第5章 慕う黒犬
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5.スキャンダル
テントに戻った私とレギュは今回の出来事、特にクラウチ部長の屋敷しもべ妖精と、彼の息子であるクラウチ・ジュニアの話をして過ごしていた。
『クラウチ・シニアは何かを隠しているわ』
「僕もそう思います」
『今後の動向が気になるわね。といっても魔法省に勤めているわけではないからどうする事も出来ないけど』
肩を竦めながら紅茶を啜る。
『ねえ、クラウチ・ジュニアってどんな人物なの?』
そう尋ねるとレギュはクラウチ・ジュニアについて話してくれた。
彼は学生時代は成績優秀な優等生だったが、10代の頃から死喰人に加わった人物だそうだ。
「僕が知っている限りでは終身刑を言い渡され、アズカバンに収容されて死んだはずだったのに……」
『シリウスのようにアニメーガスになって脱獄したのかしら?』
レギュは分からないというように肩を竦めた。
『はあぁ。ここでこんな憶測をしていても仕方ないわね……』
私はコトンと空になったカップを置く。
テントの布を透けて朝日が入ってきた。
『そろそろ帰りましょうか』
「そうですね。これ以上ここにいる意味もないですから」
レギュと外に出て魔法でテントをたたんでいると、隣のテントからウィーズリー一家とハリー、ハーマイオニーが出てきた。
『おはようございます。昨晩は大変な夜でしたね』
「えぇ。本当に」
そう言いながらアーサーさんも魔法でテントを片付ける。
「兎に角ここを離れたいもので。慌ただしいご挨拶になりますがこれで失礼しますね。ユキ先生と……あれ?」
アーサーさんが私の隣に立つレギュを目をパチパチさせながら見た。
「確かブルガリア魔法省の方でしたよね。何故ユキ先生と同じテントに……それに、イヴァンカさんはどちらへ?」
ピシリと一瞬顔が固まったが私の口は直ぐに嘘を紡ぎ出す。
『イヴァンカは危険だからと昨夜、姿くらましして安全な場所に逃げたんです。グライドとは死喰人と戦っている最中に会って今まで行動を共にしてきました。彼とは良く知った仲なんです』
「そうでしたか。昨晩は2人の活躍で死喰人を何人も逮捕出来たと聞きました。魔法省の役人としてお礼を言わせてください。ありがとうございます」
『いえ』
微笑んでいるとウィーズリー家の双子、フレッドとジョージがタタっと駆けてきた。
キラキラした二人の瞳に首を傾げていると……
「ねえ、ユキ先生。もしかしてもしかすると、昨日の闇の印をピンクに変えちゃったのってさ」
「もしかして先生だったりする?」
にやっと笑う彼らに私もにやっと笑みを返す。
『私じゃなくてやったのはグライドよ』
パッと輝く顔でレギュの顔を見る双子。
レギュはハァと溜息を出して「あなたの策でしょう?」と眉を顰めた。
「グライドさん、でしたっけ?あなた最高ですね!」
「ユキ先生もナイスな作戦!さすが師匠!」
盛り上がる双子を苦笑しながら見ていると、アーサーさんが双子を呼ぶ。
「そろそろ帰るぞ」
「「はーい」」
「師匠、また学校でね」
「グライドさんもお達者で!」
私たちは去っていく皆に手を振る。
その時、
パシャン!
『え?』
突然の強い光に驚く。
横を向くと、そこにはショートカットの波打つ金髪の女性がカメラを構えて立っていた。
緑色の瞳が私たちを舐めるように上から下まで見る。
「大スクープざます!」
「げっ。リータ・スキーターだ!」
叫ぶリータ・スキーターを見てレギュがこそっと私に言った。
「逃げますよ」
『逃げる?』
「取り敢えず、僕に掴まって」
『うわっ』
私はレギュに腕を組まれた瞬間、姿くらましした。
姿現しした先は遠くなかった。ここに来る時にポートキーで到着した場所だ。
『いったいどうしたっていうの?』
突然の姿くらましで若干よろめきながらレギュを見ると彼の顔は嫌そうに歪んでいた。
「あの人の名前はリータ・スキーター。ジャーナリストです。でも、タチが悪く、あることないこと記事に書く最低な人です」
『あ……そう言えば、彼女の記事、日刊預言者新聞で読んだ事があるわ。胡散臭いからいつも読み飛ばしているけど……さっき、私たち、写真撮られたわよね?』
「はい。最悪です」
『なんだか嫌な予感……』
私とレギュは、目の前で切羽詰まったようにこの惨状の起こった場所から逃れたいと魔法省役人に詰め寄る人を見ながら、顔を引き攣らせていたのであった。
「グレゴリード・ヒル行きの方、このタイヤホイールを触ってください」
私たちは帰りのポートキーに乗ってグレゴリード・ヒルへと着いた。
そこから姿現ししてダイアゴン横丁へと帰り着く。
『次に会う日、今決めておく?それともフクロウ便にしようかしら?』
私とレギュは闇陣営の動きを探ったり、私がレギュに忍術の修行をつけたりと頻繁に会っていた。
『次はいつにしようか……』と私が手帳を出そうとするのをレギュが「いえ」と制する。
「決めなくて大丈夫です」
『?』
「多分、直ぐに会えることになると思いますから」
『どういう意味?』
謎の言葉に眉間を寄せる私を見てレギュは楽しそうに微笑みを浮かべる。
「言ってしまったらサプライズ感がなくなってしまいます。では、僕はこれで。気をつけて帰ってください、ユキ先輩」
私が更に眉を寄せた時だった。
『――っ!』
不意打ちの頬へのキス。
こちらの流儀、お別れの挨拶だと分かっているのに私の心臓は自然と跳ね上がる。
『わ、私がこういうの慣れてないって分かっている癖に!』
「ハハ!いつ揶揄っても面白いです。いえ、可愛いですよ、ユキ先輩」
『――っ!』
また心臓が跳ねた。
く~~私ったらレギュに良いように揶揄われて!
頬を抑えながら私は、バシンッと姿くらまししたレギュの事を思い、恥ずかしいような、悔しいような、そんな気持ちに浸っていたのであった。
***
『流石に疲れるわ』
ダイアゴン横丁から姿現ししてホグワーツ正門前に着く。
私は何度も慣れない姿現し、ポートキーでの移動をしたせいでげっそりしていた。
早く部屋に帰って横になろう。
めまいを感じながら正門をくぐり、なだらかな丘を上り、城に入る樫の玄関扉を開く。
すると、耳慣れた足音が地下から上がってくるのが聞こえてきた。
懐中時計を見るとちょうど朝食の時間だった。
朝食は部屋で簡単に済ませ、セブに挨拶だけしていこうと思い待っていると、地下からの階段を上ってきたセブと視線が合った。
『おはよう、セブ』
「お前はいったい何てことをしたんだ!!」
『はい?』
開口一番怒鳴られる。
何のことかと思っていると、彼の手に日刊預言者新聞が握られているのが見えた。
げっ。嫌な予感……
「我輩が実験をしている時に梟が新聞を持ってきた。そして一面に載っていた記事がこれだッ!」
セブが新聞をぐりっと捻り、私の方へと投げつける。
ぐしゃっと捻れたその新聞を開いた私は新聞の一面を見てうめき声を上げた。
まず一番大きな写真は闇の印だ。
そこには闇の印である口から蛇を出した緑色の髑髏が羽根付きの帽子を被って口からお花を吐き出すピンク色の髑髏に変わる写真が大きく掲載されていた。
その記事の上には“ワールドカップの興奮から一転、恐怖に陥れられたキャンプ場”と見出しがある。
そしてその直ぐ下には私とグライドの姿をしたレギュがにこやかに手を振っている写真が掲載されている。
私はこの写真を見て愕然とした。忍が世間様にこんなに大きな写真で顔を晒すなんて!
写真すぐ下の記事にはこう書いてある。
<魔法省の役不足!魔法省はマグル一家を闇の魔法使いに人質に取られ身動き取れず。それを見かねたホグワーツ教師、ユキ・雪野女史が勇猛果敢に死喰人の中に入り人質を救出>
(詳しい記事は三面に掲載)
括弧を読んで三面記事を見てみると、私と影分身が飛び上がり、死喰人の集団に突撃して行っている写真が掲載されていた。
こちらは後で読むとして―――……一面に戻る。
<闇の印が上がった直後、ブルガリア魔法省グライド・チェーレン氏が闇の印をピンク色に変化させた。死喰人に喧嘩を売るようなこの勇敢な行動に本紙は拍手を捧げたい>
<ピンク色の髑髏は雪野女史とチェーレン氏の共同作戦の中で打ち上げられた……
2人の勇敢な魔法使いに賞賛を!
写真は故意に私とレギュがカメラに向かってにこやかに手を振っているように見える。
その他の記事の内容は、魔法省のヘマ……警備の甘さ……
闇の魔法使いのやりたい放題だの何だのかんだのと書かれていた。
また三面記事に戻る。
そこには私と影分身の突撃写真の他に、前線で闇の魔法使いと戦っている私とレギュの写真があった。
他の魔法使いたちも写っていたが、ピントが私たちに合っている。
写真下の記事を読み終えた私は口の端を痙攣させていた。
<若きカップルの勇ましい戦いぶりに感化され、魔法省の役人たちやその場にいた魔法使いたちも――――
「若きカップル……我輩が共に行かなくとも、ちゃんと相手がいたわけだ」
皮肉がこもった声に弾かれたように顔を上げる。
『ち、違うわ!誤解よ!』
でも、レギュとは待ち合わせからクィディッチ観戦、闇の魔法使い達との戦いまで一緒にいたんだよね。
誤解とは言えなかったが、しかし、私は叫ばずにはいられなかった。
今回のことは任務として行ったことだ。デートとは違う。
私はセブにレギュと一夜を共にして関係を持ったと思われるのが嫌で、嘘を吐くことにした。
『グライドとは死喰人たちが火をつけながらキャンプ場を行進してきた時に偶然出会ったのよ。その前までは学生時代にブルガリアで友人になったイヴァンカと一緒にいたの』
本当か確かめたいならウィーズリー一家かハリー達に聞けばいいと私は懇願する思いで言う。
暫し見つめ合う私とセブ。
先に沈黙を破ったのはセブの方だった。
「……いいだろう。今回はそういう事にしておいてやろう」
『セブ!』
自分の目に光が戻るのが自分でも分かる。
そんな私の顔をセブは驚きのこもった目で見ていた。しげしげと私の顔を見て、そしてフッと笑った。
何?
訝しげに眉を寄せる私の前でセブは機嫌が良さそうに口元に笑みを浮かべている。
『どうして笑っているの?』
「いや、何でもない」
セブルスは上がってしまう口の端をどうにか元に戻そうとしたが難しかった。
ユキが自分に他の異性と交際していないと躍起になって否定している。
そして自分の反応に一喜一憂する姿。
その姿を見てセブルスは嬉しかった。
ユキの心は自分に向き始めている。そう感じていた。
「しかし……」
セブは、今度は難しそうな顔で新聞に視線を落とした。
「これで多くの敵を作ったことは自覚しているか?」
苦しそうな声色に胸を痛くしながら私は頷く。
『もちろん自覚済みよ。そしてドンと来いよ。どんな奴が相手でも私は負けない。叩きのめしてやるわ』
「勇ましいことだ……」
そう呟きながらセブは私の方へと一歩間合いを詰めた。
そして、チュッ
私は一瞬何が起こったか分からず惚けたように立ち尽くした。
前髪を上げられ、口づけを落とされた箇所が熱を持つ。
「我が姫君は無鉄砲の向こう見ずの暴れ馬だ」
熱を持つ黒い瞳に私の心臓が跳ねる。
『ちょっと……姫だなんて……キャンディ・ブルートパーズの恋愛小説に感化されたの?』
情けなく震える私の声が自分の耳に響く。
震える私は恥ずかしさから自然と一歩後退した。
私の腕をセブが掴む。
「お前の首に首輪をつけて自室に閉じ込めておきたいものですな……」
ぐいっ。引っ張られて私はセブの胸の中に収まった。
心臓がドクドクと激しく脈打っている。
『セ、セブ?今日のセブ、ちょっとおかしいわ』
「徹夜続きのせいかもしれん。頭がボンヤリとしている」
『じゃ、じゃあ早く部屋に行って寝なきゃ』
「お前も一緒に来い」
『か、揶揄わないで。私、私は……』
なんだろう……怖い……
嬉しい気持ちと、怖い気持ちと、私の心は半々だ。
カタカタと、私の体が震えている。
どうしよう。私はどう反応すればいいのだろう?
頭が熱い。何も考えられない―――――!
「震えているのか?」
セブが私の両肩に手を置いて、私から一歩離れた。
「すまん。怖がらせたようだな」
申し訳なさそうなセブの顔が私を見下ろす。
『ごめ、ん。自分で、自分の体も心もコントロール出来なくて』
元暗部が聞いて呆れるわ!
それでも震えを止められないでいる私の顔にセブの手が伸びてきて、そっと私の頬を撫でた。
「すまない」
私は俯いてふるふると首を横に振る。
『セブが私を心配してくれているのは伝わってくる』
「あぁ。心の底から心配している」
ぐいっ。再び私の腕が引っ張られてセブに抱きしめられた。背中に回る手にぎゅっと力が込められる。
窒息しそうなくらいの力の強さにセブの気持ちを感じる。
「決して死ぬなよ……ユキ」
耳元で囁かれた声は震えていた。
『……はい』
私はセブの胸の中でコクリと頷いたのだった。
コツコツ
あちらこちらから足音が聞こえてきて私はセブの腕の中で身じろいだ。
『誰か来るわ』
その言葉にセブはようやく私を腕の中から解放する。
ホッとする気持ちと共に残念な気持ちが沸きあがってくる。
そう、残念な気持ち……
私がこの気持ちを心の中で咀嚼していると、上からはミネルバとフリットウィック教授が、東棟へと続く廊下からはシリウスが、他の先生たちも続々と現れる。
『みなさん、おはようございます』
「「「「「「ユキ!!!」」」」」」」
私を見つけた先生方が私に向かって揃って走ってくる。
「この新聞に書いてあることは本当なのですか!?」
『え、えぇ。大体は……でも、魔法省が役不足なんてことは嘘っぱち。皆さん勇敢に戦っておられた「他の人などどうでもいいの!今はあなたの事を話しているのです!」
ミネルバにピシャリと言われ、私は口をつぐむ。
「闇の印をこのグライド・チェーレン氏と一緒に変えたのは事実なの?!あぁ!事実じゃなくてもこうして新聞に載ってしまったからには死喰人たちから相当な怒りを買ったでしょう!」
ミネルバが泣きそうな声で叫ぶ。
『ミ、ミネルバ落ち着いて』
「落ち着いていられますか!新聞にこんなにはっきりと顔も写って奴らの標的になるに決まっています!」
『でも、ほら、私はこういう敵意を向けられるのには慣れているから……』
キッと睨まれて口を閉じる。自然と伸びる背筋。
「あなたって子はいい加減自分を大切にする事を覚えなさいッ」
『す、すみませんでした!で、でも、写真を撮られたのは私にも予想外の出来事だったし……』
そう言うとミネルバはハァァと床に届きそうな溜息を吐いた。
「このリータ・スキーターというジャーナリストに記事を書かれたのがいけなかったわね」
スプラウト教授が気の毒そうに呟いた。
「彼女の書く記事は虚偽と装飾に溢れているわ」
ミネルバも頷いている。
「私の可愛いユキを危険に晒すような記事を書いて、リータ・スキーター……一言言ってやらないと気が済まないわ!」
興奮してミネルバ。
私はそんなミネルバを落ち着かせるように手を握り、
『朝食に行きましょう』
と大広間へと促す。
朝食中は先生方から質問攻めだった。
クィディッチワールドカップで起こった惨事をつぶさに聞かれる。
『つ、疲れた……』
食事を終え、1人、また1人とテーブルを離れて行く先生たちを横目に私はお皿に乗ったブロッコリーをつつく。
「なあ、コイツ。グライド・チェーレンって誰なんだ?」
シリウスが笑顔で手を振るレギュの顔を指で弾きながら問う。写真の中のレギュが不快そうに手で何かを払うような仕草を見せた。
『ブルガリア魔法省の知り合いよ』
質問に答え疲れて半ば投げやりにシリウスに答えを返すと、
「ブルガリア魔法省?そんな奴といつ会う機会が?」
訝しげな顔で聞いてきた。
うぅ。正直、もう質問はお腹いっぱいなんだけど……
ちょっとげんなりしていると、
「それは我輩から話そう。ユキは疲れているようなのでな」
セブがそう言った。
「は?何でお前が」
眉を寄せるシリウスに、セブが私とセブがクィディッチヨーロッパカップを観にブルガリアへ一泊旅行した事を話す。
そして、私がブルガリアで多発していた人攫いの逮捕に貢献した話をして、その時にグライド・チェーレンと会ったとシリウスに話した。
しかし、シリウスはグライド・チェーレンと私が出会った経緯よりも他に気になった事があった模様……
「お、お前、スニベルスと一緒にブルガリア旅行に行ったのか?しかも一泊で?」
『うん。そう……そうだよ……』
思えば何と無知な行動だったことか。
大人の男女が一泊の旅行をし、しかも同じ部屋に泊まるという事をあの時の私は少しも気にしていなかった。
今だったらホテルの部屋が手違いで一室しか予約されなかったと聞いて慌てていたセブの気持ちが理解できる。
私が自分も成長したものだと考えていると、
「……なわけねぇよな……」
『はい?』
「スニベリーとお前、ヤっちまってねぇよな!?」
何か、前もこういう事あったよね?と思いながら、気づけば私はシリウスにアッパーカットをくりだしていた。
私に顎下から殴られ、ズドーンと後ろに椅子ごとひっくり返るシリウス。
どうやら脳震盪は免れたようだ。
痛てて……と顎を抑えながらシリウスが上体を起こす。
『女性にっていうか、人にそういう類の質問するなんて何考えているのよ!』
「フン。いい気味だ馬鹿犬」
「んだとスニベルス!」
『ちょっと!今話しているのは私よ!』
バンっと床を蹴って立ち上がったはいいものの……
は、恥ずかしい……
面と向かってシリウスに『ヤってない』と言葉にするのが恥ずかしくて私は頬を紅潮させた。
「ま、まさかお前……!」
そんな私を見て顔を青くするシリウスにブンブンと顔を横に振る。
『か、関係はなかったわよ』
恥ずかしさを堪えながら声を出す。
すると、
「だよな!」
シリウスがパッと破顔した。
「おまえがまさか、あの、スニベリーの女にッ!?」
『彼の名前はセブルス・スネイプよ。ス・ネ・イ・プ!』
ビュンと投げた私のフォークがシリウスのローブを大理石の床に縫い付ける。
「す、すみませんでした、師匠」
『分かれば宜しい』
私は震えるシリウスを前に、ニコリと笑みを零したのだった。
***
夕刻、私とシリウスはダンブーの部屋にいた。
「2人とも呼び出して悪いのう」
『いいえ。それで、お話とは……』
今日のダンブーはふざけている様子はなかった。
彼が何かを考えている癖、ウロウロと校長室の中を歩き回りながらヒゲを撫でている。
「まずは、シリウスの方じゃ」
唐突に歩くのを止めてダンブーがシリウスを見る。
「ハリーへの手紙の事じゃ」
『あら。まだ返事を書いていなかったの?』
「実は俺だけで判断しちゃあいけない気がしてダンブルドア校長先生に相談に乗ってもらっていたんだ」
『シリウスにしては賢明な判断ね』
「俺にしてはってのは余計だぜ?」
ツンと人差し指で頭の横を突かれて苦笑い。
『話の腰を折ってごめんなさい。ハリーの手紙のことですよね?』
「そうじゃ」
シリウスのところにはハリーから傷跡が痛み、ヴォルデモートが出てくる夢を見たと手紙が届いていたのだ。
「ダンブルドア校長はどうお考えですか?傷跡とヴォルデモート、関係があるとお考えですか?」
「うむ。儂はそう見ておる。実はのう、リドル家の館に行ってみたのじゃ。そうしたら、館守が1人、姿を消しておった。多分ハリーの言う通りヴォルデモートが飼う蛇に殺されてしまったのじゃろう」
しかし、とダンブーは続ける。
「ハリーには今は経過観察するようにと伝えておきなさい。じゃが、2度目があったら直ぐに伝えるようにと付け加えるのを忘れずに」
「分かりました」
頷くシリウスから私はダンブーに視線を移す。
『それで、私が呼ばれた訳とは?』
「お主の名前もハリーの夢の中に出てきたそうじゃ」
『そうでしたか……で、ヴォルヤローの奴は何と?』
「フォッフォッ。ユキはいつでも強気じゃな。ヴォルデモートの近くにはピーター・ペティグリューの他に家臣が控えていたらしい。ヴォルデモートはその者にユキを殺すよう命じたそうじゃ」
『それでは……もしかしたら、いつだったか届いた闇の魔術が施してあった小包はそいつから送られてきた物かもしれませんね』
あれは私に対する宣戦布告か。
いいさ。受けてたってやる。
ダンブルドアとシリウスは、ユキが口元が上がったあの独特な暗部の顔になるのを見て、これからの戦いに対する彼女の心持ちを知ったのだった―――――
「そうじゃ!2人には先に伝えておこう!」
暗い空気を持て余していると、ダンブーが急に手をポンと打った。
ダンブーは私たちに笑顔を見せる。
何だろう?と思っていると、
「今年度は三大魔法学校対抗試合が行われることになった!」
と、朗らかに言った。
『それはなんです?』
「俺も聞いたことがないのですが……」
三大魔法学校対抗試合とは、およそ7百年前に始まったホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校での対抗試合で、各学校から優秀な生徒が1人選ばれ、魔法の腕を競い合うという大会であった。
『面白そう!』
「俺たちの頃にそれがあったら良かったのに!」
私とシリウスは同時に声を上げていた。
ダンブーはそんな私たちをニコニコした顔で見ながら口を開く。
「フォッフォッ。忙しくなるぞ!なんせこの試合はかつておびただしい死者を出したこともある大会じゃからの。今回の復活開催にいたっては死者が出ぬように万全な準備が必要じゃ」
「もちろん協力してくれるじゃろ?」とブルートパーズ色の瞳がキラリと悪戯っぽく光る。
『「もちろんです!」』
私とシリウスは、顔を輝かせて頷いたのだった。