第4章 攻める狼
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14.イブの騒動
生徒がクリスマスを家族と過ごすためにホグワーツ特急で自宅に帰っていき、ホグワーツは休暇へと入った。
今年は特にホグワーツに残る生徒が少なかったが、城の飾りつけは大掛かり。
柊や宿り木を編み込んだ太いリボンが廊下にぐるりと張り巡らされ、鎧という鎧の中からは神秘的な明かりが煌めいている。
大広間にはいつものように12本のクリスマスツリーが並んでいた。
そんな賑やかな装飾とは対照的に、忍術学教師のユキ・雪野は厳しい顔つきで雪が降り積もった丘を下っていた。
彼女が向かっているのはハグリッドの小屋だ。
『ハグリッド!いる?ユキよ。いたら開けてちょうだい』
私の呼びかけに扉は直ぐに開いた。
『ハグリッド……』
私は入口に立つハグリッドを見つめながらきゅっと唇を引き結ぶ。
ハグリッドはどうやら泣いていたらしかった。
目は真っ赤に腫れて白目は充血し、頬には涙の跡が伝っている。
「ユキか。どうしたんだ?」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながらハグリッドが言った。
『どうしたんだじゃないわ!どうして教えてくれなかったの?』
ヒッポグリフのことよ!と私が叫ぶ。
ハグリッドは私の言葉と同時に止めていた涙を溢れさせた。
私は大きなハグリッドの体に手を回してぎゅっと抱きしめてから、ハグリッドを促して家の中に入った。
家に入ってハグリッドに座るように促して、泣きじゃくる彼の背中を摩っていた私は、私がここに来た理由、そして今ハグリッドが泣きじゃくっている原因となっている手紙がテーブルの上に置いてあることに気がついた。
その手紙に書いてあることは、ハグリッドが初めて授業を行った時にヒッポグリフが暴れた件についてのことだ。
この件について、ハグリッドはダンブルドア校長の保証もあり、ハグリッドには何の責任もないとホグワーツ理事会は採択した。
しかし、ヒッポグリフについては危険生物処理委員会に付託されることになってしまったのだ。
私はハグリッドの背中を摩りながら横目で暖炉の前で大きな体を丸めさせてすやすやと眠っているヒッポグリフを見た。
シリウスに聞いたところ、危険生物処理委員会はあまり動物に優しい決定を下す部署ではないらしい。
そうなると、バックビークはどうなってしまうのか……
「それにしても、ユキ。どうしてこの事を聞いたんだ?」
嫌な想像に眉を寄せているとハグリッドが顔を上げて聞いた。
「お前さんの耳には出来れば入れたくないと思っていたんだが……」
ドラコを庇ってバックビークの爪で背中を怪我してしまった私。
ハグリッドはそんな私の耳にバックビークを庇っているという話を入れたくなかったのだと思う。
そんなこと気にしなくても良かったのに……
結果として、私がバックビークがピンチに陥っていると知ったのはつい今朝方、ルシウス先輩から貰った手紙からだった。
―――以前に私は君を傷つけた野蛮な魔法生物を許さないと手紙で書いたね。
今回手紙を書いたのはようやくその野蛮な魔法生物を罰する目途がついたからだ。
あの危険動物は危険生物処理委員会が処分してくれるだろう―――――――
私はこの手紙を読んで直ぐにハグリッドの小屋に来たわけだ。
『この話はホグワーツ理事を務めている先輩から聞いたの』
「ルシウス・マルフォイ氏か」
『そうなの。ルシウス先輩がこの話を主導しているわ。止められなくてごめんなさい、ハグリッド。ルシウス先輩にバックビークは悪くなかったって以前手紙で書いたんだけど……ダメだったみたいだね』
「お前さんが謝ることじゃねえ。お前さんが何を言ってもマルフォイ氏はバックビークを悪者にしてたさ」
ハグリッドはそう言ってチーンと鼻をかんだ。
『事情聴取でバックビークの無実を訴えなくちゃいけないのね。私も証言台に立つわ』
テーブルに置いてある手紙に“事情聴取は4月20日に”と書いてあるのを見ながら言う。
「証言してくれるんか?ユキ」
『もちろんよ』
私が微笑みながら言うと、ハグリッドは少しだけ表情を明るくさせてくれた。
しかし――――
「いや、ダメだ。証言したって意味はねぇ。あの処理屋の悪魔どもはルシウス・マルフォイの手の内にあるんだから……」
再び涙がこみ上げてきたらしい。ハグリッドがぶわっと泣き出した。
私はそんなハグリッドの背中を撫でながら、決心を伝える。
『それなら、私行くわ』
「???」
『ルシウス・マルフォイ先輩のところによ』
キョトンとした目で私を見上げるはハグリッドに私はにこりと笑いかける。
危険生物処理委員会がルシウス先輩の手の内にあるなら証言台に立つよりも、ルシウス先輩に直接訴えた方が効果がある。
そう伝えた瞬間体に衝撃。
「ユキ!!お前さんはなんて、なんて良い奴なんだ!」
『ぐ、ぐふう』
ハ、ハグリッド苦しい
私は意識を半分飛ばしながらハグリッドの抱擁を受けたのだった。
***
―――ルシウス先輩、お会いしてお話したいことがあります。
―――ならばクリスマスに家に来ないかね?
クリスマスの日に教師がホグワーツにいないのはまずい。
という事で私はクリスマス・イブにマルフォイ邸にお邪魔させて頂くことになった。
―――人数は多いほうがいい。セブルスも誘うとしよう
手紙を受け取ってセブにこの事を伝えた時の事を思い出すと今でも身震いがする。
「余計なことをしおって!」
『せっかくのお誘いなのになんでそんなに不機嫌って、おっと!?』
朝の大広間でバンバン魔法を打ち込まれて大変だった。
セブったらどうしてこんなに嫌がるのかしら?
(からかわれるのが目に見えているからだこの馬鹿が!)
でも、どんなに嫌がっても最終的には来てくれるのがセブの良いところ。
「いくぞ」
『お願いします』
バシンッ
マルフォイ邸の門についた私は思わず感嘆の声を上げていた。
鷹のノブを回して門を通ると広場の真ん中に大きな噴水がどんと構えている。噴水の頂上で優雅に水浴びしているニンフに見惚れる。
『ルシウス先輩って知っていたけど大金持ちなんだね。うわっ見て!噴水の中に陶器の魚が泳いでいるよ』
「あっこら!捕まえようとするな!」
本物の魚のようにヌルヌルしているのだろうか?と試したくて両手を水に突っ込んだら、帯を後ろから思い切り引っ張られて尻餅をついてしまう。
『痛たーい』
「はあぁ先が思いやられる。人の家のものに勝手に触れるなと習わなかったかね」
『習わなかった』
「では今言う。勝手に触れるな、騒ぐな、行儀よくしろ。行くぞ」
クルリと私に背を向けるセブ。
ピシャリと言われて私はぶーっと頬を膨らませる。
そんなに強く言わなくてもいいじゃない。
私はムゥっとした気分を晴らしたくなった。
それにはいたずらが一番。
ふふふ、覚悟しろっセブ!
地面の雪を丸めて足元向かって投げつける。
雪玉の中に仕込んでいた砂利がセブの足を滑らせた。
ま、まずい……
どしーんと尻餅をついたセブがギ、ギ、ギと首を後ろに回して私を見る。
「雪野~~~~!」
『っ!?』
苗字呼びは怒っている証拠。
セブが勢いよくブンと杖を振った。
杖を振った先は水が流れている噴水だ。
噴水からパッと飛び散った水は形を変えて氷柱に。大量の氷柱が私の方へと飛んでくる。
『危ない、危ない、危ないっ!!しかーし!このユキ・雪野にはこんなもの屁でもないのだッ』
カシャン カシャン
苦無で飛んでくる氷柱を叩き落とす。
落としきれないものは走りながら避け、地面に手を着くたびに雪を拾う。そして玉にしてセブへと投げる。
セブが再び噴水に魔法を放った。
一番上にいるニンフが指揮を執り、小さな妖精たちに命令して私に雪玉を投げつけてくる。
アハハ、楽しくなってきた!
ヒュンヒュンと雪玉や氷柱を避けながら合間合間にセブに雪玉を投げる。あ!プロテゴでガードされた!くぅ~こうなったら次の手段に―――――――
「あのぅ……スネイプ教授……ユキ先生……」
ピシリと固まる私たち。
ギギギと首を動かして見る先にいたのは玄関の前で苦笑しているドラコの姿。
「父上から昼食が冷めてしまうから早く入ってくるようにとお2人に伝えるよう言われまして……」
教師2人に言いにくそうに伝えるドラコ。
夢中になって遊んでいた教師ふたりの顔が赤いのは、寒空の下で遊んで息が上がっていたからではない。とってもとっても恥ずかしいから。
「ゴホンっ。行くぞ、ユキ」
『そ、そうだね。お邪魔します、ドラコ』
平静を装おうとするふたりの教師を見て思わずブフウッと吹き出してしまうドラコ。
ふたりはそんなドラコの横で堪らず顔に手をやったのだった。
「よく来たね。しかし、待ちくたびれたよ」
「お招き頂き感謝します、ルシウス先輩。お恥ずかしいところをお見せしました」
顔を赤くしながら謝罪するセブルスを見てルシウスは喉をクツクツと鳴らして笑う。
「久しぶりね、ユキ!」
『ナルシッサ先輩』
ユキの方はナルシッサの抱擁で迎えられた。
学生時代、ナルシッサはユキの教育係のようなものをしていたり、ユキの方はナルシッサのピンチを救ったりと、2人はとても親しい間柄だったのだ。
「さあ中に入って。一日早いけど、クリスマスパーティーを始めましょう」
ルシウスたちに招かれて、ユキたちは立派な食卓テーブルが入れられた部屋へと入っていく。
天井にはシャンデリア、美しい額に縁どられた大鏡の下には暖炉があり、赤々と燃えている。
暖炉の前の席にはルシウスが座り、ルシウスの右手側にユキ、左側にはセブルスが座る。ユキの右隣にはドラコだ。
「酒は飲めるかな?」
『大好きです』
「好きだが弱い。ルシウス先輩、少なめに注いで頂きたい」
「ふふ、今ではセブルスがユキの教育係になっているのね」
ナルシッサの言葉にクツクツ笑いながらルシウスがユキのゴブレッドを満たす。
「それでは乾杯しよう。乾杯」
『「「「「乾杯」」」」』
チンとゴブレッドが合わさる音が部屋に響く。
『おいしい』
芳香な香りと深みあるワインの味に私は思わず声を上げる。
「気に入ってくれて良かった」
ルシウス先輩が空になった私のゴブレッドを満たしてくれた。
対面では目で「飲み過ぎるな」と訴えているセブの姿。
私は『もし酔っ払ったらよろしく』の意味を込めてゴブレッドを目線まで上げながらセブに微笑み、ワインを口に含む。ふふ、美味しい。
「ユキ先生、休暇はどのように過ごされていたんですか?」
『いつも通りだよ。朝はディメンターに手伝ってもらいながら鍛錬。午後からは城に残った生徒たちと雪合戦をしたり、自室で調べ物をしたり。ドラコは何をして過ごしていたの?』
「僕は宿題をしたり、後は箒の練習をしたり、あとは忍術の練習も!」
『忍術の練習やってくれているんだね。何かわからないことある?』
「今分身の術の練習をしているのですが、なかなか難しくて」
『予習してくれているんだね。偉い偉い』
「分身の術って期末試験に出るんですよね」
授業の中で期末試験の内容を前もって知らせていたのだ。
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ』
分身の術はまだ授業ではやっていない。1人で練習して出来ないのは当然だ。あれにはコツがある。
私は不安そうに眉を寄せるドラコに微笑みかける。
『帰るまでにコツを教えるわ。一緒に練習しましょう』
「やった!」
「ドラコ、良かったな」
「はい、父上」
満面の笑みが可愛いドラコ。彼のこちらまで嬉しくなるような笑みに釣られて口角を上げながら私たちは食事を始める。
果物の入ったサラダ、テリーヌ、キッシュから始まり、スープ、ムール貝のワイン蒸し、七面鳥、そしてデザートのケーキ。
ひと工夫もふた工夫もされた料理に舌鼓を打ち、私たちは食事を終えた。
食事が終わり、談話室へと移動した私たち。
ドラコがナルシッサ先輩とセブと談笑している場所から少し距離を置いて私はルシウス先輩と話していた。話している内容はビックバークのことだ。
『ルシウス先輩には危険生物処理委員会を動かす力があると聞きました。お願いです。バックビークを殺さないでください』
「それは出来ない相談だな、ユキ。あの野蛮な生き物は君に大怪我を負わせ、うちの息子にも危害を与えようとしたのだ」
『どうしてもですか……?』
「そうだな。君が我々の側につくなら考えてもいいが……」
ルシウス先輩が灰色の瞳を細めた。
私はそんな彼の前で溜息を吐きながら大きく首を振る。
『何をおっしゃいます……私があなた方の側につかない事はルシウス先輩も分かっているはずですよ。私は卿を殺し損ねた』
「そう、その話だ。聞かせてもらえるね、ユキ」
どうやら上手くこの話へと話を誘導されたようだった。
私は小声で、そして早口でルシウス先輩に自分がリドルの日記のせいで過去へと飛ばされたこと、徐々に記憶を取り戻したことを話す。
『しかし、実のところを言うと、私は過去で卿の館に侵入した記憶を持っていないのです』
「では、レギュラス・ブラックを殺したという記憶は?」
『それもありません。でも、彼の杖を持っていたからレギュを殺したのは私だと思います』
「信じられないな……君は学生時代、レギュラスと親しかったではないか」
『そうですね。ですが、私は忍なんです。忍とは、感情を殺し、ただ任務遂行のためだけに動く者。私はこの魔法界に来る前、色々な人間を暗殺してきました。かつての師も、幼い子供も含めてです』
ルシウス先輩がすっと息を止める音が聞こえた。
平静を装うように、ルシウス先輩が持っていたウイスキーグラスを傾ける。
「フゥー……いつか君が敵になる日がくるのか……」
視線を合わせずにルシウス先輩が呟いた。
『出来ればそうはなりたくはありませんが、そうなった時は致し方ないでしょう』
「君はプロのようだね」
一寸の動揺も見せない私を見てルシウス先輩が苦笑いを浮かべる。
暫く微妙な沈黙が続いた後、私はおずおずとルシウス先輩を見上げる。
もう一回バックビークのことをチャレンジしてみよう。だが……
「はあぁ。そんなにあの野蛮な鳥が好きなのかい?」
ルシウス先輩に呆れたように首を振られてしまう。
それでも負けじと私はルシウス先輩に訴える。
『大好きです!大っ好き!!バックビークのこと。可愛いし、でも、はぁ……もし救えないなら供養に食べてあげるしかない』
「っ!?!?!」
『ルシウス先輩?』
「た、食べる……か?」
急に動きが硬くなったルシウス先輩を不思議に思いながらコクリと頷く。
「(食べる……もし、千分の一の確率でもユキが処刑したヒッポグリフを食べるようなことがあったら……)」
ルシウスは浮かんだ想像に顔を顰める。
学生の頃から食べられそうなものは何でも口に運ぶユキ。
きっとヒッポグリフも食べるに違いない→ユキがお腹を壊す→なぜ止めなかったのかと妻が怒る
そんな図式が頭の中に浮かんだルシウスは、観念したように溜息を吐き出した。
「分かった」
『はい?』
「ヒッポグリフの件はユキの言う通りにしよう」
『っ!?ほ、ほんとですか?』
「あぁ」
突然心変わりしたルシウスにビックリしたユキだったが、とにかく嬉しいこの言葉に大きく拳を突き上げて『やったーー』と叫ぶ。
どうして自分はこんなにもユキに甘いのか。
ルシウスの方はぴょーんと跳ねて服に思い切り持っていた飲み物を零しているユキを見ながら考える。
学生の頃から、ナルシッサと共に礼儀作法、日常生活の常識をユキに叩き込んできたルシウス。
ルシウスはユキのことを手のかかる妹のように感じている自分に気づき、フッと口元を緩めたのだった。
***
「ヒッポグリフのこと良かったな」
『うん!』
帰城した私たちはおやすみの挨拶を交わしそれぞれの部屋へと戻っていく。
吹きさらしの廊下を歩きながら中庭に降ってくる雪を見る。降り積もった雪は月に照らされ白銀に輝き美しい。
明日は待ちに待ったクリスマス。楽しみだな。
豪華な食事やプレゼントの山を想像して嬉しくなった私はふふっと一人笑いながら自室へと続く階段を上る。
寒いし寝る前に緑茶でも飲もう。
ご機嫌な私が自室のドアを開けた時だった。
ドカン
バンッ
パーーーーンッ
『……』
あれ?なんか今幻覚見えた
思わず扉を閉める。
ハハハ。私の見間違いよね。
まさか部屋の中でドンパチ魔法合戦なんてしている奴が約2名いるわけないわよね!
シンシンと雪の降る音だけが響く静かな自室前で幾度か深呼吸を繰り返した私は先ほど扉を開けて見てしまったものが消えていることを祈りつつ扉を開ける。
途端に耳につんざく爆音。
「プロテゴッ!」
「土遁・ゴーレム傭兵」
「くそっこいつも忍術使えるのか!」
「私はユキの1番弟子ですからね。ちなみに、2番弟子以降は認めません。存在させません」
防音呪文が完璧にかけられている我が自室。
だからどれだけドンパチやっても大丈夫!なわけないわよッ!
木っ端微塵に砕けているテーブル、割れて床に散乱している花瓶の破片と花々、引き裂かれたカーテン。
「呪術分解!」
「何!クソまたか……んならレダクト!」
『ねえ』
「ユキが帰ってくる前にお前を屍に変えて埋めてやる!これでどうだっ土遁・土塊弾」
「うわっなんだこれは!」
なんだこれはと叫びたいのは私の方だ阿呆どもめ。
『風遁』
「「え?」」
『豪空砲!!』
吹き飛ばしたふたりの頭に、私は思い切りゲンコツを落としたのだった。
『人の部屋をめちゃくちゃにして反省しなさいこの馬鹿ども!』
クィリナスとシリウスに部屋を修復させた私は彼らの前で大きくため息を吐く。ちなみに目の前にいる二人は正座させている。当然だ。
『たしかにクィリナスはシリウスがいてビックリしたでしょうけど……』
「そうですよ!」
クィリナスがバッと立ち上がりながら叫んだ。
「まさか旦那の留守中にあなたが他の男を連れ込んでいるなど……見損ないましたよっユキ!」
「こいつ何言ってんだ?」
『気にしたら負けよ、シリウス』
クィリナスには何も伝えていなかったが(伝える
それに、クィリナスがこうして私がいない時に戻ってきた時のことを考えて、シリウスにはシリウスを信用して欲しいという事を書いたクィリナス宛の手紙を渡していたのだ。
それなのに――――
「こいつ、ユキの手紙読んだ上でこうだからな!」
シリウスがクィリナスを指さしながら叫ぶ。
『どうして?クィリナス。手紙の内容は信用できなかった?』
「いいえ。ユキの言うことなら全て信用できます」
『じゃあなんで……』
「決まっているじゃないですか。私の大事なユキに変な虫が……いえ、アズカバンの脱獄囚ですから虫以下ですね。こんな虫以下の男がユキと寝食を共にしていたのが許せなかったのですよ。ハッ!?ユキ、この男は普段どこに寝ていたのですか?」
『シリウスは私のベッド、私はクィリナスのベッドを借りちゃってた』
「そうでしたか……。クズ男、あなたも少しは使えるようですね!」
「なあユキ!こいつ色々ヤバくねぇか!?」
急に瞳を煌めかせたクィリナスにシリウスはドン引きだ。
私の方は慣れているけど……ってこんな変なのに慣れちゃっている私って……私は急に気分が沈んで長く息を吐き出した。
『取り敢えず、クィリナスにはシリウスのこと詳しく話すよ』
シリウスの事を話しながら私が思ったこと。
それはこの2人の相性が最悪だということだ。
シリウスの方はハリーの命を狙ったことのあるクィリナスにあからさまな敵意を向けているし、クィリナスの方は自分の知らぬ間に同居人が増えたのが面白くないらしく、呪い殺しそうな目でシリウスを睨みつけている。
『2人ともそんな顔しないで。クリスマス・イブだし何か美味しいものを作ってくるよ。食べながら親交を深めよう?ね?』
リビングに2人だけにしていたらまた戦いが勃発しそうだったのでクィリナスに料理の手伝いを頼む。
「ピーター・ペティグリューという男が真犯人であると言うことは分かりました。ですが、あなたがシリウス・ブラックを匿う必要があるのですか?見つかったらとんでもない事になりますよ。あなたがそんな危険を冒してまで匿う必要があるのですか?」
わざと大きな声で言っているのはシリウスに聞かせるためだろう。
大人げないクィリナスに苦笑いしながら私は口を開く。
『私の学生時代を知っているクィリナスなら分かるでしょ?私はリリーやジェームズと仲が良かった。もちろんシリウスともね。真実を明らかにし、彼らの無念を晴らしたいというのが私の気持ちよ』
私はポトフのスープを小皿に取り、味見をしてもらうためにクィリナスに差し出した。
「ちょうどいいです」
『良かった……勝手をしてごめんね、クィリナス』
「いいですよ。あなたの気持ちは良く分かっていますから」
クィリナスが杖を振ってポトフをテーブルへと運んでいく。
クィリナスはシリウス自身には敵意剥き出しであるものの、シリウスの脱獄した理由とこの部屋に滞在する理由については理解を示してくれた。
『ありがとう、クィリナス』
「どういたしまして」
彼は私の良き理解者だ。
彼はいつも、私を許容してくれる。
そしていつも、踏み込み過ぎないでいてくれる。
それがどんなにありがたいか……
『メリークリスマス・イブ!』
温かな食卓を三人が囲む。
「このチキン旨いな。さすがユキ」
『えへへ、ありがとう』
賑やかなクリスマス・イブ。
「シャンパンを注ぎましょう」
『ありがとう、クィリナス』
平和な時間――――――
「なあクィリナス。知り合ったばっかでこんな頼みをするのは気が引けるんだが……金貸してくれないか?」
「本当に会ったばかりの私によくそんな頼み事が出来ましたね!」
「そんな怖い顔すんなって。お前にしか頼めねぇんだよ」
酔っ払っているのかいないのか、クィリナスの肩に手を回して絡むシリウス。
クリスマス・イブの夜11時。
ホグワーツ城から一羽のフクロウが飛び立っていく。
「ハリー喜ぶだろうな」
『箒買えて良かったね、シリウス』
「ふん。私に感謝しなさい」
12時の鐘が鳴り響き、3人は再びグラスを合わせた。