第4章 攻める狼
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15.二日酔いな降誕祭
クリスマスのお昼。
私はヨタヨタと大広間へと向かっていた。
『完全に飲みすぎたわ……』
前日のクリスマス・イブ。仲の悪いクィリナスとシリウスだったが、お酒が入り、お互いに悪態をつきながらも、会話は大いに盛り上がった。
2人との会話が楽しくてついつい飲みすぎてしまった私はしっかり二日酔い。
結局つい先程まで頭痛の痛みにうんうん唸りながらベッドの中にいた。
ううぅ痛い~~。
「??ユキ?」
『ん?セブ。おはよう。それからメリークリスマス』
玄関ロビーをヨロヨロしながら横切っていると地下階段から上がってきたセブに声をかけられる。
「メリークリスマス、ユキ。随分と顔色が悪いが……」
『二日酔いなの』
「二日酔い?そんなに酒が弱かったか?ルシウス先輩の家ではそこまで飲みすぎたようには思えなかったが……」
『違うの。これは昨晩部屋で飲んだお酒のせいね』
「一人晩酌をしていたのか」
『そういう事。調子に乗って飲みすぎたわ』
「必要なら二日酔いに効く薬をとってくるが」
『部屋で飲んできたから大丈夫よ。ありがとう。それより、素敵なプレゼントをありがとう、セブ』
セブが私にくれたのはカシミヤの真っ白なストールだった。
銀色の糸で雪の結晶が刺繍してあった。
それから一枚のメッセージカード。
そこには、ロンドンに出て一緒に食事でもしないか?と書かれていた。
「以前ロンドンを観光してみたいと言っていただろう」
『よく覚えていてくれたわね』
私は嬉しくなりながらセブに微笑みかける。
2年前に魔法省でホグワーツ理事会に忍術学を説明しに行く前、早く終わったらロンドン観光をしようと言っていたのだが、予言騒ぎがあってなくなってしまった経緯があった。
『一緒に行ってくれるの?』
「あぁ。たまにはマグルの町を散策するのもいいだろう。良い店も見つけたのだ。日付が決まったら予約しよう」
『このクリスマス休暇の予定は?』
「そうだな……」
セブと休暇の予定について話しながら大広間に入ると目の前がパッと明るくなった。
『今年も凄いわね』
感嘆のため息とともに感想を述べる。
大広間に入ってまず目に止まるのは12本の大きなモミの木。
それぞれが個性的に装飾されて、キラキラと輝いている。
天井を見上げると、空には満天の星が輝き、空中にはさまざまな形の雪の結晶が浮かんでいた。幻想的なその景色に私は暫し頭痛を忘れて見惚れてしまう。
中央に置かれたテーブルの席に私たちは隣同士で座った。
テーブルには既にダンブー、ミネルバ、スプラウト教授、フィリットウィック教授が席についていた。
生徒の数は少なく、緊張でダンブーの横でガチガチに緊張してしまっている1年生2人と(ダンブーなんかに緊張する必要ないのに)スリザリンの5年生が1人。それからハリーたち3人だけだ。
合計13人が席に着いたのを見て、ダンブーがはしゃぎながらクラッカーを取り上げた。
「さあ、セブルス引くのじゃ」
「我輩は結構。ユキ、お前が引け」
『わーい。ありがとう』
大きな銀色のクラッカーの紐を引くとパーンとクラッカーが弾け中からハゲタカの剥製をてっぺんに載せた大きな魔女の三角帽が出てきた。
うわっ……これ、リーマスのまね妖怪の授業でネビルが変身させた女装セブがかぶっていた帽子に似ているかも。
そう思ったのは私だけじゃなかったらしい。テーブルの端に座っていたハリーとロンが帽子を見ながらクスクス笑っている。
それに気づいたセブはハリーたちを呪うような目で見ながらダンブーの方に出てきた帽子を押しやった。
「さあ!どんどん食べましょうぞ!」
ダンブーがみんなににっこり笑いかけながら促した。食事の始まりだ。
ロースト・チキン、ポテトやブロッコリーで作られたツリーサラダ、オムライスケーキ、具がたっぷり乗ったピザ。
どれも美味しくて食が進む。
『ふふ。これだからクリスマスって好きなのよね。ねえ、セブ。そこのキッシュ取ってくれる?』
「二日酔いなんて何処へやらだな」
『あ、ホントだわ』
ふっとセブに笑われていると、大広間の扉が開いた。
入ってきたのはクリスマスらしくスパンコールの飾りのついた緑色のドレスを着ているトレローニー教授だ。
「シビル、これは珍しい!」
「あたくし水晶玉を見ておりましたの。そしたら皆様とご一緒する姿が見えましたのよ。運命があたくしを促しているのに逆らうことが出来て?」
ダンブーが杖を振り、空中に椅子を描いた。椅子は数秒間くるくると空中で回転してからミネルバとセブの間にストンと落ちた。
「ここに来て正解でしたわ。皆様周りをご覧になって。あたくしが来なかったら皆さんの人数は13人。とても不吉な数字でしたのよ。どなたも気にはならなかったのかしら?」
「シビル、臓物のスープはいかが?」
こういったジンクス嫌いなミネルバが眉をぴくりと痙攣させながら言った。
トレローニー教授はミネルバの放つピリッとした空気に気づいているのかいないのか、周りを大きな目で見渡して口を開く。
「あら、ルーピン教授はどうなさいましたの?」
「気の毒にルーピン教授はまたご病気での。クリスマスまで不幸な事じゃ」
「このように病気ばかりで来年も教師が務まるか疑問ですな」
『ちょっと、セブ!』
「これこれ喧嘩してはならぬぞ。今日はクリスマスなんじゃからの」
私とセブの喧嘩は珍しく大人なダンブーによって沈静化された。一方のこちらは―――――
「あたくしの見るところ、ルーピン教授はもう長くありません。あたくしが水晶玉で占ってあげると申しましたらまるで逃げるようになさいましたの」
「そうでしょうね。私だってそうします」
冷戦が続いていた。
トレローニー教授とミネルバの大人2人の冷戦に生徒たちは興味津々(1年生は戦々恐々としているが)。含み笑いをしながら様子を伺っている。
「いや、まさか。ルーピン教授はそんな危険な状態ではあるまい。セブルス、ルーピン教授にまた薬を作って差し上げたのじゃろ?」
「はい、校長」
「それなら問題ない。後は食事じゃの。薬も大事じゃが食事を取るのも大事。ユキ、この後ルーピン教授のところへクリスマスのご馳走を持って行ってくれんかの」
『もちろん』
「校長、ユキに頼まずとも我輩が……」
「ルーピン教授はお前さんの顔を見飽きておるじゃろうて。ユキの方が適任じゃ。それとも、ルーピン教授とユキの間に何か起こるのではと心配かの?ふぉっ、ふぉっ」
「食事の席で如何わしいことを匂わせる発言はお控え願いたい」
うひょひょっと笑うダンブーをセブが睨んでいる。
さっきはちゃんとした大人に見えたのに……やっぱりダンブーはダンブーね。
私は肩をすくめてブロッコリーを口へと放り込んだ。
食事が終わり、私は厨房へと行き一人分のクリスマス用の食事を屋敷しもべ妖精に用意してもらってリーマスの部屋へと足を向けた。
扉をノックすると目の下に隈を作ったリーマスが現れる。
「ユキ?」
『クリスマスのご馳走を持ってきたわ』
「ありがとう、入って。紅茶でもどう?」
『ありがとう。でも、先にリーマスに気を送るわ』
「そんな。昨日も送ってもらったのに悪いよ。あれ、疲れるだろ?」
『化物な私の体力を舐めてもらっちゃ困るわ。さあ、横になって』
私はリーマスを促してソファーに仰向けに横になってもらう。
上半身の服を脱いでもらって、心臓と額に手を置く。
体の中で練ったチャクラを少しずつリーマスの体へと流していく。
「楽になったよ。ありがとう」
部屋に入った時より若干顔色が良くなったリーマスに私は微笑む。
「そうだ。まだ言っていなかったね。メリークリスマス、ユキ。プレゼントもありがとう」
「こちらこそ。リーマスのプレゼントとても素敵で今朝は飽きずに眺めていたわ」
私がリーマスに贈ったのは革の杖フォルダー。
リーマスが私にくれたのはスノードームだった。
スノードームの中には小さな雪だるまや動物たちの人形が閉じ込められていて、パウダーが舞うミニチュアの町の中を楽しそうに走り回っていた。
「ねえ、ユキ」
『ん?……えっ……』
不意の出来事で私は何もできなかった。
リーマスに手を引かれた私の体はソファーに身を起こしていたリーマスの上に乗っかる。
リーマスは、私の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
『急にどうしたの?』
「ごめん。嫌かい……?」
リーマスの声がとても苦しげで、私は思わず考えなしに首を横に振った。
あ、でも……嫌じゃないって答えちゃったってことは、私がリーマスに好意があると言う意味になるのだろうか。
たしかに、今の気持ちは嫌じゃない。
だけど――――――
だけど、私は怖かった。
誰であれ、今の状況から、一歩踏み込んだ関係になってしまうのが怖い。
だって私は自分の気持ちがいまいち良くわかっていない。
リーマスは好きだ。
セブも好きだ。
今の私には誰か1人になんて絞れなかった。
誰かと今以上に親密な関係になることに躊躇していた。
『リーマス……私……』
情けないことに体も声も震えている私。
リーマスが、私を抱きしめている手の力をそっと緩めた。
「ごめん」
寂しそうにリーマスは私から体を離し、微笑む。
その表情に、私の心臓はズキリと痛む。
「まいったな。そんな表情をさせたいわけじゃないんだ」
『ごめん。リーマス……私、混乱していて』
あぁ、なんて情けないんだろう。
涙がポロリと目から零れてしまった。
『い、嫌だったわけじゃないの。だけど、でも』
「ごめん。ビックリさせたね」
私はリーマスの膝の上から降りて、リーマスの隣に座り、どうにかこみ上げてくる涙を堪えようとしていた。
リーマスは涙を流す私の背中を摩ろうと手を伸ばしかけたが、その手を引っ込め、代わりに私にハンカチを差し出してくれた。
『私ったら子供だわ』
「そんなことないよ」
『そんなことあるの。私、自分の気持ちが分からない。それに怖いのよ。今の関係より先に進めるのが怖い。リーマスのことは好きなんだけど、だけど、だけど!』
「無理しなくていい。無理しなくていいんだよ、ユキ。今回は僕が早まりすぎた。密室でこんなことして、怖かったよね」
優しくリーマスに言われて、私の心はようやく落ち着いてくる。
泣き止んでハンカチを顔から外すと、穏やかな瞳で私を見ているリーマスと視線が合う。
『リーマスは大人だわ』
「そんなことないよ。現に、今もこうやって我慢が効かなくなってユキを抱きしめて嫌な思いをさせてしまった」
『嫌だとは思わなかったよ。ちょっと急でびっくりして、混乱しちゃったけど』
「僕のこと、嫌いになったかい?」
リーマスが不安そうに聞く。
『まさか!そんなことないよ』
私は大きく首を横に振った。
「良かった」
リーマスは心底安心したようにホッと息を吐き出す。
『ねえ、リーマス。私はいつになったら恋愛が出来るようになるんだろう』
「難しいこと聞くね」
リーマスはハハっと笑いながら言った後、優しく私に微笑みかける。
「ユキは、ユキのペースでいいんだ。恋愛も、自然と誰かと付き合いたいって思うまで、待てばいいんだよ」
『だけど……』
「僕に悪いな、とか思ってる?」
私は無言で頷いた。
あまりにも待たせてしまうのは申し訳ない気がする。
しかし、リーマスはそんな私の気持ちを察するかのように微笑んで「気にしないで」と言ってくれた。
私の目をまっすぐに見て、リーマスは口を開く。
「もう2度と、こんなことしない」
『うん』
「だけど」
私の心臓がどきりと跳ねる。
――――逃がしもしないからね
耳元に口を寄せられて囁かれた言葉。
私は顔を真っ赤にさせてリーマスの部屋を飛び出したのだった。
***
『本当にもうっ。リーマスったらいつの間にあんな余裕のある大人になったのかしら。まあリーマスは学生の頃からみんなと違って大人だったけどって……んん』
階段を駆け下りてきた私は、玄関ロビーまで降りてきたところでその場に座り込んだ。
急にぐらりとめまいを感じたからだ。
これはあれだ。二日酔いが残っているのにリーマスに気を送りすぎてしまったからだ。
『き、気持ち悪い』
体をお越しているのも気持ち悪くて、私はその場に寝そべった。
大理石の床が冷たくて気持ちいい。
「おい。何をしている」
『その声は、セブ?』
深みのあるバリトンボイスは間違えようがない。セブが階段からトコトコと降りてきていた。
「顔が青いぞ」
『うん。気持ち悪い』
話すのも辛くて口も目も閉じた私だが、急な浮遊感に驚き目を開く。
『セブ?』
「いったい昨日どれだけ飲んだんだ」
『ワインを何本か……美味しくって、つい』
「飲むのはいいが自分の限界を考えろ。はあぁ仕方ない。二日酔いに効く薬を作ってやる。我輩の部屋に運ぶがいいか?」
『お願いします』
セブったら優しい。
セブが作ってくれる薬はとても良く効く。
私は最高に気持ちが悪かったので、私はセブの好意に甘えることにした。
「ここで寝ていろ」
セブは自分のベッドに私を下ろしてくれた。
この時、私の具合は更に悪くなっていた。頭がぐわんぐわん回り、吐き気も強い。
『ごめん、セブ』
「なんだ?」
『こんなこと頼むの申し訳ないんだけど、服脱ぐの手伝って。胸が苦しくて』
薬を作りに行こうとするセブを捕まえて頼むと、セブは驚いたような顔をしたが、私の様子を見て服を脱ぐのを手伝ってくれた。
「ずいぶんキツく締め上げる服を着ているのだな」
着物の構造に驚きながらセブが言う。
帯が取れて着物を脱ぎ去り、長襦袢姿になる。
ふーっ楽になった。
『あと、念のため洗面器も貸しておいてください』
「そんなに酷いのか……分かった。レモン水も持ってこよう」
ドサリとベッドに身を投げた私の頭をひと撫でしてからセブは洗面器とレモン水を用意してくれた。
「薬ができるまで少し寝ていろ」
『うん。ありがとう』
黒い背中を見送って、私は瞳を閉じる。
薬草の香りがする……。
甘いような薬材の香り。
私は優しい香りに包まれて、いつの間にか眠りの中に落ちてしまっていた。
あ……薬の香りが近づいてくる。
私の目は自然と開いた。
「起きたか」
『うん。いつの間にか眠ってしまっていたみたい』
ぼんやりした頭に若干眉を寄せつつ上体を起こすと、セブがヘッドボードに枕を立てかけてくれた。
ヘッドボードに寄りかかると、セブが薬を差し出してくれる。
「飲め」
レモンが入っているようなスッキリとした味に胸のあたりの気持ち悪さが少し楽になる。
『もう少しここで寝ていてもいい?』
「あぁ構わん。好きなだけいろ」
セブがヘッドボードに立てかけてあった枕を元の位置に戻してくれ、私はぽすんと頭を枕に沈める。
私の体は強い。
昔から、風邪なんて引いたことなかった。病気らしい病気はしたことがなかった。
だから、怪我以外でこうして体が弱ったことがなく、私は心細さを感じていた。
だから私は「我輩は向こうで仕事をしてくる」と去りそうになるセブの手を無意識のうちに捕まえていた。
『傍に居て欲しい』
セブが固まった。
目を大きく開いて、私を凝視している。
あら?そんなに変なこと言った?
それに、
『どうして真っ赤になっているの?』
「っ!?お前という奴は……!」
セブは何かを言いたそうに口を開いたが、口を閉じ、何かを言う代わりにハアァと大きなため息を吐き出した。
『セブ?』
「お前は我輩を誘っているのか?」
『ぎょえっ』
セブの手が伸びてきて、私の襟をぎゅっと合わせた。どうやらはだけてしまっていたらしい。
『そんなつもりじゃなかったんだけど……』
「ふん。お前のことだ、無意識なのは分かっていた。だがな、少しは危機感を持ってくれ。我輩とて、男なのだ」
セブは続けて、好きな女に怖い思いをさせたくはないが、我慢が効かなくなって襲いたくなる。と言って、肉食動物が獲物を狙うかのように目を細めて私を見る。
ギラギラとした欲望を宿した瞳。
どうしてだろう。胸がドキドキする。
私の呼吸は自然と荒くなっていた。
セブに抱かれたい。
そんな思いが頭に浮かび、私は自分の考えに赤面する。
「どうした?そのような顔をして……やはり、誘っているのか?」
低いバリトンの声が耳に響く。
全身が甘く痺れて私は身震いをする。
甘い香りを放つ食虫花に誘われるように、私はセブを求め、手を伸ばす。
セブも私に手を伸ばし、私を抱き起こすように体に手を回した。
私たちの顔は、ゆっくりと近づいていく―――――
しかし、重なる寸前だった。
「っ!?」
私は思い切りセブを突き飛ばした。
私の口の行き先は、セブの唇ではなく洗面器。
私は洗面器の中に思い切り吐いてしまう。
『ご、ごめん、セブ。念のため言うけど、セブが嫌で吐いたんじゃないからねっ』
「分かっているが、お前な~~~~~っ!」
床に尻餅をついているセブが呆れたようにため息を吐く。
いつの間にか私たちの頭上に現れていた宿り木は、パンと弾けるようにして消えたのだった。
***
ユキの唇と我輩の唇が重なる寸前で、我輩はユキの馬鹿力によって突き飛ばされた。
どしんと突き飛ばされて尻餅をつく我輩の前では洗面器に顔を突っ込むユキの姿。
どうやら急な吐き気がやってきたらしい。
仕方のないことだが、このタイミングで……はあぁ。相変わらず空気を読まない奴だ。
『ご、ごめん、セブ。念のため言うけど、セブが嫌で吐いたんじゃないからねっ』
「分かっているが、お前な~~~~~っ!」
分かっている。分かっているのだが、なんともやるせない。
『う、うえぇっ』
やるせない気持ちを抑えてユキの世話をする。
吐き気の収まったユキの口をスコージファイで清めてやり、吐瀉物を消し去る。
ユキは真っ青な顔で仰向けにベッドに身を横たえている。
「昨日はいったいどれだけ飲んだんだね」
『ワイン瓶が全部で10本。(全部私が飲んだんじゃないけど)』
「こうなって当たり前だ!」
10本も飲んだならこうなって当たり前だこの馬鹿が!
『セブ、気持ち悪いよ』
「まだ吐きそうか?」
『吐きそうではないけど』
「そうか。では、反対側を向け、背中を摩ってやる」
コロンと転がって我輩に背中を向けるユキ。
ベッドに腰をかけて、ユキの背中を摩ってやる。
『凄く気持ちいい』
「そうか」
『安心する』
「……」
可愛いところもあるではないか。
素直なユキに思わず口元がほころぶ。
「寝たか?」
暫く背中を摩っていると、ユキの規則的な寝息が聞こえてきた。
顔を覗き込むと、口元に僅かに微笑みを浮かべてすっかり寝入っていた。
ひと寝入りすれば気分も良くなるだろう。
それまで放っておこうと思い、自分は研究室で来学期の準備でもしていようとベッドから下りかけた時だった。
こちら側に寝返りを打ったユキがパチリと目を開ける。
『やだ。行かないで』
そう言ったユキにマントを掴まれる。
ユキを見下ろすと、目を閉じて規則正しい寝息。
これは……寝ぼけていたのか!?
「おい、ユキ。離せ」
小声で声をかけながら、掴まれたマントの指を一本一本はがしていく。しかし、一本はがせば一本戻りと、埓があかない。
はあぁどうしたものか。
そう思い眉を寄せていると、突然グンッと体が飛んだ。ユキに思い切りマントを引っ張られたのだ。
ユキを踏まないように足を広げた我輩は、気づけばユキの上に覆いかぶさるような体勢になっていた。
「えへへ。セブー……それ食べないの……?」
体の下には我輩のマントを両手で大事そうに掴みながら幸せそうに表情を崩すユキの姿。
本当にこいつは……
もしや、我輩の我慢を試しているのか!?
寝込みを襲いたくなる衝動を抑えるために、我輩は目を閉じて深呼吸を繰り返す。
『セブー』
また寝言だ。
『好き』
「……」
……キスくらい許せ。
我輩は少し迷って、ユキの頬にキスを落とした。
本当は口にしたいところだが、眠っていて無抵抗な者にそうすることは良心が咎めた。
我輩は、ユキを蹴らないように気をつけながらユキの隣に体を横たえる。
首を横に動かしてユキを見れば、両手でしっかり我輩のマントを掴んでいるのが見える。
少し、疲れたな……
我輩も少し眠るとしよう。
ユキの横顔を見ながら眠りの中へと入っていった。
***
『ええええっセブ!?』
目を覚ましたユキは隣にセブルスが寝ていて絶叫する。
「五月蝿いぞ、黙れ。まだ寝足りない。もう少しそのままでいろ」
寝ぼけたセブルスがユキの体を抱きしめる。
え、え、えぇっ~~~~!!??
ユキはセブルスが起きるまで、カチンと固まっていたのでした。