ナイトメア
太宰side
とある一室で、私は執務机を挟んで首領と対峙していた。私が何故此処に訪れたのかも理解しているはずなのに、呑気に紅茶を用意させようとする。
建前などどうでもいい。
私が此処に来た理由、それは―――織田作を救援する為、幹部級異能者の小隊を編成し、ミミック本部へ強襲を仕掛ける許可を貰いに来た。
「いいよ、許可しよう。だが理由を教えて貰えるかな?」
一刻でも早く、織田作の元へ行きたいのに阻まれる。苛立つ感情を押さえながら、私は戦況を説明する。
織田作は今、敵組織の本拠地で、単身による威力偵察を行っている。緊急対応に近隣にいた構成員を援護に向かわせたが、迚もじゃないが戦力が足りない。
このままでは、織田作が死んでしまう。
「だが、彼は最下級構成員だ」
首領の云いたいことも判る。わざわざ、幹部級を戦地に晒してまで一人の男を救出する必要があるのかどうか。それに、本当に織田作之助と云う男は、救援など望んでいるのか。
互いに心理を理解しているからこそ、言葉に詰まり一瞬の沈黙が走る。
「太宰君」
首領は首領であることがどういう事なのかを語り、書類棚から封筒を取り出す。組織の存続の為なら、論理的に考えどんな非道も喜んで行わなくてはならない。
机に置かれた、端に小さく金色の箔押しが施された黒い高級封筒。
ああ、全て理解した。
「首領、最後にお聞きしたいことがあります」
「何かね?」
首領は組んだ掌に顎を乗せたまま、私に向けて微笑む。
「雲雀君のことも最初から、全て――?」
「ああ、そうだ」
自分の手元に収めたい物は、しっかりと握っていないとね。それを耳にした途端、烈火の如く、怒りが激しい波のように全身に広がる。
「それだけです。失礼しました」
私に向けて銃を構える部下を押し退け、扉を抜けて廊下を歩く。最初から、首領の手の平の上だった。それでも、今ならまだ間に合うかもしれない。
否、間に合う。間に合って見せる。私は、彼の元へ駆け出した。