ナイトメア
「雲雀君ーー!」
背後から聞こえる声を無視して、某は薄暗い夜道を歩き続ける。それでも某を呼ぶ声は止むことが無く、腕にぞわぞわ鳥肌が立つ。
声の主である太宰さんが、近ごろ不気味で仕方が無い。
「ねーえ、雲雀君ってば」
あの日以来、太宰さんは行く先々に某の跡をつけるようになった。そもそも任務は如何なされたのか。一応、太宰さんは幹部という立場だ。やることが溜まっているに違いない。
追跡者の真似事をする暇があるなら、そちらを優先して欲しい。
「―――ひばり」
「っ……!」
耳元で囁かれ、恨めしい気持ちで太宰さんを見上げる。悪戯が成功し、してやったような顔でにやにや笑う太宰さんを視界に入れると、熱くなる頬が明らかに異常で唇を噛む。
「……何の用ですか」
まるで、某だけが変に意識しているようで深くはぁ、と溜息を吐く。
「今日は、私の行きつけの酒場に案内しようと思って」
「え?―――ちょ、」
まだ返事もしてないと云うのに、自分の指を某の指に絡めてくる太宰さん。また頬に熱が集まるのが分かった。恋仲でもないのに何故、勘違いさせる行為をこう易々とするのか。
「きっと、君も気に入る」