【中学生編】拝啓、何者にもなれなかった僕へ
僕と彼の関係が変わり始めたのは、思えばあの日からかもしれない。
夕焼けに照らされた歩道を二人で歩いていると、屋外ビジョンに暴れまわり何かを叫ぶ
耳を澄ませてよく聞けば、敵の言っていることに憤りを感じる。
誰かを困らせたかった。だから、ビルを破壊している。
「……っ」
握り締めた拳にグッ、と力が入る。その身勝手な行動で、一体どれだけの人が犠牲になり、窮地に追い込まれていると思っているんだ。ヒーローにより拘束されてもなお暴れ続ける敵を見て、改めて僕は志す。
規律を重んじ、人を導くそんなヒーローに、僕はなる。そして、いつしか兄の隣に立てるように。
そこまで考えて、ハッとする。すっかり映像に夢中だったせいか、不和君が無言になっているのに気付かなかった。隣を見て、彼の名を口にしようとして声が詰まる。いつも緩やかな眼差しをしている彼が、映像に移る敵を恨めしそうに見ている。
不和君、と呼んでみたが気付く様子もない。
恐らく彼は、敵に複雑な想いを抱いているのだろう。不意に、敵に軽蔑した眼差しを向けていた、紫紺の瞳が僕を映してすぅと細められていく。美人の真顔は怖いというのは、こう言うことか。
「…ヒーローって、なんでしょうね」
ポツリと呟かれた言葉に、僕は考えるのを止めて彼を見つめた。
「僕には、兄が居る」
「お兄さんですか」
「ああ。兄は、不安に陥っている人を安心させるために、1秒でも速く駆けつけるようなヒーロー。自慢の兄だ」
つい自慢げに語ってしまったが、後悔はしていない。不和君が口にした言葉に対して、すぐさま思い浮かんだのが兄さんだった。これが僕なりの答えだ。少し俯いた後、彼は困ったように笑った。
「君もヒーローになりたいんですか」
「ああ、勿論」
即答すると、憎悪を含んでいた目元が柔らんでいく。
「いつか、僕もたすけてくださいね」
彼が歩き出して、僕の足も動き出す。今日こそ、どういう意味だと聞きたかった。今のは、将来困った時に助けてほしいと言う意味合いでは無かった。聞き返そうとしたのに、ある家の前で不和君が立ち止まった。
彼の足音が、次第に遠ざかっていく。