ナイトメア
「朝、か」
窓帷か溢れる朝日に、自然と目を覚ます。眩しさを憶えながら、某は寝台の上でそっと己の唇に触れた。某を好きだと、愛していると想いを告げた、昨日のことは夢だったのではないのかと。
「……んぅー?ひばり君?」
隣の敷布が擦れ、首を後ろへ傾ける。視界いっぱいに広がったのは、胸元が肌蹴た白の襟衣。視線を上げていくと、そんな某を不思議そうに見つめる太宰さんの姿が、夢ではないと物語る。
「よく眠れた?」
「ッ、はい」
寝転んだまま、微睡んだ瞳で視線を合わせ、太宰さんは某の目元へ触れる。くすぐったさに目を細め、某は思う。この距離でも警戒をしないとは如何なんだ。
この人は馬鹿なのか。
某が、寝首を掻くとは思わないのか。
「あたたかいね」
「……はい」
あれほど苦手だった筈なのに。今では、傍に居るだけで胸が締め付けられる。可笑しいと感じる反面、何処か太宰さんを独占していることに優越感を抱く自分に腹が立つ。
どうか、している。
「私は幸せ者だ」
視線の先に居る太宰さんは、優しく微笑んでいた。この人も間抜けだ。熟した色香もなければ、艶かしい肉体も持ってない子供に現を抜かすなど。
遊び、だと口にしてくれればどれだけ気が楽だったか。
「そうだ。今度、逢引に行こう。誰にも邪魔されない場所で」
伸ばされた腕が枕元の傍にある某の手の上に重ねられ、左手の薬指を撫でる。本当に阿呆だ。
「……太宰さん」
「なんだい?」
太宰さんの方に向き直りながら、某は口を開く。
「―――すき」
初めて某から云った言葉に、驚いたように太宰さんは目を瞬かせる。そして、直ぐに唇に押し当てられた柔らかな感触。
ケダモノ。そう口だけ動かして、ぎゅっと瞼を閉じる。
「私もさ」
そんな太宰さんに熱を上げる某も、相当な馬鹿だ。