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星を繋ぐ

 彼は穏やかな表情で俺を出迎えた。

「どうぞ、こちらへ」

 今からすることを考えると、あまりにも穏やか過ぎる表情に毎回背筋は凍った。
 でも彼はそれだけの支援を俺にした。そしてそれは過去形ではなく、今なお続いている。
 だからこそ、俺の名義ではないとはいえ作品を世に出すことが出来ている。俺はもうこの国に生きた人間としては存在していないから。彼の支援無くして生きてはいけないのだ。
 目の前の台座に横たえられているのは、若かりし頃の俺と同じ形をしているものだ。違っているのは、あの痣が無いというくらいだ。
 触れれば温かく、脈だって打っている。これは生きているのだ。
 どう考えても今の科学ではこんな精巧な人間のクローンは作れないだろう。倫理的にも問題視されているし、技術的にもまだここまでのことは出来ないはずだ。
 きっとここにも、”お星さま”が関わっているのだろう。

「さあ、初めてくれていいよ」

「ああ」

 いつまでも若々しい彼と、分かりやすく老いている俺と、どちらも不自然に向かい合っている。
 本当はこんなことは起こらない。
 本当はきっと起こしてはいけなかったのだ。
 俺は横たえられたそれに左手をかざす。
 ”お星さま”というだけで”星への集い”の信者は俺に恭しい態度をとる。”お星さま”と言えども彼のような傷を癒す分かりやすい奇跡であれば確かに畏敬の念やら信仰の対象だとかはイメージし易いが、俺はそうではない。俺はただこうやってからだを乗り換えて、生き繋いでいるだけだ。
 ただそれだけのことしか出来ないし、それすら自分だけでは出来ない。乗り換えるためのからだを用意するなんて出来ない。乗り換えなかったら俺は死ぬのだろうか。それもよくわからない。
 彼が言うままに俺は乗り換えを繰り返している。
 天井が見えた。もう俺は、台座に横たえられていたそれに乗り換えたのだ。
 倒れ切る前に俺の老いたからだを彼が支える。

「お疲れ様。あとはやっておくから大丈夫だよ」

 彼はそう言って自室に戻るよう俺に促す。若いからだに乗り換えると、やはりひとつひとつの動作は楽になった。
 声は出さずに頷いて、俺はそのまま部屋に戻った。
 部屋に戻ってから改めて左腕を見た。
 左腕にはちゃんと、あの熊の形をした痣が浮かび上がっていた。
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