第4章 攻める狼
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13.元通り
学期が終わる2週間前、城の中はクリスマス・ムードに包まれていた。
今日は学期最後の週末。ホグズミードに行く生徒たちはワイワイとおしゃべりしながら私の前に列を作っていた。
『許可証を見せて。オーケー。楽しんできて。次の人』
生徒たちを送り出して、私はふーっと息をつく。
『若い子達は元気だなぁ』
「何を言っていますか。あなただって十分若いでしょうに。それに、元気かどうかで言ったらユキは生徒に負けませんよ」
振り向いた先にいたミネルバに笑いながら言われてしまう。
今日のホグズミードは先生たちの忘年会になっていた。
残念ながらリーマスは城に残る当番にあたってしまっているし、ダンブーも用事があるから来られないが、セブは来ていた。
「さあ、ここにいては凍えてしまいますし出発しましょうか」
ミネルバに促されて私たちはホグズミード村へと歩き出す。
『セブがこういうの参加するって珍しいよね』
「我輩がいては悪いかね」
『もう。そういう意味じゃないってば。セブが来てくれて嬉しいって思っているよ』
そう言うと、セブは「寒いな」と言いながら鼻が隠れるまでマフラーを上に引っ張り上げた。
『ふふ』
「なんだ?」
『べっつにー』
実はこの仕草、学生の頃からのセブが照れた時に見せる仕草なのだ。
昔と変わっていないな、と私はニヤニヤしながらセブの隣をホグズミード村に向かって歩いていく。
「おや、ホグワーツの先生方みなさんお揃いで」
もうすぐ三本の箒につくというところで私たちは声をかけられた。
『どなた?』
「魔法省大臣だ」
セブにこそっと聞くとこそっと返事が返ってくる。
ふうん、魔法省大臣か……。
なんとなく苦手意識を感じるのは私が権力者が嫌いだからだ。
それでも私は私の方へとやってきた大臣ににこりと笑みを作ってみせる。
「もしかしてもしかすると、あなたが噂の忍術学教師のユキ・雪野先生かな?」
『はい、そうです、大臣。その噂というのが良いものであるといいのですけれど……』
「もちろん良い噂だよ。忍術学は魔法省でも評判がいい」
私はほっとしながら大臣と握手する。
「良かったら私もご一緒させて頂いてもよろしいかな?」
「もちろんですよ、大臣」
魔法大臣の誘いを断れるはずがない。ミネルバが二つ返事で承諾した。
三本の箒へと入った私たちはクリスマス・ツリー近くのテーブルに腰をかける。
あら、ハーマイオニーとロンがいるわ。と2人を見つけて彼らに微笑んだ私は視線を下にしてぎょっとした。テーブルの下にハリーが隠れていたからだ。ハリーったらどうしてここに!?
「ユキ、何を飲むか決めたか?」
『え、あ、うん。まだ』
セブに話しかけられて心臓が跳ねる。
ここでハリーが見つかったら大変だ。と思っていたら後ろのクリスマス・ツリーが動く気配。
どうやら見つからないようにツリーの位置を変えたらしい。
これで少しは安心だけれど……はあぁ。自分のことじゃないのに胸がドキドキだ。
『甘いお酒がいいな』
「酒はやめておけ。この前のようになったら手に負えない」
『今日は加減して飲むから大丈夫。ね、セブ。甘めのお酒で私が好きそうなの選んでくれない?』
「それならこれはどうだ?ワット・イズ・ラブ……オレンジ風味の甘酸っぱいカクテルだ。濃いピンクの水色が綺麗なカクテルだぞ」
『それにするわ。マダム・ロスメルタ、ワット・イズ・ラブをお願いします』
曲線美が美しいマダム・ロスメルタの後ろ姿が遠ざかっていく。
『ねえ、セブ』
「なんだ?」
『男の人ってああいうボンキュッボンが好きなんでしょ?』
「いきなり何を言うんだお前は」
『いきなりじゃないわよ。マダム・ロスメルタを見て思ったんだもの』
「それでもそういうことを口に出すな」
『そういうことって?』
「喧しい。自分で考えろ」
『えーー……(わからん)』
そうこうするうちにマダム・ロスメルタが戻ってきた。それぞれに注文したお酒を受け取って宙に掲げる。
「それでは今学期もお疲れ様。乾杯」
『「「「「乾杯」」」」』
ミネルバの声に合わせて唱和する。
ワット・イズ・ラブは甘酸っぱい恋の味。
美味しくて思わず『ん~~』と声を上げてしまう。
『とっても美味しい!』
「そうか、良かったな」
セブが私の方を見て目を細めて笑った。
ドキッと心臓が跳ねる。
カッコイイよね、セブって……
そんなことを思った私の頬はポンと赤くなる。
私は火照りを覚ますようにワット・イズ・ラブをぐいっと傾ける。
「おい、落ち着いて飲め。飲みやすいが意外とアルコール度数は高い。気をつけろ」
あぁ、胸がドキドキする。
これは一気にお酒を飲み干したせいだろうか。ううん。違うよね。
ぽーっとなりながらセブの横顔を見つめる私。
「マダム・ロスメルタ。君もこっちに来て一緒に飲まないか?」
幸せな気分でセブの横顔を眺めているとファッジ大臣がテーブルの横を通ったマダム・ロスメルタに声をかけた。
「まあ、光栄ですわ、大臣」
ピカピカのハイヒールを履いたマダム・ロスメルタが自分のお酒を持って私たちのテーブルへとやってくる。
「それで大臣、どうしてこんな片田舎にまでお出ましになりましたの?」
マダム・ロスメルタが聞いた。
大臣はマダム・ロスメルタの質問を受けて誰か立ち聞きしていないかチェックする様子で椅子の上で体を捩ってあたりを見渡し、低い声で言う。
「ほかでもない、シリウス・ブラックの件だ。ハロウィンの日に学校で何が起こったかマダムも聞いているだろう?」
「聞いていますわ。それにディメンターが店を2度も探し回りに来てお客様を怯えさせたのはご存知?商売あがったりですのよ」
「ロスメルタのママさん。私だってあいつらが好きなわけではないのだよ。ただ安全のためには必要だからして……」
大臣がバツが悪そうにモゴモゴ言った。
「つい先ほどダンブルドア校長にあったよ。校長はディメンターに対して猛烈に怒っていてね。城の校内に連中を入れたがらない」
「そうすべきですわ!」
カンッとカクテルグラスをテーブルに叩くように置きながらミネルバが叫ぶ。
「あんな恐ろしいものに周りをウロウロされては、教育が出来ませんでしょう?」
『それに大臣。あいつらは命令に忠実ではない。敷地内に入るなと言われていたのに入り、生徒を襲おうとした。私はあいつらを信用していません』
「確かにそのことに関しては私もまずいと思っているよ。だが、あいつらはシリウス・ブラックを見つけるのに必死だからして……それに、君に関して言えば、ディメンターを消滅させているらしいじゃないか。困るよ。そういった勝手をしてもらっちゃあ」
「話をすり替えないでください、大臣。それに、私はユキがディメンターを消滅させてくれて清々しているとハッキリ言うことができますわ」
ミネルバが眉を上げながら大臣に言う。
ピリピリし始めた空気を破ったのはマダム・ロスメルタだ。
「でも、私はまだ信じられないのですわ」と話を変える。
「どんな人が闇側に加担しようと、シリウス・ブラックだけはそうならないと私は思っていました」
私もそうだ。そして、実際にそうである。
私が複雑な気持ちで黙っていると、「君は話の半分しか知らないんだよ」とぶっきらぼうに大臣が言った。
「ジェームズ・ポッター、ハリー・ポッターの父親だ。彼はシリウス・ブラックと親友で、よく問題を起こしていたが非常に賢かった」
「ええ、おっしゃるとおり。彼らは優秀な魔法使いでしたわ」
ミネルバが複雑な面持ちで静かに頷いた。
ハグリッドもフリットウィック教授も同じだった。
セブは小さく舌打ちをした。
「あんなに手を焼かされた2人組はいなかったわ……」
「そりゃあ分からねぇですぞ、マクゴナガル教授。フレッドとジョージにかかっちゃ互角の勝負かもしれねぇ」
ハグリットの言葉に悲しそうに笑うミネルバを見て胸が痛くなる。
「卒業後も彼らは兄弟のように付き合い、ブラックはジェームズがリリーと結婚した時の新郎の付き添い役を務めた。2人はブラックをハリーの名付け親にしたんだ。それなのに、ヤツは、親友を、裏切って、殺した!」
興奮したのかファッジ大臣がテーブルを拳で叩き、グラスがカタカタと揺れた。
私は気づかれぬようにギュッと唇を噛む。
ハリーは今の会話を聞いてしまっているだろう。今、どんなに辛い思いをしていることか……。
何か話題を変えよう。そう考えて口を開いたのだが、マダム・ロスメルタの方が早かった。
「ブラックの正体は例のあの人の一味だったという事ですの?」
「ポッター夫妻は例のあの人に付け狙われていた。身を隠したが例のあの人から逃げるのは至難の業だ。よって、ダンブルドアは忠誠の術が一番助かる可能性があると2人に言ったそうだ」
『忠誠の術は確か、生きた人の中に秘密を魔法で封じ込める術でしたよね』
「その通りです、雪野先生。シリウス・ブラックがポッター夫妻の秘密の守人になった」
「シリウス・ブラックは言ってしまったのですね……ポッター夫妻の居場所を、例のあの人に……」
マダム・ロスメルタが口を手で覆ってショックを受けたように呟いた。
「くそったれのアホンダラの裏切り者めがッ」
シンとした中でハグリッドが吠えた。
「落ち着いて、ハグリッド」
ミネルバが諌めるがハグリッドの興奮は収まらない。
自分がポッター夫妻の家からハリーを助け出している時に真っ青な顔でパッドフットがやって来て、震えるパッドフットを自分は慰めたのだと一気に言った。
「あいつはこう言ったんだ。名付け親だからハリーは俺が育てるってな。どうして俺がブラックにハリーを渡さなかったか。それはダンブルドアに言われていたからだ。もしハリーを奴に渡していたらと思うとぞっとする」
ここまで来たらハリーには全て聞かせたほうがいいのではないか。
私は話題を変えるのは諦めて深く椅子に腰をかけた。
チラとセブを見る。セブは大丈夫かな?
横顔からは、セブが何を考えているか分からない。
「……」
『……っ!』
セブの様子を伺っていた私の体が小さくピクリと跳ねる。
膝の上に置いていた手に重ねられた大きな手。
ゴツゴツと節くれだった、しかし長くてしなやかな指が私の指に絡められる。
私はこの真剣な場で笑みを浮かべないように顔を引き締めながらセブの手を握り返す。
セブは私が心を痛めているのではないかと思い、慰めてくれているのだ。優しい彼の気遣いに胸が暖かくなる。
「あぁ、バカな子、間抜けな子!ピーター・ペティグリューは魔法省に任せるべきだったのに自分ひとりでブラックを追い詰めようと向かっていったのよ」
ミネルバは涙声で言ってハンカチで目元を拭った。
「可哀想な英雄ペティグリューは木っ端微塵にブラックに吹き飛ばされたのだよ、マダム・ロスメルタ。ブラックは親友の1人だったピーターに容赦なかった」
私は会話を聞きながらきゅっと唇を結んだ。
あぁ、今ここで『嘘っぱちよ!真犯人はピーター・ペティグリューよ』と叫べたらどんなに楽か。
秘密の守人で、その秘密をヴォルデモートに漏らしたのも、ブラックに大量殺人の罪を着せたのも全てペティグリューなのに!
「……い、おい……」
なかなか見つからない臆病なペティグリュー。
必ず捕まえてやる――――
「折れる……離せ。聞いているのか……?」
それには、今のやり方を変えなくちゃいけないけど……
ねずみ用の罠を使うっていうのはどうだろう……?
「痛たいぞ、ユキ!馬鹿雪野!!」
ドンッと床を蹴るようにしてセブが立ち上がった。
「「「「「あ……」」」」」
ミネルバたちの視線が一点に釘付けになる。
みんなが見ているのは私とセブが指を絡ませて繋いでいる手……
「……あなたたち。ハアァ不謹慎ですよ。学生だったらそれぞれ10点ずつ引いているところです」
「~~~~っ!」
『そんなに怒らないで下さい。セブは私を慰めるために手を繋いできてくれ「頼むから黙ってくれ!!(恥ずかしいだろう馬鹿がっ)」
叫ぶセブ。
何を怒っているのだろう。ミネルバにセブの優しさを説明しようとしただけなのに……。
呆気に取られる私。
こちらを睨むセブ。
私はぽかんとしながら、繋がれている手をにぎにぎと握ったのだった。
***
どうして三本の箒にハリーがいたのだろうか?
ホグズミード行きの次の日、私は自室でこのことを考えていた。
ハリーはパッドフットに襲われることは決してないが、ディメンターに襲われる危険性はあるのだ。ハリーは軽率な行動をしたと言える。
これからも同じようなことがあっては困るわ。ハリーに話に行きましょう。
「どっか行くのか?」
スクッと立ち上がる私に顔だけ私に変化しているパッドフットが尋ねる。
『私の顔で男言葉を使わないでよ。いい?パッドフット。この部屋を出るには見た目だけじゃなく、話し方や仕草も私になりきらなきゃダメなんだからね』
「わーってるよ」
私はポンと煙に包まれて、今度は体だけ私に変わったパッドフットに背を向けて部屋から出ていった。
ハリーはどこにいるだろう?談話室だろうか?と思い本棟の方へと足を向けた私だが、会いたかった人物はタイミングよくあちらからやってきてくれた。
ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人が吹きさらしの廊下を寒そうに身を縮めながらこちらへと歩いてくる。
「ユキ先生!」
「こんにちは、先生」
「寒いですね」
3人は彼らの声に答えない私の顔をきょとんとした顔で見つめている。
ハアァこういうのって嫌よね。
それでも言わないわけにはいかず、私は口を開く。
『あなたたち3人、昨日三本の箒にいたわよね』
3人は同時に息を飲んだ。
「えっと、あの、先生、いたのは私とロンですよね?」
ハーマイオニーの問いかけに私はゆっくりと首を振りハリーを見つめた。
顔を青ざめさせて泣きそうな顔になるハリーに胸が痛むが教師として言わなければならない。
『どうやって三本の箒に行ったの?昨日は私が許可証を確認する当番だったの。あなたの姿は見ていないけど……』
「えっと、そのぅ」
『答えなさい』
ミネルバを意識してピシャリと言うとハリーから返ってきた答えは「透明マントを使った」ということだった。
「ごめんなさい、ユキ先生。でも僕、どうしてもみんなと一緒にホグズミードに行きたくて、それで……あの、僕……」
泣きそうになってしまっているハリーの頭に手を置き、私は彼の頭をワシワシと撫でた。
昨日パッドフットの話を聞いて心を痛めているのだ。これ以上彼の辛そうな顔は見ていたくなかった。
『辛い話を聞いたね……』
ハリーはハッとして顔を上げた。
「ユキ先生はあの話、知っていたんですか?」
私は嘘をつかずコクリと首を縦に振る。
「っどうして!どうして僕にその事を教えてくれなかったんですか!?僕の名前は殺人鬼に付けられたものだったなんて!父さんは親友に裏切られて死んだって、どうして教えてくれなかったの!?」
私は何とも言うことが出来ず、唇を噛んだ。
「僕はブラックが野放しになっているのが許せない」
「「ハリー!」」
ロンとハーマイオニーが叫んだ。
「ユキ先生、ハリーを諭してくれませんか?ハリーったら自分でシリウス・ブラックを捕まえる気なんです」
「ブラックは狂ってる危険人物だっていくら言っても諦めてくれないんです!復讐するって聞かなくて」
『ハリー……』
私はハリーの視線に合わせるように少し膝を折った。
『2人の親友の言うことを聞くべきだよ。ブラックのことを君は知らなすぎる』
「僕の両親を殺した。それだけで充分でしょう?」
『十分じゃないよ。それに誰かを殺すなんて軽々しく考えちゃダメ。殺しはとても……色々な意味で重い事なんだ』
「そんなの分かっています!でも、でも!僕はシリウス・ブラックを許すことができない。あいつのせいで、僕の両親は死んじゃって、あいつが裏切らなかったら、僕は今ごろ……」
私は堪らずハリーをぎゅっと抱きしめた。
1歳の時に両親を失ったハリー。その悲しみは計り知れない。だから、パッドフットに復讐したいという気持ちが起こるのも分からなくもない。
だが、実際はパッドフットではなく、ペティグリューが犯人なのだ。
真犯人を間違えて復讐する。もしも、腕の立つものでその復讐を成し遂げてしまった時、その時、何を思うだろう?
ハリーは無実の人を殺した殺人者になってしまうのだ。
人を殺めるとはどういう事か、ハリーにはよく考えて貰いたいと思う。
『ハリー、あなたの痛いほどの気持ちは伝わったわ。でもね、もう少し冷静になりましょう。実はね、私はブラックが犯人かどうか疑っているのよ』
「っ!?!?」
『それは何故か……それはね、聞いた話によるとブラックが殺したとされるペティグリューの遺体は小指しか見つからなかったこと。そしてブラック本人が無実を主張していることが理由よ。魔法省はロクにブラックの話を聞かず牢獄に入れたとか……』
「そんなの理由にならない!」
『私は過去に行ってブラックを知っているわ。ジェームズと仲良かったのも知っている。私はブラックが犯人だとは思えない。だから私は、その証拠を掴みたい』
「ユキ先生を見損なったよ!!」
叫んだハリーが走っていく。
私はこの時を待っていた。両手を合わせて印を組み、術を唱える。
そして私は中庭を走り、廊下を走っていくハリーの前へと躍り出た。
ハリーの顔が驚愕に変わる。
それはそうだ。目の前に憎き殺人鬼、シリウス・ブラックが現れたのだから。
『探したぜ、ハリー』
ハリーはローブのポケットから杖を取り出そうとするが出来ない。手が震えてしまっているのだ。
一歩一歩と私に近づかれ、後ずさるハリーは足を捻って後ろにドンと尻餅をついた。
私はハリーの前まで来てしゃがみ、変化を解く。
『人を殺めるとき。それはやるかやられるかの時。ハリー、あなたは経験も技も、それに覚悟も足りなさすぎる。ブラック討伐は私たちに任せなさい。中途半端な覚悟は、死を招くだけよ』
ちょっと刺激が強すぎたと思うし、キツく言いすぎなのは自覚している。だが、これくらいが丁度良いとも思った。これは全て、本当のことだから。
『ハリーをよろしく頼むわね』
ロンとハーマイオニーにお願いして、私は自室へと戻っていく。
『ただいま』
「早かったな」
『うん……』
「何かあったか」
『あった』
「……」
『…………』
「なあ、ユキ。俺ってそんなに頼りねぇか?」
ソファーに座ってぼーっと天井を眺めているとパッドフットにそう声をかけられる。
『頼りないことはないけど。頼れるとも……』
「正直だなッ」
『ごめん』
「ハンっ。まあいいさ」
パッドフットが私の横にどかりと座った。
「無理強いはしない。だが俺はいつも、お前の力になれたらって思っているんだ」
私は、私の目を真っ直ぐに見つめるパッドフッドの目を見た。
「今世話になっているからって理由だけじゃないぞ。俺は大事な友人のために……その……好きな、奴の、ええと」
『なあに?』
「あーー!だからっ。お前のことを大切に想っているから、お前が困っていたら力になりたいって思うんだよ!」
ダンっと立ち上がったパッドフットを見上げる。
じんわりと温かくなっていく胸の中。
『じゃあ、話聞いてくれるかな?』
気づけば私はこんな事を言っていた。
「あぁ!」
途端に顔を輝かせるパッドフット
彼にハリーの事を話したのはいいけれど……
「ハリーーーーー!!ハリー!!誤解だっ。俺はやってねぇっ!クソっ。しかも俺に化けてって何やってんだよお前は!」
『うるさーーーいっ。話聞くって言ったんだから静かに受け入れてよっ』
「受け入れられるわけねぇだろこんな話題!ってかお前ハリーにやりすぎだろう!俺のこと嫌いになったらお前のせいだからな!」
『話聞いてたの?既にガッツリ嫌われているのよ?』
「それを言うんじゃねーーー!!」
パッドフットが杖を振った。
よし、いいだろう。相手になってやる。
『木ノ葉旋風』
「変わり身の術」
『な、なんですって!?!?』
私のケリは木の椅子に入って、椅子は粉々に砕けた。
パッドフットがまさか忍術を使用してくると思わず、私は一瞬ポカンとしてしまう。
「いくぜ、ユキ!」
背後に気配
「わっと!?!?」
『わわっ!?』
後ろに気配を感じて振り向きざまに足払いをかけたら体勢が悪かったらしく私まで一緒に床に倒れ込んでしまった。くっ……不覚!
ゴチンと顔に衝撃を感じて目を開けると……
「っ!?」
『!?!?』
「わ、悪ぃっ!」
『ご、ごめん!!』
パッドフットと唇が重なってしまっていた。
飛び退くようにパッドフットの上から降りて後ろ手に床に手を付く私。
起き上がったパッドフットと視線が交わり―――――――
「ぷっ」
『あは、あはははは』
私たちは同時に笑い出していた。
床に仰向けに倒れる私は、しばらく笑った後、口を開く。
『早く誤解が解けたらいいね』
「あぁ」
時には辛いこともしなければならない。
胸の痛くなることもしなければならない。
でも、信じよう。きっと全てが明るみに出て皆で笑い合える日が来ると―――――
『このまま忍術の練習しようか、シリウス』
「っ!?―――――あぁ!」
若き日のように大声を出して笑いあった二人。
頑なだったユキの心は解れ、ユキはいつの間にか“シリウス”と昔の呼び名で大事な友の名を呼んでいた。
┈┈┈┈┈後書き┈┈┈┈┈┈┈
ワット・イズ・ラブは「愛ってなんだろう」という名前のカクテル。
セブルスは「運命」のカクテル言葉を持つホーセズ・ネックを飲んでいました。