第4章 攻める狼
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8.懐かしい風景
終業の鐘が鳴り、私は生徒たちの方に向き直った。
『みなさん、授業の間中よく集中できていましたね。疲れていると思うので昼食で甘いものでも食べて頭を休めてください』
ぐ~~~きゅるるるるるる
「「「「「「「「「「 ぷっアハハハハ!! 」」」」」」」」」」
『か、解散っ』
言い終わった途端にお腹の虫を鳴らした私にどっと笑う生徒たちに授業の終わりを告げる。も~~恥ずかしいっ。
赤くなる顔に片手を当ててハアァと自分に呆れていると、トコトコとスリザリンのデリラ・ミュレーとドラコがやってきた。
「ユキ先生、この箇所が分からないのですが……」
「僕も見ていただきたいところがあって」
『それじゃあまずはデリラから。どこかしら?』
初めは私に良くない印象を持ち、時には可愛い顔が台無しになるくらいに怖い顔で私を睨みつけてくる時期もあったデリラ・ミュレー。
だが、去年私がデリラをバジリスクから守ったのをきっかけに、彼女は私への敵意をなくしてくれたようだった。
今では彼女はハーマイオニーやドラコと並ぶほどに忍術学を頑張ってくれている。
そんな彼女の質問に答えていたところ、人の気配を感じ、私は顔を上げて教室の入口に視線を向けた。
ドラコとデリラもそんな私の様子に気づき、入口の方に視線を向ける。
「ごめん。そっと入るつもりだったんだけどそうはいかないみたいだね。さすが忍術学のクラスだ」
『いらっしゃい。少し待っていてくれる?』
教室に入ってきたのはリーマスだった。
ん?あら??ええっと……?
これはどういうことかしら?私は急に目元が釣り上がった2人を見て心の中で首をかしげる。
どうして2人共リーマスをそんな目で……あ、そうか。
思い出した。リーマスは授業でボガードのセブを女装させるようにネビルに促したのだったわね。
闇の魔術に対する防衛術は授業が始まってから瞬く間に全生徒の人気の授業になった。
ただ、スリザリン生だけは別。スリザリン生は寮監を馬鹿にされたと怒ってリーマスの粗探しや悪口を言っていた。
『コホンッ。ええと、次はドラコの分からないところを教えてくれるかしら?』
ふたりの意識をリーマスから私に戻して説明に入る。
2人共分からない箇所は今授業でやっていない先のこと。
熱心に勉強してくれていて嬉しくなる。
「ユキ先生ありがとうございます」
「次は外での実技授業ですよね。楽しみにしています」
ドラコとデリラは私に一礼し、出て行く前にリーマスをちらっと見ながら教室から出て行った。
「ずいぶん嫌われちゃったみたいだ」
『セブに女装なんかさせるからよ』
肩をすくめながら言うリーマスに苦笑いで返す。
たしかに、面白かったけど……からゴホンっ。あんな事はしちゃいけないわよね。
『それで?どうしたの?』
「君と話したくてね。迎えに来たんだ。一緒に大広間に行こう。何か片付けとか手伝うことある?」
『ううん。昼休み後もすぐに授業があるからこのままでいいわ。行きましょう』
教室を出て、大広間へと向かう生徒たちに紛れ、私たちも大広間へと歩いていく。
中庭に面した吹きさらしの廊下。今日は日差しが強く、10月だがそれほど寒くない過ごしやすい日だ。
『気持ちのいい日ね』
「そうだね。気候がよくて眠くなっちゃうよ」
『それで、話って?』
「あ、そうそう。次のホグズミード行きの日、10月31日、見回りか何か入っているかい?」
『いいえ。次は入っていないわ』
「良かった。それじゃあさ、ユキ。その日、一緒にホグズミードに行かないかい?その……学生の時に約束したデートを実現させたくて……」
私はリーマスの急なお誘いに思わずその場で足を止めて彼の顔を見上げた。
リーマスの顔が学生時代の彼の顔と重なる。
学生の時の約束とは、私たちが6年生だった時、リーマスが私に告白してくれた時のこと。
恋愛経験ゼロな私は告白されて気を動転させてしまった。
“好き”の種類の認識さえあやふやな私は返事をすることが出来なかった。
それを見てリーマスは、まずはデートをしてみよう、と私をホグズミードに誘ってくれたのだ。
「あの約束は生きているかい?」
『も、もちろん』
私は、自分の顔が赤らんでいくのを感じながら首を縦に振る。
「良かった。楽しみにしているね」
ふにゃりとした優しい笑顔を私に向けてくれるリーマスの頬も少し赤い。
照れくさいような、嬉しいような、私はそんな気分になりながら『私も』とリーマスに返したのだった。
***
10月31日、ハロウィン。
リーマスとのデートの日がやってきた。
リーマスとホグズミードに2人で行くのはこれが初めてではない。
しかし、その時はどちらも幼かったし、友人としてだったので緊張することなどなかった。
緊張するな……。
変なところはないだろうか?
私は自室の鏡の前にもう一度立った。
今日はリーマスとデートということで、グリフィンドールのシンボルカラーである赤地に黒い矢羽根柄の着物。
帯は銀色で私のアニメーガスである狐の帯留を合わせた。
『寒く見えるかな?ケープ着ていこう』
窓から外を覗くと空は鉛色だった。
10月も末だ。きっと冷え込んでいることだろう。
『あ、そう言えば……』
もうすぐ満月じゃなかったかしら。
空を見上げていて思い出した。
調子はどうなのかしら?もうすぐ待ち合わせの時間だし、リーマスの部屋に迎えに行ってみよう。調子が悪いようだったら私の気を送ってあげられる。
ワインレッドのケープを着込み、私は部屋を出てリーマスの部屋へと向かうことにした。
フィルチさんにホグズミード行きの許可証を見せている生徒たちの横を通り、動き出す階段をぴょんぴょん飛んで上がりながらリーマスの部屋へ。
『あら?そこにいるのはハリー?』
廊下の角を曲がり、リーマスの部屋がある廊下に出ると、とぼとぼと歩いているハリーの姿を発見した。
『何をしているの?ロンとハーマイオニーは?』
階下はホグズミード行きの生徒たちで溢れているのにこんなところで一人寂しく何をしているのだろう?
「おや?どうしたんだい?」
私が不思議に思いながらハリーに歩み寄っていると扉が開き、リーマスが部屋から顔を出した。
私たち二人を交互に見て不思議そうな顔をしている。
「ハリーどうしたんだい?ホグズミードには行かないの?」
「あーーその僕は、許可証がなくて、それで……」
ハリーの親代わりとなっているダーズリー家はハリーが魔法使いであることを快く思っておらず、ハリーを冷遇している。
だから、ハリーは許可証をもらえなかったのだ。
とても落ち込んでいる様子のハリー。それはそうだろう、ホグズミードはいつの時代も生徒たちの楽しみだった。
私とリーマスはチラと視線を交わして頷き合う。
「ちょっと中に入らないかい?ちょうど次の授業で使うグリンデローが届いたところなんだ」
『面白そうね。見に行きましょう、ハリー』
私はハリーの背に手を添えて、そっと押して彼にリーマスの部屋に入るように促した。
部屋に入ってすぐのところに今日届いたばかりというグリンデローが入った水槽が置いてあった。
「水魔だよ」
リーマスが言った。
『気味が悪いわね。そう思わない?ハリー』
「そうですね。河童みたい」
『そうね。似ているわね。実物は見たことないけれど』
「それは残念だったね。グリンデローの前は河童をやったんだよ。ユキにも見せてあげれば良かった。2人共、紅茶でいいかい?」
『ありがとう』
「頂きます」
リーマスがヤカンを杖で叩くと、たちまちヤカンから湯気が吹き出した。
「ごめん。ティーパックしかないんだけど……」
『私も紅茶はティーパックが多いわ。顆粒も使う』
「それは良かった。イギリス人は紅茶にこだわる人が多いからね。ティーパックの紅茶は許せないって人がいるんだよ。ユキがそういう人じゃなくて良かった。ハリー方は……お茶の葉はこりごりだろう?」
リーマスがいたずらっぽい目でハリーを見た。
思い出すのは今年度の授業が始まってまもなくのこと。ミネルバが「今年はハリー・ポッターが占い学の被害者になりました」とぷりぷり怒っていたことだ。
占い学では毎年1人、近いうちに死ぬ、と死亡宣告を受けるのが恒例らしい。今年はハリーがその餌食になったというわけだ。
「ハリー、気にしてないよね?」
リーマスが聞いた。
「気にしてま、せん」
どうやら気にしているようだった。
はああぁトレローニー教授ったら、もう!
『トレローニー教授は着任以来、1年に1人は死の予言をしているそうよ。でも、まだ誰も死んでいないって』
「それ、マクゴナガル教授も言っていました」
「でも、死を予言されたら誰だって気分が悪いよね。君の気持ちは分かるよ、ハリー。それでも、誰も死んでいないんだ。気にしちゃダメだ、いいね?」
『そうそう。同僚の悪口を生徒に言っちゃダメだけど、私に対するトレローニー教授の占いは、キャンディ・ブルートパーズの小説のお話通りに変わるんだから』
「キャンディ・ブルートパーズ?」
リーマスが首をかしげる。
『流行りのロマンス小説よ、リーマス。トレローニー先生のお気に入りなの。その主人公の女性の名前が私と同じなのよ』
「そうなんだ!」
明るいハリーの声が部屋に響いた。
ハリーはこの言葉で少し元気を取り戻したようだった。
私とリーマスは明るくなったハリーの表情を見て顔を見合わせて微笑み合う。
ちなみに、キャンディ・ブルートパーズ、もとい、ダンブルドア作のロマンス小説の最新作の新たな登場人物はドラキュラ男。たぶんリーマスをモデルにして(そのまま人狼だったらまずいものね)いる。
ダンブルドアの恋愛小説は、基本的にとある大国の王であるセブ王とその国に婚約者としてやってきたヒロインのユキとの恋愛模様を描いていて、ライバル役として時々闇の魔術に対する防衛術の先生に模した人物が登場させられている。
迷惑極まりない。大変なプライバシーの侵害である。
が、交換条件として私はダンブルドアに部屋にキッチンを作ってもらったし、印税の数パーセントももらっているため、何も言えない……
リーマス、ごめん。何も知らないリーマスから視線を逸らし、百面相をする水魔を眺めていると部屋がノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのはセブだ。
セブは部屋に居た私を見てぎょっとしたように目を大きく開いてから不機嫌な顔になり、さらにハリーを見つけてもっと不機嫌な顔になった。
睨まれたハリーといえば睨んでくるセブを睨み返している。
さすがジェームズの息子。肝が座ってるわ……
「どうもありがとう、セブルス。このデスクに置いていってくれないか?」
「何故お前がここにいる?」
リーマスの言葉を無視して煙の上がる脱狼薬をデスクに置きながらセブが私に言う。
『ちょっとね。ぶらぶら~としてたらハリーを見つけて、そこにリーマスが来て、三人でお茶していたのよ』
「お茶?ポッター、ユキに会う前何をしていたのだね?まさか何か悪巧みをしていたのではあるまいな」
「そんなことしていません。僕はただ……」
「ただ、何かね」
ハリーはセブの視線から目をそらしながら「ホグズミードに行けないから暇つぶしにその辺を歩いていただけです」と悔しそうに答えた。
「そうか……それは残念だったな、ポッター」
全然残念そうに聞こえない。
愉快そうに口角を上げるセブを見て呆れる。まったく!
いくら似ているからといってハリーはジェームズじゃないんだからね!
「ルーピン、直ぐに飲みたまえ」
「分かった。そうするよ」
「ひと鍋分煎じた。もっと必要とあらば……」
「たぶん、明日また少し飲まないと。ありがとう、セブルス」
セブは何か言いたそうに私を見たが、そのまま部屋から出て行った。
「砂糖を入れると効き目がなくなるのが残念だよね。これ、凄く苦いんだ」
『飲む前に味覚消してあげるよ』
「ありがとう、ユキ」
「味覚を消す?そんなこと出来るんですか?」
「ユキは出来ちゃうんだよ。忍術って凄いよね。実は彼女には学生の頃からお世話になっていたんだ」
パチンとハリーにウィンクしながらリーマスが言う。
『さあ、リーマスは薬を飲んじゃはないといけないわ』
「それじゃあ僕は失礼させて頂きます」
空のカップを置いて立ち上がったハリーを部屋の出口まで見送る。
『宴会で会いましょう、ハリー』
「はい、ユキ先生。失礼します」
ハリーは一礼して去っていった。
礼儀正しい子だ、ジェームズと違って……
パタンと扉を閉めて、私はリーマスの方に振り返る。
『具合が悪いんじゃないの?顔色があまり良くないわ。ホグズミード、無理しない方がいいわよ』
「嫌だよ。薬を飲んだら顔色だって戻る。やっと君とホグズミードに行ける機会を得られたんだ。どうしても行きたい」
拗ねるように言うリーマスに私は思わず小さく笑ってしまう。
『分かったわ。それじゃあ薬を飲んで出発しましょう』
トントンとリーマスのツボを突き、味覚を鈍らせる。
ゴクゴクと脱狼薬を飲んでいくリーマス。
「ぷはっ。ユキの術は素晴らしいね」
『ありがとう』
トントンとまたツボを突いて味覚を戻す。
「お待たせ。出発しようか」
『えぇ』
リーマスがまだ煙の出ているゴブレッドをデスクに置き、私たちはホグズミードへと出発した。
ホグズミードは生徒たちで賑わっていた。
どの子も寒風に頬を赤く染めながら瞳をキラキラさせてホグズミードを楽しんでいるようだった。
「三本の箒に行こうか」
『そうね。バタービールが飲みたいわ』
店は賑わっていたが直ぐに座ることができた。マダム・ロスメルタに2階の個室へと案内される。
私たちが頼んだのはバタービールとチョコレートケーキ。ここのケーキは学生の頃からの私たちのお気に入りだった。
『う~~ん。美味しいっ』
「ケーキはこのくらい甘くなくっちゃね」
リーマスに激しく同意だ。甘さ控えめなんて冗談じゃない。
私とリーマスは一口ずつ味わいながらケーキを食べていく。
『リーマス、ふふ。口元に泡がついているわよ』
「これを飲むといつもつくんだよ。取れたかな?」
『ちょっと待って――――うん。取れた』
「ありがとう」
リーマスの方に腕を伸ばし、クスクス笑いながらナフキンでリーマスの口元を拭う。
ふと交わった私たちの視線。
私は赤面して俯いた。
私、なんか大胆な事しちゃったんじゃないかしら。
最近の私は羞恥心という感情を覚えたらしい。体がカーっと熱くなっていくのを感じる。
リーマス、なにか喋ってくれないかしら……
チラと視線を上げると、リーマスが口元に小さく笑みを浮かべながら悪戯っ子のような目で私を見ている顔が見えた。
「どうしたの?ユキ」
『ううん。何でもないっ』
このフワフワした気持ちは何かしら?
私は熱に浮かされたような気分になりながら残りのケーキを頬張った。
「少し散歩しないかい?」
お店を出てリーマスがこういってくれて嬉しかった。まだ城に帰りたい気分ではなかった。
私たちは他愛もない話をしながら叫びの屋敷が見える丘の方へと足を向ける。
「ここは変わらないね」
『えぇ』
ここはいつだったか私、セブ、リリー、それに悪戯仕掛け人たちで雪合戦をした場所だった。
私たちはなだらかな丘を下りていく。
私は横に立つリーマスを見上げた。
学生の頃はそんなに身長差がなかったのに今はもう20センチほどリーマスの方が背が高い。
過去から帰ってきてまだ数ヶ月だったから、私の中のリーマスはまだ学生の時の印象が強かった。
しかし、大人の余裕を帯びたリーマスの横顔を見ているうちに、『あぁ、私たちは互いに大人になったのだ』と私は実感した。
「そんなにじっと見られると、照れるな」
『ごめん』
私は反転して叫びの屋敷への侵入を阻む木の柵に背中を預けた。
斜め上を見上げる。リーマスが私に微笑んでくれた。
私もリーマスに微笑みを返す。
「ユキといると、落ち着くよ」
『私もよ。リーマスといると、とても落ち着く』
「そう言ってくれて嬉しい」
リーマスが私の左肩に手を置きながら、私の目の前に立った。
ドキドキと鼓動する自分の心音を聞きながらリーマスを見上げる。
「キスしてもいいかい?」
私は答えられなかった。キスして欲しいような、そうされるのが怖いような気もした。
それに、チラとセブの顔が脳裏をよぎった。
戸惑いと緊張に何度も目を瞬かせる私の前髪をリーマスが左手でゆっくりとすくいあげる。
私は瞬いていた目を閉じた。
額に柔らかい彼の唇がそっと押し付けられる。
「ありがとう。帰ろうか」
私は差し出される彼の手を握った。
リーマスは優しい。とても優しい。
自分の気持ちさえ分からない私に対して、リーマスは大人だ。
私の気持ちを汲んで待っていてくれる。
私こそ、ありがとうだよ、リーマス。
優しいリーマスのためにも、自分の心に真正面から向き合い彼が私にしてくれた告白への答えをだそう、と私は思った。
***
リーマスと私はホグワーツに帰り、直接大広間へと入っていった。
「わぁお。やっぱり凄いな、ここは」
『毎年すごいわよね』
リーマスと一緒に上を見上げる。
今年もまた何百ものかぼちゃにロウソクが灯り、生きたコウモリたちがパタパタと天井付近で飛んでいた。今日のホグワーツの天井はオレンジ色の夕暮れの空を模している。
「ユキ先生、今年は仮装しないの?」
「師匠の仮装楽しみにしていたのに。あと、」
「「トリック オア トリート!」」
私の目の前にやってきたフレッドとジョージが揃って手を差し出してきた。
『今年は時間がなかったのよ。あなたたちは似合っているわね』
2人の手の上に銀紙に包まれたボールチョコレートを置きながら答える。ちなみに2人の仮装は今年も忍の格好だ。
「去年はどんな仮装をしたんだい?」
『生徒の制服を着たのよ』
時々トリック オア トリートを言ってくる生徒たちにチョコを渡しながら私はリーマスと教員席へと歩いていく。
「見たかったな」
『あら、学生時代毎日見てたじゃない』
「そうだけど、でも」
「「「「ユキ先生!!」」」」
会話しながら教員席に着いた私たちの前にスリザリンの3年生たちがやってきた。
『わあ!みんな凄いわね。驚いたわ。スネイプ教授には見せた?』
私はスリザリン生たちの仮装に目を丸くする。
「まだなんです」
ドラコが黒いマントを広げながら答えた。
『きっとあなたたちの姿を見たいはずよ。あっ、きたみたい。セブっ早く来て!』
大広間の入口に現れたセブに呼びかけて手招きする。
こちらへと近づいてくるセブの顔は、スリザリン生を見て驚きの顔に変わっていく。
「スネイプ教授、今年はみんなでスネイプ教授の仮装をしてみました」
そう、スリザリン生3年生の今年の仮装は、セブの仮装だった。
『ほら、固まっていないで似合ってるって言ってあげなさいよ』
「あぁ……似合っている……」
セブは戸惑いながら言ったが、生徒たちはそれでも満足だったようだ。嬉しそうにみんな顔を綻ばせた。
「そうだ。デリラがユキ先生にお願いがあるそうですよ」
「えっ、ドラコ!やっぱり言わないって言ったでしょ」
にやっと笑っていうドラコに慌てるデリラ。何かしら?
みんなにせっつかれて焦っている様子のデリラを暫く見ていると、言う決心が出来たのか、デリラが真っ赤な顔で私の前に立った。
「ユキ先生、あの、その……」
『なあに?』
「先生は、あの、変化の術で子供になれるのですよね?では、男にもなれたりするのでしょうか?」
唐突な質問に目を瞬きながら頷く。
『出来るわよ』
生徒から歓声があがった。
「見てみたいです!」
「私も見てみたいです、ユキ先生っ」
わっと興奮気味に叫ぶデリラとパンジーにびっくりしながら頷き、私は印を結ぶ。
ポンッ
「「「「「うわーーーーーかっこいいっ」」」」」
煙に包まれ現れたユキの姿にスリザリン生は同時に感嘆の声を上げた。
長い髪は短くなり、背はもとの姿よりも20センチほど高い。
スラリと背の高い男性は抹茶色の着物に身を包み、ニコリとスリザリン生に微笑みかける。
『そう言って貰えて嬉しいよ』
低く甘い声にキャーッと叫ぶデリラとパンジー。
各テーブルから教員席を見ていた女子生徒たちからもキャーッと黄色い声が上がる。
「ユキ先生、私、私、ユキ先生のことっ好きですっ」
『ふふ。ありがとうってデリラ!?!?』
ユキはふっと意識を飛ばして倒れていくデリラにテーブル越しから慌てて手を伸ばした。
テーブルの上に足を乗っけて身を乗り出し、デリラをぐいっと引き寄せて横抱きする。
幸い、デリラは直ぐに意識を取り戻した。
「スネイプ教授、ごめんなさい。私、ユキ先生のこと、本気で好きになっちゃったみたいです……」
「そうか……」
小さなライバルの登場。
セブルスとリーマスは男なユキとその腕の中で目をハートマークにするデリラの様子を見て、2人ではあぁとため息を吐いたのだった。
賑やかなハロウィンのパーティーが始まった。
テーブルにはずらりと豪華な食事が並ぶ。
「ホグズミードにルーピンと行ったそうだな」
食事を取り分けているとセブが聞いた。
『楽しかったわ。昔雪合戦をした丘にも行ったの』
「そうか……」
まだ何か言いたそうなセブを見上げていると「ルーピンと付き合うことにしたのか?」とセブは言った。
『ううん。今は、まだ……』
「今は……?」
『今はまだ、自分の感情がちゃんと分かっていなくて。心を見極める時間を作らないと』と言おうとして私は言葉を切った。
セブがひどく傷ついた顔になったからだ。
胸がぎゅっと縮まる。
ユキの瞳が悲しみに揺らぐ。
過去で絶交をしたユキとセブルス。その時、ユキはセブに許してもらおうと何度も彼に謝罪と仲直りを持ちかけたがことごとく断られていた。
対するセブルスはユキを視界に入れないほど無視をしていたが、リリーには許しを乞いに行っていた。
声に出しては言わなかったがお互いに恋愛感情を持ち、両思いだった2人。
しかし、ユキはこのことがあったせいで、セブルスが好きだったのはやはり自分ではなくリリーの方だったのだ。と誤解してしまっていた。
『セブ……?』
「せいぜい仲良くするのだな」
『えっ……?』
それっきりセブはハロウィンのパーティーの間中、私を見ようとしなかった。
チクリ
胸が痛む。
「ユキ?」
『ううん。料理美味しいね』
フリットウィック教授と話していたリーマスが食の進んでいない私に首をかしげたので、私は無理やり笑みを作って答えた。
ひどく、胸が痛むな……
セブに無視されると、とても悲しくなる。
それは、今も昔も変わらない。
私を見て
私は心の中で、無意識のうちにこう呟いていた。