鷲は飛び立ち青き空を舞う
それからは怒涛の勢いだった。
レイブンクローの監督生がノアの手を引いて、空いてた席に座らせると、興奮して前のめりになった上級生が、我こそは、と手を伸ばす。
余りにも凄まじい気迫で迫られて困っていると、ノアの肩を一人の生徒が叩く。
「…大丈夫、ではないよな」
心配するような、暖かみのある声。その声に惹かれて、振り向いて見ると、淡い灰色の髪をした男子生徒が気の毒そうに頬を掻いていた。
「あ、はは。うん、ちょっと驚いてる」
「だろうな。皆、君がこの寮に来てくれて嬉しいのさ。勿論、僕もね」
改めてそのようなことを言われて、ノアはレイブンクローのテーブルを見渡した。
不思議と、先程の騒がしさは消えていた。代わりに、レイブンクロー生全員がノアの一挙一動を見逃すまいと固唾を呑んで、陶酔した眼差しでノアを見つめている。
ノアは自分を見つめる眼差しに、一人、また一人と視線を合わせる。
最後にノアと、隣の男子生徒の視線が交差する。透き通った湖畔のような瞳に見つめられ、男子生徒は息を呑んだ。
「よければ、皆の名前が知りたいな」
「――ああ!僕は、ロジャー・デイビース。よろしく!」
その一言を拍子に、テーブルのあちらこちらから自己紹介が飛び交い始める。
「私は、リナ!仲良くしてね!」
「君はグリフィンドールだろう!!」
仕舞には、他の寮からも聞こえ出して、ノアは可笑しくなって笑った。
全ての組み分けが終わると、テーブルの上に沢山の種類の料理が並び始めた。こんがり焼けたローストチキンに、湯気が漂う茹でたポテト。ケチャップが添えられたフレンチフライや、食べやすいサイズに切り取られたステーキ。
ノアは戸惑って、何度か目を瞬かせてから助けを求めるように隣を見た。
「ロジャー、どうしよう。何から食べていいか分からない」
ノアが戸惑うのも当然だった。こんな豪華な料理を見るのは初めてだったのだから。
孤児院で過ごしていた頃、食卓に並んでいた料理は決して裕福だとは言えないが、院長先生の愛が入った暖かい料理ばかりで幸せだった。
「うーん。そうだ、これ!食べて見なよ。僕のお勧めだ」
「ごめんね、ありがとう」
そう言って、ロジャーはテーブルの大皿からポークチャップを小皿の上に取り分けて、ノアの前に置く。
ロジャーも未だに食事に手を付けていないというのに、料理を取り分けてくれた申し訳なさに、ノアは眉を八の字に曲げた。
それから、フォークで一口分の量を掬うと、口元に運ぶ。
「―――っ!」
「どうだ?」
口に含んだ瞬間、ノアは目を見開いて、手が止まる。
水面に映った青空のようなその瞳が、きらきらと輝いて、頬を紅潮させたノア。その様子を周りで見ていた生徒は、ああ、美味しかったんだなぁ。と、分かりやすいノアの反応に、完全に頬が緩んでしまった。