第4章 攻める狼
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19.デート!
イースター休暇のある日。
セブとのデートの日がやってきた。
しかし、私は慌てていた。
待ち合わせの数時間前に起きたのに、服が決まらないのだ。
『分からない。着るたびにどんどん分からなくなっていく~』
パニックで頭を抱えていると、目の前の鏡にソファーに座るシリウスの姿が映った。
バキュン
ガシャーーン
シリウスが魔法を放ってきた。
振り返りざまに割れた姿鏡の破片をシリウスの方へと放つ。
「こ、こえ~~~~」
『あったりまえでしょ!何するのよ!』
「何って別に」
膨れるシリウス。私はシリウスに背を向けて服選びを再開した。
割れた鏡の間からシリウスを見る。
つまらなそうに杖を回しているシリウスの気持ちを私は分かっている。
ごめん、シリウス……
部屋に軟禁状態な上に、自分で言うのもあれなのだが、好きな人が他の男とデートに行くのを見送らねばならないのだ。
シリウスが不機嫌になるのも理解できた。
だからと言って、なんと声をかけたらいいかは分からないのだけど……
『あ!』
そう思っていた私の目に今日着ていくのに丁度良い服が飛び込んできた。
春らしいすみれ色のアンサンブルニットに下は長めの灰色のスカート。これならデートに着ていくのに最適だ。マダム・マルキンの店のマネキンに着せてあった新作。
私は服を持って宙で宙返りをしながら早着替え。
さて、後は……
私は後ろを振り返る。シリウスはソファーの上でうなだれて完全にしょげてしまっている。
私はそんなシリウスの横にちょこんと座った。
『ごめんね、シリウス。私だけ楽しんじゃって……』
「悪いと思うならキスしてくれ」
『それは無理』
「即答だな」
私は垂れた犬の耳が見えるような姿のシリウスに困った笑みを向け、そっと彼の手を握った。
『自由になったらなんでもできる。その時を待とう、シリウス』
私とシリウスはピーター・ペティグリューを捕まえる算段をつけていた。ピーターが私たちの手に落ちる日はそう遠くない。
「ユキ、悪いな。気を使わせちまって」
『気にしないで。シリウスが一番この状況に苦しんでいるんだから』
そう言うと、シリウスは何とも言えない微笑みを浮かべて立ち上がり、帽子掛けにかけてあった私のストールを手にとった。
「着ていったほうがいい。4月とはいえまだまだ寒い」
『ありがとう』
「あーーくそっ。スニベルスに嫉妬するなんてムカツクけどよ、あいつが羨ましいぜ」
困ったようにその場に立ち尽くす私に、シリウスはガシガシと頭を掻いたあと向き直る。
シリウスと視線が合う。その瞬間に私の心臓はドキリと跳ねた。
真剣な瞳が私を捉える。
「絶対挽回してやるから、早々にスニベルスに落ちるなよ、ユキ」
情熱的な瞳。
私はそんな彼に見送られて部屋の外へと出て行った。
芝生を踏みながら丘を下る。
『セブーーーー!わぁお!』
私はセブの前まで来て目を丸くしていた。
「そんなに見るな。鬱陶しい」
『だってだってだって見ちゃうよ!セブったらいつもと雰囲気が全然違うんだもの』
私が大興奮している理由はセブの服装にあった。
セブの服装は、上は白いシャツの上に深い緑色のベスト。下はいつも通り黒いズボンだけど、普段とは違い黒いマントの代わりに黒のトレンチコートを着ている。
「普段の服装はマグルの中で目立って仕方ないからな……変か?」
『ううん。凄く似合っているよ』
そうニコッと笑って言うと、セブはホッとしたように「そうか」と呟いた。
「お前も似合っている」
『ありがとう、セブ』
「では、行くか」
『うん』
バシンッ
セブの姿現わしでロンドンにはあっという間に着いた。到着したのはダイアゴン横丁の入口。
「まずは大英博物館からだったな」
『うん』
「腕を」
『ありがとう』
ロンドンの町は人が多い。セブはイギリス人と比べると背が小さめの私を気遣って腕を差し出してくれる。
セブの腕に自分の腕を絡ませて、私たちは大英博物館へと歩いていく。
暫くロンドンの町並みを楽しみながら歩いていくとギリシア神殿風の建物が見えてきた。大英博物館だ。
「4つのエリアがあるがどれか見たいものはあるかね?」
『そうね……』
大英博物館は巨大で、時代や地域でエリアが分かれている。エジプト、ギリシア・ローマ、西アジア、ローマン・ブリテンとヨーロッパ。
『エジプトが興味あるわ』
「では、こちらだな」
私たちは大英博物館に入り、案内看板通りに進んでいく。
『わあ』
フロアに入った私の口から自然と声が漏れる。
凛々しいファラオの胸像、猫の銅像、ロゼッタ・ストーンがフロアに並んでいる。
『ここには何が書かれているのかしら?』
「その当時のファラオの即位式の様子が書かれているそうだ」
私たちはロゼッタ・ストーンを覗き込みながら会話する。
展示物一つ一つをじっくりと見ながら会話を交わし、移動する。フロアは人が数人しかおらず見やすかった。
『ねぇ、見て!ミイラよ、ミイラ!』
棺桶の中に横たわっているのは干からびたミイラ。思わず興奮して指をさしてしまった私の耳に聞こえてきた空耳。
―――余を指差すとは何事ぞ
『は、はい……?ね、ねえセブ。今、何か言った?』
ガチンと凍りつく私を見るセブはにやっとした顔をして顎でミイラを指し示した。
嘘おぉ……
ぎ、ぎ、ぎ、と首を動かして再びミイラの方を見ると――――
『きゃあっ』
ミイラが起き上がり、バンッとガラスケースに張り付いた。
飛び上がってセブにしがみつく私。
な、何!?
ガタブル震えていると、何故か上からクツクツと笑い声。
怪訝な顔でセブを見上げると「さすがのユキも驚いたようだな」と笑いながら言われた。
『ちょ、ちょっと、どういうことよ』
「このファラオは茶目っ気があってな。こうして見学者たちを驚かすのを楽しみにしているのだ」
ミイラに目を移すとミイラはぐっと親指を突き立ててニヤリと笑ってから元の体勢へと戻っていった。
『いや、でも、こんなことしてもいいの?マグルたちにこんな事したら大事になっちゃうわよ』
「その心配はない」
セブはそう言って後ろを振り返り、天井付近を指さした。
「我々は先程からマグルフロアではなく魔法族のフロアに入ったのだから」
全然気がつかなかった!
『魔法族フロアなんてものがあったんだね』
「あぁ。特にエジプト関係の展示物は充実しているぞ」
『エジプトは呪い関係の魔法具が古代から充実していたと本で読んだわ。見るのが楽しみ。あ!あれは何かしら』
「おい、走るな」
そう言いながらも、ユキを見るセブルスの目は優しい。
『見て、セブ』
追いついてきたセブを手招きしてユキはガラスケースを指し示す。
“エジプト第18王朝時代 呪いのネックレス”
「つけたとたんに首が締められるネックレスか」
『恐ろしいわね』
「つけてみたらどうだ?」
『げっ。なんでよ』
「お前なら呪いに勝てそうな気がしてな。力技で引きちぎれそうだ」
ニヤリと笑うセブをポカリと叩く。
『もう~~っ』
「ハハハ」
膨れるユキとクツクツと笑うセブルスは次の展示に足を向ける。
次の展示は猫のブロンズ像だ。
『これも驚かせてくるとかないわよね』
警戒するユキはセブルスの後ろから顔を出して猫の銅像の様子を窺う。
「安心しろ。これはただの動く銅像だ」
にゃーん
セブルスの声に反応するかのように猫のブロンズ像が鳴いた。
「この銅像は撫でてもいいそうだ」
セブルスが猫の方に手を差し出すと、猫は甘えるようにセブの手に自分の頭をこすりつけ始めた。
セブルスの長い指が猫の体の上をゆっくりと滑っていく。その様子を見ていたユキは顔を赤らめさせていた。手の動きがとても官能的に見えたからだ。
あの手で触れられたらどんな感じがするだろう……?
ユキはそんな事を考えてしまい、自分の考えに恥じ入って、赤かった顔をさらに赤くさせた。
『お前はいいのか?』
「え、あ、ううん。触る。触りたい」
本当は触れてもらいたいじゃなく?
ユキは再び頭の中で聞こえた声に戸惑う。
私ったらなんて破廉恥な!こんなふうに思っているとセブに知れたら飛んだアバズレに思われてしまうわよね。
恋人に触れられたい 触れてみたい
ユキの中に生まれた感情は自然な感情だが、恋愛経験値の低いユキは自分の中に生まれた感情を嫌悪してしまった。
「どうかしたか?」
先程まで随分騒がしかったユキが急に黙りこくったので不思議に思いセブルスが尋ねる。
『ううん。何でもないよ。次に行こう』
ユキは、自分の感情に戸惑いながらフロアを後にしたのだった。
見学を終え、ミュージアム・ショップで買い物を楽しんだ2人は大英博物館を後にして町中に戻っていた。
「夜はレストランを予約してあるが、昼は軽くでいいか?」
『もちろん。お腹すいたわね。ねえ、セブ。昼はアフターヌーン・ティーにしたいな』
ユキたちはアフターヌーン・ティーをやっているカフェに入った。
注文を終え、ユキはカフェの中をグルリと見渡す。
『なんだか思い出さない?』
「なにをだ?」
『昔、5年生の時に二人でマダム・パディフットの喫茶店に入ったことあったでしょ』
「あぁ。そんなこともあったな」
ユキは懐かしさに目を細め、セブルスは苦い思いに小さく眉を寄せた。
リリーに計画してもらってユキとの初デートに臨んだあの日、セブルスはユキに告白する予定だった。しかし、ユキは記憶が戻る反動でセブルスが告白する前に気を失ってしまったのだ。
「お待たせいたしました」
そんな苦い思い出の中に浸っているとアフターヌーン・ティーが運ばれてきた。
『素敵!』
運ばれてきたのは伝統的なこれぞイギリスのアフターヌーン・ティーの雰囲気を味わえるものだった。
ティートレーには1段目にサンドウィッチ、2段目にスコーン、3段目にプチケーキが乗っている。
紅茶は、セブルスはシンプルにアールグレイを、ユキはクリームティーを頼んでいた。
パクリ
ユキがサンドウィッチを食べて顔を綻ばせる。
「お前はいつも幸せそうな顔をして食べるな」
『食べるの好きだからね』
ユキはそう言いながらたっぷりのクロテッドクリームを塗ったスコーンも口の中にパクリと入れる。
「ほら、ユキ。またクリームが頬についているぞ。どうしてお前は食事するたびにこうなんだ」
グリグリとセブルスにナフキンで顔を拭かれて恥ずかしさに顔を赤くするユキ。
『ま、毎回じゃないわよぉ』
「フン。その言葉は信用なりませんな。昨日はハンバーガーで――――
ユキとセブルスは会話を楽しみながら昼食をとったのだった。
『お腹いっぱいで幸せ』
再び町へと戻ったユキたちが向かうのはバッキンガム宮殿だ。
衛兵交替式パレードを見学に行く。
そして次はウエストミンスター寺院、セント・マーガレット教会、ビック・ベンの愛称で知られる鐘がある時計塔などを見て回った。
『この位置でいいかな。セブ、待っていて。写真を撮って欲しいって頼んでくる』
「おい、写真などいいって聞いているか、ユキ……はあ」
ユキはセブルスの返事も聞かず写真を撮って欲しいと人に頼みに行ってしまった。
「やれやれだな」
小さくセブルスが呟いているとユキが戻ってくる。
『えへへ。セブとの写真、子供のときぶりだね。嬉しいな』
カシャリ
フラッシュがたかれて撮影が終わる。
『焼き増しするからね』
「あぁ、頼む」
その後のふたりはセント・ポール大聖堂や雑貨店などを巡ったりして楽しい時間を過ごす。
そして夕食。
セブルスは予約していた店にユキを連れて行く。
大きな店ではないが、小洒落ていて高級感のある店内にユキの足は少々すくむ。ユキは自分の粗野具合を十分に理解していた。
こんな店場違いじゃないかな……
不安に思っていた時だった。ユキの腕がセブルスに引かれる。
「緊張するな。自然体でいい」
その言葉だけでユキの心はふっと軽くなった。馬鹿なことさえしなければ多少の失敗はセブルスがフォローしてくれると考えられるような安心感を得られたからだ。
引かれた椅子に腰掛けるユキ。
「乾杯」
『乾杯』
ふたりはワイングラスをチンと合わせて食事を開始した。
ロウソクの灯りだけで照らされている店内は雰囲気がある。
その雰囲気とお酒も手伝ってユキはロマンチックな雰囲気に浸りながら食事を進めていく。
まずは前菜、続いてスープが運ばれてくる。
『ん。これ美味しい。なんという名前のスープかしら』
「これはビシソワーズだな」
ジャガイモの冷製スープに二人は舌鼓。
おいしい料理も手伝って、ふたりの会話は弾む。
しかし、ユキの心には気になっていることがあった。
『セブ』
「なんだ?」
『……ううん。何でもない』
ユキは言う勇気が出なくてごまかすように笑って首を振った。
私はセブに恋しているのか。リーマスに恋しているのか。自分でもまだ良くわかっていない。
そんな不誠実な態度でいてセブを傷つけてはいないかな?
それだけが心に引っかかる。
「……」
『……』
「どうした?先程から難しい顔をして」
『え?!あ、ごめん。ちょっと気になることがあって、ハハ』
でも、一言謝りたいな。それに、セブがどう思っているかも聞いておきたい。
『あ、あのう』
「ん?なんだ?」
口を開こうとしたユキだが、何と言ったらいいのか分からず口を開けたり閉じたり。
それを見ていたセブルスは―――――
「なんだ?……あぁ。レストルームなら入口直ぐを左に……」
『ち、違うわよっ』
「じゃあ何だ?随分言いにくい話のようだが……」
2,3度深呼吸。
ユキはゴホンと咳払いをして気持ちを整え、そして思い切って口を開く。
『ごめんなさい……』
「突然どうした?」
『あの、その……私、優柔不断でしょ?あなたに不快な思いをさせてないかと思って、いえ、させてるわよね』
「……ルーピンのことか?」
少し硬くなった声に私は無言で頷く。
無言の中に微妙な空気が漂う。
セブのこと怒らせちゃったかな……
ユキは不安な気持ちになりながら膝に置いてあったナフキンをギュッと握り締める。
『……』
「…………」
沈黙を破ったのはセブルスだった。
ふーっとため息をついたセブルスの顔を俯いていたユキが顔を上げてみる。
しかし、意外にもセブルスの顔はユキの予想に反して微笑みが浮かべられていた。
目を瞬くユキにセブルスは口を開く。
「お前の気持ちは分かっている」
『セブ……』
「お前の気持ちが固まるまで待とうと思っている。焦って決める必要などないことだ。自分の気持ちに向き合い正直に答えを出せばいい」
優しい眼差しが私に注がれる。
セブは大人だ。
私なんかよりずっと。
『ありがとう、セブ』
私はこんな馬鹿な質問をした自分を恥じる気持ちと、そしてセブが今の状況を受け入れてくれていることに感謝しながら白ワイン蒸しの魚を口に運んだ。
トクトクトク
ユキのワイングラスに赤いワインが注がれる。
ユキはチラとセブルスの方を見た。
大人の男。
セブルスは余裕のある大人の男だ。
自分を包み込んでくれるような大人の振る舞いにユキはすっかり酔っていた。
セブルスを意識したユキは急に緊張を感じて俯く。
「次の料理がきたぞ」
『う、うん』
震えるナイフ、震えるフォーク。
「ふっ。そんなに緊張することはないだろう。らしくないぞ?」
『だって……』
ユキは視線を手元から上げてセブルスの顔を見た。その顔はロウソクの灯りに照らされ、色っぽく映る。
情熱的な黒い瞳がユキの心を捉える。
吸い込まれそうなセブルスの瞳。
視線を逸らすことができない。
ユキはゴクリと喉を鳴らす。
「ユキ、愛している」
ユキは息を止めた。
セブルスの本気の告白がユキの心に響く。
幸せな気分が足先から頭までビリビリと駆け上がっていく。ユキは愛される幸せに胸をきゅーっと痛めた。
それでもユキは、言わなければならないことを忘れてはいなかった。
リーマスに話したのと同じようにセブルスにも話さなくてはならないことがあった。自分が暗部の人間で過去に沢山の人間を殺めてきたということだ。
リーマスはそんな過去の自分を受け入れてくれた。でも、セブルスは違った反応をするかもしれない。
怖いわ……
ユキは先ほどとは別の理由で震えてきた自分の手を見た。
そっとお皿にナイフとフォークを置く。
そして、ユキは話し出す。自分が暗部で何をしてきたかを―――――もちろん簡単にだ。生い立ちと暗殺戦術特殊部隊で暗殺を主な仕事としていたことだけ……
『ごめんなさい、食事中にする話ではなかったわね』
ユキはセブルスの顔が見られなかった。どんな反応が返ってくるのか怖かった。
こんなロマンチックな雰囲気で私ったら。ぶち壊しね。空気が読めないとはこのことよね。
テーブルの下で手を組み、ぎゅっと握り締める。
少しばかりの沈黙が、長く、長く感じられる。
言うべきではなかったのかもしれない。
ユキはセブルスに嫌われることを考えて顔を青ざめさせる。
セブに嫌われたら、どんなに辛いか―――――
「ユキ」
ユキは目を瞬いた。
視界に小さな箱が入ってきたからだ。
驚いて、ユキはセブルスの顔を見る。
『セブ?』
「よく話してくれたな」
途端にユキの目から一粒涙が零れた。
セブルスのことを、(今はまだ恋とは言い切れないが)好きになってからこのことについて思い悩んできた。
自分を好きになってくれるのは嬉しい。でも、自分の過去を知らない人たちが自分を好きになるのは、その人たちを騙しているような気がしていたのだ。
ユキはほっとした嬉し涙をナフキンで拭う。
「ユキは大丈夫なのか?過去の日々はずいぶん辛かったであろう。トラウマになってもおかしくない」
セブルスが気遣わしげに言う。
『そうだね。酷く辛い日々だった。でも、私はそれが当たり前になっていた。生まれた時から暗部の人間として育てられてきた私は暗殺任務を行っている時、罪悪感など感じなかった。私は心がなかったの』
「だが、ホグワーツに来てから変わった」
『えぇ。そうね……温かいホグワーツ……セブや色々な人と関わって、私は変わった。人間に生まれ変わったの。でも、それと同時に過去のことが辛くなってきて……』
過去は消せない
ふとそんな事を思い、ユキは唇を噛む。
「ユキ」
ユキが視線を上げると、手を貸すようにとセブルスがテーブルに手を伸ばしていた。
ユキは戸惑いながらもその手に自分の手を乗せる。
セブルスの手に優しく握られたユキの手。
「なんとなく、お前と会った時から何かを抱えているのではないかと感じていた。それを今日話してくれて嬉しく思う。ユキ……愛している。どんなお前でも我輩は愛そう」
セブルスはリーマスと同じように、自分で自分の道を選べなかったユキに同情し、慰めの言葉をかけてくれた。
ユキの目からは堪え切れない涙がポロポロと零れていった。
ユキが安堵と喜びの涙を止めた後、ユキたちの前にクリームブリュレが運ばれていた。ユキの目の端は赤く染まっている。
『この箱、開けても?』
「もちろんだ」
ユキはセブルスからもらった箱をゆっくりと開ける。
『素敵……』
ため息混じりの感嘆の声がユキから漏れる。
一列に三つに繋がったダイアモンドのネックレス。
過去・現在・未来を表す3つの物語。
過去を受け入れ、今の君を大切にし、君との未来を想おう。
ユキに送られたジュエリーにはそんなセブルスの想いが込められていた。