鷲は飛び立ち青き空を舞う
月日が経つのは早いものだとノアは思う。あの不思議な出会いからもう一ヶ月は経ち、ホグワーツへ出発するのは明日だ。
その日が楽しみでもあったし、早くその日になればいいなと思っていた部分もあるが、いざ孤児院を離れるとなると寂しいものだなとしみじみ感じる。
「えー、ノアどっかいっちゃうの?」
「そんなのいやー!」
寂しげな声を上げてピッタリとくっついてくるのは、同じ孤児院で育ったノアの二つ下の女の子達。今までずっと一緒に過ごして来た大切な家族でもある。自分との別れを惜しみ、このように引き留めてられると、何だかくすぐったい気持ちになる。
「二人とも」
膝を付いて優しく頭を撫でながら、声を掛ければ二人は「なあに?」とそれぞれ返事をして首をかしげる。
「クリスマスにはきっと帰ってこれるよ。ほら、ずっと会えないわけじゃないさ」
「……うん」
「約束だからね!」
目を合わせた後、そっと首に腕を回して二人を抱きしめれば、二人は甘えるようにノアの首元に顔をうずめた。
本当はもっとノアと喋りたい。二人はそう思い何か言おうとして、そのまま口を噤んだ。
誰にでも分け隔てなく接するノアは、孤児院で人気者だ。だから自然と、ノアの周りには人が集まる。遊びたくても、順番はいつも遅い。ノアの絵本の読み聞かせを聞くのが好きだった。学校だって行かずに、ずっとここにいればいいのに。そんな我儘を言って、ノアを困らせたくない。
でも今だけでも、いつも他の子にノアを取られて独り占めに出来ない分ギュッと堪能するくらいはいいだろう。
「皆、夕食の時間よ!」
そんなひと時も一瞬で、院長先生の声が床下から聞こえて来る。ああ、離れていく温もりが恋しい。ノアの身体が離れると眉を下げて床下を睨みつける二人だったが、目の前に差し出された手を見て勢いよく顔を上げた。
その手は自分達よりも少しだけ大きくて、さっきまで同じ体制のノアが手を差し出す姿はまるで絵本にでてくる王子様。
「さ、行こう」
「うん!!」
二人は元気よく頷くと、ノアを挟んで手を繋ぎながら食卓へ向かった。