第4章番外編
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夜の花見
とある日の朝、ユキはセブルスの研究室へと向かっていた。
『セブ、セブ、セブーーーー!』
生徒たちはイースター休暇で家に帰っており、学校には殆ど人がいない。
ユキの声は地下の廊下によく響いた。
大声で名前を呼ばれたセブルスが研究室から顔を出す。
「何事かね?」
夜通し実験をしていたのであろう、顔に色濃く疲れの色を出しながらセブルスは自分のところへと走ってくるユキを見る。
『見つけたのよ!いや、正確には違うけど、でも、見つけたの!』
「お前は何が言いたいのだ」
キキっと自分の前で足でブレーキをかけて止まるユキを鬱陶しそうにして見ながらセブルスは言う。
そんなセブルスの様子など気にせずに、ユキは興奮したように口を開いた。
『見つけたの!桜の花に似た花!』
「桜?」
『えぇ、以前言っていたでしょう?桜の花を見たら春の訪れを感じるって』
あぁ、そんな事もあったな、とセブルスは思い出す。
ロックハートが闇の魔術に対する防衛術の教授をしていた時、ユキはロックハートが放った小人に捕まってしまった時があった。
それを助けたセブルスは弱っているユキを自室へと連れて行き、そこでバレンタインの贈り物を交換したのだ。
セブルスからは沢山のお菓子の詰め合わせ。
ユキの方は、バレンタインカード。封筒の封を切ると、魔法が発動する仕掛けになっていた。
封筒から飛び出したのは桜の花びら。薄紅色の桜が舞う中、2人はいつか一緒に桜を見に行こうと約束していたのだ。
『桜の木ではないけれど、とても似ている花をつける木を見つけたの。アーモンドの木よ。禁じられた森を西に進んだところに生えていたの』
目をキラキラさせるユキを見て、セブルスは徹夜していた疲れを忘れ、口元を綻ばせる。
故郷の風景を思い出したのであろうな。
そう思い、優しい眼差しでユキを見た。
「良かったな」
『えぇ!それでね、セブにも見せたいと思ったの。どう?一緒にお花見しない?』
疲れてはいたが、セブルスは首を縦に振った。
「今から行くか?」
『ううん。セブ、疲れて見えるわ。行くのは夜にしましょう?夜、月の光に照らされた花を見るのも風流なものよ』
ユキはセブルスの顔色を見ながらそう言った。
『それでいい?』
「大丈夫だ」
『では、待ち合わせは9時に正面玄関にしましょう』
「分かった」
『楽しみにしているわね』
ユキはそう言って楽しそうにヒラヒラとセブルスに手を振って、地下の廊下を足取り軽く駆けていった。
夜9時。
ユキが帰ってからひと眠りしたセブルスは正面玄関でユキを待っていた。
下弦の月が美しい夜だ。
『セブ』
名前を呼ばれてセブルスが振り向くと、ユキがバスケットを持ってやって来る。
「それは?」
『お花見には美味しいお酒と食べ物がなくっちゃ』
悪戯っぽくユキが笑う。
「酒か。飲み過ぎるなよ?我輩は酔ったお前の暴走を止める自信がない」
そう言いながらもセブルスは優しい。
ユキが持っていたバスケットをサッとユキの手から奪った。
『ありがとう。セブって紳士だよね』
「そういう事をいちいち口に出すな」
ぷいっとユキから顔を逸らすセブルスの顔はほのかに赤い。
「それで、何処へ向かう?しっかり案内を頼むぞ。禁じられた森を夜に歩くのだ。気を引き締めて行かねばな」
『何かあった時は責任を持って私が対処するから大丈夫!さ、行こう』
ユキは忍術で宙に浮く炎を数個出して自分たちの周りに浮かべる。
2人は禁じられた森に入り、西へと進んでいく。たわいも無い会話をしながら20分ほど進んだ頃。
『この上り坂を上ったら目的地に到着だよ』
そう言って、ユキは火の玉を消した。
『星の光の呪文を出そう。その方がロマンチックだから』
「お前にも叙情的な心があったとは驚きだ」
『もうっ。セブったら』
膨れるユキを見てふっと笑いながらセブルスは杖を取り出す。
「ステルラ・ステッラ」
ユキも杖を出して唱える。
『ステルラ・ステッラ』
蛍のような小さな光の光源が空中に現れる。
2人はその光を自分たちより先に丘を上らせた。
光の後をついていくセブルスとユキ。
2人は丘を上りきる。
『素敵……』
「あぁ、美しいな……」
2人の口から吐息混じりの声が漏れる。
その美しさに心が震える。
目の前には幻想的な景色が広がっていた。
広い開けた土地に立つ十数本のアーモンドの木。
薄紅色のアーモンドの木の周りをふわりふわりと漂いながら照らす小さな光。
ヒラヒラと舞い落ちるアーモンドの花が美しい。
2人は暫し言葉を忘れてその光景に魅入った。
『近くまで行こう』
「そうだな」
2人はアーモンドの木の下までやってきた。
その美しさは近くで見ても変わらなかった。
2人は敷物を敷き、その上に座った。
ユキはバスケットを受け取り、詰めてきたナッツやチーズなどのおつまみを取り出す。
『じゃーん。見て見て!』
ユキはバスケットの中から最後に、勿体付けるようにしてある物を取り出した。
「これは……酒か?」
ユキが取り出したのはピンク色で桜の花びらが彫られている美しいボトル。
『うん。ジャパニーズマーケットで買った日本酒だよ』
「確か日本はお前の故郷に似ているという国だったな」
『うん。お酒もそうだった。それからこれも』
ユキが続いてバスケットから取り出したものにセブルスは首を傾げる。
「何だ、これは」
『徳利とお猪口といいます。徳利にお酒を入れて、お猪口で飲むの』
「こんなに小さいカップで飲むのかね?」
『この小さいお猪口でチビチビ飲むのがいいらしいのよ』
ユキは『どうぞ』とセブルスにお猪口を渡した。そして徳利に酒を注ぎ、杖でチョンと叩く。
『熱燗にしよう』
ふわりとしたお酒の香りが徳利から立ち上る。
『お酌するね』
トクトクトク
白い盃に注がれる酒。
『飲んでみて』
セブルスはスっと香りを嗅いでからお猪口に口をつける。
『どう……?』
「旨いな」
セブルスの言葉にユキは破顔する。
『良かった。もう一杯どうぞ』
「あぁ」
注がれた酒に薄紅色の花が映る。
ひらひらひら
花が散り、セブルスが持っていたお猪口の中に花弁が入る。
『綺麗だね』
小さな小さな器の中にできた芸術に2人の口元が緩む。
「惜しい気もするが……」
セブルスは酒を飲み干した。
「次は君の番だ」
『ありがとう』
今度はユキが持つお猪口にセブルスがお酒を注ぐ。
ユキは水面に映る花を楽しんでからクイッとお酒を飲み干した。酒の良い香りが鼻を通り抜ける。
ゆっくりと、2人は花見をしながら酒を楽しむ。
穏やかに流れる贅沢な時間。
舞い散る花
2人の周りを飛ぶ小さな光
『ん……』
「ユキ?」
酒を楽しみ、幹に寄りかかって静かに風景を眺めていたユキとセブルスだったが、セブルスは右肩に重みを感じ、ユキへ顔を向けた。
『ちょっと……酔った……かも……』
セブルスの胸がトクリと音を立てる。
自分の肩に寄りかかるユキの頭。
ユキの頬は今見ている花のように赤らんでいて、自分を見上げる瞳は潤んでいた。
「やはりか。飲み過ぎたようですな」
『飲み過ぎないように注意していたつもりなんだけどなぁ』
小さく眉間に皺を寄せるユキ。
「気分が悪いか?」
『少し視界がぐるぐるする』
ユキがそう言った時だった。ユキは倒れていく感覚に驚いて目を見開いた。
気が付けば、ユキの頭はセブルスの膝の上。
「これで少しは楽になるであろう?」
『う、うん。だ、だけど……』
「だけど何かね?」
『ちょっと恥ずかしい、かな……?』
ユキは自分を見下ろすセブルスから視線を逸らしながら言う。
先程より更に赤くなるユキの頬にセブルスは手を持っていく。ピクリと跳ねるユキの体。セブルスはそんなユキの反応を楽しみ、くつくつと喉の奥で笑う。
『も、もうっ。揶揄って』
ユキは地面に手をつき、抗議するために体を起こした。
しかし、
『あっ……!』
ぐらりと視界が揺れる。
前へと倒れていくユキの体。
『―――っ!』
ユキの顔はセブルスの胸に衝突した。
『ごめん。私、石頭だから。痛かった―――!?』
「痛くはない」
ユキは言葉を切って固まった。
背中に回された腕で引き寄せられた自分の体。
セブルスは左腕をユキの背中に回し、抱きしめた。
『酔っているでしょ、セブ』
「そうかもな」
『ね、ねえ、離して?』
「断る」
ぎゅっとセブルスの腕に力が入る。
「もう少しこのままでいさせろ」
回されていなかった片腕も、ユキの背中に回る。ユキは軽く開かれたセブルスの脚の間に両膝をつき、顔を赤くしながら固まる。
酔ってぼーっとする頭。
花の芳しい香りに包まれて、恍惚とし、そのまま意識を飛ばしたくなる。
ユキは意識を手放さまいと必死に耐えた。
セブルスの方はユキの肩に顔をうずめた。
女性独特の甘い香りが酒に酔っていたセブルスを更に酔わせる。
「ユキ」
甘く、セブルスがユキの名を呼ぶ。
「やはり我輩も酔っている」
『水を持ってくるわ』
「いや、このままでいて欲しい」
ユキの首筋にセブルスの吐息がかかり、ユキは体を打ち震わせる。
『あ……』
首筋に感じる滑らかな感触にユキの口から思わず声が漏れる。
チュッと軽快な音が闇夜に溶けた。
「月とこの幻想的な花に惑わされたのだ。許してくれ」
囁き、セブルスは口付けた箇所にそっと自分の指をそわせる。
ユキは自分の首筋にそえられるセブルスの手に自分の手を重ねる。
交わる2人の視線
一陣の風
2人の体を花吹雪が包んだ
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
80000番のキリ番を踏んで下さったkeiyan様からのリクエスト作品です!keiyan様のみお持ち帰りOKです。
リクエストはセブルスの甘小説という事でした。