汚い



 数時間して、襖の隙間から漏れていた明かりが完全に消えた。
 耳を塞いでいた手を外し、隙間から男が起きているかどうか確認する。薄暗くて確認しにくいが、敷かれた布団の上で男は寝転んでいるようだ。

 押し入れから出ると、僕は男に近寄る。
 よかった、眠っているみたい。


「ごめんなさい」

 眠っている男の横で、一人謝る。
 きっと急に飛び出したりして、変に思ったはずだ。素直じゃなければ、可愛げもない。

 こんな僕に、幻滅しただろうか。
 それでも、だとしても。

「独りに、しないで」

 隣に寝転んで、男の手を握る。得体のしれない感情に、警戒していた。なんて言うのは建前で、ただ寂しかっただけだった。この男の傍は、妙に落ち着いた。

 それも、もう終わりだ。
 すぐお別れの日が来るだろう。離れたくない、と思っても自業自得だ。

 そう思ったら、瞼から涙が溢れて頬を伝う。


「蛍」

 ―――眠い。それに、あたたかい。何かに包み込まれてるみたいだ。
 経った一日だったけど、楽しかったなぁ。
 こんなに優しい人たちに出会えて、僕は幸せだった。そうだな、神様が本当に居るのなら、聞いてほしい。

「約束だ」

 もう一度、少し前からやり直したい。この人たちから僕を引き離さないで。
 お願いだから、僕を――ひとりにしないで。

「独りに何てしない」

 ああ、神様。願いごと聞いてくれたんだ。温もりに包まれたまま意識を落とす。それでも、信じられない僕は眠りに落ちる前に思った。


 明日なんて、こなければいいのに。




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