ナイトメア




却説さて

 太宰さんの部下が男達を運び収監房を去ると、太宰さんは懐から拳銃を取り出した。銃口は兄さんに向いていて、此れを成す行為に某は唇を強く噛んだ。

「私の友人に、孤児を個人的に扶養している男が居てね」

 芥川君、と名前を呼び、弾倉を装填しながら太宰さんは続ける。


「貧民街で餓死寸前だった君達を拾ったのが織田作だったら、きっと君を見捨てず、辛抱強く教え導いたろう。それが"正しさ"だ」

 何故、何故だ。如何して太宰さんは、兄さんをぞんざいに扱う。
 此れだけは赦せない。

 この距離なら、撃たれる前に拳銃を蹴り落とせる。それだというのに、脚が地面に縫い付けられたかのように、ぴくりとも動かない。

「けど私は、"正しさ"のほうから嫌われた男だ。そう云う男はね、使えない部下をこうするんだ」

 己を卑下するようなことを口にすると、太宰さんは引き金に指を掛けた。ぐっ、と腕を伸ばしかけた、ほんの一瞬。かちりと、引き金が引かれ三発の銃声が周囲に響いた。


「ぁ、ぁ」
「へえ、やれば出来るじゃあないか」

 固く閉じた瞼を開き、安堵から崩れ落ちる。放たれた弾丸は、兄さんの異能により当たる寸前で制止していた。

「何度も教えたろう。哀れな捕虜を切り裂くだけが君の力の凡てじゃあない。そうやって防御に使うことも出来る筈だって」
「これ迄―――この防御に成功したことは無かった」

 蒼褪め掠れた声を出す兄さんに向かって、太宰さんはにこりと笑う。

「でも今こうして成功した。めでたいねえ」



「次しくじったら、二回殴って五発撃つ。いいな」



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