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隙間から熊。

 少年のベッドの下に潜んでいたそれは、きらりと光るものを咀嚼するだけして消えた。
 少年は目を逸らさずにじっと見ていたのに、それは影の奥の奥へと消えていったのだ。
 黒目をゆらゆらとさせ、よだれを垂らしただらしのない口をしたそれは、消える前のその一瞬に、少年と目を合わせて笑ったのだ。
 身の毛のよだつような笑い顔だった。
 ベッドの下は何度も確認したけど、それの姿はきれいさっぱり消えていた。
 手は明らかに人間の大人の腕をしていたそれは、締まりのない熊の顔形をしていた。あんなものが、この家に潜んでいるのかと思うと、背筋が凍った。
 少年はあらためて剣を握り直して、家中の部屋を、隙間を見て回ることにした。
 次に両親の寝室に向かった。
 今度はどこよりも先にベッドの下を確認した。確認したけれど、何もなかったし、何もいなかった。
 両親の寝室には、それほど多くの家具はなかった。表立ったところには、鏡台とサイドテーブルしかなかった。他の荷物はクローゼットに押し込まれていた。
 母親の鏡台の裏を確認して、椅子の影も確認した。サイドテーブルの裏も下も確認して、何もいないことに安心した。
 次にクローゼットに手をかけた。勢いよく開いたそこには、ずらりと母親の洋服が掛けられていた。

ーーカサリッーー

 足元から音が聞こえた。クローゼットの中に置かれた棚と棚の間から、あの大人の男性のような腕が伸びていた。
 その腕は何かを探るようにぐにゃぐにゃと動いて、きらりと光るものに手が触れると、そっと摘まんだ。掛けられた服で余計に影となって見えないところからまた、不快に響く音が聞こえてきた。
 何かをかみ砕くような音だ。思わず耳を塞ぎたくなるような音だったけれど、そんなことはしていられない。
 音が止み、また何かを探るようにぬるりと伸びたそのがっしりと筋張った腕を、少年は剣を放って両手でがっしりと掴んだ。
 すると腕は少年を振り払おうとうねうねと抵抗した。うねうねと抵抗されながらも少年は必死になって、少しずつ、少しずつだけれど掴んだそれを引きずり出してきた。
 やはり腕は大人の男性のようにごつごつとしていて、いかにも力強かった。しかしその先には、いまいち締まりのない半開きの口からよだれを垂らした熊が、へらりと笑った。
 その表情を不気味に感じながらも、少年は力の限りそれを引きずり出したのだ。
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