第4章 攻める狼
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10.アズカバンの囚人 後編
「なあ、ユキ。何でもいいから服ねぇか」
『あるわよ』
バスタオル1枚を腰に巻いて浴室から出てきたブラックにクィリナスのタンスから勝手に拝借した服を渡す。
「これ、誰のだ?」
『その説明は後回し。先にもう一度食事をしましょう』
逃亡生活を送っていたからまともな食事にありつけていないだろう。
固形物を食べさせるのは暫くよしたほうがいい。食事は少量を数度に分けて食べる必要がある。
私は先ほどと同じようなスープをシリウスに差し出した。
「チキンが食いてぇ」
『胃を痛めるわよ』
「それでも食いたいんだ」
『胃が元に戻ったらいくらでも作ってあげるわ。今はこれで我慢して。さあ』
シリウスを促してスープを飲ませる。
すぐに飲み干してしまった。嬉しいが胃への負担が心配だ。
「おかわり」
『もうダメよ。一度に多く食べたら胃が悲鳴を上げるわよ。痛い思いをしたくないでしょう?』
「痛い思いをしても食いてぇ。久しぶりなんだ、こんなまともな食事」
『逃亡中は何を食べていたの?』
「ゴミ置き場のゴミを漁ったり、禁じられた森でネズミを捕まえて食ったりしてた」
『ネズミか……よく捕まえられたわね。すごいわ』
「気持ち悪がられるこそすれ褒められるとは思わなかったぜ……」
『???』
空になったスープ皿を受け取り、何故か呆れた表情のブラックにベッドに横になるように促して、私は彼の枕付近に椅子を持って行って座った。
「なあ、そろそろ話してくれないか?分からないことだらけの今の状況は落ち着かない」
『そうね。話しましょう。さて、なにから話したらいいか……』
私はまず忍の説明から入ることにした。元の世界での職業と魔法界に来た経緯を話し、リドルのせいで過去に飛ばされたことを話す。
「やっぱりお前、魔法族じゃなかったんだな。これで納得だ」
ニッと笑ってブラックが言った。
「それから、2段ベッドのわけは……?」
『あぁ。それも説明しないとね』
何故か恐る恐るといった感じで聞くブラックに私はクィリナスのことを簡単に話す。
ブラックはここに暫く滞在するだろうからクィリナスと顔を合わせることになるだろう。
クィリナスの話をしているうちに、ブラックの顔が次第に険しくなっていく。
「お前……ハリーの命を狙った奴を匿っているのか?しかも男だと!?!?」
『ダンブルドア校長も公認よ』
「だからといって……!!しかも男だぞ!?」
『変な関係じゃないわよ。それに、私が命を助けたんだもの。その責任は取らなくっちゃ。今の彼は決してハリーを狙うような人じゃない。ヴォルデモートへの忠誠心も全くない。むしろ、ヴォルデモートを倒すために危険な任務についてくれているの』
あなたが理解してくれなくても彼はここに置く。と宣言しておく。
「それにしたってお前、男と同棲していたなんて……」
『何をそんなにこだわっているの?同棲というなら今日からあなたも私と同棲するでしょうに』
そう言うと、何故かブラックの表情が明るくなった。
何故だろう?
兎に角ブラックは、それきり何も言わなくなった。
『体が大丈夫そうなら、もう少し話を続けてもいいかしら?』
ブラックが頷いたので話を続ける。
安全面について説明しておきたかったからだ。
この部屋には私の家並みとはいかないが、私の術とクィリナスの魔法が施されている。
『廊下から部屋に入る扉にはさっきみてもらった通り忍術で施錠をしてあるわ。それからリビングから各部屋に繋がる扉には忍術と魔法の両方で施錠をしてある』
「頑丈な施錠だな」
『クィリナスは死んだことになっているから万が一にでも姿を見られたら困るからね。それから、この部屋には結界が張ってあるの』
外部からの攻撃に備えてプロテゴの魔法や外から窓が開かないように札を貼ってある。
『それに忍びの地図のような魔法具に見つからないように術をこの部屋にかけてあるわ。ねぇ、シリ、ブラック。忍びの地図って作れない?ちゃんと術が効いているか確かめたいのだけど……』
「今シリウスって言いかけたろ」
『煩いわっ』
目をキラキラさせるシリウスを軽く睨みながら質問に答えるよう促す。
忍びの地図を知ったのは過去だったから、それに対応する術をこの部屋にかけたのは過去からこちらへ戻ってきてからだった。
それから今まで私もクィリナスも忙しく時間がなかったため、忍びの地図のような魔法具を作る時間がなかったのだ。
「あれはジェームズとリーマスの力が大きかったからな。俺一人で作れるかどうか……だが、やってみよう。万が一、忍びの地図のような物を学校の誰かが持っていたら大変だからな」
『あなたたちが作ったものはどこへいったの?』
「それが……実は、フィルチに没収されちまったんだ。学生の時に」
『げっ。それじゃあこの学校内にあるってことじゃない』
「だが心配ない。フィルチはスクイブだ」
『スクイブってなんだっけ?』
「スクイブってのは魔法族で魔法を使えない奴らのことを言うんだ」
『そうなんだ。だけどやっぱり、学校内にあるっていうのはまずいわよ。あ、でも逆に、探せば見つかるかもしれないってことか』
フィルチさんの部屋にある忍びの地図を盗めばブラックに新たに忍びの地図を作ってもらわずに済む。
私はさっそく影分身を作ってフィルチさんの部屋に忍び込むように命令した。
「便利だな」
『えぇ。とても便利よ。さあ、あなたはもうひと眠りしたほうがいいわね』
時計を見ると真夜中を過ぎたところ。
ブラックは弱っているから私のベッド、2段ベッドの下に寝ていた。
クィリナスが帰ってくる前にベッドをもう1つ増やさなくちゃね。
「なあ、ユキ」
『雪野!』
「雪野……」
『なに?』
「これ、夢じゃないよな?」
『夢?』
突然何を言っているのだろうと首をかしげていると、ブラックはあまりにも牢獄での生活が長かったせいか、今のこの状況が現実なのか信じられない。と私に言った。
その気持ちは分からなくはない。私も暗部をやめたばかりの頃は平和な生活が信じられず、暗部の任務についている夢を見ては飛び起きたりしていた。
きっとブラックも同じように熟睡できない日が続くわね……
精神的に追い詰められていたブラック。暫くは本当に安心な場所にいるのか実感が沸かず、緊張して日々を過ごすことになるだろう。
私はブラックに現実を感じてもらえるようにそっと彼の手に自分の手を重ねる。
「ユキ……」
『雪野、よ』
「どっちだっていいじゃねぇか」
『朝起きるまでずっとここにいて、こうしているわ。だから、安心して眠って。私はさっきも話した通り戦闘に長けた武闘派なの。あなたの安全は保証するわ』
「悪いな。世話になる……ユキ」
ユキと呼ばれて眉を上げる私をフッと笑い、ブラックは瞳を閉じた。
眠りを誘うようにトントンとブラックの手の上で指を動かしていると暫くして規則正しい寝息が聞こえてきた。
ぐっすりと眠っているように見えたブラックだが、私が影分身を見回りに行かせた深夜2時頃からうなされ始める。
「う……くっ……や、やめろ……」
夢を見て、苦しげな声を上げるブラックの額の汗を拭う。
「ジェームズ……許してくれ……くそ……なんでピーターが……」
夢を見て、涙を流すブラックの目元を優しく拭う。
「めろ、来るなっうわっあああああああぁぁぁっ」
『ブラック、ブラック、シリウス!!』
ブラックが跳ね起きた。
「ユキ……ユキっ」
『ここよ。ここにいるわ』
怖い夢を見たらしくガタガタ震えているブラックの腕に触れるとガバリと抱きすくめられた。
『あ、水こぼしちゃった』
ブラックに差し出そうと持っていたコップの水が溢れて床に染みを作る。
「俺、俺は……ちゃんとココにいるよな。これ、夢じゃねぇよな」
精神的に相当参っているわね……
私は手を伸ばしてコップをベッドサイドのチェストの上に置き、私を抱きしめているブラックを抱きしめ返す。
『えぇ。夢じゃないわ』
私の肩に顔をうずめるブラックの後頭部に手を回し、彼の頭を撫でる。
暫く撫でていると、ブラックの震えがようやく落ち着いてきた。
「ユキ?」
『ん?』
「このまま。俺が寝るまで、このままでいてくれ」
『このままでとは?』と聞く前に私の体はブラックとともにベッドへと倒れていった。
私の体をぎゅうぎゅう抱きしめるブラックからは、抑えたすすり泣きが聞こえてくる。
「ユキ……」
『ここにいるわ。どこにもいかない。あなたも、どこにも行かせはしない』
私の言葉を聞いて、私を抱きしめる手をふっと緩めるブラック。
私はブラックを落ち着かせるように、彼の背中を撫でた。
ピチチチチ
熟睡には程遠いわね。
朝になり、窓の外で鳴く小鳥の声を聞きながら私は小さくため息をついた。
ブラックは一晩中うなされっぱなしだった。
彼の精神力と体力の回復のために生ける屍の水薬を飲ませたほうがいいかもしれない。
「うっ……」
『目を覚ました?』
「あぁ……ユキ、約束通りいてくれたんだな。苦しくなかったか?」
『苦しくなかったわ。あなたの方はどう?』
私はブラックに抱きしめられたまま顔を上げて尋ねる。
「悪くないが、少し疲労感がある……」
『一晩中うなされていたからね』
「今何時だ?」
『5時よ』
6時になれば早起きの生徒たちが起き出してくる時刻だ。
『今日の朝はグリフィンドールのクィディッチ選手たちの練習を見る約束をしているの』
「クィディッチか。懐かしいな」
今日の朝の練習はなくなる可能性大だったので、私はミネルバのもとに確認させるための影分身を送った。
『そうだわ。グリフィンドールのシーカーはハリーが務めているのよ』
「本当か!?」
未だにブラックに抱きしめられていて顔は見えなかったが、ブラックの声は嬉しそうに跳ねた。
『ふふ、自分のことのように喜ぶのね』
「もちろんさ。俺はハリーの名付け親だからな」
『名付け親って?』
「ユキの国にはない風習なのかもな。名付け親ってのは――――――
ブラックが説明してくれる。
名付け親とは、ただ名前をつけるだけではなく、その子供の一生に対して公的に、経済的に、精神的にその人の責任を持つそうだ。
要は代理の父ということらしい。
『早く全てを明らかにさせてハリーと会いたいわね』
「あぁ!」
ここでようやくブラックは自分の腕から私を開放した。
上体を起こして一晩中抱きしめられていた体をぐーっと伸ばす。
『お腹減ったでしょう。何か作ってくるわね』
キュルルルル
「うわっ」
私の言葉に返事をするようにブラックのお腹が鳴った。
『急いで作ってくるわ』
クスクス笑いながら私はベッドを出てキッチンへと向かう。
胃に負担が掛からないように今日も野菜を細かく切って入れたスープを作っているとミネルバのところに使いにやった影分身が帰ってきた。
やはり、クィディッチの練習は暫くの間禁止だそうだ。
『クィディッチの練習暫く禁止なんですって。だから、授業が始まるぎりぎりまで一緒にいるわ』
「俺のせいで悪いな……」
『気にしなくていいわよ。さあ、スープ飲んで元気出して』
私からスープを受け取るブラック。
私はスープを飲み終えてからブラックに気を送り、彼に兵糧丸を食べさせる。
「そういや、リーマスはホグワーツの先生になったのか?」
『闇の魔術に対する防衛術の先生よ』
「そうか!」
ブラックは嬉しそうに顔を綻ばせた。だが、すぐにその表情を変える。
『どうしたの?』
「ユキ、お前はリーマスのことどう思う」
『どう思うって?』
「あいつはハリーの味方だよな?俺たちの敵じゃないよな?」
『リーマスが闇の者と通じているかもと疑っているの?』
「そうは言いたくねぇが……」
『リーマスはあなたに事情を聞きたいって言っていたわ』
「リーマスが?そうか……」
心の中でリーマスはブラックが大量殺人を犯したと認められないでいるのだ。
心のどこかでブラックの無実を信じているのだろう。
ブラックもそう思ってか先程より表情が明るくなっている。
『でも、そうね……私もここ十数年のリーマスは知らないわ。念のため、注意深く見ておくわね』
「あぁ。ありがとな」
ブラックが礼を言ったのと同時にフィルチさんの部屋に行かせた影分身が戻ってきた。
『収獲は?』
影分身は残念そうに首を横に振る。
『十数年前のものだから期待はしていなかったけど、残念ね』
「これから時間はありそうだ。俺がどうにか作って見せるさ」
『私も協力するわ。それから、戻ってきたらクィリナスも協力してくれるはず。あの人、魔法具作りが得意だから』
時計を見る。6時になるところだ。
『もうひと眠りしたらいいわ』
「そうだな」
『おやすみ、ブラック』
「そのブラックってのはやめてくれ。苗字で呼ばれるの嫌いなんだ。せめてパッドフットにしてくれ」
『分かったわパッドフット』
もう一度おやすみを言い、パッドフットが応え、パッドフットは眠りの中に入っていった。
7時を回った。いつも私が朝食に向かう時刻だ。
大広間に入ると生徒たちは自寮へと戻っており、大広間の机には朝食が用意されていて、大広間から昨日の緊張感は消えていた。
大広間の前ですれ違ったマダム・ポンフリーに生ける屍の水薬を所望したが、あいにく在庫が切れていてセブに作ってもらっていると言われた。
マダム・ポンフリーから生ける屍の水薬は直接セブからもらうようにと言われてしまう。ハアアァ
気が重い……
セブが私に対する態度が冷たくて、彼に話しかけるのが怖い。
冷たい視線で見られると、凄く物哀しくて辛い気持ちになるのだ。
そんなことを考えながらお皿の上のグリンピースをつついているとセブが大広間に入ってきた。
深く深く呼吸を繰り返し、いつもの笑みと声を心がけながらセブに話しかける。
『おはよう、セブ』
「あぁ」
そ、素っ気ない!!
ニコリとも笑わなかったセブを前に心が折れそうだ。(普段からよく笑う方ではないけれど……)
それでも、私は出来るだけ自分の中のテンションを上げてセブに話しかける。
『い、生ける屍の水薬をセブがマダム・ポンフリーから頼まれて作っていると聞いたの。少し、分けてくれないかしら?』
「また眠れなくなっているのか?」
『うん!』
「!?」
心配されたのが嬉しくて思わず元気よく返事をしてしまった私を不審そうな顔で見るセブ。
さっきの冷たい視線よりはましかな……たぶん……。
「朝食が終わったら一緒に我輩の部屋に来い」
『わかった』
私は食事を再開し、朝食が終わってからセブと一緒に地下へと降りていった。
「そこで待っていろ」
私室の前でぴしゃりと言われてしまう。
『私も中に入っちゃダメ?寒いわ、ココ』
「男の部屋に無用意に入るものではない」
ショックを受けている間に無常にも扉はパタンとしまってしまった。
私は廊下で一人立ち尽くす。
やだ、泣きそう……
鼻が痛くなり、視界がじわりと歪む。
セブに見られないうちに涙を抑えなきゃ。
だが、ハンカチで目頭を押さえている最中にセブが扉を開けて出てきてしまった。
しまったという顔の私と驚いた様子のセブは顔を合わせる。
見られちゃった……
凄く気まずい。
俯く私の視界に、ずいと水薬の入った小瓶が入ってくる。
顔を上げるとセブは驚いた様子の顔から不機嫌な顔に変わっていた。彼の顔を見つめていると、
「受け取ってさっさと自室に戻りたまえ」
と、冷たい言葉を投げつけられてしまう。
グサッと心臓に刺さる言葉の刃。しかし、私はさっきのように落ち込みはしなかった。泣きもしなかった。
逆に理不尽な冷たさに、心にむくむくと怒りが沸いてくる。
そうよ!理由もなしにどうしてこんなに私に対してだけ冷たくなっちゃったわけ!?理不尽だ!
涙が引っ込み、かわりにぶくーっと頬が膨らんでいく。
「何をしている。さっさと失せろ」
『いやよ』
私は腕を組んでセブを睨みつけた。私が何をしたって言うのよ!
「まだ何か用があるのか?」
『大ありだわ』
「それなら早く言いたまえ」
『そ、それじゃあ言うけど、最近のセブ、どうして私に冷たいわけ!?』
「……用とはそれか?」
「そ、そうよ」
扉が閉まりそうになった。
足をすべり込ませる。
『痛ったああい』
「その足をどけろ、バカめっ」
『質問に答えたらどけてあげるわよっ』
「そんなどうでもいい事に時間を割く余裕は我輩にはない!」
『どーでもいいってどういう意味よ!こっちは真剣なのよっ』
扉を閉めようとするセブ。扉を開けようとする私。セブが杖を取り出したのが見えた。
いいわ。やってやろうじゃない。
片手で扉を閉めようとするセブに対して私は両手。
チャクラを両手に集めて思い切り引っ張ると扉は私の方に勢いよく開いた。
セブが放ってきた呪文を避ける。
私はセブに飛びかかった。
『どりゃっ』
「何をするっ―――――ッ!」
どしーんと重なり合いながら私たちは床に倒れた。
私はセブの両手を上に上げさせて自分の手で床に押さえつけ、セブのことをキッ見下ろした。
「離せ」
『逃がさないわ』
「離せと言っているッ」
『答えを聞くまで離さない!っきゃあ』
セブが私の足に自分の足を絡ませて私たちの体の上下を逆転させた。
今度は逆に私が手を床に押し付けられてセブに見下ろされる形になる。
「ルーピンは、ハァ、ハァ、助けには、こんぞ」
『はあ??』
いきなり何を言い出すのか。説明を求めようとした私だったが、唇が塞がれる。
『んっ……』
頭が真っ白になる。
口の中に滑らかに滑り込んできたセブの舌が私の舌を追い、追いつき、情熱的に私の舌をからめる。
荒々しいキスと、セブの匂い、男らしく逞しく、薬材の香りの混ざった麻薬のように官能的な香りが私の脳を痺れさせる。
何も考えられない……
抵抗しなくなった私の両手が解放される。
気が遠くなりそうになり、私は思わずセブの背中に手を回した。
体の中心から何かが沸き上がってくるこの初めての感覚に私は恐れを抱いていたが、キスを拒むことは出来なかった。
甘く心地いい――――そして少し怖い、この体の痺れ。
「ユキ、お前は馬鹿だ」
馬鹿にされたが先ほどのように威勢良く私はセブに反抗できなかった。
セブが私から唇を離した時、私は息を弾ませ、小刻みに震えていたからだ。
ただ、セブの瞳を金縛りの術にかかったように真っ直ぐに見つめ続ける。
「ルーピンに、お前を渡したくない」
セブに頬を触れられて私の体がビクッと痙攣した。
それにも構わずセブは私の頬に手を添えて、2回目のくちづけを落とす。
『セブ……いけない……』
「なにがだ?」
『だってセブは、リリーが好きなんでしょう……?』
震えた声でやっと言った私の顔をまじまじと見たセブは呆れたようにふっと笑う。
「何年前の話を言っているんだ、お前は」
体の奥がビリリと震える。
耳にかかる吐息。
「我輩が愛しているのは、お前だ、ユキ」
カーっと熱くなっていく身体。
突然の告白に再び真っ白になる頭。
「ルーピンと付き合っているのか?」
首を無言で横に振る。
「告白されたのか?」
今度は縦に振る。
「ならば覚悟しろ」
『ふあっ』
耳にくちづけされ、私の口から情けない声が漏れる。
クツクツと笑うセブ。
「お前に、我輩を選ばせてやる」
セブルスの宣言に、ユキは顔を真っ赤にしながら口をパクパク動かすしか出来なかったのであった。