第3章番外編
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怖れるものは
スーっと降下してきたフクロウが私の頭上で新聞を離す。
日刊預言者新聞だ。
とは言っても、親のいない私はミネルバからお小遣いをもらっているとはいえ、新聞をとる余裕はなくって。
だから、この新聞はミネルバが朝、自室で読んだものを私にくれているのだ。
丸々一本フランスパンを掴んでむしゃりと食べる。
モグモグしながら紙面を開く。
グリンダ新薬研究所で爆発事故、死傷者多数―――
クィディッチ・ナショナルカップ
アイルランド・インターナショナル・サンド、日本代表のチーム管狐に惜敗―――
賄賂を受け取ったとして上級次官を逮捕―――――
「何か面白いことはあったか?」
新聞を読みながら食べるな!という事は何度言っても無駄だと悟ったセブが私に聞いてくる。
紅茶でパンを流し込んで口を開く。
食べながら喋るとセブに怒られるから。
『特に目立った記事はなにも』
そう答えながら記事をめくる。
“連続婦女子殺人事件”
三面記事に載っていた見出しが目にとまった。
ザーっと記事を一通り読んでみる。
この殺人犯は若い女性を狙っているらしく、被害女性は20代前半、または以下だ。
若ければ若い方が良いらしく、外見の幼い女性たちが狙われている。
手口は残忍で、薬品で被害者を眠らせた後、犯し、無残に切り裂いて殺している。
同一犯と思われる被害者は9人。
未だ手がかりを得られぬ魔法省と闇祓いに批判が集中している。
私はその記事から下にある新商品のお菓子の広告に視線を移した。
“宙を漂う綿菓子!まるで雲を食べている気分!部屋のインテリアにも!”
『これハニーデュークスに売っているかな?』
「売っているんじゃないか?」
セブが紅茶を飲みながら私に答えた。
今日はホグズミード行きの日なのだ。
今日もいつものようにセブとリリーと3人でホグズミードに行く。
今は春
気候も良い
私は準備をして談話室でセブと待ち合わせ、2人でリリーとの待ち合わせ場所である城の正面玄関前に行った。
「おはよう、2人共」
『おはよう、リリー』
「おはよう」
「今日の服も可愛いわね」
『ナルシッサ先輩がくれたんだ』
私の服装はバレリーナ・ネックといって首元が大胆に開いている首周り。
七分丈の袖に膝小僧までの裾。Aラインの緑色のワンピースだ。
靴もナルシッサ先輩がくれたもの。
ヌードベージュのバレエシューズ型の靴にはたんぽぽ色のリボンがあしらわれている。
嬉しいことに私が好んでいるヒールのない靴だ。
『可愛いんだけど……私には可愛すぎるんだよね』
スカートの裾を摘みながら言う。
「そんなことないわよ!とっても似合っているわ。ね、セブ?」
「えっ!?あ、あぁ、まあ……」
『ほんとーにそう思ってる?』
ハッキリしない答えのセブにずいっと近づいて目を見つめる。
真っ赤になっていくセブの顔。
「顔が近すぎだ、馬鹿」
トンと両肩を押されてしまう。
『むぅ』
「セブは照れているのよ。心から似合っているって思っているわ」
ぷいっと私から視線を逸らすセブは何を考えているのだろう……?
『……』
うーん。ダメだ……分からない。
ふと暗部時代を振り返る。
ターゲットを上司に教えられたら、後は何も考えずに問答無用で殺せ。
相手が持っている情報を探ったり、裏切り者かどうか判断したりする任務は私には回ってこなかった。
単純に、命令されて、殺す。
それが私の仕事であった。
人の心が分からない……
私はセブの顔から感情が汲み取れなくて小さく息を吐いた。
「先生がいらっしゃったわ。許可書を見せに行ってホグズミードへ行きましょう!」
『うん!』
私たちは許可書を見せてホグズミードへと歩き出した。
春の風は花の香りを乗せて柔らかく辺りに漂う。
暖かくて、気持ちいい。
家々の庭先ではチューリップやカモミール、苺が可愛い実をつけている。
「晴れて良かったわね」
「そうだな」
リリーの言葉に相槌を打つセブ。
ここはイギリス。
雨の多い国だ。
昨晩も雨が降っていて、早朝に上がった。
私は毎晩城を抜け出して叫びの屋敷で鍛錬している。
行き帰りが雨に濡れて鬱陶しかった。
ぐちゃぐちゃと水分を含む道に足跡を残しながら進んでいく。
たどり着いたのは三本の箒だ。
3人でバタービールを飲んで乾杯。
バタービールはバターの香ばしさと炭酸が気持ちよくって美味しい。私の大好物だ。
授業でどこが難しかった。あの授業は楽しかった。
それからこんな失敗をしちゃって、と皆で笑い合う。
私たちは満腹に料理も食べ、三本の箒から出ていった。
次に向かうのはハニーデュークスだ。
『新登場のお菓子を買うんだ。今日の新聞に広告が出ていたの』
「どんなお菓子?」
『空中に雲みたいに浮かぶ綿あめ。観賞用としてもどうぞ。だってさ』
「観賞用は衛生的に良くない気がするが」
セブが眉を寄せた。
『たしかに』
「まあ、ユキなら我慢できずに鑑賞時間5秒で食べてしまうだろうがな」
『んなっ。言ったわね~~。と言いたいところだけど否定できない』
セブとリリーにクスクス笑われながらハニーデュークスの扉を開ける。中は大賑わいだった。
「ユキ!あなたが言っていた綿あめあったわよ」
『どれどれ?うはっ。ちょっと高い』
私はリリーから受け取っていた綿あめを棚に戻した。
『私はいつもの板チョコを買うよ』
「待って!それならこうしない?3人で買うの。この後、どこかに座って綿あめを浮かべて楽しんでから食べるっていうのは?」
『いいの……?』
「僕も気になっていたからそうしよう。僕は甘いものはあまり多く食べないから3人で分けるくらいがちょうどいいしな」
『セブ、リリー……ありがとう!』
リリーはにっこり笑いながら、棚から綿あめを取ったのだった。
ハニーデュークスを出たらゾンゴのいたずら専門店へ。叫びヨーヨーやネズミ花火、爆発カラー玉などを買い込んだ。
充分買い物し終えた私たちは混雑した店を出て、綿あめを食べる場所を探すことに。
テクテクと歩いていると「あ!」とリリーが突然声を上げた。
「どうした?」
「ハニーデュークスで買った袋をゾンゴに置き忘れてきてしまったわ」
泣き出しそうな顔でリリーが言う。
『レジに置き忘れたんでしょう?お店の人が預かっていてくれているよ!そんな顔しないで』
「そうね。直ぐに取ってくるわ」
「僕たちも一緒に」
「ううん。2人は先に行っていて。あ!そうだわ。前におバカな悪戯仕掛け人たちと雪合戦をした場所で食べましょう。先に行っていて」
「分かった」
『走らなくてもいいからね~』
と言うが、リリーは走って元来た道を引き返していった。
「行くか」
『うん』
私とセブは冬に悪戯仕掛け人たちと雪合戦をした場所にやってきた。
大きな樹の下はあまり濡れておらず、地面がぐちゃぐちゃになっていない。
それでも湿っていて座れるような状態じゃなかったので、乾燥呪文で地面を乾かした。
『リリー、遅いね』
「そうだな」
セブが懐中時計を取り出して時間を確認した。
かれこれ30分は経過している。
『道に迷っているって事はないと思うけど、余計なのに捕まっていそう』
「余計なの?」
『ジェームズ』
セブが思い切り眉間に皺を寄せた。
「探しに行こう」
『そうだね』
私たちは荷物を検知不可能拡大呪文をかけた私のポーチに入れ、立ち上がってリリー探しを開始した。そして、小走りで村の中心部まで来た時だった。
『あ!ナルシッサせんぱーい』
お友達と一緒にいるナルシッサ先輩に声をかける。
「ユキじゃない。可愛いわね。その服を贈って良かったわ」
『えへへ。似合っているかは別として先輩の服はどれも可愛いですから。ありがとうございます。久しぶりに先輩にナルシッサ会えて嬉しいです!』
ナルシッサ先輩は既にホグワーツを卒業している。
「後輩とお茶をしたくてホグズミード行きの日に合わせて約束したの。ユキにも会えて良かったわ。ところで、ねぇ、セブルス。今日のユキ、とっても可愛いわよね?」
「え、えっと、まあ……」
「セブルス!ハッキリしなさい!イエス?オア ノー?」
ハッキリしないセブの答えにナルシッサ先輩がカッと目を見開いた。
「イ、イエスです。似合っていると思い、ます」
タジタジっとなりながら答えるセブルス。
私はハッキリとした答えが得られて皆に見つからないように頬を緩めたのだった。
「もう城に戻るの?」
ナルシッサ先輩が聞く。
『いいえ。友達を探していて』
「もしかしてよく一緒にいる赤毛の子かしら?」
『はい!先輩見かけませんでしたか?』
「その子なら30分くらい前かしら。紙袋を2つ抱えてゾンゴを出ていくのを見たわ」
『ありがとうございます』
じゃあね、とナルシッサ先輩たちはクイーン・オブ・ローズというちょっと高めのカフェへと入っていった。
「元来た道を戻ってみよう」
『そうね……』
すれ違った中にはリリーはいなかった。
断言できる。
それでも私たちはハイストリート通りを走って戻った。
『ん?セブ、待って』
「どうした?」
『あそこ』
細い路地に入る入口に4人の生徒が溜まっていた。
「グリフィンドールの馬鹿4人じゃないか」
『何か気になる。話を聞きに行ってみよう』
「おいっ」
私は嫌そうな声を出すセブを無視して悪戯仕掛け人たちの元へ行った。
『ねえ、みんな』
4人が一斉に振り返る。
「ユキじゃないか」
ジェームズが少しほっとしたように言ったが、私の後ろのセブを見て、眼光を鋭くした。
『リリー見なかった?』
「リリー?」
キラリとジェームズの目が輝く。本当に分かりやすいんだから。
「俺たちは見てないぜ。この落し物に夢中でな」
シリウスが地面を指さした。
袋が2つ。ハニーデュークスで買ったと思われるお菓子の入った袋と、ゾンゴで買ったと思われる悪戯グッズが小さな袋に入っている。
『それ、ちょっと見せて!』
血の気が引いていく。
「ちょっと、ユキ!4人で山分けするところだったんだけど?」
文句を言うジェームズを無視して袋の中身を調べる。
やっぱりだ。
『ハニーデュークスの袋の中身も、ゾンゴの袋の中身も、リリーが買ったものと同じ』
「なんだって!?」
ジェームズが声を裏返して叫んだ。
「どういう事だ?」
『シリウス、多分だけど、リリーは何かの事件に巻き込まれた可能性が高い』
「事件って決まったわけじゃ」
『リーマス、見て』
私は細い路地の先を指さした。
地面に大きな足跡―――大きさ的に男のものだろう。それとバタバタと小さな足跡が乱暴についている。
細い路地の先には足跡はない。
『考えられるとしたら、変身させられてどこかに連れて行かれたか……』
「そんなっリリー!どうしたらっ」
『まだ近くにいるはずだわ。靴の跡を追って……は難しいわね』
いくら私でもハイストリート通りに出てしまえば沢山の人の足跡で、犯人の足跡を追跡することはできない。
「兎に角、先生に報告だ」
「ぼ、僕行ってくるよ」
リーマスの呟きを拾ってピーターが駆けていった。
『この辺りで隠れる場所はあるかしら?』
「おい、待て、ユキ。変身術で小さい動物にされて連れ去られたんなら、姿くらましでどこか遠くへトンズラしているんじゃねぇのか?」
『そうかもしれない。でも、もし今話題の連続婦女子殺人事件の犯人だったとしたら……。そいつは、その町中、村の中で犯行を犯す特徴がある』
「僕たちが三本の箒に行った時にちょうど闇祓いが来てね。ユキが言っている連続婦女子殺人事件の犯人が分かったって指名手配書を柱に貼っていったよ。この辺りは気をつけたほうがいいって言っていた。若い女の子を狙う犯人がホグワーツの子供に目をつけるかもって」
闇祓いとマダム・ロスメルタの話をリーマスが教えてくれる。
「そんなっ。リリーが、リリーが!」
「ジェームズ落ち着いて」
「落ち着いていられないよッ」
宥めるリーマスにジェームズが叫ぶ。
『リーマスの言う通り、落ち着いて犯人が行きそうな場所を探さなきゃ』
黙り込み、考え込む私たち。
ふと顔を上げると、悪戯仕掛け人3人が目配せをし合っていた。
『心当たりがあるんだね?』
「だけど、そこに犯人がいるかどうかは……」
リーマスが声を段々小さくしながら言う。
「ここにいても仕方ない。案内しろ」
「スニベルス、貴様に命令される筋合いは―――」
『シリウス!言い合っている場合じゃないよ。案内して。行こう』
私たちはハイストリート通りを走った。
ダービッシュ・アンド・バングズ店を通り過ぎ、村のはずれに出た。
私たちは山の麓に向かって進んでいる。ホグズミードはその山の麓にあるのだ。
曲がりくねった小道に入った時、私はこちらに来て正解だと確信を得た。
『見て!』
私は声を上げた。
小道についている一人分の足跡。小さな路地裏にあった足跡と同じものだ。特徴的な模様なので間違いない。
「行き先はあの洞窟だね。僕は町に戻って、先生か闇祓いに伝えてくる」
「頼む、リーマス。俺たちは行こう」
ジェームズを先頭に走り出した。
ここにも住宅はあったが、まばらで、庭は大きめだった。
家々を通り過ぎ、ついには道の両側は木や岩だけになった。
ジェームズ、シリウスについて道を曲がると、道のはずれに柵があった。
柵には錠がかかっていなかったのですんなりと通り抜けられた。
あたりは低木が茂り、上り坂で、行く手は岩だらけの山の麓だ。
私たちは石に躓きながら出来る限りの早いスピードで坂を上っていった。
ジェームズとシリウスは私とセブを山のすぐ下まで導いていく。
辺り一面岩石で覆われている。
岩と石の坂を走って登って20分。私たちは大きな岩の前に来た。
「ここだ」
小声でシリウスが指し示した場所には狭い岩の裂け目があった。
「みんな杖の準備を」
「お前に言われなくても分かっている」
ジェームズとセブが睨み合った。
「おい、行くぞ」
シリウスがジェームズの肩を叩いた。
「あぁ。カウントする。さん――にい――いちっ」
狭い岩の隙間からジェームズ、私、シリウス、セブの順番で飛び込んだ。中は薄暗い洞窟だった。
「リリー!」
「ステューピファイ!」
『プロテゴ!』
ジェームズの叫び声、男の野太い声、私の盾の呪文。
私は上手く相手の失神呪文を弾き飛ばすことが出来た。
「なんだ餓鬼か」
ランプの光が反射した男の目が猟奇的に光った。
「リリーに何をした!」
セブが叫ぶ。
ぐったりと大きな岩の上に寝かされているリリー。
「まだ何もしちゃいないさ。お楽しみはこれからでね。しかし、4対1は分が悪いな」
ヒュンと男が杖を振った。
シリウスとセブの手から杖が飛んでいく。
武装解除されてしまったのだ。
私とジェームズは寸前で気づき、プロテゴを唱えることが出来た。
「餓鬼のくせにやるじゃないか。優秀だ。おじさんの仲間にならないかい?」
ニヤニヤと笑う男。
私たちはその男の後ろを見ていた。
リリーがゆっくりと身じろぎをした。
そして、ハッと自分の置かれている状況に気が付く。
リリーは慎重にポケットから杖を出した。
「ステューピきゃあっ!!」
「おっと。ダメだよ、お嬢ちゃん」
リリーの杖は男に奪われた。
「ステューピ「動くなよ?」
ジェームズは悔しそうに呪文の詠唱をやめる。
リリーの頭に杖が突きつけられたからだ。
「ハッハッハ。坊や達には死んでもらうよ。でも、そこの女の子は別。俺のものだ。この赤毛と一緒に可愛がってやるよ。嬉しいねぇ。東洋人をヤレるのは初めてだ」
私はゆっくりと膝を折って、準備する。
人質も取って
相手は子供
すっかり油断している
「誰から死にたいかな?ん?」
ニタニタと笑う男が杖をジェームズ、セブ、シリウスの間で行ったり来たりさせている。
忍の身体能力を見せるのは嫌だけど、そうも言っていられない。
奴を倒す
「よし、じゃあジャンケンで決め―――っぐぅふっ」
私はひとっ飛びで男の元まで詰めた。
男の手首をねじり上げて杖を落とし、そのまま背負い投げで地面に叩きつける。
「ユキ!」
『リリー』
私の名前を呼びながら、リリーが私にぴょんと抱きついた。
セブとジェームズ、シリウスもやってくる。
「大丈夫か?」
青い顔で私とリリーを見るセブは、リリーを見て、パッと視線を逸らした。
リリーを見ればブラウスを引き裂かれて下着が顕になっている。
「怪我はないわ。大丈夫。助けに来てくれてありがとう、みんな」
リリーは裂けたブラウスが見えないように上着の前を合わせた。
「後はこいつを縛って闇祓いに突き出すだけだね」
ジェームズが男の両手を結びやすいように、手でうつ伏せに倒れる男を動かそうとした時だった。
男の目がカッと開く。
私の落ち度だ。
意識を落とし損ねたらしい。
勢いよく起き上がった男がジェームズにギラリとした視線を向ける。
私はジェームズと男の間に入った。
男のローブからスッとナイフが出てくる。
避けられるけど……
ここで避けたら子供にしては強すぎる。
皆に「私は何者か」と疑念を持たれては困る。
今は人質も取られていないんだ。
自分が傷つくだけなら構わない。
保身しよう。
ん……ナイフに毒が仕込んである。
だが、毒には耐性がある。
死にはしないだろう。
大人しく切られよう。
ビュンッ
ナイフが腕を切った。
落ち着け。
子供でも出来そうな方法で倒さなければならない。
ツボをついて倒すとか論外。
軽い体重の小娘が頭を蹴って脳震盪を起こさせるのもちょっと無理があるか。
ならば、オーソドックスに体当たり。
「ぐっ……」
男は石の壁に全身を強打して今度こそ白目を剥いて意識を失った。
「ユキ!」
真っ青になってジェームズが叫んだ。
「すまない。僕を庇って」
『ううん。私がコイツの意識を落とし損ねたのが悪い』
私はそう言いながら男の手からナイフを外してリリーが乗せられていた岩に置いた。
後でマダム・ポンフリーに何の毒か見てもらわないと。
マダム・ポンフリーだったら傷口と症状を見ただけで分かるよね?
紫色の泡を吹く線状の傷口。
私は呪文を唱えて破れた服を繕い、傷が見えないようにした。
洞窟の外が騒がしくなってきた。
「こっちです!」
リーマスの声が聞こえる。
「無事ですか!?」
闇祓いとみられる3人の魔女・魔法使いの後にミネルバが洞窟に入ってきた。
闇祓いの人はあっという間に連続婦女子殺人犯を鎖でがんじがらめにした。
私は怪我をしているので一足先に洞窟から出ることになった。
リリーは「大丈夫」と気丈に言って、事情聴取を受けると言ってその場に残った。
セブと悪戯仕掛け人たちも何が起こったか説明するためにその場に残ることに。
「後で見舞いに行く」
セブが心配そうな瞳を向けて私に言った。
「僕たちも行くよ」
ジェームズも気遣わしげに言ってくれる。
怪我は軽いから付き添いはいらないと言って、1人坂を下りていく。
寮監のスラグホーン教授が坂の下の柵のところまで来てくれていて、私はスラグホーン教授と城へと戻っていく。
『スラグホーン……教授……』
「なんだい?雪野くん」
『毒が刃についていたみたいで……』
「!?雪野くんっ!しっかりするんだ」
地面に膝をつく私にスラグホーン教授が叫ぶ。
この量の毒が体に入ったのに動いているなんて変だろう。
マダム・ポンフリーに不審がられること請け合いだ。
スラグホーン教授、迷惑かけてごめんね?
教授は大急ぎで担架を作って私を城へ運んでくれた。
ナイフに塗られていた毒は痺れ薬だった。
痺れ薬なんて暗部時代に慣たものだし、マダム・ポンフリーの解毒薬で私はすっかり治っていた。
傷口もマダム・ポンフリーが綺麗に塞いでくれた。
30分後、リリーが医務室にやってきた。
現場では気丈に振舞っていたリリーだが、やはり怖かったらしく、ミネルバの胸で声を上げて泣いていた。
生ける屍の水薬をマダム・ポンフリーに処方されて、興奮した心を落ち着け、夢の中へと入っていった。
それから更に1時間ほどで経った頃だろうか。
廊下がガヤガヤとして幾つもの足音が医務室へ近づいてきた。
「あなたたち。静かにできなかったら直ぐに出て行ってもらいますからね」
扉が開く音。
カーテンを開ける。
隣のベッドのリリーもカーテンを開いた。
生ける屍の水薬の量が少なかったのだろう。目が覚めたのだ。
扉を開けて入ってきたのはセブと悪戯仕掛け人たち。
「コイツらとはたまたま会っただけだ」
プイとセブが悪戯仕掛け人から顔をそらし、リリーに「拾ってきたんだ」と彼女がホグズミードで買った荷物を渡した。
「ゾンゴの最新作を見るかい?リリー。きっと気にいると思うよ?」
目を腫らしたリリーを気遣うように、ジェームズが兎の耳のカチューシャをかぶった。
途端にお尻に白いふわふわの尻尾、前歯が長くなってジェームズの姿は兎になった。
ぴょーんぴょーんと飛ぶジェームズは効果音を間違って「ケロケロ」と蛙の真似をしたものだから、みんな一斉に吹き出してしまう。
その後はハニーデュークスのお菓子をベッドに広げて食べ比べ。
もちろん雲のような綿菓子も食べることに。
袋を開けると頭上1メートルの高さに雲が浮かぶ。
平和そうに、ふわふわと。
リリーが無事で良かった。
綿あめの甘さに頬を緩ませるリリーの顔を見ながら思う。
私の大事な親友。
あなたを傷つける者は許さない。
私が一番怖いもの。
それは自分の命が危険に晒されることではない。
己の死よりも、私は、2人の親友が傷つけられることを恐れている。
私の大事なふたりの親友。
あなた達を失うことが、私は何より怖いのだ――――