第4章番外編
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メレンゲ
セブルス・スネイプは宿題として出していたレポートの採点を行っていた。それらの出来の悪さに大きく溜息をついて、眉間に手をやるセブルス。
凝り固まった首を回してふーっと息を吐いた時だった。ふと、本棚に置いてあるガラスケースが目に止まった。
息抜きにと席を立ち、ガラスケースへと近づいていく。これはつい最近、忍術学教師のユキが本を借りに来た時、偶然見つかった懐かしい物。
ガラスケースの中には4体のメレンゲ人形が入っていた。セブルス、ユキ、リリー、そして雪だるまのメレンゲだ。
これはセブルスが学生時代、彼の親友であったユキとリリーが彼の誕生日の時にケーキを作り、その飾りとして作ってくれたものだ。
あの時はケーキの上でユキのメレンゲと雪だるまのメレンゲが雪合戦ならぬホイップクリーム合戦をしていたな、とセブルスは愉快な光景を思い出し、小さく口の端を上げた。
今でも動くのであろうか?
寝ている4体のメレンゲ人形。
セブルスはそっとガラスケースを開け、ユキの人形を手に乗せた。
「ユキ」
小さく名前を呼んでユキのメレンゲの頭を人差し指で撫でるセブルス。
セブルスの心臓がトクリと跳ねた。
ゆっくりと、ユキのメレンゲが頭を起こす。
まさか起きるとは思っていなかったセブルスは、鼓動をドキドキ速くさせながらユキの様子を見守った。
寝起きでぼんやりとしたように左右を見渡すユキ。ゆっくりと立ち上がり、顔を上げたメレンゲとセブルスの視線が合う。
すると、ピョン!
ユキはパッと表情を明るくして飛び跳ね、セブルスに向かって大きく手を広げた。
その様子が可愛くて、愛しくて、セブルスは思わず大きく緩みそうになる表情を引き締めた。
メレンゲ人形は喋れない。それでも、メレンゲのユキがセブルスとの再会を喜んでいることはよく分かった。
ユキを乗せていない方の手の人差し指をユキに持っていけば、嬉しそうにキュッと抱きついてきた。
「久しぶりだな」
声をかけるとユキはセブルスの指に抱きついたまま首を上下に勢いよく振った。
「ここがどこだか分かるかね?」
セブルスがそう言うと、ユキはセブルスの指から離れてあたりを見渡した。そしてパッと顔を輝かせながら振り返る。
<ホグワーツ!>
メレンゲのユキの口元が動いた。
「そうだ。我輩はホグワーツの魔法薬学の教授になった」
そう言うと、手を叩きながらユキがピョンピョンと飛び跳ねた。どうやら祝福しているようだ。
「今はちょうど宿題で出したレポートの採点中でな。しかし、はあぁ。出来が悪い。頭が痛くなる」
セブルスは机へ向かい、ユキを机の上に下ろした。
左右を見渡し、足元の採点中のレポートを見、セブルスを見上げる。
「暫くここにいるかね?」
そうセブルスが聞くとユキは満面の笑みで一つ頷いたのだった。
セブルスは採点に戻った。
メレンゲのユキはトタトタと机の上を走り回っている。
積み上げられたレポートの山に上ってみたり、机に並べてある試験管を1つ1つ覗いてみたり。
セブルスは生徒の出来の悪いレポートを見て起こっていた頭痛がなくなっている事に気がつき、ふっと口元を綻ばせた。
静かな教室の中にセブルスが羽ペンを走らせる音と、机の上を走り回る小さなトタトタという足音だけが響く。
しかし、レポート採点もあと数枚というところだった。
「あ!馬鹿者っ」
セブルスはふと目を上げた先に見えた光景に驚いて手を伸ばした。
口の空いた瓶の上。瓶の口に足を渡してユキがぐらぐらと瓶を揺らして遊んでいたのだ。
そしてセブルスがそれに気がついた丁度その時、瓶はゆっくりと倒れていった。
倒れていく瓶、落下していくユキ。
セブルスはユキを手でつかまえた。
しかし、
ジュッ
セブルスの手に倒れた薬瓶から零れた黄緑色の液体がかかる。
「痛っ」
セブルスは顔を歪めた。
セブルスの手からは煙が立ち、石油のような匂いが鼻をつく。手の甲の黄色い腫れ物があっという間にブクブクと膨れ上がってくる。
「ユキっ液体はかからなかったか!?」
焦った声でセブルスが問いかける。
机の上に下ろされたユキは大丈夫だと言うようにコクリと一つ頷いた。
セブルスはその様子にホッと息を吐き出してから杖を出し、机の上に零れた薬品を消し去った。
そしてハンカチを出して自分の手に宛てがう。
<セブルス>
ハンカチを手の甲に押し付け、セブルスが痛みに耐えていると、ユキの手がセブルスの手に触れた。
<ごめんなさい>
「気にするな」
<痛むよね?>
「少しだけだ」
セブルスは安心させるようにユキのメレンゲに微笑んで見せる。
<これは何の薬品だったの?>
「すまん。読唇術は出来ないものでな。長い言葉は理解できん……」
<薬品、何?>
ユキはセブルスに分かりやすいように身振り手振りを加え、ゆっくりと口を動かした。
今度はセブルスはユキの言っている意味を理解した。
「腫れ草の膿を薄めていないものだ。だが、心配ない。治す薬はこの部屋にある」
そう言われてもユキの表情が明るくなることはない。
自分の馬鹿な悪戯のせいでセブルスに怪我をさせてしまったのだし、セブルスの手の甲は腫れ物だらけで痛々しく、まるで分厚いボコボコの手袋をはめているようだったからだ。
薬を持ってきて、手の甲に塗っていくセブルス。
<手伝う>
「お前はメレンゲだ。薬に触れたら溶けてしまう」
セブルスはユキから腫れ物を治す薬の入った瓶を遠ざけた。
<でも、何か、私にも……>
本当にすまなそうな顔をして自分を見上げるユキにセブルスは愛しさがこみ上げた。
ふっと笑い、生徒のレポートの羊皮紙の余白を切り取り、チョンと杖でつついて包帯へと変えた。
「包帯を巻くのを手伝ってくれるかね?」
パッと顔を明るくさせてユキは頷く。
本当はセブルス一人で包帯を巻く方が早いのだが、セブルスはユキの気持ちを汲んでユキに包帯巻きを手伝わせた。
ぐるぐるとセブルスの手に包帯が巻かれていく。
<改めて、ごめんなさい>
ぴょこんとユキが頭を下げる。
と同時にユキは浮遊感を感じた。
つままれてセブルスの手に乗せられ、セブルスの目の高さまで移動させられる。
「学生時代も、そして今も、それからメレンゲになってもお前は変わらないな。危なっかしくて目が離せない」
<ごめん……>
「しかし、君を救うことが出来て良かった。我輩は君を守ると今現在ここにいる生身の君に約束した。
それなのに、その約束を違えてばかりだったのだ……」
セブルスは思い出す。
ユキが魔法界に来た1年目の賢者の石事件の時は自分が先に倒れてしまい、ユキは自分の知らないところで大きな術を使って5歳ほど年を取ってしまった。
秘密の部屋が開かれた時はユキの影分身が次々と石化され、ユキ本体は見ていて辛くなるくらい弱っていった。
「お前が無事で嬉しい」
セブルスは人差し指でそっとユキの頭を撫でる。
「笑ってくれ」
セブルスは囁くように言う。
ユキは自分を撫でるセブルスの人差し指を両腕で抱きしめて、頭を寄せる。
そしてセブルスに向かって控えめな微笑みを向ける。
「ユキ、愛している」
そっと言葉にされた告白。
ユキは目を大きく見開いてセブルスを見上げる。
「目を瞑れ」
メレンゲのユキの頭にチュッと口づけが落とされる。
メレンゲのユキは、恥ずかしさのあまり目を回し、手の上に倒れたのだった。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
学生時代のセブルス誕生日の話→蝙蝠の誕生日