夢小説 短編
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秋思
ギース、チョンと陽気な音が聞こえてくる。
ヤツらとは違いなんと心地の良い鳴き声だろうと思わずにはいられない。ああ、あの大合唱を最後に聴いたのはいつだろう。金輪際聴きたくないと思っていたあの騒音も静かになった途端、物恋しく思ってしまうのは流石夏の風物詩というものか。塩辛い風も眩しい光も、蝉も、何も言わずにどこか遠くへ行ってしまったようだ。
秋の花が咲き競ってどれが美しいとも決めかねる
それでもわたしはただひとつ常夏のお前ばかりが好きなのさ
いつか授業中に読んだそれはどんな話だったかな。
「夏もう1回来ないかな」
「この状況でそんな事言うの世界中で君だけだよ」
横で小さな火山と格闘していた親友がさめた顔を向けてきた。目の前にはかき集めた葉や小枝の山がある。風がふく度あちらこちらへ飛んでいってしまうから悟天は拾っては山を作る工程を繰り返している。最後に集めた方が良かったなんて言ってみろ。絶対に役割を交代させられる。断固拒否。自分の手元にはイモ。銀色に輝くイモ。ピカピカなイモ。アルミホイルで一つ一つ包む作業は何回かやるうちに職人と呼べるほど綺麗にできるようになった。いつかスカウトされるかもしれない。どこかのスーパー、もしくはサツマイモ農家辺りに。
「はやく食べたいなぁ〜」
目の前の火山から脳天気な声が聞こえてくる。
虫食いとそうでないものとで選定している彼女は今日からサツマイモ選別係として雇った新人だ。お互い地べたに座っているから山に隠れて顔は見えないが、きっと緩みきった顔をしているに違いない。
「そろそろいいんじゃないか、全部一気に焼くのは無理だろ」
「そうだね。悟天ちゃーん!焼くよー!」
火山の主は思っていたより遠くへ行っていた。仕事を放棄し山に住みついている動物と遊んでいたのだろう。髪に紅や黄の椛がついてる彼の姿は可笑しかった。
「悟天何サボってるんだよ」
「さっきまではちゃんとやってたよぅ」
「嘘つけ」
「本当だって!」
軽口をたたきあっていると背中にズンと重さを感じた。どろくさい匂いと柔らかいおもみ。
「ねぇ早く焼こうよー」
「はいはい、分かったから!のーるーなー!」
いつの間にか前のめりになっていた背に寄っかかる彼女を引っペがし胸元のポケットからライターを取り出した。持ち手のCCの文字が掠れているのはかつての持ち主叔父が愛用した証拠である。
火を落ち葉に近づけるとあっという間に山に燃え移った。後は焼けるまで待つだけ。
「あ、聞いてよソラお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「トランクスくんってばボクが一生懸命落ち葉拾いしてる時に夏がまた来ないかなんて言ってきたんだよ。これからヤキイモするって時にそんな事言う?ヘンじゃない〜?」
「たしかに」
「ボクはね秋大好き。だって美味しい食べ物がいーっぱいあるからね!食欲の秋っていい言葉だと思わない?キノコにアケビにリンゴ!木の実もたーっくさん!」
「悟天は年中食欲の秋だろ」
「たしかに!」
「えぇ、そうかなぁ?」
おどけた調子で笑う悟天の髪についた椛をぷちぷち採っていくソラ。その姿が紅葉狩りのようでトランクスは思わず笑ってしまった。
「トランクスは秋嫌いなの?」
「いや、嫌いってわけじゃないけど」
「けど?」
「夏の方が好きだな」
秋はなんとなくやる気が出ない。
ハイスクールから出された宿題も日々の修行だって手につかない。修行に関しては父さんからは怒りの一撃をくらったけど。秋を迎えたばかりなのに終わりを迎えたような気持ちになる。いわゆるノスタルジックってヤツ。
夏はぜんぶがキラキラしてみえたのになぁ。
街も景色も人も悟天も、ソラだって......。
早くこっちにきなよ、トランクスっ!
汗が滴る真赤な顔でオレの名前を呼んだ。どんな状況にいてもこの声だけは絶対に聴き逃さないと思う。返事をすると白い歯を見せてはにかみながら腕を引いてきた。彼女の湿った手の体温、熱いからと言って結った束の隙間から見えた項。どきりと胸が鳴る。ずっとこのままならいいのに。夏の彼女は何よりも輝いて見えた。
「トランクスくん、なぁに想像してるの?」
「うぇ!?」
悟天の声で現実に引きずりもどされた。
「トランクス何考えてたの?」
「べっつに何もー」
にやついた悟天にイラッときて思わず頬を抓る。悟天は自分が何を想像してるのか分かっていながら聞いてきたのだ。本人が目の前にいると言うのに。果たしてこいつは恋路を応援してくれてるのか、それとも揶揄うのが好きなのか。もうよく分からない。
「イモそろそろ焼けたんじゃないか?」
「話逸らしたね」
「ヤキイモ!ヤキイモ!」
睨む親友をスルーし、はしゃぐ彼女を横目にトングで山を崩していく。落石のごとく出てくるイモを見て、先程まで睨みをきかせていた彼の目は輝いていた。ヤキイモでここまで喜べるなんて2人とも安いやつ。ソラと目が合った。本当は彼女を独占したいし、もっともっと楽しい事をして喜ばせたいのに。
「これは皆のお土産用で、こっちが私達のぶんね」
「お父さんの分足りるかな」
「父さん食べるかな」
「食べ切れるかな」
なんて揃えて言うから面白くなって3人で顔を合わせて笑った。笑いながら頬張るヤキイモはとびきり甘くて優しい味がした。何だかんだ3人でこの距離が一番楽しい。1人じゃつまらないことも3人でやれば何でも楽しく感じる。でも、いつかは。
「はぁ〜おいしかった」
「悟天ちゃんそんなに食べたら夜ご飯食べれなくなっちゃうよ」
「悟天なら大丈夫だろ」
「ウンウン、だいじょーぶ!」
「ほんとかなぁ」
いつの間にか夕日が沈み始めていて地平線が赤く染っていた。夕焼けは綺麗だと思うのになぜか哀しくなる。秋と同じ感覚、終わりを迎えているようだ。
「ずっと夏だったら良かったのに」
「...好き」
「...ぇ」
誰にも聞こえない声で呟いた言葉は彼女に拾われた。
「好きだよ」
胸がぎゅっと締め付けられる。鼓動はどんどん早くなって舌が痙攣する。上手く呼吸が出来なくて無意識に息を止めた。
「秋好きだよ。今日すごく楽しくて秋が1番好きになった。秋にやりたいこと沢山思いついたの!でも冬になったらきっと冬が1番になっちゃうんだ」
「...それって」
「全部好きってことだね!」
「ふふ、ずるいかな?」
言葉は悟天によってふさがれてしまった。言いかけて辞めようとした言葉が、息を止めていたため、上手く呑み込めず別の言葉となって吐き出された。
「わがままなやつ」
「そうかも」
彼女の「好き」がどれほど威力を持っているか本人は知らない。秋が悲しいとかノスタルジックだとかそんな事はもうどうでも良くなってしまうのだから。
春の彼女が好きだった俺は夏の彼女に目を奪われた。夏が好きだった俺はまんまと魅了され秋が好きになった。そして秋が好きな俺はきっと、、。
ギース、チョンと陽気な音が聞こえてくる。
ヤツらとは違いなんと心地の良い鳴き声だろうと思わずにはいられない。ああ、あの大合唱を最後に聴いたのはいつだろう。金輪際聴きたくないと思っていたあの騒音も静かになった途端、物恋しく思ってしまうのは流石夏の風物詩というものか。塩辛い風も眩しい光も、蝉も、何も言わずにどこか遠くへ行ってしまったようだ。
秋の花が咲き競ってどれが美しいとも決めかねる
それでもわたしはただひとつ常夏のお前ばかりが好きなのさ
いつか授業中に読んだそれはどんな話だったかな。
「夏もう1回来ないかな」
「この状況でそんな事言うの世界中で君だけだよ」
横で小さな火山と格闘していた親友がさめた顔を向けてきた。目の前にはかき集めた葉や小枝の山がある。風がふく度あちらこちらへ飛んでいってしまうから悟天は拾っては山を作る工程を繰り返している。最後に集めた方が良かったなんて言ってみろ。絶対に役割を交代させられる。断固拒否。自分の手元にはイモ。銀色に輝くイモ。ピカピカなイモ。アルミホイルで一つ一つ包む作業は何回かやるうちに職人と呼べるほど綺麗にできるようになった。いつかスカウトされるかもしれない。どこかのスーパー、もしくはサツマイモ農家辺りに。
「はやく食べたいなぁ〜」
目の前の火山から脳天気な声が聞こえてくる。
虫食いとそうでないものとで選定している彼女は今日からサツマイモ選別係として雇った新人だ。お互い地べたに座っているから山に隠れて顔は見えないが、きっと緩みきった顔をしているに違いない。
「そろそろいいんじゃないか、全部一気に焼くのは無理だろ」
「そうだね。悟天ちゃーん!焼くよー!」
火山の主は思っていたより遠くへ行っていた。仕事を放棄し山に住みついている動物と遊んでいたのだろう。髪に紅や黄の椛がついてる彼の姿は可笑しかった。
「悟天何サボってるんだよ」
「さっきまではちゃんとやってたよぅ」
「嘘つけ」
「本当だって!」
軽口をたたきあっていると背中にズンと重さを感じた。どろくさい匂いと柔らかいおもみ。
「ねぇ早く焼こうよー」
「はいはい、分かったから!のーるーなー!」
いつの間にか前のめりになっていた背に寄っかかる彼女を引っペがし胸元のポケットからライターを取り出した。持ち手のCCの文字が掠れているのはかつての持ち主叔父が愛用した証拠である。
火を落ち葉に近づけるとあっという間に山に燃え移った。後は焼けるまで待つだけ。
「あ、聞いてよソラお姉ちゃん」
「どうしたの?」
「トランクスくんってばボクが一生懸命落ち葉拾いしてる時に夏がまた来ないかなんて言ってきたんだよ。これからヤキイモするって時にそんな事言う?ヘンじゃない〜?」
「たしかに」
「ボクはね秋大好き。だって美味しい食べ物がいーっぱいあるからね!食欲の秋っていい言葉だと思わない?キノコにアケビにリンゴ!木の実もたーっくさん!」
「悟天は年中食欲の秋だろ」
「たしかに!」
「えぇ、そうかなぁ?」
おどけた調子で笑う悟天の髪についた椛をぷちぷち採っていくソラ。その姿が紅葉狩りのようでトランクスは思わず笑ってしまった。
「トランクスは秋嫌いなの?」
「いや、嫌いってわけじゃないけど」
「けど?」
「夏の方が好きだな」
秋はなんとなくやる気が出ない。
ハイスクールから出された宿題も日々の修行だって手につかない。修行に関しては父さんからは怒りの一撃をくらったけど。秋を迎えたばかりなのに終わりを迎えたような気持ちになる。いわゆるノスタルジックってヤツ。
夏はぜんぶがキラキラしてみえたのになぁ。
街も景色も人も悟天も、ソラだって......。
早くこっちにきなよ、トランクスっ!
汗が滴る真赤な顔でオレの名前を呼んだ。どんな状況にいてもこの声だけは絶対に聴き逃さないと思う。返事をすると白い歯を見せてはにかみながら腕を引いてきた。彼女の湿った手の体温、熱いからと言って結った束の隙間から見えた項。どきりと胸が鳴る。ずっとこのままならいいのに。夏の彼女は何よりも輝いて見えた。
「トランクスくん、なぁに想像してるの?」
「うぇ!?」
悟天の声で現実に引きずりもどされた。
「トランクス何考えてたの?」
「べっつに何もー」
にやついた悟天にイラッときて思わず頬を抓る。悟天は自分が何を想像してるのか分かっていながら聞いてきたのだ。本人が目の前にいると言うのに。果たしてこいつは恋路を応援してくれてるのか、それとも揶揄うのが好きなのか。もうよく分からない。
「イモそろそろ焼けたんじゃないか?」
「話逸らしたね」
「ヤキイモ!ヤキイモ!」
睨む親友をスルーし、はしゃぐ彼女を横目にトングで山を崩していく。落石のごとく出てくるイモを見て、先程まで睨みをきかせていた彼の目は輝いていた。ヤキイモでここまで喜べるなんて2人とも安いやつ。ソラと目が合った。本当は彼女を独占したいし、もっともっと楽しい事をして喜ばせたいのに。
「これは皆のお土産用で、こっちが私達のぶんね」
「お父さんの分足りるかな」
「父さん食べるかな」
「食べ切れるかな」
なんて揃えて言うから面白くなって3人で顔を合わせて笑った。笑いながら頬張るヤキイモはとびきり甘くて優しい味がした。何だかんだ3人でこの距離が一番楽しい。1人じゃつまらないことも3人でやれば何でも楽しく感じる。でも、いつかは。
「はぁ〜おいしかった」
「悟天ちゃんそんなに食べたら夜ご飯食べれなくなっちゃうよ」
「悟天なら大丈夫だろ」
「ウンウン、だいじょーぶ!」
「ほんとかなぁ」
いつの間にか夕日が沈み始めていて地平線が赤く染っていた。夕焼けは綺麗だと思うのになぜか哀しくなる。秋と同じ感覚、終わりを迎えているようだ。
「ずっと夏だったら良かったのに」
「...好き」
「...ぇ」
誰にも聞こえない声で呟いた言葉は彼女に拾われた。
「好きだよ」
胸がぎゅっと締め付けられる。鼓動はどんどん早くなって舌が痙攣する。上手く呼吸が出来なくて無意識に息を止めた。
「秋好きだよ。今日すごく楽しくて秋が1番好きになった。秋にやりたいこと沢山思いついたの!でも冬になったらきっと冬が1番になっちゃうんだ」
「...それって」
「全部好きってことだね!」
「ふふ、ずるいかな?」
言葉は悟天によってふさがれてしまった。言いかけて辞めようとした言葉が、息を止めていたため、上手く呑み込めず別の言葉となって吐き出された。
「わがままなやつ」
「そうかも」
彼女の「好き」がどれほど威力を持っているか本人は知らない。秋が悲しいとかノスタルジックだとかそんな事はもうどうでも良くなってしまうのだから。
春の彼女が好きだった俺は夏の彼女に目を奪われた。夏が好きだった俺はまんまと魅了され秋が好きになった。そして秋が好きな俺はきっと、、。
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