うそつき
僕がまだ小さいときだった。
お母さんとお父さんが、病で亡くなったのは。
お母さんとお父さんの死を、小さい頃の僕には理解できなかった。ただ、いつも優しい笑顔で遊んでくれる二人が突然いなくなって、寂しくて悲しくて僕は泣き続けた。
次の日にお葬式があった。
お母さんとお父さんの友達や兄弟だと名乗る人たちが、黒い服を着て僕のように泣いていた。きっと、僕と同じで寂しいんだ。僕は昨日たくさん泣いたから、もう泣かない。
「蛍くん」
部屋の隅でその様子を眺めていたら、僕の名前を呼びながら涙を流すおじさんが、僕を強く抱きしめた。
「私達と暮らそう」
よく分からないまま、うん、と頷く。それでも、何となくは理解できた。子供の僕は、一人では生きていけない。誰かに助けてもらわないと、お母さんとお父さんのところに行ってしまう。三人で過ごした思い出がいっぱいのお家とお別れするのは寂しいけど、今日でお別れだ。
引っ越したおじさんの家は、前の家よりも随分と離れた場所にあった。前は、自然に囲まれて、川や畑が当たり前にあるような場所だった。だけど、ここは都会というのだろうか。たくさんの車が走って、大きな建物がいっぱいだ。転校先の学校では、みんなが当たり前のように最新のゲームの話をしている。
中々周りの子に馴染めずに、僕は公園で一人でブランコに乗って時間を潰す。
――一人、のはずだった。
いつものように下を向いて漕いでいたら、真下に変な生き物がいた。
「お前一人なのか?」
「うん」
「じゃあ、俺が遊んでやるよ」
最初は驚いた。見たことのない生き物が喋って、僕と遊んでくれると言ってくれたことに。だけど、寂しさを忘れられるなら、何だって良かった。初めて出会った生き物の存在が、とてもうれしかった。
つい、僕はその生き物と時間を忘れて遊び続けた。
「ただいま!」
「蛍君!貴方いったい誰と話していたの?」
「……えっと、知らない子。でも、優しくて僕と遊んでくれたんだ!」
家に帰ると、おばさんが玄関まで走って来て可笑しなことを言ってきた。遅くまで帰ってこない僕が心配になって公園に行くと、僕が一人で喋っていたのを見たって。僕は首を傾げる。
おばさんにあの子は見えてなかったのかな。
その日の夜、家に知らないの人が来た。
「今日からは、うちで預かるからね」
首を傾げておじさんたちを見ると、僕を怖い顔で見ていた。その顔の意味が、良くないものであることは直ぐに気付いた。でも、可笑しいのはおばさん達の方だ。
どうして、あの子が見えないの。
二回目の引っ越しは、また遠い所。僕を預かってくれた人たちは、夜の遅い時間にならないと帰ってこない。でも、新しい部屋には大きな生き物がいた。あの子と同じ種類なのかな。
その生き物は、暇な僕の話し相手になってくれた。
「おい小僧。俺が何だか知らねェのか」
「しらない。僕がみたことない生き物だもん」
「生き物か。合っていると言えば合ってるか。俺は妖なんだ」
なにそれ、と目を瞬かせた僕を、目の前の生き物は喉を鳴らして笑う。僕にでも分かるように言うと、お化けなんだって。偶々、僕が出逢った妖は何もしてこなかったけど、悪いことをしてくる妖も居るんだって。冗談半分で聞いていると、額を小突かれる。力加減をしてくれたのか、全く痛くない。
そこまで言うなら気を付けるけど、ほんとに悪い子はいるのかな。
だって、君とか。
「――蛍君!」
勢い良く部屋のドアが開いて、振り返る。ドアの傍にはあの人達が立っていて、部屋に居たあの子は僕を庇うように威嚇する。ああ、まただ。いつも僕を見るのは冷たい目。
この人たちといるより、みんなといた方が楽しいよ。