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星と命と限りあるもの

 私は彼と避難したきりで、お互いに無言のままであった。
 正直、私から話しかけるということをまともにしたことがなかったので、要件もないのにどう話しかければいいのかが浮かばなかったのだ。
 そんな私の心中を察したかのように、彼からそっと口を開いたのだ。

「雨も、雷も、そして風も、ひどくなるばかりですね」
「そうね」

 私の返事は、それ以上の会話を発展させるものではなかったけれど、その分彼から新たな話題を振ってくれたのだ。

「僕、やりたいことがあってこうして派遣の仕事で働いているんです」
「やりたいこと?」
「はい、”落とし子”って、ご存知ですか?」

 胸の奥の方がひやりとした。
 言葉の代わりに私は首を縦に振ると、彼は満足そうな笑みを浮かべて話しを続けた。

「あの伝説の流星群の謎を僕は知りたいんです、そのための組織に所属をしているんです。ああ、勘違いしないでくださいね、勧誘とかではないですから。ただ、あまりにも時間があるので。適当に聞き流してください」

 彼はそう言うと、改めて自分がどれだけ星が好きなのか、あの流星群に興味があるのかを淡々と語るばかりで。確かに勧誘はおろか組織の名前すら出てこなかった。
 そんな生き生きと話す彼の話に耳を傾けていると、風がまた強く吹き出した。吹けば吹くほどに風は強まっていって、一番大きなこのテントをぐらぐらに揺さぶってきた。

ーーガコンッーー

 嫌な音が聞こえた。
 次の瞬間にテントが簡単に崩れてきて、きっと誰がみても大惨事は免れないと感じた。
 一瞬にして逃げ惑う人々、恐怖の声が上がり、阿鼻叫喚の地獄絵図のようであった。混乱する人々は互いを押しのけあうようにするので、ろくに誰も逃げられずに、崩れたテントの骨組みが襲い掛かってきた。
 だから私もそんな混乱の中だったか、きっと力を使ってしまったのだと思う。
 気が付くと崩れ落ちるテントも骨組みも、不自然に宙に浮いていた。
 人々はその奇妙な光景に唖然としながらも、これ幸い、我先にと逃げ出していった。

「今のうちに、逃げましょう」

 手を伸ばしてくれた彼の声が聞こえた。聞こえたのに、力が抜けていく。手を伸ばしたいのに伸ばせない。皺枯れた手と、スロー再生のように落ちてくるテントや骨組みが見えた。

「残念です」

 最期に彼の声で、そんな言葉が聞こえた気がした。
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