鷲は飛び立ち青き空を舞う
名前を呼ばれて、皆のように前へ進みノアは椅子に座った。そこから見える景色は圧倒的で、何故か全員が息を呑んで自分を見ているのが分かる。
それよりもだ。ノアは気掛かりなことが一つだけあった。
孤児院に居る際、自身が知っていたのは自分の名前だけだった。自分の知り得ないそれが今呼ばれ、ましてや、フレッドとジョージから聞いていた寮の名前と一緒だと言った。
分からない。自分自身が誰なのか。
「―――ほお」
突然、頭の上で低い声が聞こえてノアは身体をビクつかせた。
「いやはや、懐かしい。まるであの方を見ているようだ。非常に聡明な頭脳もある。それに、心優しく優れた才知も持っている」
あの方、とは誰なのか頭を悩ませる。ホグワーツに来てから、自分の知らない自分が居る気がして妙に落ち着かない。知りさえしなかった自身に関する知識があるのならば教えて欲しい。
「ふーむ。それについては自分自身で知った方がいいだろう。私から言えることはそれだけだ。君に最もふさわしく、いずれ世界にとどろき名を遺す道」
「―――レイブンクロー!!」
広間全体に広がった帽子の声に、 間を置いてレイブンクローのテーブルから大歓声が沸き起こる。ノアが驚いて目を瞬かせている間に、マクゴナガルが近付いて小さな背中を優しく押した。
トン、背中を押されるようにして一歩踏み出す。不思議と、緊張が溶けていくように肩から抜けて、ノアは後ろを振り返る。
そこには、いってらっしゃいと送り出すように緩く微笑んでいるマクゴナガル。
ノアは、ぐっと息を呑んで、俯いていた顔を上げる。
「―――っ…!」
瞳に映るのは、溢れる喜びを押し隠すことが出来ず、喝采を上げている上級生。溢れ出る暖かさに、ノアはまた一歩、踏み出す。
今まで見てきたこの世界に、新たな色が色付き始めている。
「(―――そんな色を、もっと僕はみたい!)」
――新たな運命が始まりの鐘を告げた。
二つの運命が交錯する時、新たな物語が生まれるだろう。