汚い




「学校はどうしたい?」

 そんな幸せなひと時も、一瞬だった。
 滋さんが口にした何の変哲もない、何気ないたった一言。

「ぁ、ッ」

 顔を黒く塗りつぶした子供に囲まれる。逃げる場所なんてない。
 先生おとなも見て見ぬふりをする。

 フラッシュバックするように脳裏に浮かんだ光景に、震える手からスプーンが転がり落ちた。

『お前は―――』

 僕を指差しながら、皆がいうんだ。
 嘘つき、って。

 気づけば、僕は席を飛び降りて階段を駆け上がっていた。



「蛍、どうしたんだ!」

 押し入れに閉じこもってからすぐに、僕の後を追ってきたのか焦る男の声がする。喉を動かして必死に訴えようとするが、言葉がでない。ガタガタ震える身体を、自分で抱き締め隅で縮こまる。


「先生、降りてくれ。俺は今――」

 そんな声にさえ恐怖を感じ、僕は強く耳を塞いだ。



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