【中学生編】拝啓、何者にもなれなかった僕へ



「連絡先ですか?」
「ああ。その、夏休みの間、また遊ばないかい」
「はい、いいですよ」

 夏祭りの帰り道、手に汗を握りながら楓汰君に連絡先を聞く。

 今日一日中、楓汰君と食べ歩いたり遊びまわることがすごく楽しかった。せっかくの夏休み。家にこもりっきりになるより、二人でまた遊びたいと思って僕は連絡先を聞いた。
 断られるかもしれないと身構えていたが、案外あっさりと了承を得られて胸を撫で下ろす。僕がポケットからスマホを取り出すと、楓汰君もズボンのポケットに手を入れる。ポケットの中を少し探った後、ケースに入ったスマホを取り出した。

「LINEですか?」
「ああ」
「QRコード、出しますね」
「頼んだ」

 楓汰君の画面にQRコードが表示されて、僕もLINEのアプリを開く。読み取り機能を起動し、楓汰君のQRコードを自分のカメラで撮影する。すぐに白い雲のような、なにかふわふわとしたキャラクターのアイコンとふわと平仮名で書かれた名前が表示される。
 何のキャラクターかは分からないが、なんとなく楓汰君らしいなと笑った。そのまま友達追加をタップして、追加されたのを確認すると、楓汰君も画面を操作した。


「天哉くんのアイコン、おいしそうですね」

 ふふ、と柔らかく笑いながら、楓汰君も追加をタップした。美味しそう、と言うのは僕のアイコンがビーフシチューだからだろう。初期設定のままも寂しい気がするし、特に設定したいアイコンもない。だから、取りあえず好きなビーフシチューにしている。

「天哉くんにメッセージをおくるたび、お腹がすきそうです」
「特に、夜は飯テロになるな」
「そうですね」

 別のアイコンに変えようかと悩んでいると、スマホの通知が鳴って、トーク履歴を開くとさっそく楓汰君からメッセージが届いていた。タップしてトークを開くと、よろしく、と吹き出しで喋る羊のスタンプが送られてきていた。
 スマホから顔を上げて楓汰君を見て、僕もメッセージを打ち込んで送信する。

 こちらこそ、よろしく。

 生憎、僕はスタンプを買っていない。素っ気ないメッセージになってしまったが、初めて送り合ったメッセージを見て頬が緩んだ。

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