ナイトメア
これで強引に連れられるのは二回目になる。
酒場、と太宰さんは仰っていたが某は未だ飲酒して良い年齢ではない。この人は何を考えているのか。そんなことを考えていると、酒場に辿り着いてしまった。
ドアを潜るなり、某は店内を漂う紫煙に軽く咳込んだ。
「太宰と―――誰だ?」
どうやら先客が居たらしい。
太宰さんの名を口にした赤毛の男は、酒杯を片手にカウンターの席から某を一瞥する。
「やァ、織田作」
冷酷さを失った瞳に、僅かに口角を上げた笑み。何年もの間見てきたが、この人のこんな表情は初めて見る。呆然と立ち尽くしていると、太宰さんは男から一つ席を開けて座る。某に向かって手招きし、間の席を指差す合図はそこに座れということか。
「この子は、芥川 雲雀君。私の最愛の人さ」
席に座るなり、突拍子もないいことを太宰さんは言い出す。初対面の人に向かって、冗談じゃない。絶対に変な勘違いをされた。
「どうした、顔色が悪いぞ。……ああ、案ずるな。俺はそう云った偏見は無い。大丈夫だ」
「違っ――!」
酒杯を持っていない方の手で、慰めるように背中を数回叩かれる。違うそうじゃない。某と太宰さんは、只の同じ組織の人間。
気遣いは有り難いが、断じて違う。
「照れてるのだよ。可愛らしいね」
否定しても頑なに間違えを認めない太宰さんに、ぐっと言葉を詰まらせる。もう良い。不貞腐れたように頬杖をつき、某は太宰さんとは反対方向を向く。
「某は、まだ貴方の名前を聞いていない」
「ああ、それはすまなかった。俺は、織田作之助。一介の構成員だ」