第4章 攻める狼
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20.期末試験
『セブったらいつまで不機嫌なの?』
「煩い」
ユキ先生とスネイプが僕の横を通り過ぎていく。
スネイプは僕たちグリフィンドールがクィディッチ優勝杯を取ってからあんな感じ。いつも以上に不機嫌だ。
ユキ先生はよくあんな不機嫌全開のスネイプに話しかけられるなと思いながら僕は朝食のパンを口の中に詰め込む。
僕はモグモグ咀嚼しながら周りを見渡してみた。みんな気が立っている。
特にロンの兄のパーシーは魔法省に就職希望だったので、最高の成績を取る必要があるため、日に日に刺々しくなっていた。
とはいってもハーマイオニーよりはマシだ。近頃のハーマイオニーは邪魔されると爆発しちゃうことが多くなっていた。
そんなハーマイオニーに話しかける勇者……命知らずが一人……
「ねえ、ハーマイオニー、この時間割写し間違いじゃないのか?」
ロンがハーマイオニーの手元に視線をくれながらおずおずと聞いた。
僕もハーマイオニーの手元を覗き込んでみる。あったのは試験の時間割表だ。
そこには9時に数占いと変身術。13時に呪文学と古代ルーン文字14時40から忍術学と書いてあった。
「2つ同時に受験する気なのかい?」
「なんですって?」
僕とロンはハーマイオニーにキッと睨まれて思わず首を竦めた。
「どうやって同時に2つのテストを受けるのか、聞いてもしょうがないよね?」
「しょうがないわ」
にべもない答えが返ってきた。
「あなたたち、私の数秘学と文法学の本を見なかった?」
ハーマイオニーが話題を変えてしまった。
ロンと肩を竦めて顔を見合わせていると、羽音が聞こえてきた。ふくろう便の時間だ。
いつものように何百羽というふくろうが一斉に大広間の中に入ってくる。
「あ、ヘドウィグだ」
ヘドウィグが嘴にしっかりメモを咥えてやってきた。
「誰から?」
「ハグリッドから」
急いでメモを開く。僕の目に飛び込んできた文字。
僕は思わず歓声の声を上げていた。
「バックビークが無罪放免、釈放されることになった!」
これにはハーマイオニーも読んでいた本から顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
「やったわ!」
僕たち3人はハグリッドからのメモを覗き込む。
そこにはユキ先生がルシウス・マルフォイ氏にかけあってくれたおかげでバックビークは無罪になったと書いてあった。
「さすがユキ先生だ」
ロンが歌うように言う。
「でも、先生……」
「どうしたの?ハーマイオニー」
ハーマイオニーの方を見ると眉を寄せて不安げな顔をしていた。
僕とロンが顔を見合わせて何事だろうと思っていると、
「ユキ先生、バックビークのことで、マルフォイ氏に借りを作ってしまったのではないかしら?」
と言った。
要は、この件でユキ先生がマルフォイ氏に交換条件として何か無茶を頼まれないかと危惧しているのだ。
「それは、確かに心配だな」
「ユキ先生なら上手くやるような気がするけど」
その時、予鈴の鐘がなった。
「行かなくちゃ」
僕は急いで残りのパンを口に入れて牛乳で流し込む。
「ユキ先生には直接本人に聞いてみよう。マルフォイ氏から何か無茶を言われていませんかって」
ロンとハーマイオニーが頷き、僕たちは1時間目の授業を受けるために席を立ったのだった。
****
試験が始まり、週明けの城は異様な静けさに包まれていた。
月曜日の1時間目。試験1発目は変身術だ。
「ハリー・ポッター」
マクゴナガル教授が僕の名前を呼んだ。
上手くいくだろうか……
教室の中に入ると、教壇のところに文机が置いてあり、こちらへ来るようにとマクゴナガル教授に呼ばれる。
文机の上に置いてあったのは柳模様のついた紅茶セットだ。もしかしてお茶をいれてくれる……なんて訳ないよな。
「まずはティーカップをネズミに変えてもらいましょう」
マクゴナガル教授が言った。
これは自信がある。実は昨日、ロンのスキャバーズを見ながらちょうどティーカップをネズミに変える練習をしていたばかりだ。
僕は自信を持って杖を振った。
ヒュン グニャリ
ティーカップは歪んで、ネズミの姿に。
「よろしい。よく出来ました。では次、このポットを陸亀に変えてください」
陸亀……
陸亀ってけっこう大きいよね。僕は頭の中に陸亀を思い浮かべながら杖を振る。
グニャリ
歪んだティーポットは僕が頭に描いていた通り陸亀に変身した。
しかし、ちょっとおかしい。陸亀の口からは湯気のような煙がフーフーと噴出されてしまっている。これは減点だな……。
でも、形だけは陸亀に変身したんだ。そんなに悪い点にはならないさ。僕は自分で自分を励ましながら教室を出て行ったのだった。
慌ただしい昼食のあと、直ぐに教室に上がって呪文学を受けた。ハーマイオニーの言う通り、フリットウィック教授は「元気の出る呪文」をテストに出した。
二人ひと組になって教室に入り、お互いに元気の出る呪文を掛け合うのだが―――――
緊張しているせいかやりすぎてしまった。
「アハハハハハ。ヒーっお、おかしい。それに晴れやかな気分!」
ロンが壊れた。
ロンは笑いの発作が止まらなくなってしまい、静かな部屋に隔離され、1時間休んでからテストを受ける始末になってしまった。ごめんね、ロン。
1時間後、ロンに元気の出る呪文をかけてもらった僕は上機嫌で忍術学のテストを受けるために戸外へと移動する。
『名前に番号をつけて呼ぶから、足元に置いてある石の番号のところに行ってちょうだい』
広場には銀色のキラキラ光る線でマス目が書かれてあった。マスの中には小石が置いてあり、その小石には番号が書かれている。
『32番、ハリー・ポッター』
「はい!」
返事をして場所につく。
右斜め前を見た僕は鼻にシワを寄せる。見えたのはマルフォイとデリラ・ミュレー。
ユキ先生にいいとこ見せたい!
絶対にこのふたりに(あとハーマイオニーにも)負けるものか。
僕は腕まくりをして気合を入れる。
『第一の課題はチャクラコントロールで石を粉砕してもらいます』
ユキ先生の影分身がやってきて、僕たちに拳大の石を配っていく。
焦らなければ大丈夫。
そう自分に言い聞かせていると、
『では始め!』
ユキ先生から開始の合図がかかった。
左手の上に乗せた石を右手でゆっくりとなぞる。中心点を見つけるためだ。この石の中心点はどこだろう?
暫く石に手を当てて探していると……あった!
ぼんやりとだが、石の中心が感じられた。
僕は人差し指を突き出して、トンと石をつつく。
パアァアン
パアァン
僕の手のひらに乗っている石は粉々に砕けた。が、僕が粉砕する前にどこかで石が砕ける音が聞こえていた。
『Mr.マルフォイ、よく出来ました。ハリー・ポッターも上手に粉砕できましたね』
マルフォイが後ろを振り返って僕をニヤリとした笑みを浮かべて見た。く、くやしい……
だけど、僕はマルフォイの手元を見て、少しだけ気分が良くなった。
マルフォイの粉砕は完璧とは言えなかった。僕のは小麦粉の粉のように細かく粉砕されたが、あいつのは砂利のようだった。
パアァン
パアァン
あちこちで粉砕音が響く。
ハーマイオニーも直ぐに粉砕に成功することが出来た。僕と同じ小麦粉のような細かさだ。ロンの方も上々だ。小麦粉ほどとまではいかないが、米粒並に粉砕できていた。
『次は分身の術よ。制限時間は20分とします。みんな、頑張って!』
始めの合図がユキ先生からかかる。
「「「「「「分身の術」」」」」」
みんなが一斉に分身の術を唱えた。
僕も印を結び、"分身の術"と術を唱える。
ポンッ
うえっ。しまった!
緊張していたせいだろう、横を見ると魂が抜けたようにぐったりした分身がいた。これじゃあダメだ。
僕は一度分身を消して、深く深呼吸。
落ち着くんだ。落ち着いてやればちゃんとした分身が作れるはずだ。
僕は心を落ち着け、もう一度分身の術を唱える。
ポンッ
よし!今度はうまくいったぞ!
「ユキ先生!」
僕と僕の分身がユキ先生に向かって手を大きく振る。
『よく出来ました、ハリー・ポッター』
ニコリ。優しい笑み。
石の粉砕はマルフォイにタッチ差で負けてしまったけど、分身の術ではあいつに勝つことが出来た。
僕は分身とハイタッチ。
みんなの試験が終わるまで、僕はニコニコ顔で待っていたのだった。
次の日の1時間目は魔法生物飼育学、そして午後は魔法薬学で、これは完璧な失敗だった。
混乱薬を調合するのだが、僕の薬はどうやっても濃くならず、スネイプはそれを楽しそうに見て、僕の欄にどうやら0のような数字を書き込んでいた。
真夜中は一番高い塔に登って天文学を、水曜日は魔法史、続いて薬草学。最後から2番目のテストは闇の魔術に対する防衛術。
闇の魔術に対する防衛術のテストは楽しかった。
戸外での障害物競争のようなもの。
ルーピン先生の話を聞いていると、ユキ先生がやってきた。
「あれ?先生どうしてここに?」
『生徒がヒンキーパンクに惑わされて泥沼で溺れたり、グリンデローが潜む深いプールに落ちたら助けられるように来たのよ。ルーピン先生は試験の採点で忙しいからね』
そう言ったユキ先生は影分身の術を唱えて影分身を出し、それぞれの場所に配置させた。
後ろに居たネビルが心底ホッとした様子で「よかったー」と独り言を言っている。ユキ先生がいると心強いよね。
「次、ハリー・ポッター!始め!」
ルーピン先生の掛け声で僕は走り出す。
まずは水魔のグリンデローが入った深いプールを渡り、次に赤い帽子のレッドキャップが潜んでいる穴だらけの場所を横切って、続いて道に迷わせようと誘うおいでおいで妖怪のピンキーパンクをかわして沼地を通り抜けて最後にボガードが閉じ込められている大きなトランクに入った。
トランクの中は暗くなかった。豆電球がつけられていてほの暗く照らされている。
僕はゴクリと唾を飲み込みながら杖を構え直した。
シュルシュルと僕の前で回転するボガードはいつも通りディメンターの姿へと変わった。
サーっと血の気が引いていくが僕は足を踏ん張って耐えた。
これは本物のディメンターなんかじゃない。パトローナスの練習で見慣れているじゃないかと自分自身を励ましながら杖を振る。
「リディクラス、バカバカしい!」
パチンッ ヒュルヒュルヒュル
ヒュルヒュル音を出しながら回転したディメンターの姿に僕はプッと吹き出した。
目の前にいるのは真っ黒のローブの代わりに真っ白なベール。
そして真っ白なウエディングドレスを着ている、ディメンターではなくスネイプの姿。
大成功だ!
「リディクラス!バカバカしい!」
ウエディングドレス姿のスネイプにもう一度術を唱えると、ボガードは混乱したようにトランクの中を飛び回ってから目の前にあった小さなローチェストの戸棚の中へと戻っていった。
「上出来だ、ハリー」
トランクの中から出てくると、ルーピン先生は試験場を映し出している鏡から顔を上げ、低い声で「満点」と言った。
上手くいったことで気分が高揚した僕は暫くそこで他のクラスメイトやハーマイオニー、ロンの様子を見学することにした。
ロンはヒンキーパンクのところまでは上手くやったが、ヒンキーパンクに惑わされて泥沼の中に腰まで沈んでしまい、ユキ先生に助け出されていた。
ハーマイオニーは全て完璧にこなしたが、ボガードの潜むトランクに入ってから1分ほどで叫びながら出てきた。
「マ、マ、マクゴナガル教授が私に全教科落第だって!!!」
あまりにもハーマイオニーらしい“恐怖の対象”に思わず吹き出してしまった(ごめん、ハーマイオニー)。
ハーマイオニーを落ち着けるのに暫くかかった。そして、ようやく元のハーマイオニーに戻ったところで僕、ロン、ハーマイオニーは城へと連れ立って帰っていった。
「それじゃあ僕たちは占い学に行くからここで」
「2人とも頑張ってね」
占い学をやめたハーマイオニーがお気の毒にと言った顔で僕たちに手を振る。
8階まで登るとトレローニー教授の教室に上がる螺旋階段にはクラスの他の生徒が大勢腰掛けて最後の詰め込みをしていた。
長い列はなかなか短くならなかった。
「眠いね」
「ホントだよ」
ロンが大あくびをしながら僕に答える。
「ロナウド・ウィーズリー」
霧の彼方から聴こえてくるような声で目を開けると、いつの間にかそこにいたのはロンと僕だけになっていた。
タイミングよく起きられて良かった。
ロンも寝ていたらしい。目をこすり、頭をブルブルと振って眠気を吹き飛ばし、そして僕にしかめっ面を作って見せてから銀のはしごを登っていった。
20分ほどうつらうつらしていると、ようやくロンがはしごの上に現れた。
「どうだった?」
「なーんにも見えなかったよ。だからでっち上げた」
トレローニー先生が僕を呼んだ。
「じゃあ行ってくる」
「何か見えますよーに」
塔のてっぺんは一層暑かった。夏の日差しで部屋の中は温まっているのにさらに部屋のカーテンは締め切られ、火は燃え盛り、ハーブのむっとする匂いに満ちていた。
椅子やテーブルがごった返している中を進む。
「この玉をじっと見てくださらないこと?そしてなにが見えるか教えてくださいましな……」
水晶玉に覆いかぶさるようにして見る。が、何も見えない。
ロンと同じくでっち上げようと頭を回転させる。
「えーと、黒い影……黒い影が見えます」
「何に見えますの?よーく考えて……」
トレローニー教授が囁くように言った。
どうしよう。グリムの犬のことを言う?そう言ったらトレローニー教授は喜ぶだろうけど……僕は嫌だな。
それでは、さてどうしようと考えていると、バックビークのことが頭に浮かんだ。
「ビックバーグです」
「まあ!あの気の毒なヒッポグリフのことね。ヒッポグリフの頭は胴体についていて?」
トレローニー教授はバックビークが無罪になったことをまだ知らないらしい。
喜々としてバックビークの胴と頭を切断したがっているトレローニー教授に眉を寄せながら僕は口を開く。
「ヒッポグリフは元気そうですよ……ええと、ほら!飛び去るところのようです。元気よく空を飛び回っています」
目に見えてトレローニー教授はガッカリした顔になった。
「そう……ちょっと残念でしたけど、ここでおしまいにしましょう。あなたはベストを尽くしたのでしょうから……」
ホッとして立ち上がる。
「それでは失礼します」
この暑くて鼻にむっとくるような匂いの部屋から早く立ち去りたいとカバンを取り上げて帰りかけた時だった。
背後から、太く、荒々しい声が聞こえてきて、僕はビクリとなって振り返る。
「ことは、今夜起こるぞ」
見るとトレローニー教授は虚ろな目をして、口をだらりと開け、肘掛に座ったまま硬直していた。
目がギョロギョロ動き始め、僕は戦慄してその場に立ちすくむ。
まるで引きつけの発作のようで医務室に走るべきか迷っていると、いつもとは全く違う、荒々しい声が部屋の中にこだました。
「闇の帝王は、朋輩に打ち捨てられて弱っている。しかし、真夜中になる前、囚われていた召使は自由になり、主人のもとに馳せ参じるであろう。闇の帝王は、召使の手を借り再び立ち上がる。以前より偉大に、より恐ろしく、今夜……召使が……あ゛あ゛……主人のもとへと……」
トレローニー教授の頭がガクッと前に傾き、胸の前に落ちた。
そして、うぅ……と唸り声を出したかと思うと、先生はピンとした顔で頭を上げた。
「あら、ごめんあそばせ。あたくしちょっとウトウトしてしまったようね」
僕は本物の予言を聞いてしまったのだろうか
それともこれはトレローニー教授流の先生独特の演出だったのだろうか。
トレローニー教授の声がまだ頭の中に響いている。
僕は試験が終わり、元気に友達と会話する明るい声を遠くで聞きながらグリフィンドール棟へと歩いて行った。
***
『クルックシャンクス……この子は本当に作戦を理解しているの?』
「あぁ。こいつは頭の良い猫だ。今までにだってネビルという子が落とした合言葉のメモを俺に届けてくれた。この子は信用できる」
私、シリウス、そしてハーマイオニーの飼い猫クルックシャンクスとでピーター・ペティグリュー捕縛の作戦会議をしていた。
作戦は試験終了日の晩、クルックシャンクスと私でスキャバーズを捕まえに行くという単純なもの。
「ピーターはちゃんとあのロンって子の手元にいるんだろうな?」
『私の試験の時、それとなく聞いてみたらいるという事だったわ』
「しかし……ユキ。お前、1度ピーターを捕まえ損じてあいつに警戒されているが大丈夫なのか?」
眉を寄せて聞くシリウスに私はふっと笑みを見せる。
『私は忍よ。抜き足差し足、誰かに気づかれないよう動くのは得意中の得意なの。だから期待して待っていて』
ユキは不敵に笑い
クルックシャンクスは機嫌よく喉を鳴らす
そして、運命の日がやってきた―――――――
『婦人、起きてください』
「あら……ええと……ハーマイオニー・グレンジャー?」
太ったレディは声をかけられ夢の中から現へと戻り、不思議そうに栗色の髪の少女を見た。
こんな時間に外に出て行った生徒はいたかしら……?
そんな疑問を抱きつつも、太ったレディはそれを口には出さない。
合言葉を聞き、生徒を中に通す。それがレディの仕事であり、それ以外のことは口出ししないのが絵画の役目だからだ。
「合言葉は?」
『耳寄りなミミズキャンディー』
「どうぞ」
ギギギと寮へと続く扉が開く。
試験最終日の談話室。生徒たちは試験期間中の睡眠不足を補おうと早々に部屋に帰っていた。約一名を除いて……
「ええと、春休みの宿題範囲は……」
ユキは談話室に入るギリギリで、談話室に1人残る少女の姿を発見し、すっと目を細めていた。
暖炉の前で春休みの宿題に手をつけ始めていたのはユキが今変化している人物、ハーマイオニー・グレンジャーその人だった。
しかし、ユキに慌てた様子はない。
ウエストポーチの中から小さな丸薬を手に取り、ポンと暖炉を狙って放り投げた。
消えていた暖炉の火がユキが投げた丸薬によって一気に燃え上がる。
「きゃっ!な、なに!?」
ハーマイオニーが暖炉に気を取られている間に一気に談話室を横切り、男子寮へと続く階段を駆け上がる。
男子寮は当然ながらシンと静まり返っていた。どこからも規則正しい気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
クルックシャンクスは賢く、どこに行くべきか分かっているようで私を先導するようにハリーたちの部屋へと入っていった。
全てのカーテンは締まっている。ロンのベッドはどれだろう?
そう思っていたが、これもクルックシャンクスが解決してくれた。
クルックシャンクスが抜き足差し足でロンのベッドへと忍び寄っていく。
私もそーっとロンが眠るベッドのカーテンを開けた。
いた!
スキャバーズ、もとい、ピーターはロンの顔の横で丸まり、すやすやと寝息をたてていた。
捕まえられる絶好のチャンスだ。私は心を落ち着けながらピーターに手を伸ばす。
しかし、今にもピーターに触れるという時だった。
「ん……え……な、何!?」
ロンが目を覚ましてしまった。
私は反射的に地面を蹴って、部屋の入り口まで後退した。
「あ!!こいつ!!」
ロンが叫んだ。
クルックシャンクスがピーターを咥えてこちらへと走ってくる。
ロンはピーターを捕まえたクルックシャンクスを追いかけようとベッドから飛び出した。
「ロン??どうしたんだい……?」
「スキャバーズがあのバカ猫に!」
ハリーも起き出してベッドを飛び出した。
私は彼らに見つからぬよう先を走り、ハーマイオニーの後ろを息を殺して通り、寮から外へと続く扉を開いた。
『クルックシャンクスよくやったわ!計画通りに叫びの屋敷にそいつを運んでちょうだい』
目の錯覚か、そうなのか、クルックシャンクスが頷いたように見えた。
にわかに私の後ろが騒がしくなる。
ロンたちが追いついてきたのだ。
私はグリフィンドール棟の入口から出てきた彼らの前に立ちはだかる。
『あら、みんなどうしたの?こんな夜中に外に出てはいけないわ』
ニコリ、と偽装の笑みを作って言った私だったが、その仮面は直ぐに剥がれ落ちた。
思いの外素早かったロンが私の隣をすり抜けたからだ。
「スキャバーズ!」
『ま、待ちなさい、ロン・ウィーズリー』
ロンの背中に向かって叫ぶがロンは聞いてくれない。
力尽くで止めよう。そう思っていた時だった。私の袖がちょいちょいっと引かれた。
「お願いです、ユキ先生。私の猫がロンのペットを連れて行ってしまったんです。もし、ロンのペットに何かあったら、私、私、一生ロンと仲直り出来なくなってしまうわ!」
泣きそうな顔でハーマイオニーに言われる。
「僕からもお願いします!スキャバーズを助け出すのに協力して下さい」
『……』
ど、どうしましょう……!
ヒクヒクッと顔の筋肉を痙攣させる私の目からロンの姿が消える。
このままもし、ロンがクルックシャンクスを追いかけていけば、暴れ柳に無防備なまま突入することになりかねない。
迷っている暇はなかった。
『……分かったわ。ついてきなさい。というか急ぎだから2人とも連れて行くわ』
「え!?」
「ええっ!?」
『舌を噛まないように口を閉じているように』
力持ちなユキは小脇にハリーとハーマイオニーを挟み、地面を思い切り蹴り上げる。
トスンとグリフィンドール棟入口から玄関ロビーまで大ジャンプ。
ユキはクルックシャンクスとピーターを追って吹きさらしの廊下を走っていった。