似たもの同士
夏目side
「貴志君」
そう言って、名前を呼ばれたのは夕食の時間だった。机の上に置かれた暖かい料理を前にして、滋さんと塔子さんが真剣な眼差しで俺を見つめていた。
ふと、俺の頭の中で嫌な考えが思い浮かぶ。
陽だまりの中にいるような、心が安らぐ居場所といよいよ別れの時が来たのかと。
けれど塔子さんの次の言葉でその考えは一瞬にして消えて行った。俺と同じく、親戚中をたらい回しにされている子を引き取りたいと。それに、その子はまだ10歳に満たない子供だと言う。
俺はすぐに、もちろんですと答えた。一人は寂しいはずだ。
その子は悲しんでいないだろうか。
「ありがとう貴志君。そうと決まれば、明日迎えに行ってあげましょう!」
塔子さんはその後、バツの悪そうな顔でその子と相部屋になることを謝った。慌てて気にしていないことを伝えると優しく笑う塔子さん。
藤原夫妻に引き取られて、俺は変わった。
こうして幸せな日々を過ごせているのも、この二人が居てくれたお蔭だ。だから、俺も二人のようにその子に何かしてあげたい。
「ああ、その前に」
明日来る子と、俺は仲良くなれるだろうか。
翌日の昼、その子は遂にやって来た。
玄関から聞こえてきた塔子さんの声に、俺は寝転んでいた身体を起こして、階段を降りて玄関へと向かう。
「塔子さん、この子が―――」
例の子ですか。そう尋ねようとした言葉は、喉元まで出かけて飲み込まれていく。
塔子さんに手を引かれて来た子を一目見て、紅色の瞳が綺麗だと思った。それは、まるで紅葉の葉。余り外へ出ていなかったのだろうか、白い肌に映えて色鮮やかだった。
そしてその瞳には、警戒心と共に、何かしらの拒絶を孕んだものを含んでいた。
普通の子供とは思えない程―――否、妖に近いような雰囲気を放つ少年を見て、すぐにでも少年の元に駆け寄りたいという衝動に駆られる。
こんなもの、子供がしていいものじゃない。
「俺は、貴志。夏目 貴志だ。君は?」
名前を尋ねると、初めて目と目が合う。一瞬ではあったが、俺をその瞳に映すと少年はふい、と首を逸らして小さく呟いた。けれど、その小さな呟きは鮮明に耳に届いて、馴染んだ。
「……ほたる」
紅色の目の少年―――蛍は無表情に地面を眺めていたが、もう一度首を逸らして空の方を向いた。その目に映る景色は、どこか黒い雲に覆われた空ばかりで、どこまでも灰色だった。