鷲は飛び立ち青き空を舞う
ロンドンのとある孤児院の一室に、一人の少年がベッドに身を任せ本を片手にページを捲っていた。
窓から差す光が少年の艶やかで繊細な黒く細い髪を照らし、時折、零れ落ちた髪を耳にかける仕草は艶っぽく目を引き付ける。
――コンコン。
突然、扉をノックする音が部屋の中に響く。
ベッドの上の少年が、その音に伏せた目を扉へ向けると、澄んだ青の瞳が浮かび上がる。
「ノア、お客様よ」
「院長先生?…どうぞ」
少年はゆっくり上半身を起き上がらせると、扉の前にいる孤児院の院長とお客様に声を掛け、入って来た人物はノアにニコリと笑いかけながら椅子に腰かける。
「何のご用件でしょう?」
ノアと呼ばれた少年は、不審気に眉間に皺を寄せ尋ねる。
少年がそうなるのも無理もない。初対面での印象は、最悪なものだった。部屋に入ってくるなり、椅子に腰かけた人物は見たこともない不思議な格好をしており、長いローブを着込んだ姿はまるで、絵本の中に出て来る魔法使いのようだった。腰辺りまで伸びた長髪と髭がさらに拍車をかけている。
ノアが警戒してしまうのも不思議じゃない。
「君がノアかね?」
「はい、そうです。貴方は誰ですか?」
ぱちり、と少年が瞬きをする。老人の名を聞いた時、外で一羽の鳥が飛び立った。