ナイトメア
「……あの、某と太宰さんは何故このような体制を?」
首領の部屋から連れ出すように腕を強引に引かれ、寝台に押し付けられる。包帯を巻いた腕は腹に回され、某に与えられた部屋の寝台の上に寝転びながら行き場の無い視線を壁に向けた。
この拘束から抜け出すのは容易だった。
然し肩口に顔を埋められ、踏み止まってしまう。
「何だか懐かしくなってね」
「ッ、」
喋ると同時に吐き出される吐息に、触れた身体が熱をもつ。同時に、首元を覆い隠す襟を指先で引き下ろされた。
「だ、ざいさん!やめっ―――」
「首領はいいのに?」
首領の名前を出されて、太宰さんの手を押さえていた動きが一瞬止まる。それがいけなかった。するりと長い脚で太腿を挟まれ、身動きが取れなくなる。
曝された頸筋に太宰さんは顔を埋め、柔らかな唇が触れた。
「雲雀君」
「っ、ぁ」
何の前触れもなく器用に背後から腹に回された腕が、ぐいっと後ろへ引っ張られる。体制が仰向きに変わり、正面にいる太宰さんが某を見下す。
熱を孕んだ鋭い眼差しに、ごくりと息を呑んだ。
「私は君が―――ぐぇッ」
迫り来る端整な造りの顔に固まっていると、蛙が潰されたような奇声をあげながら太宰さんは背後へ倒れ込む。
「おいコラ、太宰。なァに人の部下に手出してやがんだ」
「ゲッ、中也」
太宰side
あーあ。良い所だったのに余計な邪魔が入った。
私の襟元をご自慢の怪力で引っ張り上げた男―――中也を、思いきり睨みつける。
「酷いじゃないか」
「ハッ。手前の都合なんか知るか」
鼻を鳴らし、人を小馬鹿にする態度に額に青筋が浮かぶ。成人した男が遠慮も無く喉元を絞めたら苦しいに決まってる。同じことをしてやろうかと思ったくらいだ。
それに、中也のせいで雲雀君は部屋を出て行ってしまった。
「帽子置き場は大人しく部屋の隅っこに立っていたらいいのに」
鬱憤を晴らすように悪態を吐きながら、上半身だけ起き上がる。今は本気で中也が憎い。唇が触れるまであと少し。あと少しだったのに。
「云っとくがな太宰。彼奴はまだ――」
「分かってるよ」
あの子がまだ、成年に達していない子供だということは。冷静に考えなくとも、そんなこと理解できている。何年もずっと我慢して来たのだから。
確かに首領に触発され、抑えが効かなくなってしまったのは事実だ。
「それでも、そうだとしても好きなんだよ。あの子が」
「あぁ、そうかよ。ちゃんとそのちっぽけな脳ミソで考えてんならイイ」
けどな、と胸倉を掴み上げながら膝で腹を圧迫される。何て力だ。嘔吐きそうになるのを耐え、笑みを浮かべて中也から目を逸らさない。
「彼奴が手前のせいで泣いた。その時は、俺が手前を殴り殺す」
中也はそう云うと、私を乱雑に放り投げ部屋を出て行く。ちびっこマフィアに云われなくとも、分かっているさ。
あの子を傷付けるような真似はしない。