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熊が笑う。

 またバタンとドアが閉まる音が聞こえた。
 足音の主が奥の部屋に戻っていったのだろう。
 誰かと鉢合わせしないことばかりに気を払っていたけれど、ここに来た本来の目的を私は何ひとつ果たせてはいなかった。
 星を集めるように言われたけれど、星が何なのかすら未だにわかってはいなかった。
 少なくともこの部屋にはなさそうだから、別なところを探すしかなかった。
 そんなに期待せずに探した洗面所とお風呂場にはやはりそれらしいものはなかった。
 意を決して奥に進む。念のため途中にあったトイレも覗いてみたけれど何の成果もなかった。さっき音を立てていたであろうドアのところまで来た。奥からテレビの音が聞こえてくる。いくつかの笑い声が聞こえてきたけれど、多分全てテレビからの音だろう。
 音を立てないように慎重にドアノブに手をかける。ゆっくりとゆっくりと動かしていったけれど、なんとなく音を立てているような気持ちになってやはりどこかで不安に襲われる。
 その不安をぐっと飲み込んで、人間の男の人のようなごつごつとした手でドアを開ける。
 リビングではソファーに横になった女性がテレビを見ていた。ドアには背を向けるかたちであったので今のところは気づかれていないようだ。
 気づかれていないことを確認しながら、奥へと進む。

ーーギイッーー

 慌てて部屋の奥に進む。半開きのままのドアを女性は首を傾げながら閉めた。ちゃんと閉まってなかったかなというひとり言も聞こえたから、多分気づかれてはいないのだと思う。
 そう思うことも出来たけれど、それはとても不自然であることは明白であった。
 何故なら女性は今、私の目の前にいるのだ。こんな熊が居れば気づけないはずもない。にもかかわらず女性は私に全く気づいていない。
 私は本当にここに存在しているのだろうかと、そんな疑問がよぎるほどであった。不安はよぎったけれど、進むしかないと、探すしかないのだと気持ちを切り替える。
 星とはなんだろう。私はまだ探す対象がどのようなものであるかすらわかっていない。具体的な説明はないままに放りだされて、流れのままに進んできた。
 流れに任せれば星が手に入ると思っていたけれど、どうやらそんなに簡単なことではないのかもしれない。
 ごつごつとした人間の男性のような節くれだった手を眺めた。きっと閉まり方を忘れた半開きの口はだらしなく、よだれだって垂れているかもしれない。
 そんな目立つ存在に気がつないわけがない。
 もしかして、見えていないのだろうか。
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