第4章 攻める狼
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18. 風邪
『クシュンっ』
「おいおい大丈夫か?」
天文台で一人反省会をした翌日、目覚めた私は体のだるさを感じていた。
『なんか寒い』
「風邪ひいたんじゃないか?」
『どうだろう?風邪ひいたことないからよく分からないな』
「まじか。今まで一度もか!?」
『うん。一度も』
私はシリウスに肩を竦めてテーブルにつく。
今日の朝食前朝食はクロワッサンにキャロットスープ、それにヨーグルトだ。
「もし体が辛いようなら、俺一人で授業をしてもいいんだぜ?」
ニーと笑いながらシリウスが言う。
今日からシリウスには授業を手伝ってもらうことになっているのだ。
『そこまで辛くないから大丈夫よ。それに、シリウスに授業を任せておいたらグリフィンドールに大量加点して、スリザリンには大量減点しそう。任せられないわ』
「違いないな」
『違いないんかい!』
シリウスに速攻突っ込む私。
シリウスとの生活も慣れてきて、こういうやりとりを楽しんでいる私なのだった。
『それじゃあ、朝食に行ってくるね』
「おう。俺は教室で準備でもしてるよ」
『ありがとう、シリウス』
ずっと部屋に軟禁状態だったシリウスは、私の授業の手伝いを楽しんでやってくれている。
私はそんな彼に感謝しながら大広間へと向かっていく。
「くしゅん」
「ハックション!」
あらあら?
観音開きの扉から大広間に入った私は辺りを見渡した。
あちらこちらから聞こえてくるくしゃみの音。
「あ゛。ユキでんでいだ」
ガラガラ声が聞こえて振り向くと、そこにいたのはハリー。
『ハリーったら声ガラガラじゃない』
振り向いて彼の顔をみれば顔が真っ赤になってしまっている。
『ちょっといい?』
「ん……」
ハリーの額に手を当てるとじんわりと熱くなる。
『熱があるわ。風邪を引いてしまっているんじゃない?』
「そうかなぁ」
『そうよ。医務室にいかないと』
そう言うとハリーは渋い顔。
「今日はクィディッチの練習の日。医務室に行ったらマダム・ポンフリーにクィディッチ禁止令を発令されちゃうよ」
『だからと言って放っておいたら治りが遅くなってしまうわよ。症状が軽いうちに治しておかないと』
「元気爆発薬は耳から煙が出るから嫌だなぁ」
『こら。わがまま言わないの』
そう言うと、ようやくハリーは医務室に行く事を承諾した。
「ユキ先生も風邪ひかないように気をつけてね」
『ありがとう。ハリーは薬を飲んでゆっくり休むのよ。万全な体調で試合に臨めるようにね』
「はい」
私はハリーの頭をクシャクシャと撫でて職員テーブルへと歩いていく。
『おはよう、セブ』
「あぁ、おはよう、ユキ」
『セブは大丈夫?今、風邪が流行っているみたいだけど』
「我輩は大丈夫だ。しかし……」
『しかし?』
「医務室で元気爆発薬が大量に処方されそうだな。今のうちから調合しておいたほうがよさそうだ」
『それなら手伝いましょうか?』
「いいのか?そうしてくれたら有難いが」
私は『もちろんよ』と笑って自分のお皿に鶏胸肉のサラダを取り分ける。
「ところで、話は変わるが」
『ん?』
「ロンドン観光で行きたいところはあるか?」
もちろんある。セブとロンドン観光をする事に決まってから私はガイドブックを買って暗記するほど読んでいたのだ。
『バッキンガム宮殿で衛兵交代式が見たいな。それから大英博物館にも行ってみたい!あとはね、本格的なアフターヌーンティーも楽しみたいし、ロンドン塔、タワー・ブリッジの前で記念撮影もしたいわよね』
一気に言うと、驚いた顔をしていたセブはふっと吹き出した。
「忙しい旅になりそうだな」
興奮して話す私を見ながらセブがクツクツと笑う。
『そ、そんなに笑わないでよ。だって、楽しみにしていたんだもの』
「我輩もだ」
『っ!』
時が止まる。
セブの熱くて優しい眼差しが私の心を打ち抜く。
ドキドキと高鳴っていく胸の鼓動。
「どうした?」
『う、ううん。何でもない』
私は無意識のうちにセブをじっと見つめていた事に気がつき、ブンブンと頭を振って食事へと戻った。
『それじゃあ、セブ、クシュン』
朝食を食べ終わって、玄関ロビーでそれぞれの教室へと戻ろうとした私は盛大にくしゃみをした。
「風邪か?」
『引きかけなのかも』
「無理しなくてもいいぞ。我輩1人でも……」
『大丈夫。朝食もいっぱい食べたから夕方までには治るわよ。私って馬鹿がつくほど体が強いから』
「そうだな」
『ちょっ、あっさりそうだなって言わないでよ!』
セブに向かってプンプン怒るとセブはクツクツと笑った。
「すまない。そう怒るな。今日の放課後、無理はするなよ」
優しい微笑みを浮かべるセブ。
『うん。分かった。それじゃあ放課後にね』
私はセブと別れて自分の教室へと歩き出す。
吹きさらしの廊下に面した自分の教室の扉を開けると私の姿をしたシリウスが振り向いた。
『ただいま』
「よっ。準備万端だぜ」
今日は分身の術の授業をする事になっていて、シリウスには教室の机と椅子を端に避けておいてもらうように頼んでいた。
「楽しみだな。しかも初めのクラスはハリーたちときたもんだ!」
ハリー大好きなシリウスが顔を綻ばせる。
『あ、ハリーなんだけどね、医務室に行ったから遅れてくると思うわよ』
「医務室?」
『今、ホグワーツでは風邪が大流行中なのよ』
そんな会話をしていると賑やかな声が聞こえてきた。やってきたのはグリフィンドールとスリザリンの3年生たちだ。
「ユキ先生おはようございます」
「おはようございます、先生」
『おはようみんな』
生徒たちは予告されていた分身の術を楽しみにしているらしくみんなワクワクした顔をしていた。
間もなく始業のベルが鳴った。その時、耳から煙を出したハリーが教室の中に飛び込んできた。
「ぷっ。ポッターの奴、耳から煙を出してるぞ」
「ポッポーシュッシュッシュ」
「ぎゃはははは」
ドラコがハリーを指差し、クラップが汽車の真似をし、ゴイルたちスリザリン生が一斉に笑う。
まったく……相変わらず仲が悪いんだからって!シリウス!?
急にゾッとした殺気を感じて横を見ると隣のシリウスがスリザリン生たちを呪いそうな目で見ていた。
ちょっと!私の顔でそんな凶悪な顔を作らないでよ。
私は生徒に気づかれないうちにと思い、ガンとシリウスの足を蹴って醜悪な顔をやめさせる。
『みんなお喋りは終わりにして。注目!』
授業の鐘が鳴ったのでパンパンと手を叩いてみんなを注目させる。
『今日は分身の術をやるわよ。この術について分かる人は?』
ピンといくつも手が上がった。いつもこのクラスを頑張ってくれているハリー、ハーマイオニー、ドラコ、デリラだ。私はハーマイオニーを指名する。
「はい。分身の術は一種の幻影です。チャクラを練り上げて自分の影を作り出します。相手の目を欺くのに効果的で、熟練した術者になると分身を自由に動かすことができます」
『よく出来ました。ありがとう、ハーマイオニー。グリフィンドールに5点ね。ではさっそく、分身の術のやり方を説明します』
私は生徒たちに教室に円を描くように立つように指示した。私とシリウスは教室の真ん中に背中合わせで立つ。
『印の組み方はこうよ』
ゆっくりとみんなに見えるように印を組む。
生徒たちは私たちの真似をする。
『それから、影を作ることを意識して分身の術。と唱える』
ポン
私とシリウス(もちろん私の)の分身が現れて、生徒たちから歓声の声が上がる。
『それでは皆、やってみましょう』
生徒たちはそれぞれ教室に広がって立ち、印を結び始める。
「ユキ先生~。印の結び方が分からないのですが」
ネビルが申し訳なさそうな声で私を呼ぶ。
『ごめんね。見えにくかったわよね。印の結び方はこうよ』
一生懸命に印の結び方を覚えようと頑張るネビル。
ポンと上半身だけ分身を完成させることが出来たハーマイオニー。
一瞬だけ完璧な分身を作り出すことの出来たドラコ。
みんな一生懸命に分身の術に取り組んでくれている。
私たちはそんな生徒たちの間を歩きながらアドバイスをしたりして術が成功するように助ける。
「あ!出来たわっ」
突然上がった声の方を見ると、スリザリンのデリラ・ミュレーが分身の術に成功していた。
彼女と全く同じ姿かたちをした分身が彼女の横に立っている。
生徒たちから上がる歓声。
『よく出来ました!スリザリンに10点あげましょう』
スリザリンの生徒たちから拍手が沸き起こる。
その拍手の中、再び「出来た!」と声が上がった。今度成功したのはハリーだ。
「よっし。良くやった」
シリウスが拳を握りながら叫んだ。
シリウスの周りに居たグリフィンドール生たちがびっくりしてシリウスを見上げている。ああ、もう、この駄犬!!
ワナワナと震える私の前でシリウスは喜々としてハリーに10点の加点を言い渡す。
『みんなも頑張って続けてね~』
と言いながらシリウスの背後へと歩いていく私。
ぐりっ
「痛って!」
私はシリウスのお尻を思い切りつねりあげた。
涙目になるシリウスに私はニコリと笑みを向ける。
『穏やかに、慎み深く、慎重な行動を心がけましょうね、分身ちゃん?』
「は、はい……」
ゴオオォと怒りの炎を上げる私を見て、残りの授業は慎重に行ったシリウスなのだった。
***
「ご馳走様」
『お粗末さまでした。くしゅ』
「おいおい大丈夫かよ」
食事中もくしゃみを連発していた私にシリウスが言う。
『症状はくしゃみだけなの。私は大丈夫。でも、シリウスに移しちゃわなければいいのだけれど』
「俺のことは気にするな。外に出る用事といったら授業の手伝いとピーター探しくらいなもんなんだから」
私たちはお皿をシンクに運び、シリウスがさっと杖を振る。スポンジが勝手に動き出して皿を洗い始める。
『魔法って便利よね』
「そうだな。だが俺は、家事の魔法が苦手だ」
『そう?悪くないように思えるわよ』
私はそう言いながら部屋の壁掛時計に視線を向けた。そろそろセブと約束していた時間だ。
『私、セブのところへ行ってくるわ』
「風邪引きそうなんだろ?やめといたらどうなんだ?」
『さっきも言ったけどくしゃみだけだし行くよ』
「そうか……」
私が外に出ていく時、シリウスはとても悲しそうな寂しそうな顔をする時がある。胸がキュッと痛くなっちゃうんだよね。
私は部屋に残ると言いそうな気持ちを抑えて、シリウスに行ってきますを言って部屋を出て行った。
『寒いな』
背中がぞくぞくっと寒くなる感覚に私は眉を潜めながら廊下を歩いていく。
地下は取り分け寒かった。
もう少し厚着してくれば良かったかしら……
地下から上ってくる冷たい空気に若干後悔しながら私は階段を降りきり、セブの研究室の扉を叩く。
「ユキか?」
『えぇ、そうよ』
セブは直ぐに扉を開けてくれた。
『暖かい』
廊下とは違って部屋の中は暖かくホッとする。
「準備は出来てある。ユキは前半の工程をやってくれ」
『分かったわ』
私とセブは手分けして元気爆発薬を作っていく。
グツグツ トントントントン
お互い特に喋らなかったが、私は心地よい時間を過ごしていた。
学生時代からセブと一緒にこうして調合していたのを思い出し、私は頬を緩める。
材料を刻み、鍋に入れる。むっとした薬品の匂いが私の鼻をつく。
うっ。気持ち悪いかも……
普段はなんとも思わないのに、薬品の匂いがやたらと鼻につき私は顔を顰めた。
それに先程から汗がすごい。確かに、火のそばで作業しているからというのもあるのだろうけれど、それにしても酷い汗だ。何度も何度もハンカチで額や首筋を拭う。
どうしようかな……セブに気分が悪いって言って帰らせてもらおうかな。でも、あと少しで終わりだし……
やってしまおう。
私は軽く頭を振って、悪い気分を払い、作業を続けた。
それから小一時間ほどで調合は全て終わった。
「助かった」
『どういたしまして』
「ユキ」
『なあに?』
「顔が赤いが……」
ペタリとセブが私の額に手を置いた。
セブの瞳が大きく開かれていく。
「酷い熱ではないか、この馬鹿者!」
叱責と同時に私の体はふっと宙に浮いた。
「取り敢えず、我輩の部屋でいいか?」
『うん……』
頭がぼーっとする。それから耳が良く聞こえない。あと、ちゃんと頭が働かない。
私はぼんやりする頭でコクリと頷いた。
セブが自室の部屋の扉を開けて、私を寝室に連れて行く。そして彼のベッドの上に私を下ろしてくれた。
『さ、寒い』
先程まではなかったのにガタガタと体が震えてきて私は奥歯をガチガチ鳴らしながら身を震わせる。
そんな私に布団をかけてくれるセブ。
「元気爆発薬を持ってくる。その間に熱を計ってみよう」
セブはクルクルと水銀の体温計を回して私に差し出した。
『うわーこれ、初めて使うんだ』
思わず嬉しそうな声を出す私にセブが苦笑する。
「良かったな。元気爆発薬を持ってくるから大人しく寝ているのだぞ」
私はセブの言いつけに従い、体温計を脇にはさんでベッドへと寝転がった。
『いい香り』
自然と呟く。
前にも思ったが、セブのお布団は薬材の香りがして心地よい香りに満ちているのだ。
まるで、セブに包まれているようだと思って、私のもともと高い体温は上昇していく。
『私ったらとんだ変態ね』
呟いているとセブが入ってきた。手にはさきほど作った元気爆発薬を持っている。
「起きられるか?」
『うん』
セブに背中を支えてもらいながら起き上がり、私はセブから薬を受け取ってぐっと薬を飲み干した。
ピリっとした生姜の辛さが喉を突く。
『辛いっ。風邪なんて引くもんじゃないわね』
「体温計を見せてみろ」
うっと渋い顔をする私からセブが体温計を受け取る。
『何度だった?』
「38.8℃だ。さきほど調合している時、自分の体調の悪さに気がつかなかったのかね?」
大きなため息を吐かれて私はセブの前で身を小さくする。
だって中途半端で終わらせたくなかったんだもの。と言ったら馬鹿者と再び怒られてしまう。
「はあぁお前という奴は」
セブの本日何度目かの溜息と同時にシューっと私の耳から煙が吹き出した。薬が効いてきたのだ。
「フッ」
『!?』
今、笑ったわね!!
シュー シュー シュー
耳からシューシュー煙を出している私を見て、セブが必死に笑いをこらえている。
ヤダ。は、恥ずかしい……!
私は顔を熱とは違う理由で紅潮させながら耳を塞いだ。
しかし、
シューーーー
「ぷはっ」
煙は飛び出した。
しかも鼻から。我慢できなくなったセブがぷはっと吹き出して、しまったいう顔をして、それからでもやっぱり堪えきれずにクスクスと私の前で笑っている。
『セ、セブ~~~~~~!!』
「す、すまないっ」
『もうやだ恥ずかしい。お部屋に帰る』
パッとかけてあった布団をとって床に降りた時だった。ぐにゃり。視界が揺れる。
「ユキ!」
『あわわ』
斜めになっていく体。衝撃に備えるために目を閉じた私だったが、いつまでもその衝撃はこなかった。そっと目を開けると視界いっぱいに黒。
「急に動くな。体に障るぞ」
私はセブの腕に抱きとめられていた。先程よりも強い薬草の香りが私の鼻をくすぐる。
『ベッドと同じ匂い』
「は?」
『セブの洋服とベッド、同じ香りがする』
「……すまない。臭いか?」
『臭い?ううん。とっても良い香りだよ。凄く安心するんだ、この香り。ベッドに寝ているとね、セブに包まれているような安心感があるの』
私が大きく1回深呼吸すると、セブの私を抱きしめている腕の力が強まった。
私の体が宙に浮く。
セブは私をお姫様抱っこしたまま自身もベッドに足をのせた。そして私をゆっくりとベッドの上に下ろし、私に覆いかぶさるようなかたちになった。
『セブ……?』
「嫌なら言え」
『嫌じゃない……でも……』
「でも?」
胸が破裂しそう。
私は耳に響く鼓動の音を聞きながら口を開く。
『でも、怖い。何をするの?ううん。分かっている。それが、怖い』
正直に自分の気持ちを伝える。
揺れる瞳でセブを見ながら言うと、セブは妖艶にふっと微笑んだ。
「どうやら少しは成長したようですな」
すっとセブの長い指先が私の首筋をなぞる。
「一緒に寝てもいいか?」
『でも、移したら困るわ』
「お前の風邪なら移されても気にしない。なにより、我輩はお前を今胸の中に閉じ込めておきたいのだ。多少の代償は払う」
コトッ コトッ
セブが靴を脱いで床に落とす音が聞こえた。
私はセブが隣に来られるようにずりずりと横に動いてスペースを空ける。セブはゆっくりと私の隣に体を横たえる。
「頭をあげろ」
『ん』
私が頭を浮かせると、首の下にセブの腕が入り込んできた。
腕枕をされている私の心臓は今にも爆発しそうなほどの早い勢いで鳴っている。
「いつも元気なお前が弱っていると不安になる」
セブが体を起こした。
目の前にあるセブの顔がゆっくりと近づいてくる。
「早く元気になれ、ユキ」
軽いリップ音が部屋の中に響く。
あぁ、頭がぼんやりするのは熱のせいだろうか。それとも、この甘い雰囲気に酔っているせいだろうか。
口づけを落とされた唇に手を触れながら、私は口を開く。
『セブ……私は怖い』
「何故怖い?」
優しくセブが聞いてくれたので、私は自分の気持ちを正直に話してみることにした。
『分からない。何かを失うような気がするの。それがとても怖い。でも反対に、何かとても幸せな気分がやってくるような気もするの。ごめんね、セブ……はっきりあなたの気持ちに応えてあげられなくて』
そう言うと、セブは優しくふっと笑った。
「気にするな。お前相手の恋だ。一筋縄ではいかないと覚悟している。それより寝ろ。治る風邪も治らんぞ」
再び甘いキスが私の唇に落とされる。
セブは左腕に私の頭を載せ、右手で私の体を自分の方へと引き寄せた。
良い香り……
セブが私の髪の毛を優しくなでる。
私はセブの腕に抱かれ、夢の中に落ちていった―――――――
チチチ
遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
セブは一晩中私の世話を焼いてくれた。
夜中に汗をびっしょりかいてしまった私に自分のパジャマをかしてくれたり、冷たいお水を口元まで運んでくれた。
そんなセブの甲斐甲斐しい看護と元気爆発薬のおかげで私の熱は朝には平熱に戻っていた。
『……』
私の耳元ではセブの規則正しい寝息が聞こえている。
私の看病と昨夜の調合で疲れたのだろう、セブの目の下にはうっすらと隈ができてしまっている。
『セブ』
小さく彼の名を呼んでみる。
「ん……」
セブがゴロリと横に転がって、私の上からセブの手がどいた。
そろそろ帰らないといけない。
私はありがとう、と囁いて、パジャマの上から椅子に置いてあった自分の着物を着て、セブの部屋から出ていく。
清々しく、ピンと張ったような冷たい冬の空気の中を歩いていき自室へと続く階段を登って扉を開ける。
シリウスを起こさないようにそっと部屋の中に入ったのだが、
「ユキ!!」
起きていたらしい。テーブルに突っ伏していたシリウスがガバリと体を起こして私のもとへとやってきた。
「心配したんだぞ」
『ごめん』
「ずっと調合していたのか?」
『ううん。違うの。実はね――――
話しているうちに見る見る険しくなるシリウスの顔。どうしてかしら?
『シリウス?』
「あいつと……なの……か?」
『はい?』
「お前、あいつとヤったのか!?」
気が付けばシリウスを殴っていた。
『ば、ば、ば、馬鹿言わないでよ!や、ヤっていないったら!それにもしヤったとしてもあんたに関係ないでしょこの変態!!ん?ていうかヤったって性交渉の意味で間違いな「間違いないけどストップだ!それ以上言わないでくれ。俺が悪かった」
シリウスが叫ぶように言った。
っていうか、シリウス。何を考えてこんなことを聞いたのかしら。
ジトーっとした目でシリウスを見つめていると、シリウスは私に殴られてまだ床に尻餅をついたままワシワシと髪を掻いた。
んー、とか、あー、とか唸っているシリウスは何かを言いたそうだったので私はそのまま様子をみることに。
暫くしてシリウスは、チラと私を見上げて大きく息を吐いた。
ようやく言う言葉がまとまったみたいだ。
さて、私に不躾な質問をした理由を聞かせてもらいましょうと腕を組んでシリウスを見下ろしていると……
「あんなこと聞いて悪かった。俺、ユキが好きなんだよ。だからさ、お前がスネイプのもんになっちまったかと思って慌てたんだ」
そう言った。
フリーズ
私の思考はカチリと止まり、私は穴が開くほどシリウスを凝視する。
「俺、そんなに変なこと言ったか?」
苦笑しながら言うシリウスにハッとなる。
『え、いや、その……』
シリウスは立ち上がり、戸惑う私の前に立った。
「目瞑れ」
言われたことに対応できない私にシリウスの顔が近づいてくる。
顎に手を添えられ、上を向かせられた私はギュッと目を瞑る。
チュッ
唇に触れるようなキスが落とされる。
「学生の頃からずっとお前が好きだった。俺は本気だ。俺にとってお前はお遊びじゃない。ユキ、お前を俺のものにしたい」
情熱的な言葉
色男からの大胆な告白。
ユキの心臓ははち切れんばかりに早鐘を打っていた。