ナイトメア
「ひばり」
某の名を、呼ぶ声は酷く甘い。
太宰さんに触れられた箇所が、溶けるように火照る。喉を通った液体に身を灼かれ、唇を貪る行為に次第と力が抜けていく。
「私だけを見て」
「ん、ぅ……!」
柔い唇が重なり合い、口の中に太宰さんの舌が入り込んでくる。角度を変えて何度も降り注ぐ口付け。頭がくらくらして変な声が零れる。己のものとは思えぬような其の声を我慢しようとすれば、舌がぬるりと絡む。
甘い、甘い、くらくらする。
「君が誰かの名前を口にする度に、嫉妬で狂いそうになる」
一度太宰さんが離れ、切羽詰まったような声が降ってくる。それを耳にした途端、かつて経験したことのない位に心臓が早鐘を打つ。
某に向けていたと思っていた筈の嫉妬は、他の者への対する嫉妬で。
「なんッ、で」
「君が好きだからさ」
耳元に掛かった熱い吐息に、肩が跳ねる。酒場の雰囲気に呑まれているのか、酔っているのか頭が可笑しくなりそうだ。太宰さんの大きな掌が、頬に触れる。この感情は一体何だ。
先刻から、身体の芯が疼いて収まらない。
「雲雀」
そんな目で某を見るな。
そうでないと、
「愛している」
もう、後には戻れなくなる。