似たもの同士
「おやすみ、蛍」
押入れの前で一声掛け、電気を消す。落ち着かないまま、俺は布団に潜って目を瞑る。先生の言う通り、蛍が押入れに身を隠してからいくら声を掛けようと出てくることは無かった。
俺達の距離は、近くて、遠い。
「ごめんなさい」
眠り落ちそうだったその時、か細い声が聞こえた。
今にも消えてしまいそうな、弱々しい声。
「……独りに、しないで」
薄っすらと瞼を開くと、蛍が小さな手で俺の手を握り同じように瞼を閉じていた。ぽたり、と掌に冷たさを感じ目を見開く。
蛍の閉じられた瞳から、涙が溢れて頬を伝っていた。
その体を引き寄せて強く抱き締めると、寝息が聞こえ出す。
確かに蛍は俺に言った。独りにしないで、と。その言葉は、心の底から救いを求めるものだった。
「ほたる」
気付けば、涙が溢れて止まらなかった。
拭っても次から次に溢れてくる。
もっと違う行動をとっていれば、こうならなかったのでは。別の選択肢があったのではないかと。腕の中で眠る蛍を見ると、強い後悔が押し寄せる。
「約束だ」
臆病になっていたのは俺の方だった。この気持ちは、過去の自分自身に向けたものでもあり、今の俺に向けたものでもあった。
情けない、と俺は思う。
蛍の涙を拭い、頬に張り付いた髪を退かす。ああ、柔らかい頬だ。それでもって、暖かい。
「独りに何てしない」
今度こそは、必ず。
俺は蛍を、更に強く抱き締めた。