの下からこそっと渡された10ガリオンを袂にしまう。やった!これでチョコレートがたくさん買える!
ニヨニヨしているとダンブーが嬉しそうにみんなに話しかけた。
「3人の代表選手が決まった。選ばれなかった者も皆揃って、代表選手に――――
ダンブーを見ていた私は目の端に燃え上がる炎を見てゴブレッドを見た。
『見て!ゴブレッドが……!』
私が指差す先をセブとシリウスが見る。
火花が散り、炎が伸び上がる。
空中に放たれた1枚の羊皮紙。
「アクシオ」
静かな声でダンブーが呪文を唱え、羊皮紙を引き寄せた。
『何事……?』
「分からん」
「嫌な予感しかしないな」
じっと羊皮紙を見つめていたダンブーが顔を上げた。
長い沈黙の後、咳払いをし、ダンブーが口を開く。
「ハリー・ポッター……来なさい」
『そんなまさか!』
「どういうことだ!?」
「何故ポッターが!?」
そんなまさか!ありえない!
境界線はダンブーによって強力に張られていたはずだ。4年生のハリーが突破できるはずがない。でも、何故ゴブレッドから名前が出てきたか―――――
じわりと嫌な汗が噴き出してくる。
『嫌な予感がするわ』
「同じくだ。これは罠だ」
「案外自分で名前を入れたのかもしれんぞ。目立ちたがりやのポッター様だからな」
『セブったらこんな時にやめて。セブだってハリーが自分で名前を入れられない事くらい分かっているくせに』
ミネルバが足早にダンブーに近寄っていって切羽詰まったように何かを話している。
しかし、ダンブーは首を横に振った。
そして、
「ハリー・ポッター。前に出てきなさい」
と再びハリーに告げた。
ハリーがおどおどと、よろめきながらこちらへとやってくる。ダンブーに手で促され、私たちの方へと歩いてくる。
「ユキ先生……僕、入れてない……」
『分かっているわ。分かっているわ、ハリー。でも、今はひとまず小部屋へ行くのよ』
ハリーが小部屋に入っていき、私たち教員は一斉に立ち上がってダンブーの周りに集まった。
「これはどういう事なんだダンブルドア!ホグワーツから代表選手が2人も出るなんて!」
カルカロフ校長がダンブーに詰め寄る。
「こんなのズルでーす。認められませーん」
マダム・マクシームも眉を寄せながら首を振る。
「兎に角!小部屋に行きましょう!いやはや、これは凄いことになりましたぞ!」
ルード・バグマン氏は興奮したように叫ぶ。
どうやら彼はハリーが代表選手に選ばれた事を喜んでいるようだった。
「バクマン氏の言う通りじゃな。小部屋へ行こう」
「俺たちもいいですか?」
「私も!」
「良いじゃろう。部屋へは各寮監の先生とシリウス、ユキで入ろう。他の先生はここで待っていて下され」
部屋の扉を開けると、ハリーが突っ立っていた。その背中は小さく震えている。
「ハリー!お主はゴブレッドに名前を入れたかね?」
ダンブーが私の横を通り過ぎてハリーに詰め寄り、肩を揺すった。
「入れてないです。絶対に!誓って!」
私はハリーの顔を見つめた。
大勢の大人に囲まれて、予想外の状況に置かれ、気の毒なほど怯えてしまっている。
「これは信じがたいかもしれんが、紳士淑女の諸君!彼は4人目の代表選手に選ばれた!」
「そんなこーと認められませーん」
Ms.デラクールがシルバーブロンドの髪をサッと後ろに振りながら言う。
「何かの間違いーに違いありませーん」
「ハリー、誰か上級生に名前を入れるよう頼んだかね?」
「いいえ!」
ダンブーの問いにハリーが答える。ハリーは今にも泣き出しそうだった。
『ダンブルドア校長、取り敢えず入れた入れてないの話は置いておきましょう。問題はハリーにはこの競技に出るのには若すぎるということです。本人が入れた入れないに関わらず、ハリーは代表選手から外しましょう』
「そうだ!雪野教授の言う通りにしたらいい」
「私も同感でーす」
カルカロフ校長とマダム・マクシームが私の意見に頷いた。
「いや、しかし」
声の方を見るとクラウチ氏が暖炉のあかりの輪の外で、影の中に半分顔を隠して立っていた。
「規則には従うべきだ。そしてルールは明白だ。炎のゴブレッドから名前が出てきた者は、試合で競い合う義務がある」
「私もそう思いますよ!」
未だ興奮した様子でバグマン氏がクラウチ氏に賛同する。
中立の審査員である2人の意見にその場は水を打ったように静かになる。
そして、わっと勢いよく皆が一斉に話しだした。
「ハリーには危険すぎる!なあ、ハリー」
「シリウスおじさん。僕もそう思います。僕は参加したくない!」
「私はダームストラングの生徒からもう1人代表選手を選ぶことを主張する!」
「それなら公平になりまーす。炎のゴブレッドをもう一度設置したら良いでーす」
みんながバクマン氏とクラウチ氏を見た。
しかし、クラウチ氏は首を横に振る。
「あなた方の意見は分かるがそうはいかない。ゴブレッドはたった今炎が消えた。次の試合までもう火がつくことはない」
「あれだけ協議や交渉を重ねて妥協したのにこんな事が起こるとは!今にも帰りたい気分だ!」
「はったりだな。代表選手を置いて帰ることは出来まい」
突然唸るような声が扉付近から聞こえた。ムーディ教授だ。
「ゴブレッドの代表選手選びは魔法契約だ。これを反故にすることは出来ん。都合の良いことにな」
『誰かがハリーの命を狙っている……』
「雪野教授は流石に勘が宜しいようだ」
重い沈黙が流れた。
長い時間が流れ、ようやくダンブーが口を開く。
「ハリーを代表選手に迎え入れよう。これは魔法契約。覆すことはできん。お二方も代表選手も納得出来んことじゃろうが受け入れてもらいたい」
シリウスが思い切り壁を殴った。
ため息があちらこちらから漏れる。
「では、バグマンさん。代表選手たちに指示を与えてくだされ」
一様に暗い顔、納得できない顔をする中でバグマンさんだけは笑顔だった。
彼は笑みを浮かべながら口を開く。
「最初の課題は、君たちの勇気を試すものだ。しかし、内容は教えられない。未知のものと遭遇した時の勇気を試す。最初の課題は11月24日、全生徒、並びに審査員の前で行われる」
バグマン氏は先生方からの援助を受けられないこと、杖だけを武器として最初の課題に立ち向かう事を付け加えた。
Ms.デラクールがマダム・マクシームに肩を抱かれながら出ていき、Mr.クラムとカルカロフ校長も出ていった。
他の先生方も次々と小部屋を出ていく。
「ユキ先生、シリウスおじさん!」
ハリーが私たちのところへ駆け寄ってくる。
「どうしよう……僕……」
「ハリー……こんな事になっちまって……」
ハリーの不安を見てシリウスは辛そうに顔を歪めた。
「不安でいっぱいだろう。だが、代表選手に選ばれてしまった。もう覆せない。やるっきゃないんだ。覚悟を決めるしかなさそうだ、ハリー」
力強く、シリウスがハリーの両肩に手を置き、視線をハリーに合わせるようにして少し屈む。
「ハリー、お前なら出来る。ユキから聞いたぞ。1年生の時に先生たちの罠を突破しながらヴォルデモートと対峙したこと。2年生の時には日記に封印された若きヴォルデモートや大蛇と対決したこと。ハリーには十分代表選手としての素質がある」
『不安でしょうけど……私もシリウスと同じように思っている。きっとハリーならこの試合を乗り越えられると信じているわ』
「シリウスおじさん……ユキ先生……分かった。どうにか、頑張ってみるよ……」
ハリーの顔からは不安が拭いされていなかった。
それでも私たちの期待に応えようと無理矢理に笑ってみせてくれた。
「さあ、ハリーも寮へ戻りなさい。きっと寮の友人たちが首を長くして待っておる」
最後まで残っていたダンブーがハリーの背に手を添えながら2人して小部屋から出ていった。
部屋に残されたのは私、シリウス、セブの3人。
『はあぁ。賭け事なんかして遊んでいる場合じゃなかったわね。こんな事になるなんて』
「ハリーを嵌めた奴はいったい誰なんだ?」
『セブ、誰か見当はつく?』
「考えられるとしたら……カルカロフかもしれん」
セブが呟く。
『どういう事?』
「奴は元死喰人だった。しかも一度逮捕されている」
『「!?」』
セブの言葉に私たちは驚く。
『どうして今は校長なんてやっていられるの!?』
「奴は裁判を受けている時に仲間の死喰人を密告して自由の身になったのだ」
「そんな危険な奴だったとは……」
『でも、ハリーの命を狙う理由は何?あ、そうか……ヴォルヤローが復活しかけているから彼への裏切りを帳消しにしたいのね』
「だが、カルカロフを犯人だと決め付けるのは早急すぎるぞ」
シリウスが私に苦言を呈した。
『そうね……それなら兎に角、ハリーを万が一にでも傷つけられないように気を引き締めてこの大会を見守りましょう』
各々ハリーを心から守りたいと願っている3人。
いつも喧嘩ばかりしているシリウスとセブルスだったが、この時ばかりは心を同じくしていたのだった。