鷲は飛び立ち青き空を舞う
新入生歓迎会が終わり、校長であるダンブルドアによる諸注意が始まる。それが終わると、監督生は新入生を寮へ案内するために席を立った。
「これから、寮へ案内します。1年生の皆、着いて来てねー」
そう言って大広間を出て行った監督生の後を、ノアを含めた1年生は後を追い掛け、大理石の階段を上がって行く。
廊下を通る度に、壁に架けてある肖像画の視線を浴びながら歩き続けると、ブロンズ色の鷲の形をしたドアノッカーの前で監督生が足を止めた。
「レイブンクローは、他寮の談話室と違ってドアノッカーが出す問題に答えなければならない」
それだと、誰でもレイブンクローの談話室に入れるのでは、とノアは思った。しかし、出題された問題にその考えは杞憂に終わる。
流石、機知と叡智に優れた者が集う寮なだけあって、出題された問題は簡単に解けるものではなかった。
「さ、入って」
監督生が問題を解くと、ドアが独りでに開く。開いた先に、天井から伸びる螺旋階段があり、導かれるまま上る。
「――わぁ!」
螺旋階段を上りきると、そこには夜空が広がっていた。
「驚いた?」
「はい!」
言葉では言い表せない高揚感が、ノアを支配する。ドーム型の天井に描かれた星々に、壁から伝う青とブロンズの絹。談話室の全てが神聖で、輝きに満ちていた。
昂った感情が収まらないまま、ノアは監督生に説明された部屋の前に移動した。
他寮だと、一つの部屋に複数の人数が割り当てられるらしいが、これもまた、レイブンクローは他寮と違って個室らしい。他人に気を散らすことなく、学習意欲を高める為にはどうすればいいか。
そう考えた結果、個室になったらしい。
「よろしくね」
これから7年間過ごす部屋のドアに静かに触れる。見た目は備え付けられたばかりの真新しいドアだが、触れればしっかりと声が聞こえる。
数千、数百年もの時を過ごし、歴史を刻み続ける誇り高き樹。
『――――』
「――ありがとう」
耳を擽る柔らかい声に、指先が熱くなる。
熱を帯びた手でドアノブを握って、部屋を開ける。部屋の中には、天蓋付きのベッドと、窓際に机と椅子、本棚があり、落ち着いた雰囲気だ。
一人で過ごすには広い部屋だが、創設者の温情を感じられる空間だった。
「ふぅ」
一息吐いてノアは、ベッドの上のトランクに目を向ける。荷解きをしないと、とは思うが、慣れない汽車での長時間の移動で倦怠感に襲われてきた。
「…明日に、しよう」
荷解きをやるのは明日にする、と決めたノアは、トランクからパジャマを取り出し、それに着替える。そのままベッドに潜り込めば、瞼が自然に重くなっていく。
薄れゆく意識の中、此方を見ている誰かと目が合ったような気がした。