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熊がおちていく。

 ぽつんと立っている。
 ここは一体どこだろうかと、そんなことは当然に思ったし、当然に辺りを見回しもした。それでも何も見えないどころか音さえもまともに響かないのか、ねえ誰か居ないのとどんなに叫んでも誰も返事を返してはくれなかった。
 単に誰も周囲に居ないだけではないだろうかという疑問も抱きはしたけれど、そんなはずはない。
 この僕をひとりにするはずなんてないのだ。
 そう、この僕が……こんなところに置き去りされるなんてあってはならないのだ。
 仕方がないので、とりあえず前に進んだ。
 真っ暗闇の中、細い平均台を歩かされているようで、何だかとても不快な気持ちになった。
 どうして僕がこんなところを歩かされなければならないのだろう。

 ところで、”僕”とは一体何だろうか。

 前に進むための歩みが止まった。
 厳密には自分が歩くのを止めたので、おかしな表現なんだろうけれど、足が止まったのだ。
 こんなところで止まっていたって何にも意味はないのは分かっているのに、どうしてか足がぴたりと止まってしまったのだ。
 僕はこんなところで怖気づいてしまうようなやつではない。そんな人間ではないのだ。
 誰よりも自分を説得するように、自分に言い聞かせた。
 とりあえず進むしかないのだ。
 ”僕”という存在が何であれ、僕は進むことでしか証明することはないと、何となく確信していた。
 細くて長い平均台のようなものをとぼとぼ歩いていると、急に荒野が目の前に現れた。
 さっきまでの真っ暗闇が嘘のように視界がはっきりとわかるのだ。
 正直なところ意味が分からないことばかりだったけれど、視界がクリアになればそれだけ歩きやすいというだけの話だ。
 何かがあればそれも分かりやすいし、何も悪いことなんてないのだ。
 ただその開けた視界のおかげで、ここには本当に何もないということも明らかになったのも事実であった。
 そんなことで歩くことを止めるなんてことはないけれど、心を削っていくにはそれでも十分なのだと、僕は何故かそのことを知っていた。
 頭にすっと浮かんだその考えは決して可愛げのある考えではなかった。
 むしろ僕のような”子ども”には似つかわしくない考えであることは、誰よりもこの僕が理解していた。
 ただ何もないことがダメなのではない。希望が感じられない中、足を止めることもできずにまるで闇雲に歩かなければならないことがとてもつらいのだ。
 どうしてだろうか、僕は僕が救われる気が全くしないのだ。

 そもそも、”僕が救われる”というのはどういうことだろうか。
 僕が救いを乞わねばならないなんて、おかしな話ではないか。
 そうこうしている内に、一軒の家が見えてきた。
 
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