第4章 攻める狼
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もうすぐ10時になる頃。ハリーはベッドに入り、今日のホグズミード行きの成功に気分を良くしながら忍びの地図を見つめていた。
「不思議だよな……ユキ先生の姿だけいつも地図に現れない」
ハリーはポツリとつぶやき、そして胸をチクリとさせた。
大好きだった忍術学教師のことをハリーは今避けている。
ハリーの復讐を止めさせるために、ユキがシリウスに変化するという極めて強烈な方法でハリーを諌めたからだ。
―――人を殺めるとき。それはやるかやられるかの時。ハリー、あなたは経験も技も、それに覚悟も足りなさすぎる。
ハリーはとても悔しかった。
だが、ユキの言葉を心の中では理解していた。
「謝りに行かなくっちゃ」
謝ったらユキ先生は自分を許してくれるだろうか?
「ユキ先生……」
会いたい。
地図上に現れない大好きな先生の名前に胸を痛めていたハリーは、無性にユキに会いたくなった。
早く仲直りしたい。
前のようにユキ先生と接したい。
「よし、行こう」
規則を破ることになるが、この地図さえあれば大丈夫だ。
会いたいという衝動が抑えきれなくなったハリーは、忍びの地図と透明マントを手にし、靴の中に足を入れる。
ハリーは、そっと寮から出て行ったのだった。
17.忍の地図
「くそっ。なんで俺がこんなのつけにゃあならねぇんだ」
シリウスの腕につけられているのはピンクゴールドに赤い石があしらわれたブレスレット。それを見ながら顔をしかめているシリウスの前で私は苦笑する。
このブレスレットはクィリナス、私、シリウスで協力して作った魔法具。
忍の地図のようなものに居場所が割れないようにと作られたものだ。
これを着けていれば私の部屋から出ても忍の地図上から名前を消すことが出来る……はず。
はず、というのは残念ながら忍の地図を作ることが出来ておらず魔法具がきちんと作動しているか確認が取れないからだ。
クィリナスがたぶん大丈夫でしょう。と言っていたから大丈夫だとは思うけど……
「なんで俺のブレスレットは女物なんだよ。あいつのセンスが悪いのか?それとも嫌がらせか?嫌がらせだな」
『まあまあそう怒らずに』
とはいってもイケメンなシリウスの手首に可愛らしいブレスレット(ハートのモチーフまでついているし)があるのは違和感だけどね……
「交換しようぜ。その金のバングルはシンプルだ」
オーソドックスな金色の細いバングル。私のバングルに視線をくれながらシリウスが言う。
『いいけど……』
「やった!」
『私のバングル、何故か内側に永遠の愛をあなたにって文字が刻印されているわよ?』
「まじか……あいつ何考えてんだ」
シリウスがげんなりした顔をした。
『さてと』
私は最後のポテトサラダを飲み込んで立ち上がる。
今からシリウス・ブラックがいないか校内の見回りだ。
「俺はここにいるんだ。さぼっちまえよ」
『そういうわけにはいかないわよ。シリウス、お皿洗いお願いね』
「了解だ」
シリウスもクィリナスも家事を手伝ってくれるから助かるんだよね。
結婚して一緒に生活するならこういう人がいい……って私は何を考えているの?!
『凄い風ね』
自分の考えに恥じ入りながら扉を開けて外へと出た私に吹雪がふきつける。
ほんとうに、シリウスはここにいるのだから見回りさぼっちゃおうかしら―――なんて訳にはいかないわよね。
私はいつもより多く火の玉を出して暖をとりながら廊下を進んでいく。
本棟に行き、最上階まで上がって動く階段を下り、下へ下へと見回っていく。
「あれ?ユキかい?」
医務室の階の廊下を歩いていた私に下から声がかかる。暗闇に目を凝らせばリーマスの姿が見えた。
「見回り?」
『そうよ。リーマスは?』
「僕はダンブルドア校長のところに期末試験のことでちょっと許可を得にいっていたんだ」
『試験か~。そろそろ準備始めないとね。リーマスはどんな試験をやるの?実践もあるの?』
「あぁ。今までやった魔法生物と対戦してもらおうかなと思ってね」
『それはおもしろそうね』
茶目っ気いっぱいにパチリとウインクするリーマスに微笑みを返す。
きっと生徒たちはドキドキ緊張するだろうがリーマスの試験を楽しんで受けるだろう。
「見回りは下まで行ったら終わり?」
『そうよ』
「それならこの後、一緒にお茶でもどうかな?」
『喜んで』
リーマスはこうして時々私をお茶に誘ってくれる。
彼の部屋でゆったりと取りとめもない話をする時間を私は気に入っていた。
それに、先日私が暗殺忍者だったことを打ち明けてから、私の心はリーマスの前だとすっかり軽くなっていた。彼といると、とても楽なのだ。
「そういえば今日のホグズミードでとっても奇妙なことがあったらしいよ」
『奇妙なこと?』
「そう。なんとね、ハリーの生首がスリザリンの生徒の前に現れたらしいんだ」
『生首?……あ、透明マントね!』
クスクス笑うリーマスの横で私はポンと手を打つ。
『ハリーったら透明マントを着てまたホグズミードへ行ったのね』
「困った子だね」
そういうリーマスは全く咎めるような表情はしていない。むしろ、よくやったというような、イタズラを友人が成功させてそれを見て喜んでいるような楽しそうな顔をしていた。
『リーマス。その表情、教師としてあるまじきよ』
「ははっ。だってハリーがあまりにもジェームズにそっくりだから」
『ふふっ。そうね』
ジェームズが今この場にいたら、ハリーよくやったと、ニヤリと口角を上げてハリーの頭をクシャクシャと撫でるだろうな。
ジェームズが生きていたら、そもそもハリーは隠れてホグズミードに行くこともないんだけど……
そんなことを思っていた私たちがお互いに黙ったまま階段を降りていた時だった。
「黙れ!!」
大きな声が階下から聞こえてきて私たちは顔を見合わせる。
『ハリーの声だわ』
「行ってみよう」
タタタタっと階段を下りていって声のした方へと足を向けると、玄関ロビーの真ん中にハリーとセブの姿があった。
「セブルス」
怒れる顔つきのセブが振り返った。セブの前には顔を真っ青にさせたハリーの姿がある。
私はハリーの足元に透明マントが落ちているのに気がついた。
ハリーったら透明マントを着て寮を抜け出していたらしい。そしてどうなったかは分からないが、運悪くマントが脱げてセブに見つかってしまったのだ。
「これはこれは2人揃って……相変わらず随分仲の良いことですな」
ギラギラと突き刺さる視線が向けられて、私は何も悪いことなどしていないのに思わずセブから視線を逸らしてしまう。
「ハリーはどうしたんだい?こんな夜遅くに。しかもさっき、叫び声が聞こえたよ」
「それはこいつの、この自惚れ屋の大スター様の声だな」
フンとセブが鼻でハリーを笑いながら言葉を続ける。
「この有名なハリー・ポッター様は規則など自分には関係ないと思っているらしい。そう、ポッター、なんと君の父親に恐ろしくそっくりなことよ」
セブの機嫌は最高に悪いらしい。ジェームズの話題まで出してハリーへの攻撃を続ける。
「君の父親も酷く傲慢だった。少しばかりクィディッチの才能があるからといって他より抜きん出た存在だと考えていたようだ。今の君とそっくりだ」
『セブ、ジェームズの話題を出すことはないでしょう。もう攻撃するのはよしてあげて』
私はセブを落ち着けさせるためにそっとセブの腕に手を添えた。
私を見たセブは、まだ何か言いたげな顔をしたが、思いとどまってくれたらしい。
チッと舌打ちをしてそれ以上の攻撃をやめてくれた。
『ところでハリーはどうしてここに?』
「実は、その……ユキ先生に会いたくて」
『私に?』
私はキョトンとして目を瞬く。
『緊急の用事だったの?』
「えっと、その……はい」
「信じられんな」
重ための声で言い、セブが再びハリーを睨みつける。
「こいつは何かを企んでおった。ポッター!ポケットの中身をひっくり返せ!」
ガンっとしたセブの声が耳に響く。
ポケット……?
ハリーのポケットを見ると不自然に膨らんでいた。
何が入っているのだろう?と見る私たちの前でハリーはのろのろとポケットの中身をひっくり返す。
出てきたのはゾンコのイタズラグッズの買い物袋と一枚の羊皮紙の切れ端。
「ロンにもらいました」
セブがゾンコ店の袋をつまみ上げた。
「ロンが、この前ホグズミードからお土産を買ってきてくれて、それで……」
「ほう?それ以来ずっと持ち歩いていたというわけだ。泣かせてくれますな。ところで……こちらは?」
セブの口元が意地悪そうにニヤリと上がった。
「あ、余った羊皮紙の切れっ端です」
ハリーがひっくり返りそうな声で言った。
嘘だわ……!
私は内心のドキドキを抑えながら視線をリーマスの方にやった。リーマスがコクリと頷く。
あれは忍の地図だ!
「こんな古ぼけた切れっ端、我輩が捨てても構わんかな?」
「やめて!」
ハリーが慌てて言った。この子は、これがどういうものか分かっているんだわ。
私は、ハリーが前回のホグズミード行きをどうやって成功させたか合点がいった。この地図を使ったのだ。
そう考えている間にも、セブのハリーに対する尋問は続いている。
「これは手紙かね?いや……違うだろう。我輩はこれがディメンターの傍を通らずにホグズミードへ行ける案内書と見るがどうだね?」
ハリーはセブの言葉に明らかな動揺を見せた。
セブの瞳が意地悪く輝く。
まったくセブったら大人げないよ……
そうこうしている間にセブは杖を取り出し、忍の地図をさした。
「汝の秘密を顕せ!」
何事も起こらない。
地図を調べるセブの前ではハリーが震える手をぎゅっと握り締めてこの場を耐えている。
「ホグワーツ教師、セブルス・スネイプ教授が汝に命ず。汝の隠せし情報を差し出すべし」
セブが地図を強く叩いた。
すると、まるで見えない手が書いているかのように、滑らかな地図の表面に文字が現れ始めた。
何かしら?こんな仕掛けがあるとは知らなかった私は興味津々地図を覗き込む。
すると……
“私、ミスター・ムーニーからスネイプ教授に申し上げる。他人事に対する異常なおせっかいはお控えくださいますよう、切にお願い致す次第“
『ぶふっ!?』
思わず吹き出してしまった。瞬間、後悔する。
に、睨まれてる。呪い殺されそうな目でセブに睨まれているよ~~!!
『ご、ごめん。あっ、見て。まだ地図に文字が……あ……あはははは』
セブの気を逸らそうとした私は地図に更なるセブへのからかい文句が浮き出てくるのを見て硬直した。
ミスター・プロングズから、ミスター・パッドフットから。そして最後にワームテールからのメッセージが現れ、地図は再び何も書かれていないただの羊皮紙へと戻った。
「実に興味深い品ですな。闇の力が込められている可能性がある」
アズカバンの囚人並みに強面な顔でセブが言った。
『私には人をからかうだけのいたずらグッズにしか見えないわよ』
「同じく。ハリーはゾンコの紙袋を持っていたし。そこの品じゃないかな?」
そう言いながらリーマスはセブが持っていた忍の地図をパッと取って自分の手の中に収めた。
「だけど……もしもという可能性はある。これは僕が預かっておくことにしよう」
リーマスはみんなの顔を見渡してニコリと笑った。
『よし。これで一件落着ね』
「っまだ話は……」
『話はもう終わりよ、セブ。ここにこれ以上いたらみんな凍えてしまうわ。さて、ハリー。あなたは夜中に寮を抜け出したから減点20点ね。それから後日私の授業の手伝いをしてもらいましょう。セブ、リーマス、私はハリーを寮まで送るわ。おやすみ、2人とも』
文句を言いたそうなセブから逃げるように私はハリーと共にその場から去っていった。
「ユキ先生、僕――――」
『あの地図は誰からもらったの?って聞いてもいいかしら?』
出来るだけ優しい声で聞くと、フレッドとジョージの双子からだと答えが返ってきた。
「あっ!ふたりのこと、罰しませんよね?」
『ふふ、しないわ。ただ、あの地図が、どういう経緯であなたの手に渡ったのか興味があっただけだから』
そういうと、ハリーは驚いたようにふと足を止めて私を見上げた。
「先生は、あの地図が何なのか知っているんですか?」
『……えぇ。知っているわ』
「じゃあ、プロングズとか、ムーニーという人達の事も?」
『知ってる。私の古い友人よ。だけどそうね……これ以上は言えないかな。あの地図は、私にとってその友人たちとの間だけの秘密の思い出だから』
私は、私を見つめるハリーの頭をクシャクシャと撫でた。
『でも、ハリー。今回は少し軽率だったわよ。あの地図には城の大事な内部情報が載っている。先日もネビルが寮の合言葉を不用意に放置してあんなことが起こったばかりじゃない。あなたはあの地図を先生に提出するべきだったわ』
「ごめんなさい……ごめんなさい、ユキ先生……」
『分かってくれたらいいわ』
「それから、先生、あの……」
『どうしたの?』
「僕、考えたよ。シリウス・ブラックのこと」
ハリーは私のあのやり過ぎたお灸からシリウス・ブラックへの復讐について真剣に考えてくれたらしい。
「僕、復讐について軽く考えていたってユキ先生に言われて分かりました。確かに今もシリウス・ブラックのことは復讐したいほど憎んでいます。だけど、軽々しい行動は起こしたりしません。自分で復讐に行くような事はしません。約束します」
『ハリー……良かった』
「ユキ先生、僕のこと、許してくださいますか?」
おずおずと私を見上げるハリーに私はふわりと微笑む。
『もちろんよ。それに私もやり過ぎてしまったって反省しているの。シリウス・ブラックに変化して驚かせてごめんなさいね、ハリー』
「フフ、あれは死ぬほどビックリしました」
顔を見合わせた私たちの口からは自然と笑い声が漏れていた。
『おやすみ、ハリー』
「おやすみなさい、ユキ先生」
私はハリーを寮まで送って、動く階段を移動していく。向かうのはリーマスのところだ。
『リーマス』
リーマスの部屋の扉を控えめにノックする。
扉は直ぐに開いた。
「さあ、入って」
『ありがとう』
リーマスはいつものように紅茶を入れてくれた。
お砂糖はふたつ。私は熱い紅茶をゆっくりと口の中に入れて体を中から温める。
「突然やってきてビックリしたよ。どうしてユキの名前は忍の地図に出てこないんだい!?」
ほっと息を吐き出しているとリーマスが机の上に地図を広げながら聞いた。
『それはこれのおかげなの』
私は自分の腕につけているバングルを見せる。
『忍の地図のような魔法具に自分の居場所が割れないように魔法具を作ったのよ。でも、忍の地図で確かめる機会がなかったからちゃんと魔法具の作動を確認できて良かったわ』
「居場所が割れないようにする魔法具か……よく作ったね」
『忍にとって自分の居場所が割れることは良くないことだからね』
「なるほどね」
『それよりその地図、驚きね』
私とリーマスは感慨深げに机の上に置いてある地図を見た。
私はこの地図の制作には携わっていないが、思い出がある。学生の時、私とシリウスは学校の屋上に秘密基地を持っていた。それは後に悪戯仕掛け人も利用するようになって……その時、この地図にはお世話になっていたのだ。
「再びこの地図が手元に戻ってきて嬉しい……え……?」
『リーマス?』
リーマスが戸惑いの表情を浮かべながら地図を覗き込んだ。
私も身を乗り出して地図を見下ろす。
大きく開かれる私の双眸。
ピーター・ペティグリュー!!
「これはいったい……ユキ!?」
『失礼するわ』
私は驚くリーマスを置いて廊下へと飛び出した。
ペティグリューがいたのは私の部屋の近く。中庭に面した吹きさらしの廊下に名前があった。
階段を降りるのがもどかしく、3階まで降りてそこから一気にロビーへとジャンプする。
それから全速力で自室の方へと走った。
ペティグリューを捕まえられるチャンスだ。
私は苦無を出して廊下を走る。そして吹きさらしの廊下までやってきた。
どこだ……どこにいる
ペティグリューにバレないように廊下の天井へと宙吊りになりながら私は暗闇に目を凝らす。
足音を立てないように一歩一歩と天井を歩いていた時だった。
いた!!
廊下の端に毛づくろいをしているネズミの姿を発見した。
シリウスの無実を晴らすためには生け捕りにしなければならない。私は苦無に網を引っ掛けてペティグリューに狙いを定める。
ゆっくりと呼吸を整え、ネズミを狙って苦無を放つ。
捕まえた!
私はストンとペティグリューの前に降りて奴を見下ろした。
逃げないようにしっかりと縛って……いや、瓶か何かの中に閉じ込めておいたほうがいいのかしら……っ!?
「や~~~~~い。何やってるんだい。可哀想だろ。先生が弱い者イジメなんかしちゃってるぞ~~~」
『ピ、ピーブズ!!』
私は愕然とした。
突如横の壁から現れたピーブズが苦無をエイっと蹴ってしまったのだ。
一目散に逃げるペティグリュー。
『待て!!』
中庭へと飛び出していったペティグリューを追いかける。
しかし……
『くそっ!!』
私はペティグリューに追いつくことができなかった。ペティグリューはドブの中へと逃げてしまったのだ。
悔しい。もう少しだったのに……!
悔しさから涙がこみ上げてくる。
「おやおや?泣いているの『うるさいわッ』
私は怒りに任せてピーブズを風遁の術で吹き飛ばした。
部屋に戻る気にはなれなかった。戻ったとしてもイライラしている今の状態ではシリウスに当たってしまいそうだった。
私は暫し考えたあと、天文台へと足を向けることにした。
少し、あそこで星を見ながら落ち着こう。
『ペティグリュー……』
天文台の床には雪が薄く降り積もっていた。空は鉛色でチラチラと粉雪が落ちてきている。
私は地面の雪を払い、どしんとそこに腰掛け、体操座りになって丸まった。
うかつだった。もっとしっかりとペティグリューを捕縛していれば良かった。私としたことが……
忍としての感が鈍ってきているのだろうか?
私は最近、自分に甘い気がする。
失敗が多い気がする。
もっと自分に厳しくせねば。暗部だったあの時のように失敗すれば死が待ち構えているような緊張感を持たなければ。
雪がシンシンと降り続ける中、ユキは自分を罰するように寒空の下に身を置いていたのだった。