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熊が笑う。

 星を集めるように言われた。
 誰に?
 わからない。
 わからないけれど、集める以外の選択肢はないのだろうということはわかったから、私はただ流れに身を任せた。
 身を任せるとそのまますうっと流されるように宙を舞って、あれよあれよという間にどこかへと流されていった。
 どこから思い出しても、暗く、暗く、役に立ちそうなことは何も覚えていなかった。
 気がついたらどこかに居て、気がついたらぞろぞろ歩いていて、気がついたら声が聞こえていた。
 あなたは誰?星って何?星を集めるってどういうこと?
 声はこちらのどんな問いかけにもこたえることはなく、ただ一方的に星を集めるようにと言うだけだった。
 だから私は星が何なのか理解しないまま、星を集めるためにどこかへと向かっている。
 どこへ向かっているのかもわからないまま、ただ流れに身を任せている。不安を感じるだけの感情はなかった。ただ漠然とどうしたらいいのかなという疑問だけだった。
 私は私が何者であるのかもわかっていなかった。でも不安は無かった。
 あるのはやはり疑問だけだった。
 今はただ流れに身を任せるしかなかった。抗うことはなかった。そうこうしているうちに、あっさりと疑問が解消さえすればいいなと思っていた。
 同時に、きっとそんなに簡単にはいかないのだろうとも思っていた。
 そうやって、そうやって、私は流されているだけだった。
 流されるしかないし、仕方ないし、今この状況で私がどんな意思を持ったところで意味はないしと、そう感じていたから。
 力を抜いているうちに随分と流されてきたようだ。
 そしてよく見ると流されているのは私だけではないようで、あちこちでついついと流れていく何かが見えた。何が流れているのかは正確には見えない。
 見えなかったけれど、おそらく私と同じようなそれであるのだろうと、なんとなく感じた。
 そうこうしているうちに、私は流れ着いた。
 よくあるファミリー向けのマンションの、決して低くもない高くもない階層の玄関の前に。ここから見える景色は、大したこともなく、ただ平穏な住宅街が広がっているだけだった。
 わざわざここに流れ着いたからには、この家を探せということなのだろうと思ってドアノブに手をかけた。
 無用心にも鍵はかかっておらず、すうっと扉を開けることができてしまった。
 ああ、ここで星を集めるのかと中に入ってようやく気がついた。
 玄関に置かれた鏡映った、自分の姿に。
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